第一話 「つかの間の平和」
無限に広がる大宇宙、そこには様々な生命が満ち溢れている。死にゆく星、生まれ来る星…生命から生命に受け継がれる大宇宙の息吹は永遠に終わる事は無い。あのガミラスと地球の戦いも無限の時を刻む宇宙の広がりの中には、束の間の混乱に過ぎなかった。
デスラーは去った。ヤマトは母なる地球へ帰った。そして、時は流れた。沖田十三とヤマト、その乗組員たちが共に押し渡ったイスカンダルへの航海のことさえ、人々はもう忘れようとしていた…
時に西暦2202年。それは、地球から約239万光年の彼方にあるアンドロメダ星雲からやって来た。針路に有る邪魔な惑星や星共を吸い込み、ひしゃぎ、粉々に粉砕して進んで行く魔の巨大彗星…
またその一方、利用しうると思われる有人惑星に対しては、その何処からか強力な機動艦隊が飛び出して来ては 攻撃、侵略を繰り返し、彼らに従属する植民地として現地の人々を奴隷にしていったのである。
新たな脅威が宇宙を席巻していた。地球、そしてガミラスはまだこの事実を知らなかった…
一方、地球は今本土の再建を進めつつあり並行してその勢いを太陽系の各惑星やガミラスより譲渡された太陽系外の資源惑星にまで押し広げ、各惑星にはそれぞれ基地が建設され資源開発が全速力で進められていた。こうした平和と繁栄の中、古代進は資源輸送船団を護衛する駆逐艦「ゆうなぎ」艦長の任務に就いていた。この「フレッチャー級宇宙駆逐艦」は元々アメリカがガミラス戦役末期に開発していた陽電子衝撃砲艦をベースにした、波動砲こそ搭載していないものの地球初の量産型波動エンジンを搭載した艦艇であった。
そんな「ゆうなぎ」の艦橋、機械音がただ静寂に響く中、通信長の相原義一が口を開く。
「現在、第十番惑星プロメテ付近を通過した」
「相原、地球到着は12月8日12時頃だと司令部に伝えろ」
「了解、報告します」
古代の返答に淡々と答えた後、相原はどこか含みのある笑みを浮かべて質問を投げかけた。
「報告するのはそこだけですか?」
「ん?他にどこがある?」
「地球の司令部で待っている雪さんには直接つながなくていいんですか?地球に帰ったらすぐ結婚式でしょおう?」
古代は照れで顔をわずかに赤らめながら、冗談めいた感じで相原を軽く小突く。相原も特に悪びれる様子もなく、笑いながら頭をかいていた。
「ん、艦長。司令部より返電です」
「分かった、パネルに回せ」
「了解」
艦橋のパネルに国連宇宙軍務総長の藤堂平九郎が映し出される。藤堂は古代の顔を見てどこか安心したような顔をしていた。
「古代」
「藤堂長官」
「元気か?」
「はい」
「12/8は沖田艦長の戦没記念日だ。予定通りに戻ってこい」
「はい」
「沖田艦長の戦没記念日ですか…古代艦長」
「なんだ?」
さっきまでふざけていたような相原が急に真面目な態度になったので古代はやや真剣になる。
「私はたまに、目をつぶってここがヤマトの通信席だと考えることがあるんですよ…無理にね」
「いやぁ、俺もだ。ヤマトの戦闘席だと空想することがある。お互い病気だなぁ」
「みんな病気ですよ、ヤマトの乗組員は」
そんな会話をしていたときであった。突如、「ゆうなぎ」の電探が反応を示す。
「艦長、6時の方向、0.2光秒の位置に飛行物体を確認。地球、ガミラスのものではありません!」
「迷子のプライベート船かなんかだろう?」
「機種識別、ガトランティス!」
「馬鹿な⁉」
古代達は彼らに三年前、あのヤマトの航海の帰路で遭遇したことがある。ガミラスから蛮族と蔑まれている彼らは度々、大マゼラン辺境にてガミラスとの小競り合いを幾度となく繰り返していた。常識的に考えてそんな彼らがここに現れるなど…
「相原!至急、司令部に緊急連絡!」
「了解!国連宇宙軍本部、国連宇宙軍、こちら第15護総隊旗艦『ゆうなぎ』」
相原は通信機に向け必死に発信するが、返信は宇宙と同じような沈黙である。
「国連宇宙軍本部、応答願います!...駄目です、妨害電波らしきもので通信途絶。全く応答ありません」
「くっ!」
「敵機のミサイルを確認」
ガトランティスの放った魚雷はまず、船団を護衛する駆逐艦の一隻に直撃した。
「こちら艦番号303、駆逐艦『ゆうだち』、ミサイル攻撃を受け被弾。中央装甲板が、、、うわああ!」
「ゆうだち」からの通信が途切れると同時に、船団の前方に爆発を思わしき閃光が視界に入る。
「左40度の敵機反転」
「目標4機、CSM.2攻撃はじめ」
「CSM.2攻撃はじめ」
砲雷長による復唱が行われた後、VLS発射キーのロックが解除される。
「CSM.2発射」
「CSM.2発射」
「5,4,3,2,1、マークインターセプト、目標ターゲットキル」
「撃て!」
駆逐艦のVLSハッチが開き、雷の如く艦対空ミサイルを放つ。ガトランティスの兜蟹の様な格好の攻撃機は重々しい動きで、その気になればヤマトの主砲でも落とせないことはなさそうであった。早速、1機に命中し爆散する。
「1機キル、残り3機」
「船団中央、輸送艦771『すばる丸』に被弾なれど損害軽微!」
乱戦という乱戦が繰り広げられたのち、一機のみのカブトガニが間もなく何処か遠くへと飛び去って行った。追跡も試みたが、電波妨害の影響で不可能であった。
「追撃しますか?」
「…あれだと目視での追跡も難しい。攻撃やめ」
「攻撃やめ」
相原が復唱した直後、古代は謎の光に包まれた。古代があたりを見渡すと、虚無の空間にいた。理由がわからず色々動いてみるが、どうしようもない。どうしたことかと、古代が悩んでいると眼の前に黄金の輝きが見え始めた。その姿は徐々にはっきりとしてくる。その光のはっきりした姿を視認した時、古代は自身の目を疑った。それは…沖田艦長、あの沖田十三艦長であったのだ。
「沖田艦長!?」
「古代、ヤマトに乗れ…」
驚く古代に対し、沖田はただそう語りかける。唖然とする古代に沖田はまた、あの厳しくも優しい声で
「ヤマトに、乗れ…」
と語りかけた。何事かと思うと、そこは再び「ゆうなぎ」の艦長席であった。
「こ、古代艦長…」
「相原…今、何か見えたか?」
「はい…父が、死んだ父の幻覚を見ました…『ヤマトに乗れ』と語りかけてきて…」
相原の怯えるような、得体のしれないものを見た顔に古代はシンパシーを感じた。
「実は、俺もなんだ…沖田艦長が同じく『ヤマトに乗れ』と…」
「一体、何なんでしょうね…」
他の乗員を見回すと、同じく狐につままれた様な表情をしている者が多かった。「ゆうなぎ」はもとヤマトの乗員の割合が高く、この現象が誰に限られた物なのか知る術はまだなかった。
その頃、
「第15護衛隊との通信が途絶しています…」
地球、広島県呉市に置かれる国連軍太平洋管区管区司令本部で、かつてのヤマト船務長である森雪は管制官として務めていた。自身がユリーシャと地球人のハーフクローンであり、自身がイスカンダル航海における予備パーツに過ぎないことを知ってしまった彼女にとって古代はイスカンダルの航海で得た掛替のない家族のような存在であった。
「雪くん、古代くんが心配かね」
「長官…」
「彼ならきっと大丈夫だ、彼はそういう男だと私は信じている」
そうは言いながら藤堂もやや不安げに管制室の天井を仰ぐ。そんな中、藤堂の秘書が耳打ちをする。
「長官、お時間です」
「おっとすまんな。それでは、私は新造戦艦の進宙式に出席してくるとするよ。確か、雪くんは一般人枠の抽選に当選したのだよね?」
「はい、そのとおりですね」
「それでは、失礼するよ」
そう言うと藤堂は管制室に背を向け去っていった。
数時間後、森雪は呉の真ん中にそびえ立つ巨大な構造物の上に巨大な戦艦が載せられているのを見た。本来、この構造物は将来的に構想されている惑星間亜光速エレベータ、通称「銀河鉄道」の起点駅として建設されていたものを急遽式典らしさを出すために流用したものである。いずれ、コンコースとなるであろう部分に建設された臨時のステージには数多くの抽選に応募し、当選した市民で溢れていた。
しばらくすると、ステージ手前の広場に白いスーツに身を包んだ西洋人が現れた。
「全世界の地球市民の皆さん、私は国際連合初代大統領のトーマス・ロバートソンであります。国連初代大統領として、この記念すべき日にご挨拶できることを非常に光栄とするものであります。苦しかったガミラスとの戦いはもはや遠い過去であります。ガミラスと講話して以来、地球の平和は続いています。そして地球だけでなく宇宙の平和、それをもたらす、そして守るリーダーとなるのが我が地球であります。地球はこれからも宇宙の平和を守り続けるリーダーであり続けるでしょう。その名誉ある地位のシンボルとして、私はここに最新鋭艦アンドロメダの完成をご報告するものであります!」
大統領の演説が終わると間もなく、レールのきりきりとした音とともに戦艦の台車が動き出す。徐々に火が大きくなるケルビンインパルスエンジン、それにつれて加速しているのがはっきりと分かる。レールの終端に辿り着くと同時に戦艦は宙に放り出され、波動エンジンに点火した。
その頃、大気圏を突破した古代ら第15護衛隊はまもなく呉宇宙港に着こうとしていた。輸送船は太平洋沿いの港に向かうため、呉に向かうのは軍艦ばかりである。その時、前方に巨大な影が見えたので「ゆうなぎ」の乗員は全員驚いた。
「回避だ!」
古代の命令で「ゆうなぎ」は慌てて避ける。後続の艦も同時になんとか避け、最悪の事態には至らなかった。
「うおお、アンドロメダだ…!」
通り過ぎる間際に相原は思わず感嘆の声を漏らした。それに対し、古代は声を漏らさず黙って見ている。
「古代さん、地球もあんな艦を建造できるまで復興したんですね」
それに対し、古代は相変わらず黙ったままである。彼は目下の復興した都市ではなく、遠方の、まだ復興していない荒れ地をただ眺めていた。
入港の手続き等を終えた後に、古代ら「ゆうなぎ」のクルーは下艦し各々の行くべき場所に向かった。古代もゲートを通過し、右往左往していると、背中をからかうように突かれる感触を受けた。
「古代君!」
「雪!」
古代はひとまずの休暇を得て、わずかな日常生活を送ろうとしていた。まもなく、大事件が起こるとも知らずに、、、