宇宙戦艦ヤマト2202 二次創作編   作:アドリアドリア

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ヤマト内部に連れ込んだガトランティスの捕虜を彼らに多くの仲間を殺された斎藤は憎悪の目で見ていた。一方、ヤマトの討伐に手を焼いていることを悩むガトランティスの内裏に一人の男が現れる…


第十話「宇宙の虫の幻惑」

古代が牽引してきた手土産を一刻も早く見るべく、非番の乗組員が我先にと格納庫に集まった。しばらく戦闘続きで緊張していた乗組員にとって、もはや捕虜は見世物の様な娯楽の一つに過ぎなかった。

 

「お前ら邪魔じゃ!どかんかい!」

 

そんな彼らを押しのけ、佐渡は寝台を全速力で転がしてくる。佐渡が到着すると同時に古代は偵察機から降りる。立ち入り禁止のロープの向こうには例の野次馬どもが今にも押しかけんばかりに屯しており、一刻も早く捕虜に搬出を行う必要があった。

 

「すみません!」

 

そこにやや遅れる形で新見と真田も到着する。

 

「アナライザーの調節が遅れていてな」

 

流石の野次馬も副長相手にはさほど失礼な態度は取れない。真田はさながらモーセの如く人の海を割り、古代の下へとたどり着いた。その光景をみていた佐渡は

 

「全くどいつもこいつも、儂のことをなめおってぇ」

 

とぼやいたそうだが、捕虜にしか関心のない者にそんな小言が届くはずもなかった。

ガミラスから資料として得ていたアダプターでアナライザーとガトランティスの偵察機を接続する。しばらくの

 

「コウカナ?コッチカ?ソレトモ、コウカ?」

 

というアナライザーの呟きの後

 

「コレダ!」

 

と大きな声を出す。すぐに真田の方に首をうぃーんと回転させ、承諾を求める。真田も一応のためにそのプログラムを一つ一つ確認する。真田は問題ないだろう、と頷く。アナライザーは直ちにそのプログラムを実行に移した。間もなく偵察機のキャノピーや燃料補給口など、あらゆる可動部が開いた。野次馬からは次々と歓声が上がる。何がそんなに凄いんだか、と新見(弟)は溜息をつく。それに対し真田は

 

「なぁに、新米。この程度の大した事ないことも珍しいと思えれば、乗組員のガス抜きになるということだ」

 

と返す。こう作業している間にも乗組員全体のことを考えられる真田のことを、新見(弟)は改めて尊敬するのであった。

 

(道理で姉さんが『先生』と尊敬するわけだなぁ…)

 

そんなうちに、すぐに古代がコックピットに乗り込むと中に乗り込んでいた乗員を担ぎ出す。一部、割れたキャノピーの破片が刺さっているらしく、一部が破けたパイロットスーツの部分からは緑色の皮膚が露出し、地球人で言うところの血に当たるであろう液体が滲み出ていた。

医療用はさみでパイロットスーツの手の部分を切り落とし、佐渡は脈拍を測る。どうやら問題なく脈はあるらしい。死戦期呼吸をしているわけでもなく、命に別条があるわけではなさそうだ。捕虜の搬送を終えた古代は土方に呼ばれ艦長室に赴く。互いに締まった敬礼を終えると土方はそんなに堅くなるな、とばかりに古代へ来客用の席に着くよう促す。席に着こうとしたタイミングで、古代はようやくキーマンが同席していることに気づいた。

 

「キーマン?」

「俺がいて悪いか」

「いや、別にそういうことでは…」

「俺が呼んだんだ」

 

土方がこれから古代が話そうなことを予測して予め同席させておいたらしい。用意周到である。

 

「捕虜の対応、ご苦労だったな」

「いえ、自分は経験者ですので大きな問題はありませんでした」

 

古代のジョークに土方は軽く眉を上げて彼なりに笑ってやったつもりであった。だが、古代にとっては鬼の土方教官がいつもの仏頂面をしているようにしか見えなかったので、何も言わなかったことにしようと話題を切り替えようとした。

 

「それより、対面でガトランティス人と対話するのは地球人にとってこれが初めてです。また、ヤマトに取ってみれば戦闘によって収容された初の捕虜でもあります。その、彼の扱いを自分に任せていただけないでしょうか?」

 

土方は僅かに上がっていた眉を戻す。

 

「ガミラスの情報によると上手くいかないそうだが」

 

土方はキーマンに目配せする。彼はプロジェクターを起動するとある映像を流し始めた。

 

「これはガミラスのある収容所惑星での記録だ」

 

間もなく、牢に閉じ込められたガトランティス人が派手に爆発する映像を見せつけられる。古代はその映像を見て唖然とした。

 

「これが奴らだ。奴らは武士の誉だのなんだの言って、元服の際に体内に自害用の爆弾を埋め込み捕虜となった際にはこうするように仕組まれているらしい」

「データでは確かにそうだけど話してみないと分からない」

「そうは言うがな…」

「彼等も、同じ人間であるからには対話できるはずだ」

 

キーマンは呆れたような表情を浮かべると土方にどうするかと番を回す。

 

「…そうだな。古代、捕虜の扱いの責任はお前に委ねる。それで問題ないな」

「…艦長!」

「ただ、万一の際は責任は取ってもらうぞ」

「分かっているつもりです」

 

2人の信頼関係もあってあっという間に決まった捕虜の取り扱い、それの裏番組として例の捕虜の身体検査が始まろうとしていた。だが、殆どのクルーはいつも通りの番についているか、私室で娯楽に更けているか、或いは他の何かで時間を潰しており見に来たのは一部の空間騎兵のみであった。無論、斎藤はその見に来た1人で会った。

 

「畜生、あの悪魔共め!どんな面してやがる」

 

ずっとぶつぶつと言っているとそこに軽く走って古代がやってくる。

 

「全く、何が珍しいんだか…」

「そういうあんたも来てんじゃねえか、艦長代理さんよ」

「俺は、土方さんから捕虜を取り扱う権限を頂いたからその都合で来てるだけだ」

 

つまらん、とばかりに斎藤は鼻息を漏らしてみせる。

 

「しかしよ、さっきの飛行機のときはたくさん集まったってのにこっちにゃ対していねえのはどういうことだい?」

「あのカブトガニは我々も近くで見るのは初めてだからな。どんなのか一目見たかったんだろう。でも、ガトランティス人については人間だ、って我々は既に知ってるからな」

「てめぇ、今なんて言った!」

 

そんなことも知らなかったのか、と言わせないほどに斎藤は恐ろしい気迫で古代に迫る。

 

「彼奴等が人間なわけねえだろ、悪魔だよ!悪魔だ!」

 

だが、古代がそう甘い相手ではない。彼は立派な宇宙防衛大学の成績上位者である。斎藤の手をあっさりと突き離し、襟元を整えてみせるのであった。斎藤は引き続き、古代の方を睨み続けるが彼は見向きもせず手術室のガラス窓を眺めているのであった。

間もなく、佐渡やその他助手によって捕虜が担架に乗せられて運ばれてくる。佐渡は彼に色々と装置を装着しては脱着してを繰り返す…前の、メルダの時と同じであった。脈拍、体の成分組成、呼気吸気…概ね我々地球人と一致している。この広大な宇宙での進化である、たしかに多少は異なる部分もあるが全体を見ればそんなものは誤差に等しかった。

 

「まあ、やっぱりコイツもワシらと同じ人間じゃな」

 

その時、手術室の扉を勢いよく開ける音がした。古代はふと付近を見渡すと先ほどまでいたはずの斎藤がいない。そう、手術室の戸を開けたのは紛れもなく彼であった。佐渡やその他助手は彼のガタイに恐れおののき後退りする。それをいいことに斎藤は一気にオペ台に迫る。台の近くにあったメスを見つける。それを握る。途轍もない力で握りしめる。

 

「あああああああ!!!!」

 

叫び、睨み、相手の懐に突っ込む。

 

「俺の部下を蟻ん子みてえに殺しやがって!殺してやる!」

 

それを刺そうか刺すまいか彼は、捕虜を目前にした途端に悩みだしてしまった…その息遣い、怯えた目つき、震える手。それはまさしく人間そのものであった。

 

「やめろ、斎藤!」

「あんたね!どれだけコイツラに恨みがあるからって、捕虜にそんな扱いをしたらどうなるか、分かってるでしょ…!」

 

その瞬間、立ち上がった捕虜が斎藤の手を蹴り上げ、メスを奪い取る。それを自分の首元に突きつけ

 

「た、大帝バンザぃぃぃ!!!!」

 

と叫ぶ。何を意味しているかは明らかてあった。斎藤の言葉より先に体が動いた。

 

「こんにゃろう!!!」

 

捕虜の手を拳で殴ってメスを吹き飛ばし、顔面に連続で殴り入れる。

 

「馬鹿野郎!死んで何になるってんだ!もしてめえが人間だってなら命の重さを知りやがれ!」

 

捕虜は涙とだ液と血が混ざった液体を垂らす。だが、その痛々しくなった見た目とは裏腹に微かに笑いを浮かべているのであった…

 

その一方、彗星帝国帝都ゴレムの一角にそびえ立つ天守の内部ではゲニッツがゴーランドと通信てやり取りをしていた。

 

「閣下、大変申し訳ありません!」

「ヤマトを取り逃がした、と。やはりそう簡単に打倒できる船ではないのだな。分かった。新たな策は練るので安心して分隊を本陣へと帰投させよ」

「はっ!」

 

場所を変えたゴーランドは玉座の間の大画面にゴーランドから送られてきたヤマトの映像や、参考資料としてバラン鎮守府においてガミラス側が記録した映像を放映する。ズォーダーはその玉座に肘をゆったりと掛け、余裕のある様で、ただその目付きだけは猛禽の様に鋭く資料を眺めていた。

 

遊星国家であるガトランティスにとって人口調整の為に星間戦争はなくてはならないものであった。他惑星への植民による溢れ出たガトランティス人の無秩序化を防ぐことは無論、容量に限界のある本星においても人口を一定程度に維持するべくある程度の徴兵がなされ、常にある程度の人数が空に星となって命を散らしている…ガトランティスにとって戦死とは、戦争とはごく当たり前のことであり一国、ましてや一隻の船ごときに注目することなど決してあり得なかった。

 

「これがたった一隻でガミラスを倒したあのヤマトか?」

 

恐れ慄くサーベラー、この映像を見てはラーゼラーも同様の反応をする他になかった。

 

「大丈夫でしょうか、大帝…ヤマトが、テレサをテレザード星から解放してしまったら…」

 

ゲニッツも息を呑むだけであった。彼は仮にも軍童試(要は士官学校の入学試験)を状元で受かった者であり、ここまでの地位を手に入れるためにそれなりの戦いを経験してきたと自負していたがこうも恐ろしい敵は初めてであった。

 

「テレサ…あの文明が我が帝国へ襲ってきたら恐ろしいことに…」

 

だが大帝だけは落ち着いていた。王の器というものであろうか、この場を聞いただけならばズォーダーだけがおかしいのだと結論つけることもできるかもしれぬ。だが、明らかに大帝は国を統べるものとしての冷静さを保たれているのである。

 

「うろたえるな、愚か者め。テレサが自らを滅ぼすような戦いを挑むようなことはない。絶対にやっては来ん」

 

大帝に基準を置いてしまうとやはり小物臭いこの三人衆、あの恐ろしい戦艦を見たらこうなるのは仕方ない部分もあろう。

 

「小癪なヤマトめ。わが帝国の戦力を一蹴したばかりか、テレザートを解放せんと攻め入るとは」

「この際ヤマトは片付けてしまった方が先決では?地球撃滅はそれからでも十分でありましょう」

「ラーゼラー、お前はヤマトに怯えたのか?」

「滅相な!何ということを仰る!!」

「大帝!」

 

そこに一人の男が部下を連れてやってくる。こつ、こつ、こつとその貫禄のある足音が大帝玉座の間に響く。

 

「大帝、どうやら私の出撃する時が来たようですな」

 

そう語り始めた男を周りのガトランティス人が見つめる。

 

「ヤマトに敗れて以来、今日という日を一日千秋の思いで待ちつづけておりました。ヤマトはこの私がお引き受けいたします。大帝は心置きなく地球撃滅をお楽しみください」

 

その男、アベルト・デスラー、は僅かに頭をあげて玉座の方に目を向ける。僅かにしか視界に入っていないにも関わらず、ズォーダーが期待の目を向けているのがひしひしと伝わる。

 

「面白い、でもねデスラー。今度は負けるわけにはいかないのですよ。ヤマトと戦って敗れ宇宙を漂流していたのをわが帝国が救わなければ、お前は宇宙の永遠の放浪者だったのだからね」

「勿論です。サーベラー丞相」

「私も武人としても誇りがあります。屈辱を重ねて受けるほど腐ってはおりません」

「やってみるがいい。デスラー総統、貴公にわが艦隊の新鋭艦を与えよう。出撃にあたって、わしの花向けだ」

「感謝の極み」

 

一同は退室していくデスラーと彼に付き従う忠臣タランの姿を見ていた。サーベラーにはそんなデスラーが邪魔に思えた。デスラーが去った後、彼女は付近に待機していた青年を呼びつける。

 

「ミル」

「はい」

 

彼の顔にはどこか、ズォーダーの面影がありいつか王になるような風格も見えた。無論、それにしては若過ぎるが政府の中枢に勤めていれば自然とこういう顔つきになるのかもしれない。

 

「お前も一緒に行け」

「ははっ…?」

「デスラーを監視するのです。片時も目を離してはなりません」

 

そう命令を下すサーベラーにズォーダーは不快感を隠さなかった。

 

「…女だな、サーベラー」

 

サーベラーも怪訝そうな顔をしながらも無言を貫いた。

ズォーダーが玉座から私室に戻ろうとする中、サーベラーは走ってどうにか追いついた。

 

「大帝。なぜあんな者を生き返らせた後も寄せさせているのです」

「そうも気に食わんか?」

「デスラーは敗戦の将です。何もそのような者を…」

「我々帝星ガトランティスの技術力は比類なく卓越している。だが、これらの力を持ってして尚、人の命とあっては簡単にはいかんのだ」

 

デスラーが蘇生したことが相当印象的であったのか、ズォーダーの口調は熱弁するかのごとくより一層強まる。

 

「当人が生き返るにはその者の強い意志が必要なのだよ。そして、あの男はそれを持っていた。執念の塊だ。私はそこに感銘を受けた、それだけだよ」

「しかし、あの男は生き返らせて貰った身でありながら大帝と肩を並べた気になっています」

「なに、デスラー総統とて同じく国を統べる者だ。当然だろう」

「大帝!」

「もう良いサーベラー、下がれ」

 

ズォーダーはサーベラーにうんざりしていた。そもそも、私室に戻ろうとしている段階で追いかけてくること自体が無礼である。流石に父の妾であり、息子ミルの乳母であるが故にあまり厳しい処罰を与えるわけにもいかないので、いつも叱責する形で払っているのであった。

ゲニッツ、ラーゼラーと協議した結果ズォーダーにデスラーの旨を抗議することとなっていたらしく、不満げなサーベラーを2人は迎えることとなった。彼女の顔から結果を察したのだろう、2人も僅かに項垂れるような仕草を取った。

 

「あのよそ者に手柄を取られる訳には参りません」

「しかし、それでは大帝のご意思に背くことに…」

 

サーベラーと異なり一介の部下に過ぎないゲニッツはズォーダーに強硬的な態度を取るわけにはいかない。その点において、帝星内の派閥争いではサーベラーが有利であるのは確かであった。

 

「戦果を挙げれば大帝であろうと物を多く仰る訳にはいくまい…例の賊共を差し向けよ。いくら大帝が直々に取り立てた連中とは言え、所詮は野蛮人。多少すり潰したところで大目玉は避けられよう」

「なるほど…上手く行くだろうか」

 

ゲニッツはサーベラーに手柄を譲るのを快くは思わなかったが、かといって他所から来た敗北者のデスラーに戦果を横取りされるのも癪であり、苦虫を噛み潰した表情で黙然とするのであった。

それからして、軽航宙母艦〈キスカ〉の櫓ではイスラ・パラカス都督は権帥(地球で言うところの副司令)であるスペッツ・ナーズと共に入電した命令の旨を不快げに見つめていた。

 

「パラカス殿…」 

「あの強敵と対峙する日が再び来るとはな…考えたくは無かったが、命令とあれば仕方あるまい」

「『命令』?『勅令』ではなく?」

「こんな雑な指示を大帝が仰せ給うとは思えん。恐らくあの小娘辺りが考えたのだろう」

 

ズォーダーが取り立てこそしたものの賊の扱い自体はサーベラーに一任されており、その道具であるかのような摩耗を厭わない指揮に多くの者がいい感情を抱いていなかった。

 

「普段なら、バルゼー様も多少の援軍を下さるが、惜しくもゾル星系の攻略作戦が立案されつつある現状では戦力を削るわけにもいくまい…」

「…蛍雪兵器を用いるぞ。それから白兵戦に持ち込み拿捕する!」

「蛍雪兵器と申しますと…」

「いずれにせよ、やつらはあの宙域を通ろう。それまでに特殊輸送船で兵器をばらまくのだ!」

「はっ!」

 

それから幾ばくほどの時間が経っただろうか、ヤマトは再び巨大な恒星の端を通過していた。

 

「ワープ完了、間もなくアルデバラン宙域を通過します」

「テレザートがヒアデス星団にあることを考えると、ここを越えればすぐ目的地か…」

「よし、各科長及びいつもの要員は作戦室に集まれ」

 

土方の号令がかかると同時に第一艦橋はあっという間に空になる。いつもの暗い中央作戦室のディスプレイには先のポルックスと同様に橙じみた肥大な星が映し出されていた。

 

「これがアルデバラン、我々が間もなく通過する予定の恒星だ」

「アルデバランって言うと、たしか牡牛座の星でしたよね」

「ああ、牡牛座のアルファ星アルデバラン、絶対等級はマイナス0.5等。ポルックスと同じで赤色巨星、太陽の何十倍もの大きさがある」

「雪、宇宙地図と航路を表示しろ」

「はい」

 

土方の命令でディスプレイは機械調の青じみたグラフィックに変わる。そこには現在のヤマトの位置、付近にある星及びデブリ群、そして望ましい航路が表示されていた。

 

「真田さん、アルデバランの後ろにある星はなんです?」

 

島の指摘で真田は目を細めた。ディスプレイには確かにアルデバランに隣接するように巨大な球が表示されている。

 

「森君、測定に間違いはないか?」

「偏差0.004…誤差が出るとは思えません…」

「となると、アルデバランに伴星があったということか…」

「伴星?つまり、アルデバランが双子星だと?」

「そうだ、地球から見ると常にアルデバランの背後にあるため今までわからなかったのだろうな」

 

真田が世紀の新発見に驚いて、ただ黙々とディスプレイを眺めている中にも土方は冷静に次の指示を下す。

 

「雪、拡大投影してくれ。新見…?ああ、弟の方か。お前はスペクトル分析によるガスの構成調べを頼む」

「了解」「はい」

 

双方は同時に返事をした。まず、最初に作業を終えたのは(拡大するだけなので言うまでもないが)森の方であった。

 

「拡大投影、完了しました」

 

だが、多少待ってはみても新米は作業が終わりそうにない。新発見の星に早く迫りたいのか、少し苛立った口調で真田が新米をたしなめる。

 

「新米、遅いぞ」

「すみません、でも見たこともない気体で…」

「全く…今まで何を学んできたんだ、貸してみろ」

 

呆れたような表情をしていた真田であったが、機器の観測をするうちに彼も新米と同じ困惑の表情を浮かべる。

 

「…たしかに、こんなスペクトルの類似例は聞かないな。艦長、あの機体の採取を許可頂けませんか?」

「うむ。本艦はアルデバラン本星と伴星の間の海峡を通過する。航海長、船務長から周辺地図のデータを受け取り航路策定急げ」

 

船は徐々に向きを変えて海峡を横切らんとする。海峡が接近してきた時、艦橋の誰もが目を疑った。

 

「これは!」

「綺麗ですねえ」

「凄いな、まるでホタルだ」

 

無論、非番の者たちも展望室で休息をとっていた連中から伝言ゲームの様に伝わり次々と外の様子を見に来る。寿司詰め状態の展望室では歓喜の声と早く窓辺を譲るようにとする催促の声が飛び交っていた。

 

「お〜〜!」

「ほっほ〜〜〜」

 

そんな様子を見かねたアナライザーは任務中は常備を義務付けられている翻訳機兼無線機を通じて彼らにこっそりと

 

「ソンナニ欲シイナラ、後デ分ケマスカラ。落チ着イテ」

 

と気を使う素振りを見せた。展望室はライブ会場のように盛り上がった。

そして、新米とアナライザーが船外での採取を終えたのち帰還すると他の乗員が物珍しげにその瓶の中のホタルに迫る。

 

「おい、新米。何を持ってきたんだ?」

 

新米はあくまでも真田さんに渡すものだ、と断る。すると、アナライザーが意味ありげに首を振った。すると2人は奪い取るのは諦めてとりあえずは観察するに留めた。

 

「あ、蛍かよ!」

「懐かしいなあ」

「そろそろ地球を出て50日か」

「帰りたいなぁ、地球へ…」

 

そんな弱音がぽろりと漏れる。その時、乗組員を謎の光が包む。テレサのとは違う、赤銅色の光であった。それらが一箇所に集まったかと思うと、粘土細工かの如く徐々に形作られていった。そして…

 

「か、母ちゃん?」

『あんた、寄り道してないで早く帰ってきなさい』

「あ、あっ、待って…」

 

乗組員が手を伸ばせば伸ばすほどにその像は遠ざかりやがて見えなくなった。その瞬間、巨大な闇の波にのまれ、水に突き落とされたような感覚に陥り彼は絶叫する。

 

「待ってくれぇぇ!!」

 

こっそりアナライザーが採取したホタルを受け取った乗組員にも同様のパニック症状が発生していた。だが、古代や土方らはこの緊急事態にまだ気が付いていなかった…

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