空間騎兵隊の者が占拠している談話室の扉からアナライザーがスムーズに入室する。彼のアームは光る粒が詰められた瓶を溢れんばかりに抱えていた。本来ならこの瓶はOMCSの技術を無機物にも応用する形で開発された技術科専用の機材で製造したもので、通常の乗組員であれば技術科の者か副長以上の史観でなければ操作できない代物であったが、幸か不幸かアナライザーは艦内の制御システムの一角を担っていることも相まってロックなど容易に抜けられてしまうのであった。
「皆サン、蛍ヲ持ッテキマシタヨ」
普段は野蛮人の野郎むき出しな彼らも宇宙蛍の前には童心をむき出さずにはいられなかった。
「おお、ロボットのくせにやるじゃねえか」
空間騎兵を代表してアナライザーの背を斎藤は走りと叩く。その後、斎藤はおっといけねえとばかりの表情をした。アナライザーがバランサーを崩して倒れたためである。仮にもヤマトの備品だ、壊せば場合によっては営巣もあり得ると心配したのだろう。無論、アナライザーはその程度で壊れるロボットではない。「オットット」とおどけた声を出しながら体制を立て直し、速やかにホタル配りの使命を遂行するべく艦内を巡るのであった。その足は第一艦橋にも及ぼうとしていた…
第一艦橋では船務科の西条によるコスモウェーブの定時観測が行われていた。他の星などから放たれる通常の電波と異なり、次元レーダーにも反応するためレーダーの反応が通常時に比べて揺らぐ。その揺らぎをキャッチすることでテレザート星の方位や距離を導き出していたのだ。
「コスモウェーブによるパルサー受信、2時の方向。+2.0°現在の平均速度から導き出すとあと1から2週間が到達の目安です」
その時、アナライザーがついに第一艦橋に侵入してきた。アナライザーは調子に乗ったようにくるくると回りながら蛍を漁師が釣り上げた巨大マグロのように見せつけてくる。それに対し、古代はやや厳しい目を向けた。
「アナライザー、艦外の物を勝手に持ち込むなと言ったはずだが」
そうやや苛立つ古代を相原がなだめる。
「そう言わないでくださいよ古代さん、意外と綺麗な物じゃないですか」
「そうだぞ古代、寧ろアナライザーに感謝したって良いんじゃないか?」
「島、お前までそんなことを言うかよ…」
だが、冷静な土方は古代と同様の慎重論を示した。
「副長、しかしそいつらは本当に安全なのか?」
「今、技術科の方で分析しているところです。まだ、安全と断言できるものではありません」
「副長、安心してください。瓶を割ったりなんてしませんから」
「…どうなっても知らんぞ」
真田は呆れてため息をつく。そんな彼を気にするまでもなく相原は瓶を通信席において宝物のように愛でるのであった。
そんなやり取りから程もしないうちに南部が艦橋に入る。
「あ、古代さん。交代の時間です」
「南部か、ありがとう。よろしく頼む」
そう言って古代は不安を戦闘席に残して、非番の時間を過ごすのであった。だが、そうもせぬうちに事件というのは起きるものだ。艦橋では相原がどこか上の空の状態となっているのに真っ先に南部は気づいた。
「相原さん?」
「南部。なんか、音楽聞こえないか?懐かしい感じの」
そう相原が言うと南部はつい失笑してしまった。
「何言ってるんです。コスモウェーブで頭でもやられちまったんじゃないんですか?」
無論、相原は不機嫌そうな、だが納得するような顔をした。
「いや、確かに…」
(間違いなく、これは『北上夜曲』だ。岩手出身の俺が言うんだ、間違いない…でも、ほかの人は音楽が流れていることにすら気づいていなさそうだしな…)
「そこ、作戦行動中だ。私語は慎め」
土方の注意と同時に相原に冷風が吹き付ける。比喩ではない。彼は確かに感じたのだ。
「こ、ここは…?」
彼は目の前の異様な光景に気づいた。自身は先ほどまでヤマトの第一艦橋で通信課の任務を全うしていた、そのはずであった。だが、目の前に広がっているのは一面を雪で覆われた漁村ではないか。相原にとって、それは幾千と既視感のある場所であった。言うまでもない、それは彼の生まれ育ったむらそのものの光景だったのだ。
「ん?」
ふと懐かしい建物がある。彼のかつての住処だ。今はガミラス戦役の影響で跡形もなく消えているが、彼のかつての家に違いなかった。もし、そこに気が付かなかったとしても彼はそう時間がかかることなくそれを認識することが出来たに違いない。
「母さん?」
間違いない。彼の母であった。遠目に見てもそれは明らかであった。
「母さん!」
彼の呼びかけに気づいていないのか、彼の呼びかけに母はなかなか答えない。じれったくなった相原は走って駆け寄った。そして、彼は残酷な真実に気付いた…
「母さん、、、嘘だ、嘘だ、嘘だ、」
それは偽物であった。母の肩に触れるが微動だにしない。今となっては知る術もないが、当時の彼の動揺っぷりなどを考えると直感的には剥製か何かになってしまったような、恐怖感に包まれたのかもしれない。
「嘘だ、皆嘘っぱちだ‼」
彼の絶叫が艦橋内にこだました…
非番となった古代が自室で休もうと寝具を軽く整えていたところ、なんだか妙に老化が騒がしくなってきた気がした。寝ようにも眠れる環境ではないので通路を覗いてみると廊下をえっほえっほと走って見える背中が次第に小さくなる佐渡が見えた。
「佐渡先生!?どうしたんですそんなに焦って」
だが、古代の声より先に佐渡は通路のはるか彼方へと行ってしまった。どうしたことかと疲労の回復より好奇心が勝った古代は通路に体を出した。その瞬間、背後から強い衝撃とともに悲鳴が聞こえた。古代が痛めた背中をどうにか回転させると、そこには派手に転倒した通信課の市川純がいた。
「あ、市川‼すまない、悪気はなかったんだ」
「気にしないでください古代さん、私が焦っていたのが悪いんですから」
「焦って?そういえば、さっき佐渡先生が走っていったけどそれと関係が?」
「はい、実は…」
「相原が‼」
「通信長だけじゃありません。第一艦橋のメンバーに空間騎兵の方々、非番の乗組員の人も同じ症状が出ている人が多くて…」
「古代、そこにいたか‼」
息を切らして真田も駆けつける。普段にはめったに見られない焦燥に駆られた顔に古代はわずかに驚いた。
「真田さん!」
「艦長も蛍にやられてしまってな…現状、艦の指揮権はお前にある。だが、艦橋に戻る前に見てもらいたいものがある。急いでついてきてくれ」
「分かりました。市川はそのまま艦橋に向かって通信席に、よろしく頼む」
「はい!」
市川と別れた二人は全速力で分析室へと走って向かった。そこでは新見や桐生ら技術科のメンバーが色々と実験をしていた。
「いったい何が起きているんです」
そういう古代に対し、まずは真田は覗いてみろと顕微鏡を彼に差し出した。シャーレに厳重に封印された蛍を顕微鏡で覗いてみると、微小の世界では珍妙な姿の単細胞にも思える単純な構造の生物が発光しながらうごめいていた。
「この輝きはどうやらバクテリアの一種だ」
「なるほど」
古代が納得したことを確認すると真田は新見のほうに合図を送る。
「新米、準備はできているか」
「はい、いつでも問題ありません!」
すると新見は急いで防護服のようなものを持ってきた。いつもの船外活動で使う宇宙服でもさして変わりがなさそうなようにも思えたが何か理由があるのだろう。
「こんなのを着ないといけないほどに危険なんですか?」
「論より証拠だ、こっちに」
そういうと真田は古代を二重の扉で区切られたいかにも厳重区域だといわんばかりの部屋に連れて行った。
「ここは?」
「すべての部品がラミックとプラスチックで出来た部屋です。ここに連れてきたのは、」
真田は室内に備えられている棚から二つの瓶を手に取って手前の台に並べた。
「これだよ」
「これは…!」
古代は片方の瓶の惨状に驚いた。金属でできた蓋の内側は長年海水につけられていたかの如く劣化しており、いつ穴が開いてもおかしくないように思えた。
「金属の蓋が腐食しているだろう?比較対象として持ってきたものと比べても明らかだろう」
「何の変化もない。となると…」
「そう、こいつは金属の腐食を大幅に促進させるバクテリアだ」
「話はそれだけじゃない」
二重構造となっている例の部屋で二つの扉を締め切り、防護服の表面に付着している宇宙蛍を徹底的に殺菌すると彼らはそれを脱ぎ、いつもの動きやすさに戻った。真田は新見が用意したプロジェクターにある写真を投影した。
「これはイスカンダル航海の復路で白兵戦を行った際、死亡したジレル人から採取した血液のサンプルを顕微鏡で拡大したものだ。一応のことを想定して国連軍のデータベースにアップロードしておいたが、まさか役に立つとは思わなかったよ」
「何か、僅かに光っていますね」
「この発光している粒は他のアケーリアス系統の生物には見られない、ジレル人特有の一種の寄生生物だと考えられる」
「しかし、それを宇宙蛍だと断定するのは性急に過ぎませんか?」
「思い出してみろ、古代。ユリーシャが目覚めた辺りのことだ。ガミラスのジレル人が艦内で騒ぎを起こした時、お前は何を見た」
「…幻覚ですね」
「そうだ、そして、相原らもどうやら発言の内容から察するに幻覚を見ている。しかも、その内容は当人しか知りえない記憶に基づいて構成されている可能性が高い」
「つまり、ジレル人の血中に寄生している微生物の塊がこの宙域に生息していると?」
真田は黙って頷く。
「半分正解だ。あの微生物とジレル人の関係は我々の細胞とミトコンドリアの関係に近いだろう。元々は別の生物だったのが途中で混入したことで、今となっては共生関係になっている。そして、のちにジレル人となるヒューマノイドの体内に入ることなく赤色巨星の核融合で生じる金属を主食に生きてきたのが宇宙蛍だ」
「そして、もう一つ。あの微生物はこの宙域に、いや、この銀河に生息していなかったと考えられる」
古代は真田から突拍子もない推測をぶつけられ困惑せざるにはいられなかった。
「彼らは金属に対し食欲旺盛だ。こんなスピードで金属元素を食い荒らしていればそう遠くないうちにこの天の川銀河の金属資源は尽きてしまうだろう」
「確かに、瓶の蓋の腐食具合が恐ろしかったですね」
「だが、仮に銀河系より金属が充填している銀河から訪れた生物だとしたら辻褄も合うんじゃないか?そう考えて、我々は周辺の銀河からこの微生物の行う代謝速度から資源を維持できる銀河を測定してみたんだが…新米、あれを表示してくれ」
新米が今度はプロジェクターに多数の銀河の画像とその横に様々な数値がずらりと表示される。
「つまり、これらはアンドロメダ銀河が原産だと考えられる」
「アンドロメダ銀河?まさか…」
「私も考えすぎだと思ったのだが…」
桐生が気まずそうにある画像を表示する。恐らく船外に定点察知してあるカメラからの映像であろう。そこには何とも禍々しい形状の巨大なタンクと思わしき構造物が浮いていた。そこには、地球の言語でもガミラスの言語でもない言葉で何かしらの文字が書かれていた。そのまま桐生はその記号を訳した。
「『戒め:汝 蛍雪兵器を用いわば特殊兵站艦を除く全艦艇を周囲xxxに遠ざけよ』多分、よくわからない部分は文脈的に距離の話が入るんじゃないかと思います」
.
真田はありがとう、と桐生に軽く頭を下げると再び古代に向き直った。
「あの微生物はガトランティスの罠だったのではないか、ということだ…まんまとやられたよ」
真田の口からすまない、という言葉が出そうなのを古代は塞ぐように諭した。
「謝る必要はありません。土方艦長も止めませんでしたし、俺達も慎重な意見を出せませんでした。これは真田さん一人の責任ではなく、皆で背負う責任です。それより、艦橋に急ぎましょう」
その言葉に一瞬、驚いたような顔をした真田だが、直ぐに目元を緩めそれもそうだな、と返すと二人は艦橋へと急行する。だが、異変に気づくのにそう遅くは掛からなかった。先程まで全力疾走していたはずが突然として自由が利かなくなったのだ。いや、自由が効きすぎていると言った方が正確かもしれない。
「慣性制御が切れた!?」
「まずいな…末端部が食われただけで済んでいればいいが…」
間もなく第一艦橋へ到着したが、そこもまた一大事であった。見ると消火器を抱えた市原がぐったりと座り込んでいるところだった。
「古代さん‼」
「市川、これはどうなっている!?」
「第一艦橋の回路が完全に食われて、ショートで火災を起きたんです…」
「真田さん、第二艦橋で指揮をとりましょう!」
「ああ、その間に我々は除染を試み…」
その時であった。自動航行モードに切り替わっていた為か、自動で敵が接近した旨を知らせる警報が鳴った。双眼鏡で見渡すと、カブトガニの群れがこちらに飛んできているのがよくわかった。
『敵飛行編隊発見、左舷前方180skm』
「ガトランティスだ!」
「くっ!真田さん、除染は後でお願いできますか!?」
「ああ、無論だ。総員第二艦橋に移動、そちらで指揮を執る」
幸いにも第二艦橋には人が立ち入っていないこともあってか宇宙蛍の影響はほぼ無かった。時間もないので取りあえず各々の場所に着席する。
「主砲三式弾装填、対空防御だ!」
主砲の実弾装填装置は生きているらしく、火薬装填室からの返答と同時に主砲が機能しているのが確かに確認できた。しかし、外から見れば各所が劣化し煙を出して沈みそうになっているようにしか見えない。その様子を見てナーズはある種の感心を示していた。それとは対照的にパラカスの方はというと、何処か不服そうな表情で遠方のヤマトを睨んでいた。
「あの兵器にこんな効果が…」
「兵器単体では意味はなさんよ」
「なんと?」
「魔女は己の血を以て民の心に干渉現象を起こす。それくらいは知っていよう」
魔女、言うまでもなくジレル人の話であろう。それ以外には「魔女」という言葉など聞いた例はない。唐突な話題の転換にナーズは僅かに戸惑っていたが、急な話もあるものだと思いどうにか調子を合わせる。
「流石に、某とてグダバ遠征軍の武士です」
「かの蛍雪兵器は魔女の血と似通ったものであり、魔女が他者の精神を受信するための神経になるのだよ」
「某が申し上げたいのは我軍に魔女などおりましたか、と」
パラカスはナーズの表情を伺う。どうやら、道化ではなく真に真偽を理解していないらしい。
「よもや、それを知らんとは…いるではないか、我々が嫌と言うほどに知っているあの輩だよ」
ナーズは僅かに考えた後、ある1つの、確かにそうだと仮定すれば十分に成り立ちうるが俄には信じがたい結論に辿り着いた。
「まさか…」
「ま、その様な下らぬ話は何時でも出来よう。ヤマッテもここまでだ、とどめを刺す。第二次雷凧群、発艦せよ」
例のカブトガニが発進するがパラカスはいち早く異変に気付く。カタパルトが作動していないのだ。どうもしていると、いよいよ機関から異音が確認されるので彼がつい焦った。
「いったい何をしているか」
「艦を寄せすぎました!わが方にも蛍雪兵器の影響が…」
「はっ、、、よもや己が手で首を絞めることになろうとは…救援の暗号を送れ!」
パラカスの運の尽きはその信号を受信できる距離にあった艦隊がただ1つだけであったことだ。
「総統、ガトランティスの艦から救援の要請が来ております」
デスラーと共に蘇生手術を受けた彼の忠臣、ヴェルデ・タランがその旨を報告する。
「何、どの宙域だね」
「このエルデべ星域なのでありますが…」
デスラーは忠臣の言葉の裏を逃さない。
「何か言いたげだな、タラン」
「はっ、その…」
タランはミルに気づかれぬようデスラーの耳元に小声で囁く。
「…その話、真か」
「確度はかなりのものです」
「わかった…」
そう呟くとデスラーは命令として
「これよりわが艦隊はエルテべ星系の遭難した友軍艦隊の方面へと向かう」
と下した。その言葉の含みにミルは気づいていなかった。
無論、ヤマト内部では敵の艦隊に何が起きたかを知る術はない。引き続き敵艦載機の攻撃を主砲やらパルスレーザーで薙ぎ払うやらを繰り返すのみであった。そうしていると、開いた艦橋への入口から見慣れた黄金色の髪が飛び込んでくる。
「古代君、ごめんなさい!」
「雪!?てっきり蛍の被害を受けていると思っていたが…」
真田が驚いた顔をしているのを気にすることもなく、いつの間にか、無重力にすっかり慣れた彼女はあれよあれよとあっという間に船務科の席に着いた。
「そうだったのだけれど、私は早々と回復して…」
「どうであれ、少しでも艦橋に人員がいるのは助かる。よろしく頼んだ」
真田は何かこの件について気づいたような顔をしたが口には出さないことにした。その様子に気付いた者は誰一人として、いなかった。
ヤマトの〈目〉が戻ってからそう時間が経たぬうちに進展はあった。
「前方、0.15光秒先に小惑星あり...これは!?」
「どうした、状況報告!」
「内部が空洞になっています。筒状の天体です」
古代は迷うまでもなく判断を下す。
「そこにヤマトを停泊させよう。一時的に隠れて、船にこびりついた蛍を洗浄します。真田さん、どうです?」
「悪い考えではないが追われている最中だ。手早く終わらせるにはそれなりの人数に協力してもらう必要がある」
「了解しました。林、あのちくわ型の小惑星内部にヤマトを停泊させてくれ」
「了解。ただ、ヤマトがヴァイキングみたいになっちゃうかもしれませんよ?」
「そのときは俺がロケットアンカーで上手く引っかける。安心してくれ」
そう言葉を古代から受け取った林は艦首をちくわの穴の方へ向け、船を減速させながら見事に着地してみせた。舟の停止と同時に技術科が主導するかたちで船の大規模洗浄が行われる。尤も、宇宙線にも生身で耐える微生物だから殺菌は容易ではない。だが、真田志朗という男は恐ろしい。
「新米、こいつらを残らず吸引するぞ」
「え、吸引!?」
「さっきOMCSの方に金属が露出している部分にプラスチックでのコーティングを施してきた」
「?それと、これの駆除の何に関係が…あっ!!」
「そうだ、ちょうどいい補給になったよ」
そうして最低限の船員を除いた総出での清掃の結果、一時間強で終えることに成功した。そして機関を全開にして去ろうとしていた頃、パラカスも天体内部に潜むヤマトを発見した。
「まだ艦の脚はいきているか」
「はっ、第三脚に故障見られるも他は異常なし」
「よし、他の航行可能な艦は右口に回れ。我が艦は左口より追い詰める」
無論、ヤマトの目は節穴ではない。直ちにこれを探知して一気に逃げるように加速する。
「前方にも敵艦!」
「挟まれたか…」
古代が歯ぎしりをするが土方は落ち着いていた。
「波動防壁、艦首最大展開。このまま突っ込む」
と指示したその時であった。
「後方に新たな艦影を検知!」
「何!?」
「中型艦…これは!」
雪が目を見開いてその検知が真かを疑った。
「波動エネルギーの充填行っています!」
「ガトランティスが波動砲を持っているというのか…」
幻覚を見てはいるがどうにか気合で耐えた土方も混乱の最中にある頭に指を当て、打開策に悩んだ。古代は一応、
「林、逃げ切れないか!」
と確認するが
「無理だ!修理したばかりの波動エンジンじゃ亜光速のやつから逃げられるわけがない!」
とその淡い望みもあっさり否定されてしまう。だが、土方には希望の萌芽が見えていた。
「古代、波動防壁を艦尾に展開。林、緊急ワープの準備」
「し、しかし、艦長…」
「聞こえなかったか、繰り返す。古代、波動防壁…」
何かが見えている、そう確信した古代は
「波動防壁、艦尾に最大展開」
と復唱する。その様子を見た林も信じるようにワープの準備を開始する。
「自分でまいた蛍を片付け忘れるとは…」
「待て、デスラー。何をする」
デスラー砲の引き金を掴むデスラーをミルは目を見開いて正気かと言わんばかりに止めようとする。だが、見事にもタランによってその試みは妨げられた。
「ヤマトを倒すには不要な人間だ」
林がカウントダウンを開始する。
「5,4,3…」
デウスーラII世の艦首が光の粒を収束させる。
「2,1…」
「デスラー砲、発射!」
「ワープ!!」
ワープによる空間の亀裂、爆縮した次元の閃光、ちくわ型天体が異次元から汲み上げる無限の反物質…これらが交わり一帯は無に帰ったかのような白日に照らされた。
「都督、前方よりデスラーが!!」
「ううお、何事かぁぁぁ!」
パラカスが艦橋から最後に見たのは前方で光に飲まれる僚艦と、その光が迫ってくる様であった。断末魔を上げるまでもなく〈キスカ〉は微粒子として宇宙に溶けた。それとほぼ同時にちくわ型天体も複数の内部からの衝撃であっという間に崩壊してしまった。 だが、幾ら外殻ユニットを新調したとはいえこれしきりの衝撃で沈むほど総統座乗艦は脆い作りではない。艦橋には一仕事済んだにも関わらず手が震えているデスラー、船務士からの報告に驚くタラン、あまりにもの出来事に言葉を失うミルの姿変わらずあった。
「総統、デスラー砲発射直後の反応ですがワープの反応が…」
波動エネルギーを用いたバリアーを帆のように張ってデスラー砲の衝撃で加速し、ワープしたのだろうとタランは説明するがそんなことはデスラーにはどうでもよかった。
「ヤマトか…フフフフフ、ハハハハハハ!相変わらず運の良い船だ。だが、今度こそは…」
ミルは仮にも友軍艦を躊躇わず巻き込むような攻撃をしたデスラーに言葉を失っていた。
「…た、大帝に上奏する!」
こう言い放つので精一杯であった。