宇宙戦艦ヤマトReAGE2202 愛の戦士たち 作:アドリアドリア
大帝玉座の間において、サーベラーは落ち着かない様子で右往左往していた。その様子をゲニッツは何とも言えぬ表情で見つめていた。
「ミルからの狼煙が途絶えてかれこれ20。デスラーめ、何か謀をしているな」
彼女のやろうとしていることをゲニッツはうすうすながら勘付いていた。
「ゲニッツよ、何を恐れておる」
「もし我々が勝手にデスラーを召喚したことが大帝に知られたら、なんと叱責を賜るか、、、」
「わらわがそんな甘い女に見えるか、見くびられたものよ」
サーベラーの不敵な笑顔をゲニッツは訝しんだ。
「と仰ると?」
「大帝にデスラーが逃げおおせたと伝えればよいのです」
「なんと、大帝に虚言を奏上するおつもりか!?」
「その方とて、あの青虫を気に入らぬは同じ。協力せしめば、大帝も我々の嘘も信じよう」
サーベラーの提案は思考としては間違ってはいない。いくら大帝国の指導者同士としての心のつながりがあったところで所詮は赤の他人、大帝にデスラーが一度でも逃げ帰るような意気地なしと思わせることに成功すれば大帝も興ざめすることだろう、という作戦であった。
「うむ、しかし、、、」
「その後は奴を煮るも焼くも我らの好みよ」
これに関しても実際にその通りであった。既にゴーランドがやられた現状においても尚、テレザート星地表にはザバイバルの重騎兵隊が陣を構えている。
「所詮テレサなど、祈りを行うのみの無力な存在。あの者だけで何かできるはずはあるまい」
そんな陰謀が彗星内で渦巻いていることはいざ知らず、〈ヤマト〉ではテレザートに関する情報収集がひたすらに進められていた。
「古代、テレザート星の情報がつかめた」
太田から転送されたデータを真田は顎に手を当てながら睨む。その報告を聞いた土方は幹部を作戦室に集めた。作戦室のモニターにはテレザートの内部データが映し出されている。その内部映像に古代は息をのむ。
「空洞惑星、、、」
「ああ、この星系の惑星は大体がそうならしい。その中でも、テレザート星はかなり特殊だ」
船務長としての務めを果たすべく、森雪もその場にいた。彼女の捜査と同時に画面の左端にテレザートとの距離を横軸にとった反比例上のグラフが表示される。
「相原通信長からの報告によると、膨大なコスモウェーブを受信しています。つまり、ここがメッセージの発信源、すなわちテレサの居場所と考えて相違ないと思われます」
「やはり、ここで間違いないようだな」
「しかし、」
どうやら彼女の話はまだ続くらしい。
「こちらの地点に到達してから現時点までのコスモウェーブの強度のグラフです。最初の方は極めて強いのですが、途中からこのようにノイズがかかっていることが分かります。恐らく、敵の妨害電波に違いありませんが半径100㎞圏内に敵艦隊感知できず。恐らくは地上部隊からの妨害でしょう」
「そもそも我々はテレサに関する情報が極めて少ない。地表のスキャンと分析が必要だ」
土方の地表調査を示唆する言葉に斉藤は血をたぎらせた。
「そこで俺たちの出番ってわけか!」
「斉藤、早まるな。話はまだ続いているぞ」
星名も〈シナノ〉からホログラムを通じて作戦会議に出席している。
『真田三佐が共有された情報を元に分析すると地表には大量の防空陣地が敷かれており、このまま揚陸作業を行なおうものなら撃墜されるのは容易に想像できるでしょう。そこで、〈シナノ〉は地表への艦砲射撃を行います。〈ヤマト〉はその間に内火艇を下せる場所を探して、騎兵隊を揚陸させてください』
作戦会議が終わると〈シナノ〉はまず、惑星地表に対して垂直に艦首を向ける。
「主舵90度」
「主舵90度、ヨーソロー」
それから直ちに右舷を惑星地表に向ける形をとった。波動砲を持っているとはいえやはり戦艦、通常砲撃の時はやはり全火力を投射できるこの形が都合がいいものだ。
「全砲門、照準よし、、、〈ヤマト〉の妹さんの砲撃を担当できるとは光栄なこった」
「仁科砲術長、対地砲撃です。好きなだけ撃ってください」
「言われなくてもそうするつもりでしたが、艦長のお墨付きとあらばジャンジャンやっちゃうとしますかね、、、撃ち方始め!」
それと同時に〈ヤマト〉はイスカンダル帰還後すぐの臨時改修で増設された0式空間聴音機(尤も、宇宙で音は聞こえない。波動エネルギーのゆらぎを拾うことを音に例えている)で地形のスキャンを始める。間もなく、森雪が効果に適した地形をおよそ選び抜いた。
「降下地点候補、選定完了」
真田がその候補を悩んだのち、大量の岩石が散らばって盆地状になっている平原に目を付けた。
「特2式内火艇、発進。空間騎兵隊降下用意」
「いよいよ俺たちの出番か」
「腕が鳴るぜ」
「あんたら、隊長の話だよ」
「よく聞け、第11番惑星での借りを返す時が来た。ヤマトの連中に空間騎兵の実力ってものをたっぷり見せてやれ」
満載積数を満たしていないレボルバー状の〈ヤマト〉格納庫、レボルバーの1セルを更に仕切る回転板を撤去して無理やり内火艇を駐留させていた。普段は軽々とコスモスワローを打ち出すカタパルトとは思えない重々しい動きで放り出された内火艇は逆噴射で重力に逆らいながらどうにか荒野に着陸することに成功する。それから周囲の安全確保を確認するとハッチを開き、歩兵と共にガミラス戦役中盤に拠点防衛用に開発された95式軽戦車も揚陸させる。これをピストン輸送で数回繰り返した。
「降下成功、これより地表の調査を開始する」
そう言いつつも、斉藤は地表の様子に呆気を取られて〈ヤマト〉への通信を完全に忘れていた。というのも、彼らはその星であまりにも衝撃的なものを見てしまったのだ。
「こりゃすげえ、、、」
それは、超近代文明によって作られたであろう都市の廃墟であった。ここに比べれば地球の首都など全く大したことのない物であるようにも思えてしまった。
「戦争で、というよりは人がいなくなって放置されたみたいな感じっすね」
だが、彼らは周りの景色に気を奪われるあまり敵によって探知されているのを認識できていなかった。空間騎兵隊の上陸は直ちにザバイバルの本陣へと知らされることとなった。
「旅帥、ヤマッテの上陸部隊が進撃してまいります」
「上陸!ゴーランドは如何したか!」
あのゴーランドが〈ヤマト〉の接近を許すはずがない。ならば、と嫌な予感がよぎる。
「大都督は討死をされました、、、」
ザバイバルはしばしの間、目をつむり英霊となったゴーランドに黙祷を捧げた。移動する星、ガトランティス。星の容量が定住文明に比べて限られる彼らにとって戦闘による人口調整、すなわち死は当たり前のことであり追悼の文化はあまり普及していない。死を悼むというのはそれ相応の信頼関係が互いにあったことの示しに他ならない。
「そうか、、、ならば、これを彼への弔い合戦となそうではないか!奴らの所在は?」
「都市の廃墟の中央部を進軍中」
「よし、もっと引き付けよ」
ザバイバルは地図の自身らの本陣が置かれている地点から前方へ眼をやる。そこには、丘がいくつかある大平原が広がっているらしい。
「この、大平原に首を突っ込んだところで包囲し討ち取る。一網打尽にせよ!」
時を同じくして、〈ヤマト〉では古代らが一向に連絡のないことに焦りを感じていた。
「連絡がないということは特に何もないということなのかもしれんの」
と徳川は特に焦る様子を見せない。〈ヤマト〉では最年長の彼が落ち着いているから辛うじて皆も平生を保っているといったところであった。だが、落ち着かぬものは落ち着かない。
「キーマン!いつからそこに、、、」
「さっきの話を聞きに来たにきまっているだろ。地球があのふざけた艦隊をそろえてるのはどういうつもりだ」
「〈ヤマト〉がイスカンダルに到達した際、CRSを受け取れなかったかもしれないって話は聞いたか?」
「なんだそれは、聞いてないぞ」
古代はことの経緯を大雑把に説明する。火星に漂着していた戦艦、外からの侵略へ備えていたところへのガミラスの襲来、波動砲を開発したことによるスターシャの不機嫌、、、
「なるほど、イスカンダルでそれでは他所の国家を信用などできるはずがないということか、、、我々との最悪のファーストコンタクトもその不信に起因するという訳だ」
「国家間の不信を乗り越えられたのは国家の外、すなわち宇宙にさらなる不信の要因を発見できたからに過ぎない」
そのとき、モニターが点灯して斉藤からの通信がつく。なにをやっていたのかと古代は詰めようとしたが、斉藤はサプライズがあるから見てくれというのだ。どうせ下らぬものだと呆れつつも古代はそれを見ることにした。だが、映像が切り替わると同時に古代は目を皿にすることになる。
「すごい巨大都市だ、、、規模もすごいが、かつては地球など比べ物にならないほどの未来的な都市だったのだろう」
「しかし、どうしてこんな廃墟に、、、」
キーマンもさすがに初めて見る光景に唸らずにはいられない。
「例えどれほど文明が発達しても、それに伴って人間の精神も進歩しない限り最終戦争というのは避けられない。だが、テレザートはそれを避けることに成功した。精神の同化による精神集合体へと進化した存在、それがテレサの正体だろう。あらゆる意味で我々とは別次元の生命体というわけだ」
そらから、会敵の見込みがないことを報告した斉藤はふうとため息をつく。
「しっかし、敵ってのが全くいませんね」
「こんなことなら弁当でも持ってくりゃよかったな」
「馬鹿言ってんじゃないよ」
永倉がすかさずツッコミを入れるが、そこでにやりと笑い続ける様子のおかしい隊員がいた。
「でも、腹ごしらえも悪くはないんじゃねえですかい?」
「腹ごしらえ?」
そういうと隊員は車両からこっそりと食糧のコンテナを取り出す。開けるとそこには見事なごちそうが詰められていた。
「へへへ、長期戦になるかもと思いましてOMCSからくすねて参りやした」
「おお、気が利いてるじゃねえか」
永倉はあきれて言葉が出ない。斉藤につられてほかの隊員も次々と食事にありついてしまったからだ。匙がないので手で貪り食う。さながら野蛮人だ。
「いや、なかなか乙な味だぜ。やっぱ海軍も飯だきゃうめえな」
「うまいものを食えやシャカリキになって働けると言いますが、隊長はどうですか?」
「俺は食ったら眠くなる」
「ギャハハ」
しばらくの間、彼らは作戦中とはとても思えぬのんびりとした時間を過ごしていた。だが、しばらくたった時、妙な音が聞こえだしたのだ。最初は雷かとも思ったが雨雲が発生している様子はない。その正体は敵の戦車隊であった。
「おいでなすったな、、、野郎ども、ピクニックは終わりだ!」
斉藤を含めた一部の兵士は95式軽戦車で戦闘用意を始め、残りの兵士も対戦車グレネードを構える。だが、相手の方が一手早かった。
「クソ!前進だ!廃墟を盾にして進め!」
「隊長、三号車がやられた」
「なんて貫通力だ、、、こっちが紙くずじゃねえか。全車後退、体勢を立て直す!」
「おい馬鹿、出るな!」
斉藤の懸念通り、前に出た歩兵の隊員は間もなく敵戦車の標的となる。最終目的地は洞窟となっている可能性が高く、戦車では動きにくいので歩兵を残しておく必要がある。やむを得ないので残った2両で連携して、歩兵の温存に努めることにした。具体的には片方を陽動に用いて、もう片方の戦車で高所から天板を狙うというやり方だ。それによって、大半の車両。いや、その地点で確認されているすべての戦車を殲滅することに成功したのだ。
だが、次の瞬間であった。こちらに手を振っている二号車の車長が炎の中に消えた。何事かと思って穴の開いた方を見るとこれまでのより一回り巨大な重戦車がこちらに迫っていた。恐らく、敵指揮官の車両なのだろう。
「残っている戦車は、、、俺たちだけみたいですぜ」
天城が苦虫を噛み潰したような顔をする。斉藤車は次々と主砲を撃つが、どうも敵のフラグシップ戦車にはドアノッカー程度の効果ならしい。弾が次々と跳ね返される様はまさに絶望であった。確か、土方から対ガ戦役における艦隊戦の昔話でも似たような話を聞かされたことがある。そう思い返した斉藤はバイザーの下に冷や汗をかかずにはいられなかった。
「真正面からやっていたらきりがねえ」
斉藤車は後退し、廃墟となったビルの物陰に隠れる。その間にもザバイバル車からの砲撃は続き、次々と廃墟が崩れていく。間もなく、斉藤車を激しい衝撃が襲う。永倉が短い悲鳴の後に舌打ちをした。
「履帯がやられちまったよ!」
「くそったれ、白兵戦用意だ!」
斉藤らは戦車を放棄して泥臭いゲリラ戦の準備をするべく各々が別の陰に隠れる。
岩陰に息をひそめる斉藤、その気配をザバイバルは確かに感じていた。だが、何処にいるかまでは分からずひとまずは機関銃の乱れ撃ちによる攪乱しかできることはなかった。その間に斉藤はついに戦車の死角へと回りこんでいた。
「ん!」
奇襲を仕掛けたい方向と別角度からの投石によるフェイント、実に古典的な方法である。だが、この古典的な方法によってザバイバルには一瞬の油断が生まれてしまった。
「この野郎!」
斉藤は得意の投げ技でザバイバルを戦車から一気に叩き落す。
「うわあ!」
ザバイバルの光線は斉藤の鉄帽をかすめ、振り落とした。反射的に斉藤はザバイバルに強烈な蹴りを食らわせる。
「ぐおお!?」
斉藤の蹴りは見事にもザバイバルの手を緩めさせ、その銃を彼の手から離すことに成功した。彼らの力は互角、そうとなれば互いを殺めることができるのは傍らに落ちたあの銃のみである。二人はもがき争い、どちらが先に銃を獲るか死に物狂いで競う。斉藤、ザバイバル、再び斉藤、、、と数秒おきに一つ先に手を伸ばせている者が入れ替わる。そして、最後に銃を手にしたのは斉藤であった。銃を胸に突き付けられたザバイバルは全てを諦めたかはたまた不覚を取ったことへの衝撃か、唸り声をあげていることを除けば石像のように固まってしまった。決闘の呆気ない結末に斉藤も少しばかり呆然としてしまったが、彼に残る僅かな意志が彼に引き金を引かせた。
「うっ!」
ザバイバルはわずかな断末魔と共にテレザートの大地に果てた。一人、突出して敵に直接乗り込んだ斉藤はほかの隊員とはぐれ完全に孤立していた。彼の周りには、多くの部下の死体が転がるばかりであった。