宇宙戦艦ヤマトReAGE2202 愛の戦士たち 作:アドリアドリア
テレサのいる巨大な空間に姿を現した新たな男、それはあのイスカンダル航海の復路で確かに倒したはずのデスラーであった。その姿に自身らの手で倒したことをこの目で見たはずの古代、真田は驚かずにはいられない。
「デスラー、、、」
「生きていたのか、、、」
彼らの驚く顔を気に留める様子など一切ない。
「大ガミラスは永遠だ。我がガミラスの栄光は不滅なのだよ」
もはやレドラウスは目の前で起きていることが理解できず発する言葉もない。
「なぜ貴様がここに、、、」
古代は警戒心を顕わにして怒鳴るような口調で問い詰める。
「君たちと同じだよ。テレザートのテレサ、万物を見通す女神。私も拝謁したいと思っていてね、いやはや光栄の極み」
どこか虚無を抱えたデスラーの喋り方に古代らは捉えどころを見いだせず困惑している。
互いがにらみ合う中、キーマンが一歩前に出る。
「デスラー総統に伺いたい」
古代が呼び止めるのをものともせず、キーマンは一歩一歩とデスラーへと接近する。しかし、どうしたことかタランも止める気配がないのだ。やがて、デスラーの真正面に立ったキーマンは衝撃の問い、というより一種の確認のための問答を行なった。
「ガミラス星は滅びに向かっているというのは、事実か?」
その言葉に二人のガミラス人以外は耳を疑った。
彼等の母星たるガミラス星、銀河を席巻する大帝国の地盤として盤石そうに見える星だが重大な欠点を抱えていた。母星の地下内部では突如としてマントルの不安定化による地殻変動の活発化が確認されていた。秘密裏に行われた地質学者の調査ではあと100年で消滅してしまうという。これが発覚したのは大ガミラス公国を一代にして統一せしめたデスラー家の中でも屈指の武将、エーリク・ヴァム・デスラーが当主であった時代のことである。
「このままでは百年弱でわが母星は消滅するぞ」
「我々は他の星で生きるには虚弱だというのに、、、」
そもそも、ガミラス星の属するサレザー恒星系の恒星サレザーは黄色主系列星と宇宙全体で見て比較的数の少ない星である。ガミラス星には特殊な植物が生えており、それが大気中に放つ物質によってガミラス人は免疫などを維持するという民族全体で虚弱体質な傾向にあるのだがこの植物はそのような黄色主系列星の恒星の光でしか育たない。それを反証すべく実証実験が度々行われたが、返ってきたのは幾万人の死体という明らかな解答のみであった。また、彼らの虚弱体質故に適切な紫外線量なども加味した星探しが求められた。
「近隣の恒星系にそのような星はない、、、これでは我々の銀河(=大マゼラン銀河)を丸々征服でもしないと見つけられるか分からんぞ」
「そんな無茶な拡大政策が成り立つものか!」
などと会議が紛糾している中、会議室の隅の方から物が落ちたような不自然な音がする。不幸にも、それは意見が一通り出終えたために僅かばかりの静寂が訪れている折の出来事であった前に極めて目立ってしまった。物音のした方を振り返ると幼き日のアベルト・デスラーが怯えた様子でそこにいた。幼いが故の小柄な身を生かして盗み聞きをしていたのだ。
「アベルト!」
「『血の誓い』を交わしていない者がこの場にいることなど許されない!」
血の誓い、古来よりガミラス民族に伝わる一種の儀式である。ガミラス人以外の血とガミラス人の血が混ざると気化反応を起こすことに由来しており、同民族内での堅い約束(場合によっては麻薬カルテルの密約として使われる場合も)をする場合に用いられることが多い。不文法でこそあるものの、これを行わずして会議に参加している者を切り捨てても罪には問われないという。エーリク・ヴァム・デスラーは機密保持の点から実に合理性のある判断をしたのだ。
「叔父上、お待ちください!」
だが、当然その判断に待ったをかける者も存在する。まして、殺されようとしているのが自身の弟ならばなおさらだ。そう、この場にはアベルト・デスラーの実兄であるマティウス・デスラーも同席していたのである。現当主であるエーリクは子宝に恵まれずアベルトは当主とするにはあまりにも幼い現状、最も次期当主として相応しいことからこの会議に同席していたのだ。
「アベルト、この場で誓えるか!?この秘密を守ると!生涯かけてガミラス民族が移住できる星を探せると!」
彼に頷く以外の選択はできなかった。
「約束だぞ、、、」
それから6年後、マティウスは病死した。葬儀で泣き崩れる母、その目にアベルトは一切映り込んでいなかった。哀れなるアベルト・デスラー、彼は母の愛を知らない男だったのだ。
マティウスの死から4年後、エーリク公も死亡。デスラー家に跡取りがいないも同然と諸侯が見るや否や、各地の諸侯が次々と反逆の狼煙をあげてガミラスは再び内戦へと陥った。この星が統一されてたかだか数十年、少しでも火種が燻ればあっという間に広がるのはやむを得ない話ではあった。各地の豪族が次々と御旗を掲げ、ガミラス星はわずか数十年で再び星全体が戦火に包まれることとなってしまったのだ。
アベルトは兄との約束を果たすべく一人の男の元へ向かった。ガミラス星北方一帯を領地にしている大貴族、ヘルム・ゼーリックである。星全体が内戦に見舞われている中、ここだけは全くそれを感じさせる空気ではないことにアベルトは驚いた。どの内戦における派閥もゼーリック率いる諸侯と戦ってたやすく勝利できると思っていなかった為に手出しをしておらず、ゼルグーテン地方はこの内戦において中立地帯とすることが暗黙の了解となっていた。だが、そこでアベルトは一手賭けに出た。
「若きデスラーよお、、、吾輩に如何なる用であるかぁ?」
一定数の人は悪趣味とさえ感じるほど絢爛な内装の部屋、そこに様々な星の女を侍らせた中年の男こそヘルム・ゼーリックである。これまた派手な貴金属で装飾された椅子にどっぷりと腰掛ける巨漢にデスラーは跪いて一礼する。ゼーリックはよいと合図をし、デスラーは頭を上げた。ただでさえ図体が殺陣にも横にも大きいというのに下から見上げるせいでそれは一層際立った。
「この度は謁見の機会を設けていただき感謝する。率直に申し上げたいのだが、この内戦で私に協力していただきたい」
この言葉でゼーリックを取り巻く多くの遊女や家臣が驚くがゼーリックは眉を上げただけであった。すべての諸侯が恐れをなしてゼルグーテンにかかわらないようにしようとする中、この若造は最低限の防備を固めた後、真っ先にこちらへ来たのだ。若いにも関わらずそのような英断をした賢明なる王の器か、若さゆえの猪突猛進か。いずれにしてもゼーリックはこのアベルト・デスラーという男に興味を持った。とりあえず、話の主導権を握るべくデスラーに他愛ないような素振りでガミラス星の情勢に関する雑談を仕掛けるがデスラーは苦も無く淡々と答える。この男を支援する価値があると見たゼーリックは探りをやめて本題へ一気に切り込んだ。
「然して、吾輩にどのような利益をもたらすぅ?」
「国家再建の暁には軍の上層部、、、」
不満そうな顔のゼーリック。それを察したデスラーは条件を更に盛る。
「頭の地位を約束申し上げよう」
「悪き話ではなぁい、、、良かろう」
こうして、ガミラス一の貴族であるゼーリックを陣営に引き入れて以降のデスラー派閥は破竹の如き勢いでガミラス星を統一した。部分的には一度星を統一した血筋の者の支配を再び受け入れるだけのことなので抵抗がなかったとする側面もあるだろうが、あの男の勢力あってこそだったのは間違いない。尤も、その後の民族政策などによるこじれから暗殺未遂が発生したことは知っての通りだろう。
いずれにせよ、デスラーはその年に反して、一つの星に住まう何十億もの民の存続という途轍もない重責を背負うことになってしまった。その苦痛を紛らわす唯一の方法、それがスターシアであった。
「早く、大人になりなさい、、、」
一民族の命運を背う苦痛、、、それを個人的な愛としてすり替えることで自信を騙してきたのだ。生きるため、責任を果たすために、自分で自分を裏切ることに慣れて、本当の自分を見失ってしまった。殊に厄介なのがスターシャを愛する気持ちは本物であったこと、そして臣民に母星の真実を告げるわけにはいかないので拡大政策たる「デスラードクトリン」を掲げた結果想像以上の支持を集めてしまったことだ。だれも止める者はおらず、彼はその歩みを進めるしかなかった。
だが、そのスターシアにも裏切られた。スターシャのためと自身を騙って続けてきた拡大政策、これをスターシャが真っ向から否定したのだ。その否定の象徴こそ、宇宙戦艦ヤマトであった、、、兄の悲願をかなえる星、スターシャの為に救済した星、、、その行為をスターシア自身の手によって否定されたのだ。
「この苦しみが貴様らに分かるものか、、、」
デスラーの独り言に古代は噛みつかずにはいられない。
「それが他者を害する理由になるものか」
いずれにせよ、こうなった以上デスラーは再び新しい星を探すしかない。しかし、彼の驚異的な拡大政策をもってしても恒星サレザーとスペクトル及びその他環境が類似した星は太陽のみ。共和制に移行したガミラス政府では強権的な政策を行うことなど出来るはずもなく、一方のデスラー艦隊もこの程度の数でそんな大冒険ができるわけがない。そこで、この宇宙の全てを蠢く予定だというガトランティスを利用することにしたのだ。
「私はテレザートを占拠して大帝に差し出す。この宇宙すべてを支配せんとする大帝と言えども、恩を忘れるような人間ではない。これをもって、ガミラス星へ手出しすることを避けるよう願い出て、あわよくば宇宙のどこかにあるかも知れぬガミラスと瓜二つの星の情報を提供してもらう」
つまり、、、
「テレザートの解放を目的とする諸君とは、またしても敵対関係というわけだ、、、」
デスラーのその言葉と同時に古代が銃を向ける。しかし、古代が撃てないことをデスラーは確信していた。そして、彼が引き金を引くのをためらっているうちに古代は別の銃口が自分の頭に向けられているのを感じた。
「キーマン!?」
古代に銃口を向けていたのはキーマンであった。
「それは偽りの名だ」
「何を、、、言って」
彼の本名はランハルト・デスラー。アベルト・デスラーの甥であった。アベルト・デスラーの亡き兄、マティウス。人望などからデスラー家次期当主として周囲から機体のまなざしを向けられていた彼はエリザという女性とこを成していた。その子こそがランハルトである。行方をくらましており内戦あるいはその前後の混乱で死亡したと誰もが思っていたが、奇跡的にも彼は母子ともども生きていたのだ。ただし、それはアベルト・デスラーにとってうれしい再会ではなかった、、、建国3ガミラス年(当然ながら彼らの年月の測定方法はサレザー恒星系の周期が基準である)記念日における暗殺事件、その刺客がエリザだったのだ。そして、その幇助をランハルト自身も行なっていた。
本来なら極刑に値すべき重罪であり、実際に公式書類には「処刑済」と記されている。だが、アベルト・デスラーというのは血の通わん冷血男ではない。兄と同じ目を持つ子供、そして兄が唯一愛した女。それを己が命令で殺すことなどできるはずもなく、戸籍の改竄と流刑によって処刑したように偽装したのだ。
「ヤマトの諸君、先ほどの空洞惑星の戦いを仕掛けたのは言うまでもない、この私だよ
。よく生き延びてここまでたどり着いたところ気の毒だが、まもなく諸君には死んでもらうことになるだろう」
デスラーの合図とともにガミロイドの歩兵部隊が降下してきた。数体程度なら退治など訳もないのだが、これだけの数となると話が違う。古代たちはたちまち包囲されて身動きを取れなくなる。キーマンがデスラーに捕虜にでもしようと囁いたのか発砲の指示は出ない。だが、その余裕の判断はガミラス戦役末期を潜り抜けてきた斉藤にとってあまりにも巨大な抜け穴であった。
「突撃!」
斉藤の指示と共に背後のゲートが轟音とともに崩れ去り、永倉に率いられた空間騎兵隊が突撃を仕掛けてくる。当然、ガミロイドの中尉はそちらに向けられデスラーの周りはタランとキーマンを除いて丸腰になる。
「総統、ここは一度退避を!」
「やむを得んな、、、まあ、すぐに会える」
タランに誘導されてデスラーはそそくさとテレサの間から退避する。古代は撃とうとするが、殿にキーマンがいて撃てなかった。裏切者であることが発覚しても尚、そこで見切りをつけられない。敵を撃つことはできても人を撃つことはできないのだ。
「古代、〈ヤマト〉へ急ごう!」
「状況ハ全テ〈ヤマト〉ニ中継シマシタ。皆サンモ何ガ起キタカ把握シテイマス」
真田の掛け声で古代は撃てぬ相手からようやく照準をそらす。あの男がいる以上、〈ヤマト〉に執拗な攻撃を仕掛けてくるのは確実。ともなれば一刻も早く艦に戻らねばならない。彼らも急いで内火艇の駐留場所へと戻る。
誰もいなくなった空間でテレサは安心して目を瞑った。これで、全ての縁が揃ったからだ。