宇宙戦艦ヤマトReAGE2202 愛の戦士たち 作:アドリアドリア
大帝玉座の間に早足で入ってくるサーベラー、それをズォーダーはいつもと寸分違わぬ様子で玉座に腰を掛けながら構えていた。しかし、サーベラーはどことなく落ち着かない様子を装っていた。
「大帝、ミルとの通信が切れております」
「ほう、念願通り〈ヤマト〉との会敵を叶えたのかな」
大帝の頭にデスラーが何か問題を引き起こすという選択肢は基本的にない。可能性として、真っ当な戦術を仕掛けた末に敗れる場合も考えられなくはないが、一度敗れたくらいであの男は引き下がるわけがない。故に彼がわざわざ通信を遮断したということは無線封鎖以外には考えられなかったのだ。
「恐らく戦闘を放棄したのではないかと」
「なんだと?」
サーベラーに対するこの問いは単純な疑問というよりは、適当なことを述べてデスラーを貶めようとするサーベラーを咎める意図がかなり含まれていた。それでもサーベラーはさも知ったことであるかのようにつらつらと話を続ける。
「きっと、臆病風にでも吹かれたのでしょう」
「あの男がそんなはずはあるまい。もし、放棄するにしても何かあのバカ息子が不都合なことでもしたのだろう」
ズォーダーはやはり簡単にはデスラーを疑わない。
「あるいはテレサの怒りを買ったのかもしれませんよ」
「それが事実なら見下げ果てた男だが、、、よし、儂が戦場に赴いて直々に話を聞くとしよう」
それを見事なタイミングで止めんとばかりに入室してきたのがラーゼラーであった。
「大帝」
「何事だ」
珍しく焦った様子のラーゼラー、サーベラーらと謀をした彼の演技は傍から見ればわざとらしいことこの上なかったが、部下を信じることで星々の征服という実績を得てきていたズォーダーに疑うという考えはなかった。
「ザバイバル旅帥の重騎兵隊がヤマッテの上陸部隊に苦戦、ほとんど壊滅状態です」
「なに?」
「デスラーが最初から撃破していればこんなことには、、、」
「ザバイバルを見殺しにしたということか」
「ヤマッテを巻物惑星で撃破していれば、、、デスラーにはそれができたはずです!」
当然ながらそんなことはない。デスラーは〈ヤマト〉との交戦後、自艦隊の損傷艦の応急修理完了を確認後、速やかにテレザート星に向かったからだ。これは言いがかりにすぎない。
「所詮、その程度の男だったのか、、、」
大帝はどこか残念そうな様子であった。選択ゆえに起こる迷い、揺らぎ。デスラーはそんなものとは縁が無く、ただ復讐への執念でのみ動ける男だと思っていたからだ。
「大帝のお手を煩わせるほどの男ではありません。デスラーの行為は我が国に対する明白な反故です」
「んん、、、」
「デスラーの処分は何卒、帝国丞相たるわらわにお任せを」
「良かろう。ただし、デスラーの言い分も十分に聞いてやれ。あの男も一片の武人には違いないのだからな」
ズォーダーの要求にサーベラーは当然ながら頷いたが、その顔に不気味な薄ら笑いが浮かべられているのに気づいてはいなかった。
時を同じくして、テレザートの静止衛星軌道には引き続き〈ヤマト〉型2隻が留まっていた。地上での奇妙かつ不穏な邂逅こそあったものの、古代たち調査隊の帰還後は嵐の前の静けさかのように何事も起こらなかった。その間、各部隊は周辺宙域の警戒も兼ねて訓練を行っていた。
「艦長、地球より通信」
土方が無言のまま頷くと相原が手際よくモニターへと回す。そこに映し出されたのは見慣れた地球連邦防衛軍統括司令長官の藤堂平九郎であった。〈ヤマト〉乗組員は一斉に敬礼をする。それに藤堂もゆっくりと応えた。
『どうだ、何かテレザート星で何か新しく分かったことはあったか』
「古代戦術長が調査隊として降り立ったので彼に報告させます」
土方の突然の指示に古代は驚いたが、立ち上がったのち再度敬礼すると冷静ながらも緊迫した状況を物語るような表情で藤堂に説明する。
「は、惑星にてテレサとの接触に成功。部分的ながらガトランティスの情報について得ることができました。地球に迫っているあのクエーサー、すなわち白色彗星こそが彼らの本拠地です。テレサによるとあの星は地球に46日で最接近するそうです。これは後から技術科が行った解析とも一致しており、極めて角度の高い情報だと思われます」
この、はっきり言ってしまえば地球の余命宣告ともいえる報告に藤堂は絶句したかのように目を見開いた。
「長官、我々はあの惑星の調査を十分に行えたとは考えておりません。しかし、地球に危機が迫りつつあるのもまた事実です。長官、我々はテレザート星での調査を続けるべきですか?」
藤堂はわずかに目をつむったが、意外にも早く決断を下した。
『そうしてもらいたいのはやまやまだが、これ以上座して待つわけにはいかない。国連宇宙海軍としても全力を挙げて白色彗星の阻止に当たることになった。ついては〈ヤマト〉も艦隊へ復帰し改装を受けてもらいたい、、、直ちに地球へ帰還せよ』
「了解、本艦はこれより地球帰還に向けた準備を進めます」
土方が敬礼して答えると藤堂は満足そうにうなずく。
「以上だ。待っているぞ」
「了解いたしました。直ちに地球へ帰還いたします」
「総員に伝える。本艦は3時間後の宇宙時間0600、地球へ帰還すべく発進する。訓練を含めて船外作業をしている者は艦内へ直ちに帰還、乗組員も出航準備にかかれ」
土方の声が〈ヤマト〉の隅々まで巡る。やがて、それは相原の打電で〈シナノ〉にも伝えられた。
「〈ヤマト〉より入電。明日の0600抜錨する模様。機関を温めてください」
〈シナノ〉でも最低限の機関の始動準備が行われ、乗員があわただしく艦内通路を動き回るのであった。
一方、〈ヤマト〉との通信を終えた藤堂は急いで踵を返し通路を早歩きで進んだ。その先には一つの扉がある。藤堂は指紋認証やIDカードの提示など、複数の厳重なセキュリティを認証させてその先へと進んだ。そこには一つ、厳重なガードの先にある部屋とは対照的な明るい部屋が待っていた。しかし、そこで構える者たちの表情はいずれも堅いものであった。当然だ、彼らも文武問わずみな地球連邦の高官なのだから。その中には統括副司令官の芹沢虎鉄の姿もあった。そして、藤堂が所定の席前に立って少しすると部屋の扉が再び開く。
「早速だが長官。〈ヤマト〉からの情報とは?」
「お待ち申し上げておりました、大統領。早速ご覧ください」
入室してきたのは地球連邦の大統領であった。そこに映し出されたのは例の白色彗星が星を砕き進む姿。テレサが映し出したものをアナライザーが記録したものである。
「飲み込まれているのは地球より小さな星ですが万一、この彗星が地球にぶつかれば地球は跡形もなく消滅するでしょう」
「しかし、それは万一ではないのだろう」
大統領の懸念に藤堂は静かに頷く。芹沢は目を見開いて卓上に身を乗り出した。
「長官、あの星はいつ地球に到達すると」
「46日で地球に到達するとのことです」
46日。その何とも言えぬ期間に部屋は沈黙に包まれる。あと1日等ならもはやあきらめるしかない。この気分は〈ヤマト〉が還ってくるまでの気分に似ているから大したことはないだろう。逆に一年でもあるならあっという間に1万隻の波動砲艦隊を揃えて白色彗星を迎撃できる。しかし、46日では国民が混乱にするには長すぎる期間であるし軍備をして悠長に迎え撃つには短すぎる期間なのだ。
「極めて逼迫した事態であります」
「地球を狙うつもりか」
「残念ながらその通りです、、、」
「しかし、何とかして太陽系外で処理することはできんのか」
そこで地球連邦宇宙艦隊総司令の山南が静かに挙手する。
「A級が10隻以上、そしてそれに相応な随伴艦隊がなければ厳しいかと」
「現時点で5隻が防衛艦隊に配備済。時間断層を用いればその程度はわけはないが、それで防げるか」
大統領からの問い、というよりある種の圧から山南はうまく逃げる。
「はっきりと申し上げることはできません」
だが、これが大統領の問いへの答えに対し否とする者なのは明らかだった。
それから間もなく、ついに〈ヤマト〉がテレザートから離れる時が来た。
「補助エンジン内圧力上昇。始動10秒前」
「補助エンジン動力接続。波動エンジン内エネルギー注入」
「波動エンジンシリンダーへの閉鎖弁オープン。始動5秒前」
「波動エンジン内エネルギー充填、120%。フライホイール始動」
「フライホイール始動。波動エンジン点火10秒前」
〈ヤマト〉の発進時は島と徳川が交互にしゃべるのが手順上お決まりだ。そして島がカウントダウンを始める。
「フライホイール接続、点火!」
「〈ヤマト〉、発進」
間もなくエンジンから波動エネルギーの奔流を吹き流しながら〈ヤマト〉はテレザートの衛星軌道より離脱する。
「偉大なるテレザート文明に敬意を表して、礼砲発射!」
さようなら、〈ヤマト〉、、、テレサはすべての祈りを向けて〈ヤマト〉へひと時の別れを告げた。だが、その背後には青い影が迫っていた。そして、その刃はすぐに届いた。
「レーダーに感、6時の方向より未確認飛行物体接近!」
それは大型ミサイル、おそらくガトランティスのミサイル艦隊が装備していたのと同じものだ。
「8時の方向、1次の方向にも同型のミサイルが!」
「なんだと⁉」
ミサイルに包囲されたにもかかわらず、その方向に艦艇はない。だが、その答え合わせはほどなくして行われた。後方から急速に接近する巨大な影。ミサイルなどではない。
「あれは、、、」
「艦種識別、、、〈デウスーラ〉です!」
「デスラー、、、!」
コアシップはそのままに、外殻を大幅に小柄にした〈デウスーラ〉。それは総統座乗艦というより〈ヤマト〉を沈めるための戦闘艦の形になっていた。
「ふふふ、気づいたようだね、、、ヤマトの諸君。私の屈辱、晴らさせてもらおう」
だが、今は〈ヤマト〉は孤独ではない。僚艦がしっかりその危機に気づいていた。
「〈ヤマト〉をやらせるな、主砲発射用意!」
「敵国のお偉いさんだ、きっちりお礼して差し上げますよ」
仁科の指示のもと、蒼い怪物へとその方が向けられる。
「撃てえ!」
だが、総統座乗艦であること、そして〈ヤマト〉との戦闘の反省から強化された装甲で大きなダメージは負わない。
「ヤマトの偽物に興味などない、失せろ!」
デスラーの癪に障ったらしく、〈シナノ〉目掛けて〈デウスーラⅡ世〉がスラスターを全力で吹かして体当たりを仕掛ける。
「おいおい、なんか接近して来てやがりますよ」
「主舵一杯、回避だ!」
地球艦特有の機動力で〈シナノ〉は直撃はどうにか免れる。
「ちょこまかと、、、ヤマトの妹なだけはあるか。だが、今の私がしているのは戦争ではない。復讐だ、、、私の一番楽しい時間を邪魔しないでくれたまえ」
〈シナノ〉は激しく揺さぶられながらも姿勢制御スラスターを吹かしてどうにか流されるのを止めた。
「被害報告!」
「あの艦、小柄なのにに全身が棘で、衝角のような役目を果たしていたようです、、、船体左舷に大きなダメージ。航行に大きな問題はありませんがワープに多少の遅れが出る可能性があります」
「了解、応急修理急がせ!」
しかし、〈ヤマト〉に森雪の絶叫が響く。
「前方に重力震!」
前方に現れたガトランティス艦。例の大戦艦も含まれている。中には艦隊旗艦と思われる、銀色を船体に纏う第戦艦の姿もあった。古代が苦虫をかみつぶす。
「挟まれたか、、、」
しかし、どういうことか敵艦隊は両舷を一航過で攻撃したあと一撃離脱的に通り過ぎたのだ。
「どういうことだ、、、」
真田は戸惑うが解釈をしている暇はない。土方は半ば怒鳴るように命令する。
「島、急げ!」
「了解、緊急ワープ準備!」
〈シナノ〉もワープを試みるが先の体当たり攻撃による損傷で機関の調子がいまいち良くなかったので副機関のコスモタービンを全力で吹かせることでどうにか戦線離脱に成功した。当然、デスラーは彼らを逃がさぬように追跡を開始しようとするがそこにガトランティス艦隊が壁のように立ち塞がった。
「何事だ、、、」
「総統、何か良からぬことが起きそうな気がします。ここは急いで脱出を!」
タランやキーマンが誘導しようとする中、そこに割り込むように通信が入る。
「させぬわ」
艦橋のモニターに映りこんでいるのは〈白銀の巫女〉シファル・サーベラーであった。彼女の顔には大帝の前で見せぬような下衆な笑みが浮かんでいた。デスラーの目線から一際高いモニターからその目線は嫌らしいほどに見下さんとしていた、、、