宇宙戦艦ヤマトReAGE2202 愛の戦士たち 作:アドリアドリア
強制的に接舷してきた白銀色の大戦艦〈サベリアル〉、そこから中継される形で通信回線を開いている〈デウスーラ〉の艦橋内モニターにはサーベラーの嫌らしい笑みが映し出されていた。やがて、モニターの映像が消えたと思うと艦を再度、揺れが襲う。侵入警報が鳴っていることから、無理やりこちらに乗り移ってきたのだろう。衛兵用ガミロイドが自律起動し立ち向かおうとするがデスラーは総統権限で彼らの電源を切った。
「総統!?」
とタランは驚いた声を上げるがデスラーは
「静かにしろ、タラン」
とばかり言って艦橋への通路の方を睨むように見つめていた。すると、通信用ガミロイドがいつも通り無機質な音声ガイドを発する。
『〈サベリアル〉ヨリ通信、「大帝ノ命ニヨリ直チニ本艦ノ櫓ヘ出頭サレタシ」トノコトデス』
こちらから足を運べとのことだ。もし、大帝が直接来ているなら「用があるのは私なのだから、こちらから出向くのが道理だろう」と〈デウスーラ〉の艦橋に顔を出しに来るだろう。この移転でデスラーは違和感というより、ある種の確信を得ていた。この場に大帝はいない、と。
そう思いながらもデスラーは躊躇うことなく〈サベリアル〉の艦橋へと向かった。デスラーは来ずとも良いといったが、タランもキーマンも不安だったので付き従う形となった。案の定、艦橋で待ち受けていたのはサーベラーとゲニッツ。ズォーダーの姿はどこにも見当たらない。
「なぜ大帝は来られないのだ」
デスラーは試し撃ちの感覚で二人に問いを投げかける。その答えは当然デスラーの想定の範囲内のものであった。
「大帝は御多忙の身にある」
「では改めて話を伺いに参上するとしよう。私も決して暇な身ではないのでね」
そう言ってマントを翻すデスラーをサーベラーは止めようとする。
「待て、デスラー。話も聞こうとせず無礼ではないか」
「私に用があると言えるのはこの帝国で大帝の他にいないはず」
「丞相の言葉は大帝に等しいぞ、なぜこのように我々が出向いてきたか聞きたくはないのか」
一向に話を聞く気のなさそうなデスラーに対し、遂にゲニッツも説得にかかった。しかし、それでもデスラーの気が変わる様子は全くない。
「ゲニッツ君、聞いてどうなるというのだ。私はヤマトとの戦闘の続行を望んでいるのだ」
加勢するようにタランもガトランティスの幹部二人を指さしてかみつくように反論する。
「我々はあと一歩でヤマトを撃ち破るところだったのですぞ」
売り言葉に買い言葉とばかりにサーベラーは近寄ってきたと思うとタランに向かって尺を振り上げ突き付ける。それをデスラーにやることができない時点でサーベラーの度胸などたかが知れているのだが、やられたタラン本人からすればたまったものではない。
「デスラー、その方の戦術はわが帝国の大戦略にそぐわないと判断された」
「誰が」
「もちろん大帝でいらっしゃる」
一瞬ながらサーベラーが目をそらしたのをデスラーは見逃さなかった。
「それはおかしい。私は大帝の許可を得て出撃したのだ。一度下した決断を軽々しく下すのはわが民族の恥、大帝はよく仰っていたが」
白色彗星、それは先祖より受け継がれし玉座そのものでもある。遥か昔の祖先よりその行くべき道は示されており、その道をゆがめることは誰にでも許されない。決断の為に迷うのは弱者のすること、強者は宇宙の王道をひたすらに進めばよい。これがガトランティスの考えだ。骨の髄までしみ込んだこの思想は軍事作戦にも表れており、一度発令された作戦を変更することはない。どういう訳か、これまでその方針で失敗した作戦は一度たりともなかったのだ。
「情勢の変化ということもある」
「私の見るところ情勢は何も変わっていない。いや、むしろ悪化している。我々は当初の作戦通り〈ヤマト〉を討ち取るべく戦わねばならないはずだ」
艦どころか母星の動力にさえ反物質を使っている彼ら、テレザートはその補給に恰好の地であった。そこを〈ヤマト〉の奮戦によって失った以上、まず目先の脅威を取り除くべきだというデスラーの意見は至極合理的だ。しかし、サーベラーはそれを聞かず
「その方はわが作戦を乱し、わが帝国を重大な危機に陥れた」
とデスラーにあたかも罪状を宣告するかのように言い放つ。それを聞いたデスラーは肩を揺らしだしたかと思うと肩を揺らし始めた。
「フフフフフハハハ」
彼が吐き出す笑い、サーベラーにもゲニッツにも理解できない。
「何がおかしい」
「遂に本性を吐かれたなサーベラー丞相。それこそ女の浅知恵」
「なんと?」
「大帝は丞相の作戦など意に介していない。私に戦闘停止命令を出したのは貴方の独断だね」
デスラーの指摘は図星だったらしく、サーベラーは瞼を震わせながら完全に固まってしまった。
「道理で大帝が姿を見せないわけだ。いや、恐れ入った次第」
そう言うとデスラーは再びマントを翻し、速足で歩みを進め始めた。
「何をする」
「知れたことを!戦場へ帰るのだ!」
「その男を捕らえよ」
サーベラーの命令を受けた衛兵がデスラーの前に立ちはだかる。
「デスラー、お前はわが帝国にとっての危険因子。ここに拘束する」
デスラーは観念した様子であったが、仮にも一国の元首。他所の一般兵ごときが気安くfレ手良いような相手ではない。流石のデスラーもこのような屈辱はたまらなかったらしく、
「触るな!」
と普段の冷めたようすからはあまり発せられないような怒りの声を見せた。
「独房など言われれば場所くらいは分かる」
あまりにもの威厳に恐れおののいた衛兵らは震える指でその方向を指し示す。デスラーはさぞ不愉快な様子で一人その方向へと向かった。しかし、そんな彼を放ってはおけない人物が二人いた。
「総統!」
「叔父上!」
そう、タランとキーマンである。
「我らもお供します」
方や忠臣、方や命の恩人にして唯一の肉親。どちらもこれまでの複雑な経緯こそ経験しているものの、敬う気持ちは変わらぬものであった。
「タラン、ランハルト。狼狽えてもどうにもならん。時機を待つのだ。いつか大帝に謁見できる日が来る。その日を待つのだ」
一方、〈ヤマト〉は白色彗星を振り切るための超長距離ワープを行うための準備をしていた。それに関して作戦室での作戦会議が開かれていた。
「現在の白色彗星とワープを考慮したうえでの〈ヤマト〉の航行速度を比較するとシリウス恒星系沖で彗星に追いつかれる可能性が高いです」
島が床面のモニターを指し示すと〈ヤマト〉のアバターに彗星がすさまじいスピードで迫り、“LOST”と表示される様が淡々と表示される。
「しかし、この応急材で穴をふさいだ程度ではこのような長大ワープに〈シナノ〉の機関周りは耐えられないだろう」
真田の見立ては正しい。先の戦闘で〈シナノ〉は機関室周辺に複数の破損が生じた。この程度の応急修理で長大ワープのためのエネルギー供給を行なおうものなら大穴が開いてしまうだろう。
「となると、やはり長大ワープはやめた方が、、、」
そう古代が言いかけたところを土方が遮る。
「しかし、それでは白色彗星の迎撃に間に合わない。そればかりか、〈ヤマト〉までが彗星に巻き込まれて木っ端微塵だろう」
「問題ありません。修理後、じきに追いついて見せます」
と星名は豪語して見せるが、その主張は根拠に乏しかった。と、そのタイミングで新見(弟)と桐生が駆け込んできた。二人とも息を切らし顔色がよくないことから、真田は覚悟して報告を聞くことにした。
「大変です!」
「どうした新米」
「白色彗星の速度に変化が!」
「なんだと!?観測したデータをすぐに送れ」
桐生が手元のデバイスから直ちにデータを転送する。そのデータを見た真田は息を呑んだ。
「これではテレザート星まであと20時間と言ったところか、、、」
独り言であったが、当然ながら周囲に聞こえている。
「そんな、、、」
「冗談じゃない、そんなスピードじゃテレザートどころか〈シナノ〉、いや、〈ヤマト〉にだって追いつかれるじゃないですか!」
島も頭を掻きむしって顔をしかめる。
「まずいことになったな、、、」
その様子を認識した星名は土方に決断を迫る。
「このままでは〈ヤマト〉まで巻き添えになってしまいます。土方艦長、ご決断を」
土方が目を固く閉じてどうすべきか判断しかねているところ、ふと古代が口を開いた。
「土方艦長、ロケットアンカーで〈シナノ〉を牽引するのはどうでしょう」
「強度が不安だが、出来るのか。技師長」
土方が真田に確認を取る。
「理論上は可能なはずですが、確証はありません」
「かといって、試験をやっている暇もない、、、星名艦長。君はどう思うかね」
次に土方は星名のホログラムの方を向く。星名は少しの間、通信の乱れによるホログラム自体の振動を除いては大きな動きを見せなかった。ようやく口を開いて出てきたのは短い問いだ。
「失敗したら?」
「次元断層で溺れるだろう」
それを聞いた星名は決断を下した。
「どっちにしろやらなければ彗星の餌食です、やりましょう」
「だが、長大ワープをするには障害物が多すぎる。どちらにしろ、ワープするのに2時間は進みたい。それまでに、より成功の確度を高められるよう修理は急がせてください」
島の要請に星名は敬礼で答える。やることは決まった。後は時間との勝負だ。〈シナノ〉との回線が切れると、彼らは急いで艦橋へと戻った。
「白色彗星、テレザート星に接近!あと12万s㎞!」
逃げられるとはわかっていても、やはり直近まで迫ってくると焦らずにはいられない。
「いやはや、恐ろしい速さじゃ、、、」
「膨大なエネルギーの送信を観測、これは、、、テレザートからです!白色彗星に向けて送られています!」
「相原通信長、白色彗星からの通信を傍受できるかね?」
「はっ、やってみます」
『ガトランティスに告げます、、、進撃を中止しなさい。答えなさい、ガトランティス、、、ズオーダー』
島は呆れた様子で
「こんな呼びかけで止まるものか」
と肩をすくめた。実際、大帝玉座の間では御三家の中で唯一デスラーの下に赴いていないラーゼラーも通信の旨を呆れの混じった困惑をした様子で大帝に上奏していた。
「警告?このガトランティスに?」
ズォーダーは驚いた顔でラーゼラーを見つめる。ラーゼラーは畏れ入るような様子で大帝に頭を下げる。ズォーダーは少し考え込むような仕草をしたあと、
「昔話とはいえ奴隷風情が思い上がったことを、、、まあよい。繋げ」
と対話に応じる姿勢を見せた。ガトランティスは通信にコスモウェーブを使用しているのでテレサとの通信はダイレクトに可能、チャンネル起動後、すぐにテレサの声が聞こえてきた。
「ズォーダー、姿を現しましたね」
「ほう、テレサか、、、姿は似ているが、他の有象無象と合わさり体を捨てたという話は真だったか」
「この宇宙はわがガトランティスの遠大なための為にあるのだ」
力による支配と侵略をやめるよう説くテレサ、だがそんなものはズォーダーに何の価値も見いだせなかった。
「宇宙の秩序は力によって導かれる。宇宙の法はこの私だ、全宇宙に秩序をもたらすのだ!」
それでもひたすらに説得を続けるテレサ。その様子を見ると古代はふと一つの仮説に至る。
「テレサは、我々が逃げる時間を稼いでくれているのか、、、?」
そう思い始めていた時に、周辺の天体観測を行っている太田から悲痛な声が上がる。
「白色彗星、更に速度を上げています!」
「確かにテレサは我々が逃げるための時間を稼いていてくれたのかもしれん、、、だが、これで間に合わなくなった」
「間に合わない!?」
「〈ヤマト〉もテレザートと同じ運命だということだ、、、」
あの真田さんがそう言うのだ、誰もがもう無理だときらめた時。
「テ、テレザート星周辺に高エネルギー反応!」
太田の座席の気象観測用の計器が凄まじいアラート音を発する。その様子は大帝玉座の間でも観測されていた。
「これは!」
「ぬう、テレサめ、、、」
次にテレザートは光を放ち始める。反物質を用いて星ごとの自爆を図るつもりなのだ。
「刺し違えるつもりか、、、大した女だ」
古代は自己犠牲をしてまで誰かを助けようとするテレサの心に感心しつつも、これが〈ヤマト〉を生き残らせる絶好のチャンスであることも同時に把握していた。
「テレザートが爆発しました!」
「艦長、この先には大きな障害物がありません!」
森雪からその知らせを聞いた土方は島に半ば怒鳴るように命令する。このチャンスを取り逃すわけにはいかないのだ。
「航海長、緊急ワープ準備!」
「了解!」
島がカウントダウンを終えると空間を歪ませて〈ヤマト〉と〈シナノ〉はワープに入った。
両艦とも無事にワープを終えたが、〈ヤマト〉のアンカーは損壊してしまった。次も同じような真似はできないだろう。
「ここまでくれば大丈夫でしょう。彗星迎撃までには間に合わせます。詳細を知らせるためにも〈ヤマト〉は一刻も早く帰還すべきです」
星名の提案に土方のみならず〈ヤマト〉乗組員の多くが躊躇したが、今度ばかりはそんな余裕もないので〈シナノ〉より先行して地球を目指すことにした。かれこれ一か月、ワープをしては小規模の戦闘をしてを繰り返した〈ヤマト〉。彼らを待ち受けていたのはいつもと変わらぬ、あのガミラスとの戦争の時でさえ地球を照らしていた太陽の光点であった。
「太陽系だ!」
しかし、この時には白色彗星も怒涛の追い上げを見せて太陽系に迫りつつあった。大帝玉座の間にはデスラーを収容して彗星に帰還したサーベラーとゲニッツの姿もあった。
「テレザート星の自爆でわが帝国は軌道を変更するという有史以来の屈辱を受けた。しかし、この広い宇宙でだれ一人成し遂げられなかったことを成し遂げたテレサには敬意を表するとしよう」
玉座の間に沈痛な空気が流れる。
「だが、この屈辱は必ず晴らさねばならない」
バルゼー艦隊の所在を訪ねるズォーダー。シリウス恒星系にまで進出しているとゲニッツは答える。
「よし、バルゼー艦隊に出撃を命じる。わが帝国は速度を更に3倍上げる。これより地球攻略作戦を発動する!」
地球攻略作戦『テロン・グラズク・ウォサン』の発動。それはシリウス恒星系を泊地とするガトランティスの主力艦隊「帝星禁衛軍」にも伝えられた。その名誉ある艦隊の旗艦である〈メダルーサ改級統制殲滅重戦艦〉のネームシップである〈メダルーサ〉の艦橋には威厳のある武人が座していた。彼こそが〈裂撃〉のヴィル・バルゼー大将軍。
「大帝の御命令が下った。わが艦隊は総力を挙げて太陽系に侵攻し、テロン軍を撃滅する!」
ズォーダー大帝の命令はプロキオン方面軍にも伝えられ直ちに出撃。バルゼー艦隊と合流し、圧倒的戦闘力をもって太陽系に迫っていった、、、