床面にこれでもかと巨大なディスプレイを持つ作戦室に各科長が集合失礼し、今後について話し合っていた。真田が険しい目をしながら口を開く。
「我々は地球圏を脱した。だが、これで気を抜いていいわけではない。国連は血眼になって我々を追ってくるだろう。太陽系内では惑星の重力もあって予想地点とワープアウト地点がずれる可能性も高く、現実的な作戦ではない。そこでだ」
巨大な輪、数多の衛星を持つ惑星が映し出され、そこへの推定航路が矢印で表示される。
「我々は土星方面に急行し、スイングバイを試みる」
「木星じゃ駄目なんですか?」
「あっちにはアンドロメダを旗艦とした第一艦隊が演習中だ。自ら死にに行くようなものだ」
島の疑問にも間髪入れず真田は応答した。だが、そんな真田の顔は少し緩んだのでどうしたものかと思うと、次に発されたのは驚くべき言葉であった。
「さて、土星圏に到達するまでの今しばらくの間。即席なために決して豪華ではないが、古代艦長代理の提案で…」
航空隊のブリーフィングルームに加藤が飛んで帰る。
「俺達航空隊の皆のヤマトへの帰還を祝して歓迎会を開くんだとさ!」
「やったぜぇーー!」
意外な嬉しさで沢村は席を立ち上がると手元のトランプを紙吹雪のようにばら撒いて喜んだ。
「ヒャッーー!」
「そいつぁありがたいな!」
そんな中、教導隊の教え子たる鶴見二郎は普段の厳しい教官たちが滅多に見せないような表情を見せていて戸惑う他になかった。
「山本教官、自分も行っていいんですかね…」
「無論だ、あんたも私と来るのを選んでしまったんだ。つまり、あんたも立派にヤマトの一員になったというわけだ」
「そりゃ教官、あんなところで座席を射出されるくらいなら来る方を選びますって」
「ふふ、確かにな」
次々とヤマトの乗組員の多くが食堂に集まる。最低限の航海はアナライザーに任せたこともあって、航海科の者も少なからず集まっていた。一方の食堂では主計科長たる平田一が次々とオムシスから製造された食品をベースに盛り付けや調理を行っていた。
「大量のお客さんが来ている。皆、大航海の前祝いだ。気合い入れてつくるぞ」
「了解しました!」
古代がどこの席に座ろうか思いあぐねていると、危うく目の前の人物とぶつかりそうになった‥
「こ、古代艦長代理…久しぶりです」
山本と目が合った古代は、付近にちょうど良さそうな席があったのでそのへんに座ることにした。山本も流れに乗ってつい彼の真向かいに座った。
「山本か、久しぶりだな」
古代は森雪という家族を見つけた。だが、それは同時に古代の中に自身の兄を見出していた山本が心の拠り所を無くしたことも同時に意味していた。山本には照れもあれば、もう拠り所にしてはいけないという寂しさも少なからずあった。古代が手の届かない存在となって以降、兄の遺伝情報を封印したペンダントに話しかけなかった日はない。
「そういえば、森船務長は?」
「ああ…雪は…乗らなくって正解だったと思う」
「え?」
「雪を戦いには巻き込みたくない。俺は、、俺はこれで良かったと思う。君はどう思う?」
「私は…」
山本は喉元まである言葉が来たことを呪った。こんなことを欠片にも言ってはならないのは理屈ではわかっている。だが、彼女にも古代はやはり必要な人間なのだ。自分の歪んだ愛を埋めるために…
「そういえば、君は?あまり見慣れない気が…」
古代は自覚はないが何故かと重くなってしまった空気をどうにかする為に話題逸らしを試みた。
「えっ、ああ…彼は私の教え子の鶴見二郎です。私のコスモゼロで飛行訓練をしていた所、この通信が来てしまい、そしたら彼が『ヤマトに行きたい』というものですから…」
「そうか、一人でも多く乗ってくれているのは助かる。だが、現状として君を新入りだからといって特別扱いできるほど余裕があるわけではないのは分かっておいて貰えると嬉しい」
「いえ、構いませんよ。こうやって、僕みたいなのがヤマトの戦士の皆さんと肩を並べて戦える…それだけでも嬉しいことです」
どうやら鶴見は心の底からヤマトに乗れたことが嬉しいらしい。古代は自分が指揮する船では頼りない、等と思われていないことにひとまず安堵した。
「そうか。そいつは何よりだ。しかし、とにかく心強いよ。なんせ、ヤマトには戦闘機がコスモゼロ一機しかなかったんだ」
「そうか、それならよかった。このコスモスワローはすっげぇ機体だぞ」
近くに座っていた加藤も話に混ざらんとばかりに体を乗り出しながら喋り出す。
「そういえば加藤、真琴さんとは順調なのかい?」
彼もまた、成り行きとはいえあの長い航海で家族を手に入れた者の一人であった。浅かれ深かれ、あの船によって縁を結ばれた者は少なくないだろう。無論、家族事情にも並大抵の親戚並みには関心があったに違いない。
「お子さんともですよ。翼くん、でしたっけ?」
沢村は茶化すように加藤に絡む。少しばかり酒が回ったのか、はたまた周りの宴な空気に呑まれたのかいつも以上にテンションが高めであった。
「お陰さまで。遊星爆弾症候群で一時はどうなるかと思ったけど、早くも出た治療薬で今じゃ真琴が手を焼くほど元気だぜ」
「そういえば、そんな治療薬出てたなぁ」
南部は確かに、と言わんばかりの顔で頷いていた。
「ああ。医者も『こんなの本来なら、開発から発売までに実際の10倍の研究時間を掛けないと作れない様なとんだ代物だ』と。とにかくよかった」
「そうか…」
彼の子供が治ったことはなによりも、のことだが古代は何故か引っかかることがあった。だが、まだこの時には確証がなかった上に、仮にも機密事項を知った元に成り立つ推論だ。口に出すわけにはいかなかったのだろう。
その時、宴の食卓の上になにか、毛玉のようなものがドシンと乗っかってきた。それは、山本の頭の上に乗りまたどこかへ跳ねて行った。
「古代さん、あなた、今度は猫の指揮まで取らないといけないの?」
「まあ、ははは、猫の手も借りたい、ってやつだな」
猫は次々と跳ね、食卓を荒らしていく。
「おい、躾が悪いぞ艦長代理!」
太田がここぞとばかりにヤジを飛ばして周りも盛り上がる。古代がおどけるように猫を追いかけるので更に周りは盛り上がった。
「こ、こら!待て!」
猫、佐渡先生の飼い猫であるミーくん、はそのまま艦内の通路を曲がった。古代も遅れまいと猫の俊足に必死についていく。
「待て!…」
廊下の曲がった先、ミーくんを抱きかかえんとする者には明らかに見覚えがあった。長いまつ毛、金色の髪…相手もこちらに気気づいたらしく、ミーくんを抱えると走って医務室に去っていった。古代は再び、追いかけることとなった。
「おい、君、待ってくれ!」
古代はそうこう追いかけているうちに医務室へと入った。走り去る森を何事かと思って見ていた佐渡は間もなく、同じく走る古代を見て事態を察した。
「佐渡先生!」
「あ、古代…これはじゃな、その、つまり…」
佐渡は薄々と知っていた、古代が森に対して、本当はヤマトに乗っていないでほしいとさえ思っていることを。彼のそんな思いを知っているだけに、正直に話すのには少なからずの躊躇が有った。
「君は、誰だ!」
「国連宇宙海軍船務科所属 森雪です」
「乗務員名簿に乗っていないな」
「でしたら、なんと言いたいの?」
古代が相手といえど、森は一歩たりとも引く様子はなさそうであった。佐渡はこれはいかんとばかりに古代を諌めんと肩を叩く。
「古代、雪のことじゃがな…儂が乗務員名簿に登録するのを忘れていただけじゃよ」
だが、半ば気が動転したように怒っている古代にそんな言葉が届くはずもなかった。
「…退艦してもらいます!こんなことでは船の規律が保てません!」
「お、おいおい…そう硬いこと言うな、な?」
そうこう言っているとミーくんが森の手から飛び降りて佐渡の膝に乗り移り、そのまま丸くなった。
「お前が勝手に乗り込んだ挙げ句チョロチョロするからこうなるんじゃぞ?わかっとるのか?」
「ミャー」
無論、そんなことを言ったとして猫に通ずるはずはない。佐渡は気まずいのと、ふたりきりで話したほうがいいという大人からの視点を持って
「とにかく、これは儂のミスじゃからな…喧嘩はいかんぞ、喧嘩は」
と言い残して、その場を後にした。
暫く無言の空間が続いたが、森はツンとした顔で古代の横を通り過ぎ、更衣室の方へと向かった。
「お、何をするんだ!」
「退艦します」
「お、おい。こんなところからどう地球に行くつもりなんだ」
「退艦しろ、と命令したのは古代艦長でしょう?宇宙遊泳でも何でもして、帰ります」
半ば本気の口調で言い続けるものなので古代は気の動転の延長で本気で慌ててしまった。
「め、め命令だ!」
「はい?」
「制服を着て、旧任務に就くよう、艦長代理として命令する!」
森は古代の慌てた様子と半ば自分が勝ったような優越感で思わず微笑が溢れてしまった。
「…馬鹿だよ君は…地球にいれば平和に暮らせるのに…こんな危険な旅に紛れ込むなんて、無茶だ…」
「私もヤマトの仲間の一人、皆が行くなら私も一緒に…いいえ、古代君のそばにいたかったのよ…」
「雪…」
「古代君!」
何故だかは分からないが無性に涙を流したくなった森はその顔を古代に埋めた。古代もまた、それを受け止めて、ただただ人の暖かさに満ちた時間が流れた。
暫くして、第一艦橋の扉から入ってきた森を見だが、乗組員は誰も驚かなかった。どうやら、誰もが知っていたことのようだが古代がそれを知るのはまた後のことであった。
「森雪、ただいまより旧来の船務長の任に戻ります」
そういうと、西条が船務科の席を譲り、
「おかえりなさい」
とぽそっと耳元にささやいた。
さて、そうこうしている内に気づけば艦は紅色の星の沖を航行しようとしていた。
「火星付近を間もなく通過だ」
「火星か…なあ、古代。波動コアを回収したときのこと、覚えているか?」
島が気を紛らわす為に古代に雑談を持ちかける。
「ああ、懐かしいな…今でもはっきり覚えているさ。しかし、ヤマト軌道のためのキーを手に入れた場所を今度はこそこそ通過しなきゃならないなんて、皮肉だな」
「全くだ」
真田は微笑みながらも、雑談をしている余裕はないとばかりに催促する。
「古代、今のうちにワープをして太陽系外に出たほうがいいな」
「エネルギーレベルは正常じゃ、15分後からならいつでもワープ出来る」
「しかし徳川さん、テストもせずに大丈夫ですか?暫くワープはしてませんけど…」
「なに、いずれテストせねばならん。なら、それをそのテストにすりゃあいい」
「分かりました」
古代の不安は意外にも、この艦内では長老といっても差し支えない徳川の一言で吹き飛んでしまった。間もなく森はワープに適切な宙域の特定を進めるため、レーダーの解析を行い始める。しかし、何も起こらずに間もなく小惑星帯に近づき誰もが安心しかけていた時、それは起きた…
「前方、0.7光秒に重力心発生!」
「なんだって、あっという間の近距離じゃないか!」
「飛行物体、32Sノットで急速に近づく。接触まで130!」
「まずい、もしこれがアンドロメダだったら…」
その時、あらゆる計器を見比べた真田がやや青ざめた顔をして古代の方を向いた。
「古代、あれはアンドロメダだ…」
「えっ!!?」
二門の巨大な波動砲口が睨んでおり、唸るようなコークボトル状の船体は波のように輝いていた。
「これで、ワープをする余裕は暫くなくなってしまった」
珍しく真田が息を呑んで覚悟した顔をしていると、相原が古代の方に確認を求めるように向いた。
「艦長代理、アンドロメダから入電です。『コチラ、国連宇宙海軍艦隊総旗艦〈アンドロメダ〉、停船セヨ。直チニ停船セヨ』。どう返信しますか?」
「…応答しよう。通信繋げ」
パネルに映し出された黒い顎髭の士官に古代は見覚えがあった。
「こちら、国連宇宙海軍艦隊総司令の山南修だ」
「山南宙将、貴方が…」
「お前が古代、古代守の弟なのか」
「はい。あの駆逐艦〈ユキカゼ〉の艦長、古代守の弟です」
「兄の知らせは残念だった。君のことは沖田さんからも聞いている。何しろ、それを知った時沖田さんのところまで殴り込みに行ったそうだな」
山南が話しかけてくることがあまりにも他愛のない雑談で、古代は自分が反乱を起こしていることを忘れそうにも思えた。
「そ、それをご存知ですか…」
「更に元教官の土方さんが立ち合わせていて叱責を喰らう。面白い男じゃないか」
「…ありがとうございます」
「さて、本題だが」
山南の目が鋭くなるのを古代は瞬時に感じた。
「そんな君を私は死なせたくない。文句は言わない、戻れ」
「山南司令、貴方もあのメッセージの話は知っていると思います。この宇宙のどこかで未曾有の危機が起きようとしているんです」
山南はやはりか、と言わんばかりに軽くため息をついたあと腕組みをしながらも説得を続ける。
「否定はしない。だが、不確実な上に、そうだとしたところでヤマト一隻でどうするつもりだ。悪いことは言わん、戻れ」
だが、こうなるとつい自分の信じる道を選ぶのが古代進という男である。
「戻りません。我々は行きます」
「もう一度だけ言う。戻れ」
「戻りません!」
「…そうか、ならば残念ながら実力を行使するのみだ」
山南の厳しい目つきを最後にパネルの電源を切る。
「アンドロメダは追ってくる。島、どうにか振り切れないか?」
「幾ら何でも相手は最新鋭艦だ。何らかの仕掛けもなしにそれは難しい」
古代の無茶なの要求に対しに島は当然の反応をする。
「徳川機関長、波動防壁は!」
「すまん、儂の不手際でな。久しぶりの航行と小惑星帯が近くにあるからその塵が混入して波動エンジンが不調をきたしている。回復には10分ほどかかりそうじゃ…」
「そんな…」
真田は少し考える素振りをしたあと古代の方を向き、やや怒鳴るように古代に助言をする。
「小惑星帯だ!」
「え?」
「小惑星帯に突入するんだ。レーダーが効かないからな、機械化が進んだアンドロメダでは簡単には追えないはずだ。それに、その宙域を脱出する際にまだ使っていない、試したい装備がある」
「そんなものが?」
「私も驚いた。イスカンダル航海の頃から取り付けられてはいたそうだ。イズモ計画の一環で開発された波動防壁以前の防御システムだ」
「小惑星帯まで前方7.2skm」
森のレーダー観測を元にヤマトは勢いよく増速する。
「少し荒っぽくいくぞ」
島が航海舵をさながら手足のようにひょいひょいと動かし、ヤマトはさながら体操選手のような華麗な動きで小惑星帯を潜り抜けていった。
その頃、アンドロメダ艦内では艦長の近藤勇人が山南に対し助言をしていた。単艦で追いかけるとなっては実質、山南が艦長のようなものになっており、近藤はさながら参謀をやるという中々に奇妙な状態であった。
「ヤマトまで距離0.65、威嚇射撃しますか?」
「無駄だ。ここて撃っても小惑星が砕け散るだけだよ」
「司令、ヤマトは全速力で小惑星帯をくぐり抜けていきます!」
戦術長兼航海長の道報告に山南は関心した。
「…やるな」
その間にもヤマトは糸を縫うように小惑星帯の間を潜り抜ける。
「前方に航行可能空間、幅300m」
森が観測したのは割れた小惑星、その僅かな隙間であった。
「ヨーソロー」
島は必死に舵を握りそんな空間をも潜り抜けてみせた。そんな、もはや船とは思い難い動きに近藤は恐れをなした。
「全く、あんなところをひょいひょい行くとは恐ろしい船だ…」
「ヤマトは?」
「…見失いました。小惑星に邪魔されてレーダーが効きません」
山南はほう、と軽く言ったあと直ちに頭を回して指揮を下す。
「ならば先回りだ。小惑星帯を先に抜けて待ち伏せする」
もう間もなく小惑星帯を抜けて島がふうと溜息をついていた頃、それは彼らの目の前に立ちはだからんとしていた。島は目を細め、それを観測して一つの嫌な結論を思いつく。
「ん、あれは…」
「…アンドロメダだ。やはり待ち構えるつもりか」
「古代、落ち着け。全艦に告ぐ、これより本艦はARGOシステムを使用した防御体制を構築する。古代、主砲発射を急げ」
絶望していた古代は真田の妙な指示に
「しゅ、主砲ですか?そんなことしたらアンドロメダも本気を…」
「この、試製88式防壁弾を装填するんだ。間違えるなよ?」
「分かりました。防壁弾装填、急げ」
古代は真田の指示に従い装填を指示する。次々と独特な形状の弾が砲術員によって装填される。
「近辺の小惑星に向けて撃つんだ、」
「了解しました。防壁弾、撃ち方始めぇ!」
主砲から勢いよく飛び出した弾は間もなく飛び散り、中から大量のビットをばらまいた。間もなくそれらのランプが光りだすと同時に周辺の小惑星にピタリと吸着した。
「上出来だ。最後に船体に取り付けるぞ」
「磁力発生、船体取り付け」
間もなく岩が船体周辺を徐々に回りながらやがて、スピードを落として接近し静かにヤマトを覆っていくのであった。
「よぉし、主砲を演習モードに切り替え、少しばかり腕試しと行こうじゃないか」
アンドロメダ艦内では山南がついに主砲による威嚇を始めんとしていた。ただ、あまりにもうきうきしている様子なので近藤は呆れずにはいられなかった。
「司令、すっかり乗り気ですな?」
「どうだろうな。まあ、我々が止めることはできんだろう。なんせ、こっちには彼らがテレザートに行くことを前提としている『お客さん』が乗っているからな。そうだろう、クラウス・キーマン殿?」
山南は艦橋出入り口付近で突っ立っているキーマンの方をやや笑いながら見つめた。キーマンは俯いたまま「さあ、どうだかな」とだけ言う。
「小惑星帯より熱源感知。あれは…あれは何だ!?」
「戦術長、どうした?状況報告!」
山南に対し、戦術長は驚きの声で状況報告をする。
「や、ヤマトが…岩に覆われています!何なんだあれは!」
「アステロイドリング、ですな…?」
「そうだ、あんなカビの生えた代物で…ふっ、1番、2番砲塔、ヤマトに向かって撃ち方始め!」
人員削減のために自動で標的をアンドロメダ、それは血の一滴も通わぬメカニズムの結晶のようでありとても不気味に感じた。そして、ショックカノンを岩塊に覆われたヤマトに向けて放つ。だが、びくともしない。
「こんな機能が…」
「人類存続の船の防御装置だからな。決して弱くないことはわかっていたが、私も驚きだよ。機関室、修理の状況は?」
「あと5分あれば確実にいけます、もう少しばかり頼みましたよ!」
山崎が言うのだから間違いないだろう。真田は心配そうにこちらを見る古代に無言でうなずく。古代も無言でうなずき、前をもう一度見た。それでも、アンドロメダは驚異的なスピードで主砲を連射してくる。機械に一任したその主砲は決して正確とは言い難いが、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。次第にいくつかの石っころは主砲によって吹き飛ばされつつあった。
「古代、アステロイドを回転させろ。リングを作るんだ!」
「了解しました!」
間もなくヤマトを覆っていた岩塊はヤマトの周囲に幾重かの円を作り、ゆっくりと、フラフープのように回りだした。これでもやはり、何個か吹き飛ばされるが確実に堪えている。
「司令、このままではヤマトと接触します!」
「そうか、いよいよだな」
「し、司令!早く指示を!」
「進路そのままだ!接触しそうになったら波動防壁展開を指示する、安心しろ」
次々と吹き飛ばされるアステロイド、流石の真田も耐えられるかどうか疑問に思い始めていた時に
「真田副長、機関修復完了です。波動防壁をいつでも展開できます!」
「そうか、ありがとう」
真田が感謝して一安心しているする一方で、島は別のことを危惧していた。
「古代、このままだとアンドロメダと接触するぞ。どうする?」
「構わない。このまま進む」
古代は依然として進路を変えんとするつもりを見せなかった。それを察知した山南は
「強情なやつだ…」
とのみ呟いた。そして、いよいよ両艦は接触する。
「古代!」
「艦首から左舷、波動防壁最大展開!」
「山南司令!」
「波動防壁、艦首から艦尾、左舷に最大展開!」
「「衝撃に備えーーーー!」」
ヤマトとアンドロメダ、両艦の波動防壁が干渉し凄まじい光を放つ。目前の雷に勝るとも劣らない、強く恐ろしい光であった。だが、両艦はすれ違う。そして互いの艦橋が横に並んだ時、古代は山南の顔を、山南は古代の顔をはっきりと見た。
「やれやれ、沖田さんよ。あんたの息子さんたちはトンだ頑固もんだ」
「司令、ヤマトは追いかけますかい?」
「そうすると思うか?」
「ははは、確かにそうですな」
「それよりだ。早く彼を行かせるぞ」
山南はキーマンを顎で指す。そして、ふと思い出したように艦長席を立ち上がり後ろを振り返った。
「これも、彼らに渡してやろう。ヤマトにいなくてはならない存在だからな」
山南は艦長室にかかっていた沖田艦長のレリーフを取り外し、キーマンに渡した。
「後はよろしく頼んだぞ」
「了解しました」
そういうとキーマンは艦橋を去り、自身の専用ツヴァルケでヤマトへと飛び立った。
「艦長、アンドロメダより秘匿入電。『カナラズココへカエッテクルベシ』とのことです」
「そうか…山南さん…」
更に、アンドロメダより加藤らコスモスワローと同じく味方機のサインをしながら1機の大使館仕様のツヴァルケがこちら目掛けて飛んでくる。着艦要請の通信が入ったので古代は許可、第2格納庫を開放した。
間もなく警備の目的もあって第2格納庫に乗組員が急行する。その中、古代は真田に指揮を任せて彼自身も格納庫に向かった。このデジャブ、メルダの時の件もあるのだろうが、古代にとってはそのパイロットの見た目に見覚えが有った。ヘルメットを取ったその記憶は…
「久しぶりだな、古代艦長」
「クラウス・キーマン…何故ここに…」
「バレル大使の命だ」
知り合いなのですが、と尋ねる保安部の乗組員に古代はやや気まずそうに誤魔化すような肯定をした。
「安心しろ、オブザーバーだ。地球、いや反乱している君たちにとっては『独立国ヤマト』とでも言うべきかもしれないが、君たちに内政干渉するつもりはない。我々もテレザートの位置を知りたいもので…」
その時、艦内にアラートがけたたましく鳴った。キーマンの扱いを保安部に一任して古代は艦橋に走って戻る。そこでは相原が焦ったように古代を見つめた。
「相原、どうしたんだ」
「現在、日本時間1236、第11番惑星が大規模な攻撃を受けた模様!奇襲です!」
「何!?」
「恐らく、こちらの映像から察するに…」
相原が現地より送られた映像をパネルに回す。緑色のカブトガニの如く航空機が恐ろしくも民間人に対し容赦ない爆撃を行っている。その愚か極まりない蛮行に古代は憤りを隠せなかった。
「古代、どうする?」
「島」
古代の短い呼びかけの言葉にすら震えを感じた。彼は少し言葉を詰まらせたあと、息を呑み覚悟を決めた。
「本艦は直ちに航路を第11番惑星方面に切り、現地民間人の救助及び敵戦力を殲滅する!」
「しかし、そんなことをしたら今度こそ国連艦隊に捕まるかもしれんぞ」
真田が助言するが、そんなことは古代の頭になかった。そして、更に彼の背を後押しするような情報が入る。
「古代艦長、司令部より入電。『コレヨリ キカンノツイセキメイレイヲ トク。コレヨリ タダチニ 惑星11ニ キュウコウシ ヒナンミンノ キュウジョヲオコナウベシ』とのことです!」
古代は勢いよく頷く。
「ヤマト、第11番惑星に向けて発進!!」
メインエンジンから勢いよく波動炎を吹かせ、ヤマトはいよいよ宇宙深くへと飛び立つ。その光点が見えなくなるまで、山南は重りのついた糸のようにぴしりと伸びて敬礼していた。
(死ぬなよ古代…沖田さんは死に急げとは教えなかったはずだ)
尤も、そんなことを願ってもあの頑固な坊やは聞いてはくれないだろうと半ば諦めを含んでいた祈りであったのは間違いないだろう。