宇宙戦艦ヤマト2202 二次創作編   作:アドリアドリア

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ヤマトの艦内では、乗組員と第11番惑星にて収容した空間騎兵隊の斎藤中隊による対立が激化して遂に互いの実力行使に至る。それを止めるほどの権威を古代は持っていなかった…


第八話「二つ星の城」

艦内のとある一室、キーマンは端末を開きガミラスの暗号を用いてヤマトの状況を何者かに送りつける。

 

「彼の地でこれは渡すとしよう」

「了解」

 

周囲を確認し手っ取り早く電源を切る。彼が何を企んでいるのか、未だに知る者はなかった。

 

一方で第一艦橋に駆け込む加藤、その目に必死さがあるのは誰の目から見ても明らかであった。

 

「古代、空間騎兵をヤマトから降ろしてほしい」

「何だって?」

「アイツラが乗ってるんじゃヤマトの戦闘はままならないで沈むぞ」

「加藤、落ち着いたらどうだ」

 

古代の平和ボケじみた考えに加藤は痺れを切らし、思わず壁を拳で叩く。

 

「何呑気なこと言ってんだ!もうどうしようもねえ衝突が起こってるんだぞ!」

 

加藤の言う通り、艦内の通路は世紀末の有様であった。ヤマトの乗組員らと騎兵隊は入り乱れ、さながら合戦を繰り広げているではないか。それが敵との陸戦であったらどれほど良かったことだろう、残念ながらこれは味方であるべき者同士の下らぬ、愚かの一言で表すのに相応しい、そんな虚しい喧嘩であった。

医務室の寝台をしれっと拝借して一眠りこいていた斎藤も、何事かと異変に気づき部屋の外に出るや否やそこにいたのは血気に満ちたヤマトの乗組員であった。

 

「貴様、空間騎兵か?」

「ああ、そうだが。それがなんだ」

「話があんだよ!」

 

胸ぐらを掴まれた斎藤は思わず反射的に戦術科の1人を投げた。すぐ、これはまずいと思い知らんぷりをして逃げ出そうと廊下を降りていくと、そこはひどい有様であった。遍く乗組員と空間騎兵が乱闘と言うに相応しい、罵り合い、殴り合い、蹴り合いを繰り広げている。斎藤は激怒した。

 

「どけーつ!」

 

ねじ伏せ、

 

「仲間にゃ指一本触れさねえぞ、わかったか!」

 

と投げ飛ばす。部下に対し危害する連中を誰であれ、許すわけにはいかなかった。

 

「あ!」

 

やがて彼は廊下で狼狽える古代を見つけ、睨みつける。古代も同じく、斎藤を見つけるがその隙に空間騎兵の一人が古代を襲撃しようとする。

 

「やめるんだ、こんなこと!」

 

流石に宇宙防衛大学校の成績優秀者、空間騎兵とて片手でとは言わないが事務仕事のようにあっさりと撃退する。だが、斎藤は自身の敵を絞り込んだ。

 

「てめぇ、俺の部下に手出しやがったな!」

 

彼はその巨体を以てして古代に飛びかかる。

 

「斎藤、よせ!」

「このやろう!」

「ちっ!」 

 

すると、ある取っ組み合っていた乗組員と空間騎兵がふとその2人の取っ組み合いに吸い込まれるように観戦を始める。間もなく、それは周囲に流行り

 

「ファイトー!」

「やっちまえー」

 

と、さながらプロレスか何かの試合であるように野次を飛ばす者が現れる。あっという間に延焼し大歓声の嵐となっていた、彼が現れるまでは。

 

「何をしている、馬鹿者」

 

ぬるりと現れた土方はいつものように、静かに、されど恐ろしいことこの上ない怒りを見せる。ただ、ぼーっと観戦しているに過ぎなかった連中は背中に針金でも通されたのかと言わんばかりに一直線になる。中には古代や島の同期もいるのだ、彼にこっぴどくしばかれた者達はその速さが顕著であった。

 

「何をしている、所定の配置に戻れ!」 

 

彼らはラジコンとなり、せっせと走って退散していく。何人もが束となっては去り…を繰り返し、気づけば古代と斎藤の2人だけとなっていた。

 

「この!この…あれ…」

「ふん!てぁ…」

 

次第に二人の動きは演技の様に鈍くなり、やがて拳を握る手を開いた。

 

「お前ら、好きなだけ喧嘩するがいい」

 

土方がわざとらしく煽り立てる。無論、二人は沈黙を貫いたままだ。

 

「ほら、どうした。喧嘩だ、殴り合えと俺は言っている」

「…土方さん、自分はこんなつもりはなかったんです」

 

古代の情けない顔に土方は溜息をつく。

 

「古代、お前、それでも栄光あるヤマトの艦長代理か?」

「申し訳ありません…」

「お前たちがなぜ反逆者の汚名を背負ってまで再び宇宙に出たのか、俺はヤマトの乗員でもないが何となくわかる」

 

古代がひたすらに頭を下げる様子は見るに堪えなかったのだろう。斎藤は土方の説教を抑えようと体を張る。

 

「な、なぁ…俺が先に手を出しちまったんだ。あんまり艦長のことを責めないでくれ」

「斎藤、お前もお前だ。それが多くの部下を引き連れている者の態度か、どうだ」

 

土方の叱りを抑えるつもりが、その矛先が斎藤にも向いてしまいその巨大らしからぬ怯みっぷりを見せる。

 

「宙将…俺は、多くの仲間がまた死んじまったんだ…次こそは、次こそは一人も傷つけたくねえんだ」

 

すると斎藤は一変してその下げた頭を古代の方に向ける。

 

「…艦長代理よ、済まねえ、当分ヤマトの軒先を借りさせてもらうぜ」

「わかった。ただ、艦内を無闇にうろちょろするのは控えてもらいたい」

 

一瞬で和解が水泡に帰す。

 

「何?鉄の装甲板に囲まれてるからって言いてえこと言いやがって」

「斎藤、今、ヤマトはこの宇宙で嘆く誰かを助けるために航海に出ている。それはかつてスターシャさんが、イスカンダルがやってくれたことをやりたい。それだけなんだ」

 

古代のありがたいご説法を斎藤は鼻で笑い飛ばす。

 

「スターシャだかスジャータだか知らねえけど、気に入らねえなぁ。みんな死んだぞ、そんな余裕が地球にあるわけねえだろうが!」

 

古代の沸点もそう高くはない。

 

「貴様、義姉さんを!スターシャさんを馬鹿にしたのか!!!!」

 

再び殴りかかろうとする古代を土方が押さえつける。その、あっさり対処されるさまはかつての訓練時代と全く変わらないものであった。いつまで経っても教官には敵わないのか、そんな敗北感が古代を占める。去り際の斎藤の下品な笑いも古代にとっては上の空であった。古代と二人きりになった土方は完全に彼が去ったのを確認すると古代の肩を軽く叩く。もはや、それはかつての教官と訓練生の光景そのものであった。

 

「古代、許してやれ。俺もだが、負けたというのは限りなく悔しいことだ。ましてやアイツは直接、現場を指揮した上での敗北だからな」

「そのつもりです…自分も今、敗北感っていうのがどういうものか身に沁みてわかりました」

「そうか」

「土方さん、お願いがあります」

「なんだ?」

「ヤマトの…ヤマトの艦長になっては頂けないでしょうか?」

 

土方は一瞬らしくない顔のしかめ方をする。

 

「俺がか?俺は負けた男だぞ」

「いえ、それは関係ありません。次の戦いで勝利に導いていただければそれでいいんです」

「だとしてもだ、お前らのほうがこのフネについてはよくわかっているんじゃないのか?」

「そういう問題ではありません」

 

古代は斎藤の退室した方向を横目で見る。

 

「空間騎兵隊が心配か」

「まあ、そういうことになります」

「…わかった。考えさせてもらおう」

「ありがとうございます、前向きに検討お願いします」

 

そう言うと古代もまた、元の持ち場へと戻っていくのであった。

 

「…沖田、借りるぞ」

 

それからしばらくたった頃、ヤマトは引き続き通常ワープによる航海を続けていた。

 

「ワープアウト」

「前方に恒星確認、スペクトルはオレンジ。橙色主系列星から赤色巨星への転換期にありますね」

 

太田は恒星の観測データを取り続ける。

太陽系近郊の恒星調査は〈ムサシ〉がある程度行ってはいた。ヤマトから移設されたCRSの演算能力を用いた超長距離観測は凄まじいもので、あともう何十光年か近づけば銀河の中心にあるブラックホールの観測さえも出来てしまう程だという。イスカンダルの超技術を体感するのには相応しい逸話であった。

 

「とはいえ、ムサシはついで程度にしか観測してないらしいからなぁ。詳細なデータ、むろん取ってますよ」

 

科学にこれでもかと精通している真田はよくやった、と言わんばかりに頷く。

 

「ふたご座のポルックスだな。これは当星座のβ星、要するにこの星座で2番目に明るい星だ。これの左斜め奥にあるのがカストル、この星座のα星というわけだ」

「ここにも敵がいるんですかね…」

 

心配そうな表情を浮かべる相原と完全に対極にいたのが南部であった。

 

「どうだろうと、いるならそいつをぶっ潰すだけだ!」

「…そうだな。皆、中央作戦室に一度集まってくれ」

 

中央作戦室のモニターには2つの恒星とその間にあるアステロイドや謎のモヤらしき部分が映し出されている。

 

「さて、我々が航行するにあたってこの2つの恒星間の間を通る必要があるわけだが、この一帯はアステロイドで満ちあふれている。ところどころに岬状の構造ができていて、もし敵の罠があるとしたらそのへんが特に怪しい」

「雪、そのへんの索敵はしっかり頼む」

「了解」

 

その時、新米が部屋に飛び込む。軍人にしては体力が十分にあるとは言えない彼は息を切らしながら真田に分析の結果を見せる。

 

「さ、真田さん!!」

「なんだ新米」

「こ、こ、これを見てください!」

「落ち着け…な…」

 

その観測結果を見て真田も新米と同様な目の開き方をした。

 

「どうしたんです、真田さん」

「あり得ない、信じられん」

「…真田さん?」

 

古代が再び問いかけねば正気にならないほどに真田は驚いていた。古代は只事ではないと直ちに察した。

 

「ああ、済まない…これは、このモヤはクエーサーだ」

「クエーサー?あの、地球に接近している白色彗星と同じ?」

「ああ、しかも超小型のクエーサーだ。銀河系内にあることや、こんな恒星間の真ん中にあること…何もかもが信じられない」

「だが、航行する空間がそれしかないのも事実なんだろう」

 

そこに現れたのは土方に、古代以外の者は驚きを隠せずにはいられなかった。

 

「あ、土方宙将、どうも」

「どうして、宙将が?」

「古代、お前、まさかお前以外の意思確認してないのか?」

「あ、すみません…」

 

古代は土方に(訓練時代に比べれば)軽い叱りを受けた後、頭を下げながら作戦室の面々に説明した。

 

「それなら早く言ってくれりゃあよかったのによぉ、古代!」

「土方宙将が艦長なら騎兵隊の暴走も抑えられそうですしね」

「わしも賛成じゃな」

「…と、いうことだそうです。土方さん」

「全く、ヤマトの無断発進といいここのところのお前は事後承諾が流行りなのか?」

「す、すみません…」

「まぁ、いい。艦長を任されたからにはむざむざ、艦長席で眺めているわけにもいかん。古代、お前は戦術長の任に戻れ」

「了解!」

 

およそ話は纏まり、面々が第一艦橋に戻った直後にそれは起きた。

 

「前方のクエーサーより、高エネルギー反応!」

「なっ!」

「島、回避!」

「やっている!」

「これじゃあ、まるで波動砲じゃないか!」

 

どうにか回避に成功したヤマトは敵の砲撃が波動防壁で避けられる程度までエネルギーが減衰したと推定される距離まで避けざるを得なかった。

 

「こんな長距離の射程とは…」

「あれを破壊する以外に道はない」

 

古代の言うことは正しい。だが、碌に標的の素性も知らず攻撃すれば痛い目に遭うだろう、という島の懸念も正しかった。

 

「だが今のヤマトは波動砲を撤去されたままなんだぞ」

「だったら最大戦速で敵要塞に突っ込んで射程距離に入れればいいじゃないか!」

「無茶言うな!」

 

艦橋内部の雰囲気が険悪になる中、そこの間に入れるのは2人の教官であった土方のみであった。

 

「いい加減やめろ。落ち着け、まだ反撃の機会を伺うのはもう少しばかり敵の情報を集めてからで遅くはない。まだ動かずに敵の様子を探れ」

「了解」

「沢村、三座型のスワローで発進しろ。センサーで敵基地の情報を掴んでくるんだ」

「はーい。全く、対空攻撃が来たらデブリで上手くやれってことなんだろうけど、あんま飛びたい宙域じゃないなぁ」

「後部座席には桐生とアナライザーだ、いいな?」

「美影!?」

 

沢村は私室で思い切り飛び上がる。

 

「?なにか問題があるか?」

「いいえ、なんでもないです〜」

 

着替えを終えて格納庫に向うと、既に桐生とアナライザーが待機していた。待ちくたびれた、と言わんばかりに桐生があくびをする。

 

「さッ、早く行こうぜ〜」

「ちょっと、何ニヤけてんのさ」

「ニヤけてない、ニヤけてない」

「全く…分かりやすいんだから」

 

桐生は呆れながらも内心は嬉しそうにも見えた。だが、それも束の間。コックピットを閉じようとしていた時にそれは起きた。後部の銃座席に設置されたアナライザーに厳つい影が忍び寄る。そしてその影はアナライザーを掴み、格納庫の無重量空間にほっぽり投げた。

 

「ウワ、ナニヲスル」

「どけってんだよ、あんな装甲板の中になら俺だって乗ることくらいできらぁ」

 

銃座に膝を丸めて窮屈そうに座る斎藤に沢村は怒る。

 

「おい、山猿野郎!何やってんだ!」

「おもちゃで戦うことくらい俺にだって出来るってんだよ!」

 

流石に幼い頃からの知り合いである桐生も止めないわけにはいかなかった。

 

「ちょっと、帰ったら流石に懲罰ものだよ?」

「うるせぇ、これくらい」

 

ついに戦術長である古代からも通信が入る。

 

『斎藤、まだ間に合う。バカな真似は…』

 

その時であった。沢村が衝撃の要請をする。

 

「古代さん、このまま行かせて下さい」

『えっ…沢村、大丈夫か?』

「ま、どうにかなるでしょう。ならなかった場合はどうにかします」

『…そうか、頼んだ』

 

通信が切れたあと、沢村はこれまで親にさえ見せたこともないような邪悪な笑顔を浮かべた。

 

(戦闘機ってのがどういうもんか思い知らせてやる)

 

いつも通り、レボルバーが回転し格納庫の蓋に添えつけられたカタパルトに固定される。標識が赤から緑に変わる。一気にスワローは後ろへと投げ出され、それに抵抗するようにアフターバーナーを吹き出す。間もなく機体は静止したかと思うのも束の間、一気に速度を上げ凄まじい加速度とともに宇宙を舞う。

 

「お、おい、もっと操縦考えろぉ!」

「勝手に乗り込んでおいて何ふざけたこと言ってるんだこの山猿め!」

 

沢村はわざとかと思わせんばかりに機体を酷く荒そうに扱い、斎藤の三半規管を狂わせる。

 

「なんだとぉ、おおお!」

「ちょっと、あんまり暴れないでよ」

「ああ、美影…すまねぇ…」

 

そんな騒がしい機内で3人はどうにか、敵要塞と思わしき天体に接近することに成功する。

 

「桐生、そろそろだ。分析開始を頼む」

「りょーかい」

 

桐生は分析用の機材の電源を入れてデータの採取を開始する。だが間もなく、怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「あら、生体反応がないな…」

「生体反応が?じゃあ、あれは無人基地だって言うのかよ」

「そうとしか考えられないよ。とりあえず、ヤマトにデータを送るね」

「しかし、この一帯の小惑星ってなんか妙に小さいやつばかりだな」

「確かに。スワローより一回り大きいくらいの石ころしかないね…」

 

その時、遥か先だか一寸先かはわからぬが、不吉な光点が見える。それは徐々に形となり、はっきりとその鶯色と白色が視認できるようになった。

 

「お、敵機が来やがった!」

「沢村!」

「わかってる!しっかり捕まってろよ!」

 

沢村は操縦レバーを握ると勢い良く引いたり倒したり、を繰り返してさながら手足のように扱う。

 

「うわぁぁ!うぁぁ!!!」

 

齋藤の情けない悲鳴が無線越しに銃座からコックピット内部にも響く。

 

「うるさい!気が散るから黙っててくれ!」

 

 

沢村は無線のスイッチを切り、引き続き戦闘に集中することとした。三座型のスワローは偵察用として改設計されたものであり格闘にはあまり向いてはいない。それでも何とか、スラスター内部の残量は残り一割となったものの、敵機を落とすことには成功した。

 

「はァ…はァ…やっぱりドッグファイトするなら普通の機体に限るな。加藤さんはよくこんなので格闘戦もできるよ…」

 

沢村たちがヤマトへ帰還せんとしているさなか、周辺宙域の分析を行っている真田はずっと独り言を漏らしながら作業と続けていた。

 

「妙だ…ますます妙だ…」

「真田さん、どうしたんです?」

「森君の観測によると、周辺に惑星が一つも見当たらないんだ。いくら赤色巨星への転換期とはいえ、まだ全ての惑星が飲み込まれるには早すぎる」

 

そう言っているうちに真田のもとにスワローから新たな観測結果が送られてくる。そう作業を続けているうちに気付けばご一行が無事に帰還していた。

 

「ただいまー」

「桐生、このデータは本当なのか?」

「もちろんですよ?」

「だとすれば厄介だな…新米、少し手伝ってもらうぞ」

 

艦内電話越しに新米に呼び来た真田もまた駆け足で分析室へと向かった。しばらくして中央作戦室への集合が呼びかけられ、各科の長はいつも通り集まることとなった。

モニターには先の敵要塞とその周辺に高濃度の霧を重ねたようなイメージ画像が表示されていた。

 

「これが、先の観測結果だ。あの要塞周辺にはヒッグス粒子が異様なレベルにまで高濃度に散布されている。それで、大抵の攻撃は防ぐが唯一それをくぐり抜けられるのが光子なんだ」

「ワープ技術の開発以前は『光より早いものは存在しない』って言われたのもこの粒子が理由です。空間すら波として捉えるなんて発想の転換が無ければ恒星間航行なんてできませんでしたからね」

「ヒッグス粒子ってのを無視できるのが光子だけ、って話でしたっけ」

 

古代も量子力学の基礎について、一応は宇宙防衛大学にて座学である程度学んではいたが大して使わないと思っていたこともありうろ覚えであった。尤も、彼が在学していた段階では「星の海」という言葉は太陽系内を指すに過ぎずそんな広大なことを考える必要がなかっただけに仕方ないと言えばその通りである。

 

「そうだ。つまり、ヤマトの兵装を以てして我々が攻撃する術はない」

「じゃあ、どうするんです?」

「なに、相手は機械だ。戦争が人のするものである以上、こういうのに対抗する切り口ってのは必ずあるんだ。新米、例の相関図を見せろ」

「は、はい」

 

新米が慌てるようにスライドを操作することで画面が切り替わり今度は相関図のようなものが表示された。

 

「これは、要塞からの距離とそれに伴うデブリのサイズを相関図に表したものだ」

「やっぱ、近づくほどデブリの直径は小さくなるもんですね…」

 

島の発言に対し、徳川が待ったをかける。

 

「そうじゃな…待て、ある地点からはほぼほぼ大きさが同じではないか?」

「確かに、でもそれがなんだって言うんです?」

 

良くそこに気づいてくれた、と言わんばかりに真田がにやりと笑い新米に説明を促すよう肩を叩く。新米も真田を横目で見たあと、軽く頷いて説明を始めた。

 

「もし仮に、敵がこのサイズ以下を感知できないのだとしたら、どうでしょう?」

「?…あ、そうか!それ以下のサイズのコスモスワローなら!」

「でも、それじゃヤマトが突破できなくて本末転倒じゃないか」

 

焦る古代に対し真田は諭すように説明を続ける。

 

「話はまだある。この要塞砲は周囲に散らばる数万ほどの小型ビットが砲を形成して出来ている。仮にこれを『軍団大砲』と呼ぼう。この軍団大砲を再形成し、エネルギーを充填するのにそう短い時間ではできない。恐らく90秒ほどかかるというのが我々の推定だ」

 

真田が説明を終えると同時に狛犬のように静かに息を潜めていた土方がようやく口を開く。

 

「以上の話をまとめると、デコイを発射しそっちに要塞を反応させている隙にヤマトはそこを急いで通過させるという作戦というわけだ。副長、間違いはないな?」

「はい。その通りです」

 

土方は睨んでいるようにも見える鋭い目で真田を見つめた。そして、僅かに頷き懸念点について述べ始める。

 

「とはいえ、要塞からある程度の距離は取りながら航行したい。魚雷では航続距離が短いから、航空機の予備エンジンを使いたいところだ。加藤といったな、それに問題はないか?」

「問題はありませんが、最低でも2つは残しておいてもらえると便利です」

「となると、チャンスは3回きりか」

「十分だ、技術科は直ちに予備エンジン先端にダミーのバルーンを搭載した即席のデコイを作れ。船務科は周辺のデブリに関する追加の精密観測を行いそのデータを技術科に送れ」

「了解。新米、急ぐぞ」

「は、はい!」

「それと、航海長!」

 

突然呼ばれて島は訓練時代がフラッシュバックし、棒のように一直線な敬礼をついしてしまう。

 

「はっ」

 

そんな彼の肩を土方は叩く。

 

「しっかり、頼むぞ」

 

作戦を実行するべく彼らは艦橋に戻る。一方の加藤ら航空隊は技術科の者たちと協力して第3格納庫のハッチからデコイを発射する準備をしていた。

 

『デコイ、発射します!』

「せーのっ!!」

 

山本、鶴見、古谷の三人でデコイを艦外に押し出す。三人が退避しハッチを閉めると同時にデコイ後部のエンジンは点火し、風船1つを飛ばすには余りある推力で勢い良く飛ぶのであった。

 

「膨張まで5,4,3,2,1…デコイの膨張を確認」

「今だ、島」

「徳川機関長、エンジンを可能な限り回してください!」

「わかっとるよ!山崎、しっかり頼む!」

「今いい感じになってきてます!」

 

フライホイールが轟音を上げて回っているのが電話越しに伝わる。

 

「了解!反転180°、最大戦速!」

 

そんな急制動を行うヤマトに斎藤は相変わらず慣れていなかった。

 

「永倉、お前、もうこのフネ平気なのか、お!」

「だいぶ荒っぽいけど、アタシ達と似ててイイんじゃない?」

「…なぁ」

「なに?」

「俺さ、アイツラのこと舐めすぎててんじゃねえかって思ったんだよな…」

「ずいぶん急だね」

「ま、今から頭下げるならあたしも協力するよ、部下を抑えられなかった責任あるんだからさ」

 

そんなやりとりが行われていることはいざ知らず、軍団大砲の発射を確認したヤマトはデコイの次弾発射を急ぐ。

 

「あと2発!」

「了解、可能な限り、急いではいる!」

 

また、閃光が確かに見える。

 

「あと1発!」

「間に合わせるさ!」

 

凄まじい速度でヤマトはかつて惑星であったアステロイドの中を駆け抜ける。間もなく、森の喜びに近い報告と共に、艦橋内もまた安堵に包まれたに違いない。

 

「本艦、敵要塞の推定射程圏内から抜けました!」

「やったぁぁ!!」

 

だが、この中で土方と同年代であり1番の年の功を背負う徳川は冷静を保ったままであった。

 

「気持ちは分かるが気を抜いちゃあならんぞ、敵さんが待ち伏せしとるかもしれんしな」

「徳川の言う通りだ、引き続き警戒に当たれ」

 

土方も徳川の言葉を肯定するように目元を引き締め、皆に引き続きの警戒を促す。

 

「了解…前方、0.4光年先にワープアウト反応!」

「何!」

 

古代は双眼鏡で先を覗く。そこにあったのは艦首に2つの巨大な突起を持つ、ガトランティス巡洋艦と思わしき連中の艦隊であった。

 

「ガトランティス…前見た形と少し違うような?」

「確か、ラスコー級とか言ったっけか…」

 

間もなく、古代の顔が僅かに引きつる。森もレーダーで直ちに事態を察知した。

 

「ミサイル、あの艦首はミサイルです!」

 

地球の駆逐艦ほどはあろう、巨大なミサイルの群れがヤマトを仕留めんと高速で接近しつつあった。

 

「フフフ、ヤマッテを討ち取るのはこの私だ…ハッハッハッハッハ!」

 

その遥か彼方、テレザート星正面に旗艦〈ゴストーク〉の櫓でテレザート守衛軍大都督である《光陰》のリメイ・ゴーランドは高笑いを上げていた…

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