時は一月一日お正月
肉丸家のリビングにて、僕と蜘蛛子ちゃんは互いにリビングの床に広がる絵札を睨んでいた。
その二人の横に、ちょこんと座る えっちゃん。
手には一枚の札があり、僕たちはその札を読み上げる えっちゃん の声に耳を傾けていた。
百人一首?
違います。いろはカルタです。
なんで百人一首ではないのか?
7歳児には難しいからですが何か?
いや、僕と えっちゃん は百人一首でも大丈夫だけど、蜘蛛子ちゃんは流石に難しいので いろはカルタにした。
何故カルタで遊ぶことになったのか、それは年始の挨拶で
流石に年末年始は【あんていく】はお休みだ。
芳村家(+僕)は遅めの朝食を作っている時に蜘蛛子ちゃんが来店してきた。
そう、来店してきたのだ。
勝手知ったる蜘蛛子ちゃんなのだが、勝手口ではなく、普通にお店の正面ドアを開けて
「こんにちは~!」
と、お店に入ってきた。休業中とはいえ自宅件店舗なので日中は鍵を掛けてはいない。
しかし、流石に蜘蛛子ちゃんのその傍若無人さに蜘蛛子ちゃんの
「ちょっと
と恐縮しながら入ってきた。
「いーのいーの!大丈夫よママ。明けましておめでとうございます!」
「もう!ホントにアンタは!ああ、すいません芳村さん。明けましておめでとうございます、今年も娘共々よろしくお願いします。」
「ハハハ、大丈夫ですよ糸井さん。明けましておめでとうございます。こちらこそ家族共々よろしくお願いします。」
「メアリさん、蜘蛛子ちゃん、明けましておめでとう、いま愛成を呼んでくるわね。」
年始の挨拶の後に二階にえっちゃんを呼びに行く愛守さん。
芳村家と糸井家の挨拶がすんだ所で、厨房でお雑煮を朱膳さんと作っていた僕も顔を出す。
「こんにちわ、明けましておめでとうございます。」
糸井家に声をかけるとメアリさんは「おめでとう」と返事を返してくれたが、蜘蛛子ちゃんは
「あら、いたの?」
と、新年の挨拶なしに返してきた。…まあ、慣れたけどね。でも新年の挨拶くらいは返しなさいよ。
「いたよ、厨房にいたんだ。」
「へえ、あんたが料理できるのは知っていたけど、【あんていく】の厨房使っても良いの?」
「ちゃんと朱膳さんに許可は貰ってるよ。」
「そう、なら良いわ。なに作っていたの?」
「お雑煮。食べる?メアリさんもどうですか?」
お雑煮と聞くと蜘蛛子ちゃんは「食べる!」と元気よく返事をした。こと食べ物に関しては子供は弱いのだ。メアリさんも「あら良いの?」と返事を返してくれた。自分が作らずに食事が出てくることに主婦は弱いのだ。(諸説あり)
カウンター席に二人を座らせて
「もうすぐ えっちゃん も来るから、みんなで食べよう。」
と、再び厨房に戻るのであった。
「くもちゃん~!」
「えなちゃん!」
雑煮の準備をしていると、二回から えっちゃん が降りてきたようだ。えっちゃんの姿を確認すると、カウンターの椅子から飛び下りた蜘蛛子ちゃんが、えっちゃんに抱きつきにいった。
「くもちゃん、明けましておめでとう」
「えなちゃん、明けましておめでとう!」
年始の挨拶をしている二人を尻目に、僕は厨房から雑煮を用意してカウンター席に並べていく。えっちゃん用は朱膳さん作成の特別製を、他は僕の修行の為に作った普通のを用意した。勿論
「お雑煮出来たよ~」
いつまでもキャッキャと話している二人に促して、カウンター席に座らせる。すると蜘蛛子ちゃんが辺りを見回して
「あら、肉丸のおじさんとおばさんは?」
「父さんは年始のパーティーでアメリカ。母さんは再来週の審議の証拠固めで福島に行ってる。」
「あらそうなの、弁護士って大変ね。」
大人の仕事の大変さに感心している蜘蛛子ちゃん。
そこにコーヒー片手に嬉しそうに えっちゃん が話しかける。
「そうなんだよ~、だからじゅうくん一人になっちゃうから、今はウチにお泊まりなの。昨日も一緒のお布団で寝たんだよ~、楽しかった~!」
あっ、ちょっと えっちゃん!?蜘蛛子ちゃんの前でそんなこと言うと
「な"んですってぇ?」
蜘蛛子ちゃんが、ゆっくりとこちらに振り向いて
「泊まった?しかも一緒に?」
こわ!あ、あら、蜘蛛子ちゃん?背後に般若のお顔が見えますよ?こ、怖いので何処かにしまってくれませんこと?
「じゅーばーんー!」
ギャー!飛びかかってきた!?と
メアリさんの方を見ると、
「
「むー!ムムムッムー!」
メアリさんは蜘蛛子ちゃんを拘束するだけではなく、口も塞いでいた。憐れ蜘蛛子ちゃん、何を言ってるのかわかりません。
「何すんのって、お店の中で暴れるからでしょ?此処は食事をするところよ。」
………メアリさん蜘蛛子ちゃんの言ってること解るんだ。流石
「ムムム~!むむ"むむムムムムー!」
「そりゃ、せっかく作ってくれた襦袢くんに、失礼を働く様な子にお雑煮をあげるわけ無いでしょ。」
「ムッムムムムムー!」
「アンタ本当に感情的ね、帰ったらお父さんと一緒に説教よ。」
「ムッムムー!」
あ、今のはわかった、「なんでよー!」だな。
しかし、哀れ蜘蛛子ちゃん。お家に帰ったら地獄決定か。僕はカウンター裏からハサミを取り出し、蜘蛛子ちゃんの口をふさぐ蜘蛛糸を切って解放してあげた。
「ぷはっ!えなちゃん!今日泊まっていって良い?私もえなちゃんと一緒に「ダメよ」なんでよ!」
何処までも欲望に忠実な蜘蛛子ちゃん。恐らく一緒に えっちゃん と寝られる+αワンチャンお説教から逃げられるとでも思っているのだろう。だが、それをゆるすメアリさんではなかった。
「アタシら明日からアメリカのニューヨークに行くんでしょ。おじちゃんおばあちゃんに挨拶するんでしょ?」
「うぐぅ、そうだった。」
「諦めな。」
蜘蛛子ちゃん、お祖父さんお祖母さんが、大好きだからな。
それに尊敬するヒーローでもある。会わない選択肢はもとから無いのだろう。
「グギギギギ………!」
歯が砕けるのではないかと、心配してしまうくらい歯軋りをしている蜘蛛子ちゃん。
そしてムン!と力を込めてメアリさんの蜘蛛糸を引きちぎると立ち上がり、蜘蛛子ちゃんは僕をビシィ!と人差し指で指差して
「勝負よ襦袢!」
………自力で脱出できたんだ。
それと、あえて言うぞ、なんでさ?
★★★
さて冒頭に戻ってきたのだが、正月から暴れるなと
【あんていく】より、気軽に裸足で遊べて広い場所となると肉丸家しかなかったので、全員で集合してカード遊びと相成った。
トランプとかでも良かったのだが、蜘蛛子ちゃんが難色を示したのでカルタをすることにした。
因みに、家にはカルタが三種類あり、
【いろはカルタ】
【上毛カルタ】
【太田カルタ】
がある。なぜコレが家にあるのかは不明だ。
え?群馬県?違います。ここは神奈川です。
は?カルタ異種?なにそれ?
そう言えばさっき 愛支 がそんのな事をいってた気がしたな。意味不明だったので聞き流してた。
と言うか最近アイツは えっちゃん が起きてる時でも、一瞬だけ此方に話しかけてくるようになったな。成長?したのは良いが、内容が一発ギャグやメッタメタなネタばっかなのはアイツらしいと言うか………
たくさんカルタの種類がある肉丸家だが、今回はスタンダードな【いろはカルタ】で遊ぶことにした。
今は僕と蜘蛛子ちゃんで、チャンピオンである えっちゃん への挑戦権をかけた予選をやっている。
ルールは48枚中25枚先取のルールになったのだが、それでは面白く無いと蜘蛛子ちゃんが言い出したので、【個性使用あり】となった。因みにお手付きは二回まで、三回目は即敗北となる。
僕と蜘蛛子ちゃんは中腰で前のめりになり、僕は腰から両手を生やし4本腕に、蜘蛛子ちゃんは手首を90度曲げて何時でも糸を発射で来るように構える。
緊張感が高まる
えっちゃんから見て右に
システムキッチンの前のテーブル席には芳村家とマリアさん(ビールで乾杯中。摘まみは僕作のアヒージョ)が見守っている?………うん、見守っているのだ、そう思うようにしよう。
えっちゃんが読み札を手に取る気配がした、それを左耳の上に目を作り確認すると、少しえっちゃんの顔が嬉しそうにしているのが見えた。
ワッカリヤスー
散らばった絵札から目的の札を探すと………あった花より団子
「いくよ~「はい」ふぇ?!」
「はぁ?!お手つき!」
蜘蛛子ちゃんの言葉に手にした絵札【花より団子】を見せる。
「花より団子。えっちゃん、読み札は?」
「はなよりだんご、合ってるよ。」
グギギギギと歯軋りをして悔しがる蜘蛛子ちゃん。
まだ乳歯だから良いけど永久歯ではやらない方が良いぞ。歯がかける。
なんで読み札が解ったかだって?
えっちゃん【花より団子】て言葉が好きなんだよ。
だから、読み札を手に取ったときの表情が嬉しそうになったので確信を持って取れたのだ。
因みになぜ えっちゃん が、この言葉が好きなのかは察してほしい。
「つ、つぎよ!つぎ!」
まだ一枚取られだけ!と自分を鼓舞する蜘蛛子ちゃん。まあ、実際に今のはラッキーと言っても過言ではないから油断はしない。反応速度では蜘蛛糸を高速で射出できる蜘蛛子ちゃんには到底勝てないので、他の要素で補わなければならない。
先程と同じように前のめりの体勢になりえっちゃんの口の動きに注意する。
えっちゃんが読み札を手に取る。
「れうやくはくちににがし」
「はい!」
パシュッ!と蜘蛛糸を手首から射出する蜘蛛子ちゃん。速い!絵札を蜘蛛糸で吸着し手元に引っ張る。
これが蜘蛛子ちゃんの強みだ。
【良薬は口に苦し】は蜘蛛子ちゃんに取られてしまった。
目標を定めればノーアクションで蜘蛛糸を射出できる。僕が手で絵札を取るより圧倒的に秒の差をつけて速かった。
「くもちゃん凄い!テクニカル!」
えっちゃんの称賛に「ふふん」とドヤ顔をする蜘蛛子ちゃん。
反応の差で取られたか、切り替えろよ襦袢。自分自身にドンマイと解ってた差だと言い聞かせて、つぎの用意をする。
再び前のめりで4本の両手を掲げて構える。
そんな僕の反応を、面白くなさそうに「フン」と1つ鼻を鳴らし先程と同じく両掌を前に出して構えをとる。
えっちゃんはその様子を見て次の読み札を取る。
口の形は………【さ】いや【あ】かな?頭隠して尻隠さず
「あた「はい」まかくしてしりかくさず。じゅうくんすごい!」
「くっ!反応負けではなく読み負け?
ただ単純に口の形で判断してます。
しかし蜘蛛子ちゃんは僕が頭部に目を作り出せる事を知らないし、僕の先読みは蜘蛛子ちゃんからしたら不気味だろう。
悔しがる蜘蛛子ちゃんを尻目に、横の目で えっちゃん の顔をガン見して構える。
えっちゃんが読み札を取る。
次は………い?………いや、違う【し】か?
知らぬが仏
「しらぬ「はい」がほとけ。じゅうくん正解!」
「ま、また読み負け?!」
速さの勝負ではなく、別の要因で続けて絵札を取られてしまった蜘蛛子ちゃん。
まあ、口の動きだけで予測なんて通常では出来ないが、大声を出して読み上げる えっちゃん は口を大きくあける癖が有るからこそだ。
無表情でなんて事無いと再び構えをとる。
蜘蛛子ちゃんは連続で絵札を取られたことにより少し焦ってる様に見えた。
良い感じに煮詰まってきてるな。このまま精彩を欠いてくれれば万々歳。
前世合わせて四十路のいい大人が、7歳児に場外戦術で勝つとはコレ如何に、と思わなくはないが、こうでもしないとオジさん(?)は勝てないのだ。
ソコで今は同じ7歳だろと言うツッコミは無しだ。
内心でごめんと謝りつつ。次の読み札を待つ。
えっちゃんが読み札を手に取る時、僕の左耳の上にある目と、えっちゃんの目が合った。
バレとる
流石えっちゃん。髪の毛に隠れてるとは言え、えっちゃんには隠せなかった。
クスリと1つ笑みを溢すえっちゃん。口を大きく開き言葉を紡ぐ。
【あ】?いや【か】かな?かったいの瘡うらみ
「かったい「はい」のかさうらみ。じゅうくん正解」
「ぐぅ………」
まさにぐうの音(意味は違うが)まだ4対1なのに蜘蛛子ちゃんは気持ちで劣性になっていた。
その後も蜘蛛子ちゃんは精彩を欠き、僕に連続で取られ続け20対1となる。あと5枚取れば僕の勝ちだ。
追い詰められた蜘蛛子ちゃん、正座の姿勢で膝の上に拳を握りしめ震えている。
少し可哀想だなと思い、どうしようか考えていると、蜘蛛子ちゃんは
パァン
と両頬を張った。
突然の行動に僕を含め、えっちゃんや芳村夫妻は目を見開いて驚いていた。唯一メアリさんだけはニヤニヤと笑っていた。
「認めるわ」
呟く様に声を出す蜘蛛子ちゃん。
「襦袢、アンタ凄いよ。けどね………」
ぐぐぐっと力を貯めるように両腕を顔の前にクロスさせ
「どんな事でも私は負けたくない!」
勢いよく両腕を左右に開き、両腕の勢いと同じように糸が手首から飛び出る。飛び出た糸はクルクルと僕と蜘蛛子ちゃんの周りを囲んでいき、えっちゃんとの間に白い防壁を作っていた。
「こ、これは………繭?」
「そう!アンタ方法は解らないけど、えなちゃんのナニかを確認して読み札を先読みしてたでしょ。だったらえなちゃんの姿を見れなくすれば良いのよ!」
おっでれーた、まさか弱点にピンポイントで対策してくるとは思わなかった。これではえっちゃんの口が見えないので、後は自力で取るしかなくなった。
と、ここで えっちゃん から
「くもちゃん」
「なに?えなちゃん」
お?審判からの物言いか?
「札を取ったら、繭の外の私に確認させてくれるかな?」
「おーけー」
いや、ホントにきつくなってきたかな?
★★★
子供たちがカルタ遊びで白熱した戦いをしている一方、芳村夫妻と糸井メアリは酔いも回り、まるでスポーツ観戦をしているかのようにその様子を楽しんでいた。
「襦袢くんは凄いな。」
「よく読み札を予測できるわね。」
素直に襦袢を誉める芳村夫妻。
一方メアリは心のなかで芳村夫妻に同意しつつも、同時に驚愕をしていた。
話しには聞いていたが、あの
特にに蜘蛛糸の使い方などは天性のセンスが有り、そのスペックは、当時の自分や他の7歳の子供と比べると月とスッポンの差があるはずだ。
其はアメリカで元No.1ヒーローであるトニーおじさんにも褒められる程だ。ニューヨークにいる時も
その
それがメアリには信じられなかったが、同時に納得した。
小学校に入る前は何をしてもつまらそうにしていた。笑うのだが諦めたように作り笑いをしていた。わずか6歳の子供がだ。これにはメアリを含め、夫やアメリカの両親もどうしたものかと悩んでいた。
だが、日本の小学校に入ってから
入学して親友が出来たと!嬉しそうに報告してきた
ライバルが出来た!と悔しそうに報告してきた
芳村愛成と肉丸襦袢、勝負して勝ったと喜んでいた
負けて悔しいと泣いていた
能力が高すぎて友達ができなかった孤高な
これまで居なかった同等な友達
切磋琢磨が出来なかった天才がようやく得た友達
あの時の
嬉しかったと言う思いと同時に
だが、実際はどうだ。
肉丸襦袢
個性の使い方の発想がずば抜けている。
ナニかをしているが、それが解らない。
それが
盤外戦術で自分を大きく見せて、相手に威圧をかけて萎縮させる。
7歳の子供のやることじゃない。
強敵だとメアリは思い、次いで愛成を見る。
芳村愛成
見た目はビスクドールの様に可愛いのに、どんな化物だとメアリは体を震わせた。
世界は広い。極東の日本でこんな化物が2人も居るとは。しかも2人とも7歳児、成長したらどうなるのか予測もつかない。
メアリは萎縮して力を発揮できない蜘蛛子を見て、負けるなと声は出さないが、心の限り祈りを捧げた。
(大丈夫だ、
アメリカでトップスリーに数えられる父の背中を思い浮かべる。
大いなる力には、大いなる責任が伴う
昔、父から教えられた言葉。幼いときには解らなかったが、大人に成るにつれて、その言葉の重みを理解して潰れてしまった自分。
(
すると祈りが通じたのか、蜘蛛子の心にメアリの心が伝心したのか、急にパァンとその両頬を手で張った。
「どんな事でも私は負けたくない!」
と、
よく言った!よく
声を大にして我が子を褒めたかったが、グッと堪えて無言を貫く。
しかし、隠しきれないその気持ちはニマニマと口元に表れていたのを、襦袢と芳村夫妻が目撃していたが。
(
誰よりも白熱して拳を握っている様子を、横から芳村夫妻だけが生温かく見守っていた。
………白熱して手に汗握っているが、端から見てカルタで遊んでいる子供の図なんだけどな、とは今さらかと芳村夫妻は思っていたが言わぬが華である。
★★★
さて、繭の中では蜘蛛子ちゃん無双が始まっていた。
「はい!」
「はい!」
「はい!」
えっちゃんの口を読唇術で読んでいたのを邪魔されて、自力で札を取らないといけないのだが、初動のスピードで完全に出遅れているので連続で取られ続けている。
先程まで20対1だったのが、今では20対10まで挽回されていた。
「ほねおりぞんの「はい!」くたびれもうけ。くもちゃん絵札見せて………はい、くもちゃんOKだよ。」
「うっしゃ!」
もうね、ピンチから覚醒とか勘弁してください。
主人公ですか?………いや、お祖父さんのこと考えたら
しかしなぁ、今の蜘蛛子ちゃんを見て、このまま逆転敗けで踏み台に成ってたラスボスの えっちゃん と決勝戦でってのも有りっちゃ有りなんだよな~
とても見ごたえがあると思う。酒………はお子ちゃまなので無理としても、珈琲片手に観戦はとても楽しいと思う。でもな~
「はい!」
少し考え事をしていたら、反応も出来ずに蜘蛛子ちゃんに絵札を取られてしまった。
ただ座して居ただけの僕に対して蜘蛛子ちゃんは勝ち誇ったかのようにあざけてきた。
「どうしたの襦袢、まだアンタの方が有利でしょ。それとも私の強さに戦意喪失した?なら良いわよ、アンタはそこでボケッと座ってなさい。残りの絵札は私が全部取ってあげる。」
………うん、勝とう。蜘蛛子ちゃんの悪いところが出てきている。覚醒して強くなったのは良いけども、調子に乗るのはいけないな。
このままだと大失敗しそうだしな。
と、意気込んだものを、実際に蜘蛛子ちゃんに勝つための手段が無いのはどうしたものか。
いや、なりふり構わなければ手段はある。
可能な限り腕を増やし、蜘蛛子ちゃんの糸の射線を遮れば良いのだ。
しかし、それはな~何だかんだで蜘蛛子ちゃんは真向勝負でかかってきてるからなぁ
そんな手段で勝っても、後で蜘蛛子ちゃんめんどくさい事に成りそうだしなぁ
そうこうしてる内に、どんどんと蜘蛛子ちゃんは絵札をバンバンと取っていく。
「はい!」
これで20対17。後8枚取れば蜘蛛子ちゃんの勝ちだ。残りの11枚か………仕方ない。
僕も覚悟を決めるか。
「えっちゃん」
「なぁに?じゅうくん。」
「次の読み札は少し待ってもらえる?」
「いいよ~」
えっちゃん に断りを入れて、精神を集中させる。
元の腕と、腰から生やした腕と、新たに肩からも両腕を生やして計6本、全ての掌の中に片目を生やす。両目を瞑り、掌の6対の目だけて見るようにする。こうでもしないと脳の負担がとんでもないからだ。
だが、此処で対面の蜘蛛子ちゃんから待ったが出た。
「チョット、襦袢、大丈夫なの!?凄く苦しそうだけど。」
「大丈夫、チョット頭が痛いだけだから。」
「でも………」
なんだかんだで心配そうな蜘蛛子ちゃん。いつもは冷たい態度だが、根は善人なのだ。
「大丈夫だよくもちゃん。」
「えなちゃん?」
「じゅうくんの状態は私が把握してるから、ダメそうならば私がストップするよ。くもちゃんは遠慮無くヤっちゃって良いよ。」
おぉう、まさか赫子で僕のバイタルでも確認してるのかな?
えっちゃん の赫子、情報収集マジ優秀。
思わず韻を踏んでしまったが、マジで万能過ぎないか?その赫子。
医療現場や災害現場で引っ張りだこだろうソレ。
地震とかで埋もれてしまった人や、火災現場や水難事故でも、救出前にトリアージを付けられるのは生存の可能性を著しく上げられるのは間違いないし。
ヒーローに成ればその可能性は無限大だと思う。
えっちゃん のその言葉によって蜘蛛子ちゃんは納得したのか「えなちゃん、信じるよ。」と蜘蛛糸を放つ構えを取った。
さて、残りの11枚の内5枚取れば勝ち。僕の手と目は6本。約二分の一をスポットしてカバーしている。えっちゃん の読み札の最初の音を聞いて、僕の六個の目で確認している札であれば蜘蛛子ちゃん相手でも機先を取ることが出きるだろう。
そうでない場合は蜘蛛子ちゃんに取られるだろう。
現時点では有る意味賭けだが、手の数で札が少なくなれば、なるほど僕が有利に成っていく。
卑怯と言う無かれ、それでも蜘蛛子ちゃん相手では負ける確率は高いのだ。
決め撃ちで勝負を決める!
今残っているのは
お、く、け、こ、と、ぬ、ね、ま、ら、る、ろ
の11枚。その内の【お、こ、ま、ら、る、ろ】の6つに狙いを搾る。
えっちゃん が息を吸う音が聞こえる。
神経を研ぎ澄ます。
「お「はい!」ににかなぼう」
えっちゃんが「お」と言った時点で上から叩き付けるように絵札を取る。
取った札を繭の外にいる えっちゃん に渡す。
「………じゅうくんOKだよ。」
「よし!」
此処で先制点を取れたのは大きい。これで残りのは10枚。山勘でも60%だ、かなり有利にはなった。けど油断はしない。チョットの弛みで一気に持ってかれる、其だけのスペックを蜘蛛子ちゃんは持っている。
目の多用による頭痛はまだ軽い、急がねば………
「………襦袢」
「うん?」
「アンタ、手の平を見せなさい。」
おおっと?!まさか蜘蛛子ちゃんにバレたか?
「どうして?」
「アンタの個性は肉を増やすだけど、他にも増やせるんじゃないのかなって思たのよ。」
いやはや、自分で正解にたどり着くってどんだけだよ。
僕は観念したように右手の手の平を蜘蛛子ちゃんに見せる。
「………そういうこと、急に目を閉じたのはデメリットがあるからなのね。」
「御名答、視界を増やすと脳の処理が追い付かなく成るんだ。」
僕の説明に、小さく「なるほどね、そんな個性の使い方が有るのね………」と呟いていた。小さい声でも対面の僕には丸聞こえだ。
しかし、蜘蛛子ちゃんは何かを掴んだみたいで、頻りに頷いていた。
「ふたりとも~次いってい~い?」
おっと、えっちゃん を待たせてしまった。
僕と蜘蛛子ちゃんは大丈夫だよ~と同時に声を返したが、えっちゃん は少しムスッとして居た。
解せぬ。
えっちゃんの「いくよ~」の声に同時に構える。
僕は【く、け、こ、ま、ら、る、ろ】に目線を合わせて構える。
と、ここで目の前の蜘蛛子ちゃんの構えが両手から片手になっているのに気がついた。
右手を付き出して、左手をダランと横に下げている。
なんだ?何をするんだろう?
疑問は尽きないが、次の札に集中する。
「ら」
楽あれば苦あり
札は肩の左手の場所だ、即座に手を振り下ろして札を取るが、叩いたのはリビングに敷いてあるマットだけだった。
札は取っていない。札は………
「はい」
蜘蛛子ちゃんに取られていた。
何が起きた?
蜘蛛子ちゃんが何かをやったのは確実だが
僕が今の状況考えていると、蜘蛛子ちゃんは外にいる えっちゃん に札を渡して確認していた。
「………うん、OKだよ」
「やった!」
「でもね、同時にお手付き1だよ」
「え?」
は?お手付き?
「目標の札を取っていないのに、他の札を動かすのはダメだよ」
はっ!と気付き、慌てて地面の札を見ると、札に細い糸がくっついていた。
蜘蛛子ちゃんの蜘蛛糸だ。
なるほど、僕が取るときに予め付いていた糸を引っ張って札を動かしていたのか。
だが、特定の札だけ動かすのはまだ難しくて、全部の札を動かしてしまったのか。
其を赫子で確認していた えっちゃん 指摘された訳か。
「え~えなちゃん初めてだから見逃して。」
「ダメだよ、次やったら即失格だからね。」
「えー!」
「全部の札をお手付きしたのを1回のカウントにしたんだから文句言わないで。」
「くっ!えなちゃんの公正さが仇になった。」
其以降の蜘蛛子ちゃんは、お手付きを恐れて動きに精彩を欠き、そのまま僕は連続で札を取るのであった。
結果を言うと僕の勝ち
対戦終了の挨拶を互いにして顔を上げると、蜘蛛子ちゃんは毅然とした顔で
「負けたわ、でも次は絶対勝つから。」
正々堂々と戦った僕たちは互いに握手をした。
………なんか大きい大会のあと見たいな雰囲気だが、家の内でのカルタ遊びなんだけどな?
しかも競技カルタですらないんだが………
朱膳さんもなんか泣きながら拍手してるし………
皆のなんか変な雰囲気になんだかな~と苦笑しつつ、次は えっちゃん だと気合いをいれた。
が、その前に
「つかれた~」
目を使いすぎてへたり込んだ僕。そんな僕を心配して僕の顔を覗き込んでくる えっちゃん。
「じゅうくん大丈夫?私とのカルタやめる?」
「ははは、ありがとう えっちゃん。でも大丈夫だよ。ただ、疲れちゃったから少し休ませて。」
副腕を神経をカットして破棄する。元の目を開けると塵になって消えていく副腕と、メアリさんと話している蜘蛛子ちゃんの姿が見えた。
………ふむ
「あー、甘いものほしいな~」
「じゅうくん、急にどうしたの?」
「メアリさん、地下の訓練場に冷蔵庫があって、そこに羊羮があるので取ってきてくれませんか?人数分出してみんなで食べましょう。蜘蛛子ちゃんも一緒に取りに行ってくれるかな?」
因みに えっちゃん 用はリビングの冷蔵庫に有るので後で差し替える。
「嫌よ、自分で行けば?」
「足が萎えて立ち上がれない。」
嘘ではない。実際に個性の使いすぎで脳は、体は疲労困憊していた。流石に目を6個はやりすぎた。マルチタスクの訓練はしているがキツイ。脳がブドウ糖を欲しがっていた。切実に。
「はぁ、仕方がないわね。ママ、行きましょう。」
「ありがとう、頼んだ。………ああ、因みにね、訓練場にカラオケがあってね」
「はぁ?」
「せっかくだから、一曲歌ってきたら?あそこ完全防音だから、全力で歌っても此処まで音は漏れないから。ゆっくりで良いよ。甘味もほしいけど、それほど急いでないしね。」
僕の気遣いに蜘蛛子ちゃんは気付いたのか小さく「余計なお世話」と呟いてリビングを出ていった。
メアリさんも小さく「ありがとう」と僕に声掛けして、リビングを出ていった。
全く、蜘蛛子ちゃんには困ったモノだと苦笑していたが、この時、蜘蛛子ちゃんとのやり取りを、えっちゃんが【じぃぃぃぃっ】と見ていたことに僕は気付き、後頭部に目を造り えっちゃん の顔を見ると、無表情で目のハイライトが消えていた。
「え、えっちゃん?どうしたの?」
「………別に」
あっんれー、えっちゃん の声が何時もと違う気がする。
んー?ひょっとして病んでる?
流石に後ろから刺されるのは、えっちゃんの将来的にも良くない。
此処は一時撤退だ
「あ、そうだ。僕おやつの紅茶を用意してくるね。」
僕は脱兎のごとくキッチンに逃げ込んだ。
しかし、自分でやったこととはいえ、えっちゃん は見事に僕に依存しているな。まさか病んできてる程とは予想外だったが、幸いなのは芳村家両親とも良好な関係が築けていて、ある程度適切な距離を置けていることか。
えっちゃん が、このヒーロー社会で溶け込めて容認されるまで何時までかかるかわからないけど、それまで誰一人として欠けてしまったらその場で終了だ。
芳村家が欠けても えっちゃん のメンタル面で未来はないし、僕が欠けても、食糧を用意できずに最悪人を食い殺してヴィランにまっ逆さまだ。病気や怪我は勿論、ヴィランなど、理不尽なことにも気を付けなければならない。
気が抜けないがやるしかない。僕はこの子を、芳村愛成を助けると決めたのだから。
決意を固め、紅茶を用意しつつ、リビングのテーブルを片付ける。その時にテーブルに小さい鏡を片付けるのを忘れずにやる。システムキッチンのカウンター上に鏡を置いた。
その場でリビングのテレビの前に有るカルタを置いているスペースを見ると、えっちゃん がそこに座っていて「じとぉぉぉー」とまだ僕を睨み付けていた。なんともまあ、執念深いものですな。
苦笑を噛み殺しつつ、紅茶をティーカップに注いで
「えっちゃん、紅茶を淹れたよ。一緒に飲もう?」
と、声をかけるとジト目はそのままに素直にテーブルの前に座ってくれた。えっちゃん用のティーカップには僕製の角砂糖を3個入れて渡す。
えっちゃんは多少気が紛れたのか、「ありがとう」と目線を緩め、ふにぁと擬音が出るくらい笑顔になってくれた。
えっちゃんに紅茶を渡すタイミングで蜘蛛子ちゃんとメアリさんが帰ってきて、みんなで羊羮タイムになった。
羊羮を食べつつ、蜘蛛子ちゃんの様子を横目で確かめると目元が
………前世含め四十路の人間が小学生相手に本気出さないと勝てないって………考えたら情けなくなるが、この世界では個性如何で子供でも強大な力を持てるからなぁ。
だからこそ教育が益々重要になってくるんだけどな。
おっと、チラリと えっちゃん の目線が厳しくなってきた。
えっちゃんの方を見て、羊羮美味しいねと声をかけると、えっちゃんも笑顔で美味しいねと返してくれた。
えっちゃんの扱いには慎重にならなければ
★★★
さて、決勝戦だ。
肉丸襦袢VS芳村愛成
読み手とジャッジは糸井蜘蛛子
正方形に並べられたカルタを挟んで、対峙する えっちゃん を見る。
既に背中から赫子を出していて、粒子を放出している。
既に部屋中に赫子の粒子が満ちていて、如何なる初動も見逃さない状態になっている。
「じゃあ、二人とも準備はいい?」
「おっけーだよ」
「ん、大丈夫」
真剣な顔で えっちゃん を見るが、当の えっちゃん はニコニコと満面な笑顔で座っている。
「じゃあいくよ、t「はい!」は?」
は?
「はい、としよりのひやみず」
「せ………正解。えなちゃん1ポイント」
「やったー!」
はああぁぁ?!
いや、早すぎるだろう。声すら発っしていなかったぞ。
僕のときは、えっちゃんの表情や口の動きから予測して動いていたけど、それ以上に早い先読みって何だよ!
不味いな、早く動かなきゃストレート負けになるかも。
僕は大急ぎで後頭部に目を作って角度とピントを調整する。
「次いくよ、u「はい!」えなちゃん見せて、嘘から出た実、正解。」
「ぐぅ、早すぎる。」
「ふっふっふ、ドンドンいくよ~」
くっそぉ角度が合ったがピントが合わない。
早くしないと。
「えっと、次は、y「はい!」………安物買いの銭失い、正解。」
あーうん、わかった。えっちゃん、蜘蛛子ちゃんの声帯の振動から、読み札を確定してるわ。いろはカルタだから最初の文字が判れば当たり札を確定できるのか。
予測じゃなく確定で、更に絵札を赫子で全部マーキングして把握してるから、最速で取れると………うん、どう足掻いても速さでは勝てんわ。
「いくよ、k「はい!」………聞いて極楽見て地獄は正解。」
「「はい!は~い!」………せ、正解。花より団子」
「m「はい!」………身から出た錆、1ポイント」
ははは、蜘蛛子ちゃんの反応もおざなりに成ってきたな。
自分も同じことの繰り返しで、だんだんタイムリープしてる気に成ってきたな。
そして、えっちゃん 【花より団子】は最速で取っていたな。
そのまま僕は、えっちゃんに15枚連続で取られつづけ、あと10枚取られたら負けてしまう状況に成ってしまった。
あと、少し、あと少しでピントが合う。
我ながら、何でこんな面倒くさいギミックにしたのか、後悔をしたが、勝つためだと己を鼓舞し必死に後頭部の目を調整する。
「襦袢、大丈夫?ギブアップする?」
蜘蛛子ちゃんが気遣いで僕に声をかけてきたが、大丈夫と返した。
「そう、それなら次いくわよ。」
と、やり取りをしたら、目の前の えっちゃん から、視線を感じた。正面の両目で、えっちゃんを見ると、口許はニコニコして笑みの形をとっていたが、目が笑ってなかった。
………えっちゃん、怖いよ。
えっちゃんから、見なかった事にしてカルタに目線を落とし、必死に後頭部の目を調整に没頭した。
「つぎー、b「はい」………貧乏暇なし、せ~か~い」
えっちゃんが16枚目をとったが、それと同時に僕の後頭部の目のピントがあった。うん、貧乏暇なしの読み札が見える。
よし、反撃開始だ。
「ふぅ、えっちゃん、待たせたね。」
「ふえ?じゅうくん?」
僕の声に えっちゃん が小首をかしげる。
「ここからは、僕の反撃開始の時間だ。」
自信満々な少し気取った仕草で、宣言する僕の科白を
「………じゅうくん………似合わないのよ」
「ぐはぁ!」
えっちゃんにバッサリ斬られた。うん、僕もそう思う。
けど、
「は、反撃開始は本当にさせてもらうからね。」
なんとも締まらない僕の姿に、えっちゃんは笑みを浮かべ「うん!」と返してくれた。
「再開するわよ。」
蜘蛛子ちゃんがそう言って読み札を手に取る。
うん、見える。
「はい」
そう宣言して、えっちゃんの目の前にある札を手に取った。
「え?」
「は?」
僕の取った札は【馬の耳に念仏】
「蜘蛛子ちゃん、読み札は?」
「馬の耳に念仏、正解よ。」
よし、これで一点。ようやくの反撃で僕は気を良くしていたが、えっちゃんが、赫子をブワッと展開して当たりに粒子を撒き散らした。
「あ、ごめんね。じゅうくんに1点取られちゃったから、動揺しちゃった。」
驚かせちゃったね、ごめ~んと謝るえっちゃん。
まあ、完全に嘘だな。
自分より早く札を取ったので、僕が何をしたのか確認するために赫子の粒子を放ったのだ。
問題に対して速攻で情報収集をする。えっちゃんは、普段はおっとりしてポワポワしているが、実は何事にも冷静に事を運べる出きる子なのだ。
………しかし、えっちゃんの目が怖い。ハイライトが消えた目で此方を視てくる。
あれぇ?そんな目をさせる様な事はしてないんだけどなぁ?
まあ何にせよ、取り敢えず1点取った。ここから巻き返すぞ。
「えっと、つ、続けるわよ」
蜘蛛子ちゃんが、読み札を手にとって確認する。
うん、見える。
「はい」
「な、また………貸して。………いぬも歩けば棒に当たる。正解。襦袢1ポイント。」
「よし!」
うん、順当だ。
えっちゃんにプレッシャーを与えるために、正面のえっちゃんを不敵な顔で見る。
すると、えっちゃんは先程のハイライトが消えた目は止めて、頻りに小首を傾げていた。
「ん~?うむむ~?」
「ど、どうしたの えっちゃん」
「じゅうくん、くもちゃんの顔を視てないの、じゅうくん目を横じゃなくて、後ろに作っている?」
髪の毛で隠している僕の目を看破して、小首を傾げていたのか。あそっか、先程の蜘蛛子ちゃんとの対戦の時にえっちゃんの顔と口元を頭の横に作った眼で視ていたので、今回も蜘蛛子ちゃんの顔と口元を視て札を予測してると思ったのに、蜘蛛子ちゃんを横目で視ていないので怪訝に思っているのか。
「じゅうくん!」
「な、なに?」
「さっきくもちゃんのお顔を見てた?」
「いや、見てないよ?」
「………嘘じゃ無いの。」
おおっと?嘘じゃ無いと断言するね………女性の直感?それとも僕が判りやすいのか?ポーカーフェイスには自信があるんだけどな。
んん~?赫子………?あぁ、成る程ね、僕のバイタルと脳波を計測して赫子を嘘発見器として使用してるのか………自分で言って納得してるけど、ドンだけなんだよ えっちゃん。
そんな使い方僕でも思い付かないよ。
しかしそうなると迂闊に嘘はつけないな。
肝に銘じよう。
戦々恐々としつつ、えっちゃんのスペックの高さに驚愕していた僕だった。
おっと、蜘蛛子ちゃんが見られないようにコッソリと札を取っているな、でも残念。その角度では札はバッチリ見えているよ。
まさに【頭隠して尻隠さず】だな。
「はい」
「………まだ何も言ってないわよ。」
「でも、手の中の札はコレだよね?」
「………ちっ!正解。」
忌々しげに舌打ちした蜘蛛子ちゃん。
僕は気にしないが、他の人にはやらない方がいいよ。
喧嘩になるからね?
一方えっちゃんは、
「じゅうくんはくもちゃんの手元を視ている。どうやって?………え?キッチンに鏡?あわせ鏡?て、ナニソレ?」
おっとぉ?いま小さく鏡と言わなかったか?
マジかこんな早くバレるのか。
そう、僕は蜘蛛子ちゃんの手元を鏡を使って覗き込んでた。
しかも一枚の鏡ではなく二枚の鏡を使っていた。
僕の後ろにシステムキッチンのカウンターが有るが、先ほどリビングのテーブルに有る鏡を、カウンターの上に置いた。
そして、蜘蛛子ちゃんの左後ろに我が家のママンの姿見が有り、カウンター鏡と蜘蛛子の後ろに有る姿見の二つを反射させて覗き込んでいた。
当然、蜘蛛子ちゃんの後ろの鏡を二回反射させているので普通では見えないが、そこは僕の個性【肉襦袢】で視力を調整して遠視特化にさせて視ていた。
ピントを合わせるのに苦労したが、お陰で蜘蛛子ちゃんの手元はバッチリ見えている。
「むぅ、じゅうくん。えっと…かんにんぐ?は、ずるいのよ?」
「狡くないよ。てか、よくカンニングなんて言葉知ってたね。他の場所では狡いけど、
「ちょ、なんで私なの?!」
「え~、だって個性アリしようって最初に言い出したの蜘蛛子ちゃんだよね。」
「くっ!スリルを求めた過去の私を殴りたい!」
「大丈夫だよ。くもちゃんを恨んだりはしないよ。だってお友達でしょ。」
「え"な"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」
涙を流し えっちゃん に抱きつく蜘蛛子ちゃん。
それを えっちゃん は受け止め頭を「よしよし」と撫でる。一見、微笑ましい光景だが、蜘蛛子ちゃんはチャッカリとしていた。
しかし僕には通用しない。
蜘蛛子ちゃんは、山札に蜘蛛糸をくっつけて引いて手元に手繰り寄せていた。そして、中身を確認するが、その内容は僕に筒抜けだ。何故なら えっちゃん の後ろのテーブルにも移動した鏡とは別に、鏡が有るから。
抜かりはない。
正に【油断大敵】だ。
「はい」
「な、何よ。」
「手元の札、これでしょ?」
「ちっ………正解。」
だから舌打ちすなって。
まぁ、いいや。ポイント加算してくれたし。
そっから怒濤の反撃が始まった。
「はい」
「正解。1ポイント」
「はい」
「正解」
そんな調子で連続で札を取り、えっちゃんとの差は
16対10
まで巻き返すことができた。
蜘蛛子ちゃんが声を発するより早く札を取っているから、えっちゃんは動くことすら出来ていない。
チラリとえっちゃんの方を見ると、俯いて居て顔は見えないが微動だにしていない。
反撃すら許されない現状にショックを受けている………なわけないか。
さっきから えっちゃん の赫子から出ている粒子が、更に増していて、僕と えっちゃん 間で赫い
いま動かないのは、えっちゃんの反撃のための準備なんだろうな。
そう考えると、僕の背筋に熱い様な冷たい様な震えが襲ってきた。
なんだ?戦慄して震えているのかな?何にせよ時間を掛けるのは良くない気がした。
蜘蛛子ちゃん取った読み札を視て札を取る。
「はい」
「貸して………れうやくはくちににがし、正解。」
蜘蛛子ちゃんも諦めて、札を隠すとかはせずに、堂々と読み札を取っていた。
「はい」
「………瑠璃もはりも照らせば光る。正解」
「蜘蛛子ちゃん、隠しながら読み札を取らなくなったね。」
「ここはアンタの家だって、理解したら諦めたわよ。」
「あははは…そっか。でもなんか悪の巣窟みたいな感じの言い方だね。」
「似たようなもんでしょ。」
失敬なと少し思いつつ、札は順調に取れている。だが、対面のいまだ静かな えっちゃん が不気味だ。
このまま何事もなく進めばいいが………
「じゅうくん」
「っ?!な、なに?」
動くか?!
身構えながら、えっちゃんの動きに神経を集中させる。
「じゅうくん、最近、くもちゃんとばかりお話ししてる気がするの。」
ん?
「そ、そうかな?そんな事ないと思うけど?」
なんか、風向きが変だぞ?なんか、えっちゃんからとんでもない威圧が...……
「くもちゃんが居ると、私よりもくもちゃんとお話してる事が多いの。私よりもくもちゃんを見てる事が多いの。」
「そ、そんな事ないよ?えっちゃん とも、たくさんお話してると思うよ?」
なんだ?何なんだ?えっちゃん 話し方は変わらないのに、なんか変だぞ。
「じゅうくん、くもちゃんのこと、 すきなの?」
こ、これは、
「と、友達として、良くは思っているよ。」
「そう、でもね、じゅうくん。最近のじゅうくんには、 お仕置きが必要だと思うんだよね。」
その時の えっちゃん の顔は、いつもの無邪気な7歳児の顔ではなく、大人のような凄みの有る笑顔をしていた。
「くもちゃん、次の読み札を取って。」
「………え?あ、えっと、と、取るわよ。」
先程の えっちゃん の様子から、蜘蛛子ちゃんも えっちゃん に気圧されて硬直していたが、えっちゃんに促されて気付いたように読み札を取った。
読み札は【芋の煮えたもご存知ない】
僕はすぐに目の前にある絵札を手に取った。
「え?」
ん?蜘蛛子ちゃんが信じられない様に僕を見る。
「? はい、蜘蛛子ちゃん、確認して。」
「………襦袢………」
「うん?」
「不正解よ。お手付き1」
は?
慌て、渡した札を見る。そこにあった札は
【月夜に釜を抜く】
だった。
慌てて絵札が散らばっている床を見ると、自分が取った場所とは違う場所に正解の札があった。
これは何だ?札を見間違えた?余裕こきすぎて緩んだか?
「あ、あははは、札を見間違えたかな?お手付きしちゃった。」
笑って誤魔化しているが、内心動揺しっぱなしだ。
切り替え、切り替え、ドンマイ。
改めて、蜘蛛子ちゃんの取った読み札を見る。
【よしのずいから天井のぞく】
右端にあったのを思いだし、札の内容を間違いが無いか確認して手に取る。
「はい、確認しお願い。」
蜘蛛子ちゃんに渡して確認してもらうが、当の蜘蛛子ちゃんは固い表情をしていた。
「襦袢、不正解、この札ではないわ。」
「っ?!」
札を見る。【泣きっ面に蜂】 だった。
次に床を見る。僕が取った場所の隣に【よしのずいから天井のぞく】の絵札があった。
これは、確定だ。えっちゃん から妨害を受けている!
「えっちゃん、僕に何かした?」
「うん、してるよ。 床にある絵札を見てごらん。異変が起きてるよ」
「こ、これは!」
床に散らばる絵札を見ると、絵札全てが【花より団子】になっていた。
「じゅうくん、いまお手付き2回だよね。次間違えたら失格だよ。残り札が18。そう、18分の1だ。札の位置を全部覚えているかい?覚えているのなら取ってみると良いよ。私は何もしないから………ね。」
っ?!………間違いない。認識を、書き換えられている。これはそう、間違い無い。間違い無くこの力は、この個性は
愛支の【偏食】だ!
正面のえっちゃんを見る。あどけない笑顔をしていて首を傾げている。いつもの えっちゃん だ。
つまり、先程の凄みの有る笑顔は………
(今日はこれ位かな、愛成の協力もあったからね。正式な挨拶はまたいつかやらせてもらうよ。あ、そうそう、私の正体は愛成にはまだ内緒にしておいて。では、じゅうくんの負け姿を期待しているでゴサル~www)
っ!アイツっ!ご丁寧に草生やしていきやがった。
チクショウ、掌の上かよ。煽りやがって!
鏡の件もアイツが えっちゃん に教えていたのかよ!
カンニングなんて言葉を えっちゃん が知っていたのもアイツのせいかよ。………まさか
「蜘蛛子ちゃん、読み札をを引いてくれるかい?」
「?良いわよ。………え?!これって」
【花より団子】やっぱりか、蜘蛛子ちゃんも認識を書き換えられていたか。つまり、どれを取っても敗けってことか。
ん?ん~?まてよ?て事は?
「えっちゃん」
「な~に?」
「いろはカルタの読み札の意味は知っている?」
「………(ニッコリ)」
ははは………どおりでさっきから皮肉めいた内容しか来ないわけだ。うん、こりゃ勝てないわ。
僕は素直に土下座した。
「ごめんなさい、まいりました。」
「うん、ゆるすよ、じゅうくん。」
(うん、ゆるすよ、じゅうくん。)
こうして、身内のお正月カルタ大会は、僕が降参して、勝者は えっちゃん になった。
てか愛支、お前まで返事するんかい。
まあ、いいや。ゲーム内でのお仕置きで済んで良かったと喜んでおくか。恐らく将来はこんなもんじゃ済まされない気が、ヒシヒシとするし。
ちなみにソファーに居る親たちはパチパチと拍手をしながら
「襦袢くん、なんか浮気現場で土下座してる様に見えるのは、気のせいかな?」
「そうね。因みに、私も相当嫉妬深いから、アナタも襦袢くんみたいにならないように気をつけてね。」
「………肝に銘じておくよ。」
と、会話をしていた。朱膳さん、シャレにならないです。
★★★★★★
その夜、僕は えっちゃん の部屋で、えっちゃんのベッドの横に布団を敷いて横になっていた。
ベッドで寝ている えっちゃん は、皆で色々はしゃいだお陰で、早々に就寝していた。横を見ると安らいだ可愛い寝顔を見れる。僕はその寝顔に微笑みを浮かべながら、心のなかで呼び掛けた。
(えーとー、起きてる?)
(じゅうくんの目を介しての愛成の寝顔で、ギンギンビキビキにオッキしてるでゴサルよぉ!)
(なんでかなぁ、女子でもお前が言うと犯罪臭がしてくるんだよな。お巡りさんこっちですって言われたい?)
(是非!)
肯定しちゃったよ。掲示板か。
(そもそも、こういう事に関しては男女の区別は関係ないでゴザルよ~。事案と感じたら間違いであっても即通報。基本っすよ~。)
(さよで。んで、何時からだ?)
(春からの新作アニメでゴザルか?たしか~)
(誤魔化すな、えっちゃんの事だ。何時からお前とコンタクトを取れるようになったのか。何時から えっちゃん の体を使って表に出れるようになったのかだ。)
えっちゃんの寝顔に睨んでも仕方がないが、その中に居る愛支の姿、東京食種に出てくる【エト】の姿を思い浮かべて、それを睨めつける。
(くふふ、凄むじゅうくんも可愛いですぞ。そうだね、愛成とやり取りが出来るようになったのは、私たちの誕生日からだね。まあ、姉妹とは名乗ってはいないけど、すごく仲良くなったよ。最初は愛成が寝てるときに夢として会ってたね。最近では、起きてても私の存在を意識してくれれば会話くらいは出来るよ。表に出れる時は、余程 愛成 とシンクロする必要があるのを今日知った………て所だね。)
成る程、コイツの事だから、いずれこうなると思っていたが、かなり早かったな。ならば改めて確認しなくてはいけないな。
「………えっちゃん に害意は無いんだな?」
(フフフ、私がその気なら、胎児の時に愛成を餓死させて、私が産まれているよ。)
「………信じて、良いんだよな?」
(少なくとも、私は家族を愛しているし、じゅうくんに嫌われる事は絶対にしないよ。私の愛は最初に伝えているだろう?アレは本気だよ。)
「………わかった、信じるよ。」
まあ、信じると言っても常に警戒は必要だがな。にしても
「カルタの時の力は、えっちゃんの赫子を介して使っていたのか?」
(そうだよ、まあもっとも、あの力を使うには、じゅうくんの時の様に
「にしたって、蜘蛛子ちゃんにも作用するって、強くない?」
(アハハハハ、まあ、実質2人分の個性を使っているから、どこぞの末っ子位は強いんじゃい。まあ、出力は負けるけど、やれる事は此方のほうが多いね。)
「アレは個性婚の結果だし、あふぅ………結局彼個人の力だしな。」
アクビを噛み殺しながら喋るが、時間を確認すると、深夜0時を越えていた。
(おやおや~?じゅうくんはオネムですか~?夜更かしは美容にも成長にも良くないでゴザルよ~。身長が伸びなくなりますぞー?)
うっせぇわと思いつつ、目蓋が重くなってきたので、いい加減寝ることにする。
「んじゃ、素直に寝るわ。おやすみ。」
(は~い、おやすみ。)
目蓋を閉じると、僕の意識はすぐに………
★★★★★
くふふ、寝てしまいましたな。愛成の赫子の力を借りて、シルエットだけですがじゅうくん寝顔を見れる。なんと言う役得!これだけでご飯5杯は行けますぞ!
まあ、私はご飯は食べられませんが。
にしても、ホントに順調ですな~。
じゅうくん、普通は過度に重い感情を向けられて、それを平然と受け入れられるわけ、無いんですよ?しかも、謎の粒子を吸い込んだり、得たいの知れない力を受け入れたりとか、普通は嫌悪するような事なんですよ?
ましてや、私の様な認識を操作する人間とかを信じたりとか、そんなの人間としてとてもありえないですよ?
考えないんですかね?自分の認識がとっくに書き換えられているとか。
フフフ、順調順調。
じゅうくんも
愛成も
パパさん、ママさんも
本当に順調。
推敲していたら二万字だよ。
2話に別けるか考えたが、めんどくさくなったので1話にしました。
言い訳はしないです。
11月1日
カルタの読み札の内容を修正しました。