僕は彼女の食用肉   作:李さん

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第6話 供物

 

 

芳村愛守:思い出、絶望、一片の希望

 

 

夫と出会ったのは、バイト代を貯めて念願の旅行でフランスに行った時だった。

当時、私は20歳、夫は22

 

夫はフランスレストラン【La Briller(ラブリエ)】てシェフ見習いで働いていた。

 

私は家族と折り合いが悪く、半場飛び出す様に家出して一室四畳の安アパートで、バイトしながら生活をしていた。

生活は苦しかったが、本家の岩塚家の空気よりましだったし、独り暮らしの自由が何より欲しかった。

バイトはコンビニや雑誌の読者モデル、フリーライター等をやっていた。収入は雀の涙だったが、それでもやりたいこと目指して貯蓄していた。

 

そうしてフランスに旅行行った。

目的は本場のフレンチ料理を食べるため。

私はちょっと………いえ、かなり食意地が張っているので、食べることが大好きなのだ。

 

飛行機を降りて、シャルル・ド・ゴール空港に降りると。

目的のフレンチレストラン、と言うよりビストロにさっそく道を急いだ。

 

ソコはまさにフレンチパラダイスだった。

美味しい食事とテーブルワイン。

周りの人達も陽気で、寛容で、日本人の私の片言のフランス語でも笑って受け入れてくれた。

楽しい時間はすぐに過ぎていく

気がつくとホテルのチェックインの時間が近づいていた。慌てて支払いを済ませホテルのチェックインを済ませると。ほろ酔い気分でベッドに倒れこんだ。

明日は本命のレストランだ。

予約は済んでいる。

明日の料理を夢見て眠る。

 

そして翌日のディナー

レンタルのドレスを着てレストラン【La Briller(ラブリエ)】に着く。エクスペダイターのサービス、ワイン、流石だ。

一目で一流とわかる。

だが、私は名家の出とはいえ、片言のフランス語しか喋れないのでコミュニケーションに戸惑っていた。

それを見たエクスペイダーは取り敢えずテーブルに座らせて奧に引っ込んだ。

代わりに奧の厨房からコック服の1人の男性が近づいて来た。

これが後の私の夫【芳村朱膳】と出会いであった。

 

「今晩は、ようこそ【La Briller(ラブリエ)】へ。私はロティシエールを担当している【芳村朱膳】と申します。」

 

「え、あ、よろしくお願いいたします。………まさか日本人の方がいらっしゃるとは思ってもいなかったです。」

 

「はい、修行としてこの店で働かせて頂いております。他のスタッフは日本語が堪能ではないので、本日のお客の対応は私が担当させて頂きます。」

 

「はい、よろしくお願いいたします。」

 

「こちらがメニューになります、内容はわかりますか?」

 

「はい、凡そは」

 

「素晴らしい。ご用の際はお近くのエクスペイダーを、お呼びください。私が参ります。」

 

カッコいいな~

と去り行くその後ろ姿を見ながら、さっそくメニューに目を落とす。

コースが3つ、どうしようかな~と考え、メインに肉料理のあるコースにした。

さっそくエクスペイダーを呼び、芳村さんに注文を伝える。

 

料理は流石二つ星レストラン。

 

公の場でなければ叫んでいた

 

うーまーいーぞー!

 

そしてメイン料理を前に、私は生唾を呑み込んでいた。牛ステーキ。単純な焼き肉だが、匂いが暴力的だ。芳村さんが焼いたのだろう。この香りは………

たまらず肉にナイフを走らせる。柔らかい。

口に入れたら更に柔らかいのがわかる。

霜降り肉の様に溶けるというでは無いが、赤身肉が口の中でも確かに存在を感じ、歯でぷっ!ぷっ!と噛み切れてその度に牛肉の旨味が滲み出る。

これは肉に隠し包丁を入てる?

更にソースの味。これは日本人に馴染みがある。

これは………味噌?微かに、香りに混じる程度だが赤味噌の香りがする。

ヤバい、これは過去一で美味しい。

 

料理余韻に浸る私に、芳村さんがカップを片手に声を掛けてきた。

 

「いかがでしたか?本日の料理は?」

 

「はい、夢心地でした。」

 

私の蕩けた声に、小さく声をあげて笑う芳村さん。

目の前のテーブルに小さいカップを置いた。

 

「それは良かった。こちらをどうぞ。」

 

言われるがままカップを、手に取り口にする。

 

「あ、美味しい。これは………お水?」

 

「はい、ミネラルウォーターです。フランスは結構名水の産地が多いのですよ?今回の料理は味が濃いモノが多かったので。」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

ヤバイ

 

自分でもチョロすぎだと思う

 

でも、こんな、こんなの惚れてしまうわ

 

しかも、この一皿で胃袋捕まれた

 

「ぁあの!」

 

「はい?」

 

「い、いぃいつまでこちらにいますか?!」

 

「え、あっと、まだ2~3年は居ると思います」

 

「2~3年ですね!」

 

私はすわ急がねばと椅子を立ち、お会計して即行でお店を出ていった。

 

「え、あー、ありがとうございます。またのお越しを~」

 

後ろの芳村さんの声を聞きながら「はい、また!」と返事をしてホテルに帰っていた。

 

その後即行でで日本に帰って、準備しをし始めた。

まずバイト。高額て働ける仕事に切り替えた。

あと勉強。少なくてもフランス語は必死に勉強した。

 

全てはフランスに行って芳村さんを落とすため!

 

そして一年半後、見事フランスのアパルトマンを借りて芳村さんの近くに住むことがかなった。

(後に高校生になった愛成にこの事を話したら「行動力!」とツッコまれた。解せぬ)

こうして、連日のアタックで遂に朱膳さんと恋人とになった後、妊娠が発覚して見事、結婚と相成ったのだ!

(「デキ婚って」「愛が有ればいいのよ」)

 

正に幸せの最高潮だった。

結婚に際して朱膳さんと一緒に日本に帰国した。

芳村さんのご両親にも挨拶したし。

もの凄く気にくわないが私の岩塚の両親にも挨拶した。家出して勘当同然だったので、好きにしろの一言てすんだ。

仲の良かった従兄弟の秀彦さんは、己の事の様に喜んでくれた。

朱膳さんと秀彦さんも余程波長があったのか、すぐに仲良くなり、今では親友と呼べる間柄になった。

朱膳さんは、借りたアパートの近くにあるレストラン【ソレイユ】の厨房で働き始め、順風満帆い言っていい程の生活が始まった。

 

 

だが、その生活に影を落とし始めたのは、妊娠5ヶ月の頃だった。

 

産婦人科で検査をした時だった。

 

「心臓の動きが悪い?」

 

目の前の先生から告げられた

 

「はい、胎児は4ヶ月位から心臓が出来て、自分で血液の循環を始めますが、心臓の動きが悪く、脳にまで上手く血液を遅れていないらしいのです。

詳しく検査が必要になりますので、入院して調べてみましょう。」

 

結果は心臓の疾患。生きて産まれてくる可能性は低いとの結果を知らされた。

その時の絶望は凄かった。

それからは必死に祈った、キリスト教徒ではないが近くの教会とか、安産祈願のお寺や神社等を必死に回った。夫や秀彦さん、お義父さんお義母さんも協力して皆必死だった。

ただ生きて産まれてと祈ったが、結果は残酷だった。

 

死産だった。

 

文章にしてしまえば、一行の言葉。

私は全ての涙が枯れてしまうほど泣いた。

泣いて、泣いて、泣いて、食事も取れず起き上がれないほどに泣き腫らしていた。

 

死にたい、そう思っていた。

病室で、独り。静かに快晴の空を見上げていた。

 

その時の、夫が小さい土鍋を片手に病室に現れた。

 

愛守(えり)

 

夫の顔を久しぶりに見た気がする。

その顔には隈が出来ており、夫も同じく憔悴してる様子がみて取れた。

 

愛守(えり)ここの所、なにも食べてないだろう?病院に無理を言って厨房を貸してもらえたよ。重湯を作ってきた。少しでも食べよう。」

 

ベッド用のテーブルを持ってきて、土鍋の蓋を開ける。夫がレンゲで重湯を少し(よそ)う。

その優しい目に促され少し重湯を口含む。

 

 

 

 

美味しい

 

 

 

 

 

 

そう思うと、枯れたはずの涙がまた止めどなく溢れだす。悲しくて、哀しくて、死にたいほどに、かなしくてかなしくてかなしくて!

 

けど、身体は食べようと、生きようとする。

この身体(こころ)は何処までも生きようとする。夫の作る料理を食べようとする。

悔しくて、遣る瀬無く(やるせなく)て、ベッドのシーツを目一杯の力で握り締めた。

夫はその手を優しくとり

 

「生きよう。あの子の分まで。」

 

心が決壊した。

子供の様にわんわんと泣いた。

大声を出して泣いた。そうだ生きよう。あの子の、

 

 

愛瑠(える)の分まで。

 

 

後日、お墓を作った。

 

 

 

 

芳村愛瑠(よしむらえる)ここに眠る。享年0歳

 

 

 

私は少しづつ持ち直していった。

墓参りをするとまた哀しくなるが、それでも生きた。

 

私たちは兎に角、働いて、美味しい料理を食べて、世間に貢献しようとボランティアをして、生きた。

夫はソレイユで、スー・シェフになった。

私はヒーローに成ろうかとも思ったが、私達の個性は戦闘用ではないので諦めた。

 

我武者羅に生きて3年

 

私は25歳

夫は27歳の時に、新しい命が私の中に宿った。

 

二人して涙を流して、喜んだ。

今度は絶対産んでみせる、そう決意した。

 

まず、私がしたのは私の実家、岩塚家に土下座をしてバックアップをお願いした。

家出して、勘当されて7年。最初は両親共に渋っていたが、私と犬猿の仲だった姉が真っ先に和解してくれたのが契機だった。それならばと、両親共に和解してくれた。

もともと私の事は決別していたとはいえ、密かに興信所等を使って気にはかけてくれてた様だ。

ツンデレか!

犬猿の仲の姉に関しては、どうしてと思ったが、4年前に女の子を産んで

 

「うちの子が死産したなんて考えたらさ、きっとアタシ自殺してたと思うから。そう考えたら、アンタハンパ無いなーて思って。」

 

との事だった。

序でに姪っ子はメチャクチャ可愛かった。

 

そうして大手病院を紹介してもらい、万か一の時の入院費等もウチの両親に負担してもらう事ができた。

夫の両親も初孫の為に今度こそと協力してくれた。

 

そうして順調に月日が立ち

 

「双子ですね。順調ですよ。」

 

と、伝えられた。

双子!

物凄く驚いた。

だが同時に嬉しかった。

今度こそは!と意気込み。家事、運動、食事、睡眠と体調管理など、お腹の中の子供達に良いことを沢山やった。お義母さんもちょくちょくウチに顔を出して一緒に手伝ってくれた。

家族一丸となって取り組んだ。

 

だが、運命はまたその影を落としてきた。

 

異変は前回と同じく妊娠5ヶ月だった。

食事の味が変に感じられた。

最初は小さな異変だった。

その内その異変は大きくなり、最終的に私は食べ物を何も食べられなくなってきた。

 

お米はネバネバとまるで糊を噛んでるように感じた。

 

野菜は青臭さが凄く、とても食べ物とおもえなかった。

 

肉や魚は逆に生臭さがひどい。

 

とても食べ物と思えない。

しかも、無理やり食べようとすると嘔吐するし、無理に嚥下すると体調を大きく崩す。

 

 

 

これはなんだ?

 

 

 

私に一体何が起きている?

ここに2週間、まともに食事ができなく、私はどんどん憔悴していき、入院する事になった。

主治医から

 

「芳村さん、今は点滴をしていますが、食事をしないとお腹の赤ちゃんの命が危なくなる可能性があります。」

 

 

その話を聞き、私は過去の出来事がフラッシュバックする。

 

またなのか?

また私は喪うのか?

 

ソコから半狂乱になり、食べ物を食べた。

食べて、戻して、戻したら食べて。

今の私を見たら地獄の悪鬼か餓鬼か

隈はひどく目は窪み、食べても栄養にならないので頬が痩けて、鏡を見るとまるで末期の病院患者だった。

主治医の見立てでは、赤ちゃんもそろそろ危ないと言われた。

そうか、赤ちゃんが死んじゃうのか。

あぁ、でも、今度は赤ちゃんと一緒に逝けるかもしれないな。あんなに泣くのは、哭くのは、もう、懲り懲りだ。

いつかのように同じく快晴の空。

今度はお母さんも一緒だよ、とおなかをさする。

いつかと同じ様に空を見上げる。

そうだ、いつかと同じだったらな、この後あの人が来て食事を持ってきてくれるのかな?

 

そう思っていたら、本当にあの人が来てくれた。

 

「愛守、具合はどう?」

 

夫の相変わらずの優しい声に、思わず微笑んでしまう。

 

「みての通りよ。今回はお腹の子だけでなく、私も危ないって。」

 

私の返答に、夫の顔が泣くように歪む。

 

「そっか、愛守、おろす気は?」

 

「無いわ」

 

夫は私だけでもと考えているのだろう。

さっき言ったように、もう懲り懲りだ。

 

「愛守、ならば止めないけど、そうなったら私も命を断つ。逝くのなら皆一緒だよ。」

 

それは駄目と言いたかったが、その気力ももう残っていない。夫が私の手をにぎる。

その手はとても温かった、その温もりを感じると、とても申し訳ない気持ちが湧いてきた。

 

その時の、ふと、夫の持っている紙袋の中から芳しい匂いが漂ってきた。

なんだろうこの匂い?

 

「ねえ、あなた。その紙袋の中はなに?」

 

「うん?これかい?」

 

夫が紙袋の中からタッパーを一つ取り出す。

中をあけると、ゼリー状の琥珀色のモノが敷き詰めれていた。

 

「牛のアスピックだよ。ソレイユの残り物で作ったんた。今日の晩酌にっておもって」

 

アスピック、つまり煮こごりだ。

その琥珀色のモノを見たら急に空腹を覚えた。

 

「ねえ、ソレ、もらっていい?」

 

「え、それは良いけど、暫く食べてないんだろう?大丈夫なのかい?」

 

「うん、大丈夫………だと思う。これならば食べられる気がする。」

 

そう言うと夫袋の中に入ってたプラスチックフォークち取り出し、少しだけアスピックをフォークに乗せると、私に差し出してきた。

私は恐る恐るアスピックを口に含む。

するとどうだろう、嘔吐感はなく普通に美味しかった。咀嚼しても味覚に異常はない。

普通に美味しかった。

 

「美味しい」

 

ぁあ、やはりあなたは運命の人だ。

こうして料理を私にくれて命を繋いでくれる。

「もっとちょうだ」と言うと、「少し待って、先ずは先生を呼ぼう」と、ベッドにあるナースコールを押した。

主治医の先生が来て、アスピックを食べてるのを見ると食べ終わった後に検査をして、経過観察をした。

理由はわからないが結果で言うと、アスピック、つまり煮こごりであれば食べられる事がわかった。

病院の栄養士の人の元、夫の協力もあって様々な栄養のある煮こごりが、私の主食となった。

 

これにより私の体調は持ち直し、詳しい検査もできるようになった。

その結果

 

「双子の赤ちゃんの片方に個性が発現している。芳村さんの不調の原因はそれかもしれない。」

 

「え、個性って。胎児が個性を発現できるのですか?」

 

「歴史を鑑みてごらん。世界初の個性を発現した人は産まれてすぐに個性を発現させていたよ。」

 

考えてみたらそうだった、これも中学の歴史の授業で習ったっけ?

 

「だけどね、この個性を発現している赤ん坊がね、もう1人の赤ん坊と比べて、小さいのですよ。」

 

初耳だった。

え?小さい?どういう事なのだろう?

 

「小さいかといっても、異常がある訳では無いので経過観察ですかね。検査を3日毎に行いましょう。異常があれば知らせます。」

 

私の運命は、影から闇になろうとしていた。

 

細かく検査をして行った結果、個性を発現している子が、どんどんと小さくなっていると言う事だ。

 

「原因は解りません。ですがこのままだとこの子はなくなってしまうでしょう。」

 

まただ、お腹の子をまた喪ってしまうのか。

私の心に暗く思い何かが襲いかかる。

対して隣に居る夫は冷静で

 

「その個性を発現している子だけなのですか?

もう1人の子には異常は無いのですか?」

 

「はい、その子は順調ですよ。」

 

その言葉を聞いて、心が少し軽くなった気がした。

 

「私もね、長い間色んな患者をみてきたが、こんな事は初めてですよ。一応バニシングツインズと言う現象は有るのですが、それは片方が死亡していた場合なんですよね。今回は両方とも生きていて、片方が消えかけてる。人の身体と言うモノは正に不可思議です。」

 

経過観察をしていくしかないですね。

と主治医の先生が、言う。

 

妊娠して8ヶ月、私の中ではとうとう一つの命が消えてしまった。

悲しい、泣くまいと思っても涙が流れる。

夫は私の肩をだいて励ましてくれる。

だが、最大の励ましは主治医の先生からの言葉だった。

 

「芳村さん、いえ、お母さん。出産は、人が産まれてくるのは奇跡なんですよ。今回は1人命が消えてしまいましいましたが、あなたの中でまだもう1人の命が生きようと頑張ってます。貴女はお母さんなんです。先ずはその子を産むことに全力を尽くしましょう。私達もサポートしますが、お母さんが頑張るしかないんですよ。しっかりして!」

 

そうだ、まだお腹の中にまだ1人、確かに生きている。私はまだ折れる訳にはいかない。

折れかけてた心を奮い立たせる。(後に思えばこの時、愛成の個性が無意識に発現していたのではないか?と考えたが)

それ以降は順調で私達は、無事出産を迎えた。

 

 

「ふんみゃー!ふんみゃー!」

 

「お母さん、元気な女の子ですよ。」

 

女の子!あぁ!女の子!我が子抱くと元気に産声を上げる。小さい。かわいい、私の赤ちゃん。

自然と涙が溢れてくる。

分別室に夫が入ってくる。

 

「かわいいなぁ、愛守、おつかれさま。ありがとう。」

 

「あなたこそ、今までおつかれさま。」

 

「愛守に比べれば、オロオロしてて何も出来てないよ。」

 

「それで良いのよ。それで、どっちにするか決めた?」

 

どっちにするか?とは、元々双子の予定だったので名前を2つ考えたいたのだ。

候補は【愛成(えな)】と【愛支(えと)】。

私の問いかけに、優しく。

 

「愛成に決めたよ。」

 

そっか、と返してての中に居る我が子を見る。

 

「はじめまして愛成、私達がパパとママよ」

 

こうして私達は、新しい家族を迎えた。

 

愛成は2ヶ月ほどで退院し、我が家に迎えることが出来た。

愛成はすくすくと育っていた。

言葉も1歳半で簡単な単語を話し始めてお義母さんも「あら、おしゃべり早いわね」と言っていた。

ひょとして、内の子天才?とか思ったほどだ。

 

本当に順調だった。

最高に幸せだった。

このままこの幸せが続けば良かった。

 

しかし、私達の運命(ふこう)は更なる闇を、私達に落としてきた。

 

離乳食をえて、普通の料理を食べられるようになり、我が子に私の料理を美味しいと言って貰える事がこんなに嬉しい事だとは思わなかった。

夫と張り合うよう料理作り、美味しいと愛成が、笑ってくれる。そんな幸せが続いていた。そう、4歳迄は。

 

きっかけは、愛成が食べる量が減ってきた事だ。

いつもの量の半分しか食べていない。

 

「愛成、ごはん美味しくなかった?」

 

と聞くが、愛成は小さく首を振るだけだった。

その日から新しい料理を開拓し、色んな料理を作った。味をかえ、見栄えを変え、愛成に出したが、愛成の食は一向に進まなかった。

暫くは少しでも食べていたが、いつの日か、全く食べることが無くなっていた。

 

「愛成、どうしたの?ごはん食べたくない?」

 

「………うん」

 

「それはどうして?」

 

「ごはん、おいしくない。ムリにたべるとげーしちゃう」

 

この言葉を聞き、私は入院中の事を思い出した。

味覚が変わる、食事が美味しくない、ムリに食べると嘔吐する、同じだ!

私は直ぐに夫に相談し、直ぐにアスピックを作ってもらった。

 

「愛成、試しにこれを食べてみて。」

 

妊娠中の経験からコレなら食べられた。だが、

 

「………うぐ、おえー」

 

愛成は直ぐに嘔吐してしまった。

なぜだ!私の時は食べられたのに!

なぜ愛成は食べられない!

 

これは私達には手に負えないと思い、愛成を出産した病院に直ぐに相談した。

 

その結果は「拒食症」しか考えられない。

 

たが、詳しい検査をしたところ、全て異常はなし。

 

主治医の先生も、打つ手なしと匙を投げた。

 

私達の前が暗くなる気がした。

 

暫くは入院いて、点滴で命を繋いでいた。その間に検査を何度も行い、泣き叫ぶ愛成を宥めて、検査を続けたが、結果は変わらず異常無し。その間に愛成はどんどんと痩せて行った。身長は80センチ、体重は8キログラム。平均と比べても小さいし、軽い。

私達は刻一刻と焦りが生まれてくる。

子のままでは駄目だ、この子が死んでしまう。

必死に「食べて」「お願い」「死んでしまう」

と祈りを込めて愛成に言う。

その度に小さく首を横に振り、拒絶を表す。

私達の目の前に絶望がドンドンと侵食し始める。

 

主治医の先生は精神的な事かもしれないので、一度退院して環境を変えてみてはとアドバイスしてくてたので、先ずはお友達と思い、通う予定だった【白木原保育園】に行ってごはんを与えてみた。

が、依然として愛成は食事を食べない。

愛成の様子はまるで儚く痩せていて、今にも死んでしまいそうな、雰囲気を漂わせていた。

 

その様子をみて、なぜだと心の中で叫んだ。

 

なぜ!

あの子がなぜこんな事になる!

あの子が何をした!

私達が何をした!

私達の子供はなぜこんな事になる!

なぜなの………!

 

 

 

お願い、誰か、助けて………

 

あの子を誰か、助けて………!

 

そう思い、俯き、両手は強く握り締め、助けて、と願う。

 

真摯な願いは、小さいながらも奇跡を起こす。

 

「こんにちは!」

 

元気な子供の声に、伏せていた顔を上げると、目の前に少し太めの男の子がこちらを見つめていた。

 

「おねーさんは、あそこの子のおかーさん?」

 

「え、ええ。そうよ」

 

ソコからは正に急展開だった。

 

愛成にコーヒーを飲ませ、謎のグミとなるモノを食べさせ、個性を発現させた。

その後、私の本家にも劣らない、高級住宅に招待され、娘の個性の秘密を知った。

 

人の肉しか、人しか食べられない。

 

それはなんだ?

なぜこんな事が起きる。

 

暗い感情がまた更に深い闇に落ちそうになる。

 

 

「落ち着いて、愛成ちゃんは何も悪くはない。

 

「大丈夫。僕の話を最後まで聞いて。大丈夫だから。愛成ちゃんは悪い子にはならないよ。大丈夫だから。」

 

その少年の言葉は希望だった。

 

 

「全てを欺く覚悟はありますか?」

 

 

「愛成ちゃんのために、彼女の未来の為に、全世界に嘘をつく覚悟はありますか?」

 

その言葉は悪魔の囁きだった。

そう、悪魔だ。愛成の為に嘘をつけ。

親しい者にも嘘をつけ。

バレたら破滅だぞ。

その目の前の悪魔は私にそう、囁く。

 

悪魔、そう悪魔だ、悪魔だからこそ信じられる。

 

神様が私達には何をしてくれた?

 

 

そして、目の前には悪魔、そう

 

悪魔のヒーローがいた

 

そのヒーローはこう告げる。

 

「愛成ちゃんがヴィラン喰種(グール)にならないために、芳村パパは僕を原材料に料理を作ってもらいます。」

 

「愛成ちゃんが、他の人の肉を食べても不味いと思うように、芳村パパの味を愛成ちゃんに教え込む。その味が最上級であるように。」

 

「まさか、そんなことができるのか?」

 

「できる!いや、出来なければ破滅です。やるんです!」

 

ヒーローが断言する。

いや、これは激励だ。やれる、貴方なら、夫ならやれるそう言っている。大丈夫だ!僕が居ると。

 

正に彼はヒーロー。

 

私達を救うために現れたヒーロー。

 

「襦袢くんを信じるわ。」

 

そう、彼を信じずに誰を信じると言うのだ。

確かに疑問はある、なぜ愛成が、人肉しか食べられないのを、しっていたのか。

彼の行動には迷いがなかった。彼は予め愛成の個性の事をしっていたのか?

愛成をなぜ喰種(グール)と呼ぶのか?

 

疑問は尽きない、でもどうでも良い。

私達を、愛成を、救うために、家を作り、店を作り、味方を作り、愛成の食事を作ってくれた。

 

返しきれない恩がある。

 

私達のヒーロー。

返します、私達の全てを掛けて、娘の全てを掛けて、返します、守ります、捧げます、貴方と言う悪魔に、魂を。

 

私達を救ってくれたヒーローに………

 

 

 

 

 

 

 

第6話 供物(芳村愛守:オリジン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、襦袢くん。お義母さんって呼んでも良いのよ?」

 

 

 

「………え?」

 

「そ、それは流石に………」

 

「あれぇ、ひょっとして、意味しってるの?おませさん。かわいい。」

 

「うぇえ?あ、あははは、意味ってなーに?僕わからないな~あはははは………」

 

ホントにかわいいな、私のヒーロー

 

 

 

 

 

 

 




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