便利屋68の参謀役、猫になる   作:さばちゃそ

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1話「日常と異常は紙一重」

 真っ赤に映えた特注製の椅子に腰深く座り、軽く溜め息をつく。上を見上げ、いつものように天井に付いているシミを数えながら額に手を当て前髪をかき上げる。

 報酬金とは口ばかりの僅かな資金を手にしながら、明日の仕事のことを考えていた。

 

 

「どうしましょう。これじゃあ今日使ってしまった弾薬と爆弾の補充すらも賄えないわ」

 

 

 陸八魔アルは何度も紙幣の枚数を確認しては眉をひそめ、肩を落とす。だが、これでいつまでも凹んでいられるほどヤワではない。長考したのち、誰もいない空間の中でうんうんと頷く。

 

 

「明日の心配は明日に考えることね。無い物をねだってもしょうがないもの」

 

 

 自分に無理やり言い聞かせるようにして、アルは紙幣を一枚だけ抜き取り、残りは事務所の借賃料のためにデスクの足下に隠してある金庫の中にしまい込む。

 これからたった一枚の紙幣で四人分の夜食を賄わなければならない。

 ぐぅ。虚しい音がお腹から聞こえてくる。今日は随分と動き回った1日だったので、既に胃の方は空っぽである。許されるのであれば、金庫の中にあるなけなしの貯金に手を付けて、事務所の机いっぱいに豪華な料理を並べたい。

 

 

「まぁ、そんなことをしちゃったらこの事務所を手放すことになっちゃうけどね……」

 

 

 そうなれば、また狭いテントの中で過ごすはめになってしまう。あれはそう何度も経験したくはない。

 アルは顎に手を当ててうーんと唸る。昨日は仕事が入らなかったので節約のため闇市(ブラックマーケット)から格安で買ったカップラーメンを四人で分けた。しかし味は最悪だったので、二度と食べるつもりはない。

 となると、また闇市へ出向き、食料を確保するのが手っ取り早いだろうか。当たり外れが大きい闇市の食料はあまり当てにはしたくはないが、現在の経済状況を考えれば頼りざるおえないのが現状。早く大きな仕事を取って、一時的でもこのギリギリの生活から脱却したいものだ。

 

 

「とりあえず、社員のみんなと合流して闇市に行くしかないわね」

 

 

 アルは誰も見ていないというのに、悠然そうに振る舞いながら腰を上げる。コツコツとレザーブーツの靴音を鳴らしながら扉のノブに手を掛けようとする。

 その時だった。

 

 

「アルちゃんどうしよう!」 

「きゃあ! な、何!?」

 

 

 部屋の向こう側から現れたのは小さな少女だった。側頭部でひとまとめにした銀色の髪がさらりと揺れる。

 彼女は浅黄ムツキ。アルが立ち上げた事務所の社員であり、そして同じゲヘナ学園に通う幼馴染みだった。

 アルは驚きのあまりひっくり返りそうになったが、彼女のプライドによって踏みとどまることができた。

 ゴホン、とわざとらしく咳き込み、いつもの調子で腕を組み問いかける。

 

 

「一体何があったのかしら?」

 

 

 アウトローな社長とたるもの、常に冷静で居続けなくてはならない。

 そう、何があっても冷静に――――。

 

 

「カヨコちゃんが猫になっちゃった!」

 

 

…………猫?

 

 

「ど、どういうことなのぉ!!?」

 

 

 ムツキの突拍子も無い予想外な発言に、アルは口をあんぐりと開け大声を上げてしまった。

 

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