便利屋68の参謀役、猫になる   作:さばちゃそ

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4話「不思議な薬」

 ムツキは抜き足で机に向かい、薬が入った瓶を手に取る。そのままアルへ渡そうとするも、隣にいるカヨコの冷たい視線が足を止めさせる。

 

 

「アルちゃーん。もう私達、カヨコちゃんから敵判定を食らっちゃってるみたい」

「あんな感じで追いかけ回してたらそうなるわね。じゃあそこで何か瓶に書いてあるか見て頂戴(ちょうだい)

 

 

 こくこくと頷いたムツキは瓶の全体を余すことなく見つめる。

 

 

「うーん、何これ……?」

 

 

 ムツキは不思議そうに顎に手を添えて(いぶか)しむ。

 瓶の裏には『ぼく様特性新霊薬 願望通りになる薬』とペンで記載されていた。いかにも怪しい文字である。それをアルに伝えると、やはり同じような顔をした。

 

 

「何でそんな怪しい薬を持ってたのよ……。それにしても、願望通りになる薬ねぇ……」

 

 

 アルは心地よさそうに目を閉じ、じっとしているカヨコを見下ろす。猫になるというのが、彼女の願望だとでも言うのだろうか。

 

 

「にゃあ」

「うん? どうしたのかしら」

 

 

 突然起き上がったカヨコは、今度は自分の体をキョロキョロと見渡す。そして何をするかと思えば、突然パーカーを脱ぎ始めた。

 

 

「ちょっと! ダメよ!」

 

 

 突如脱衣を始めたカヨコに驚きながらも、パーカーの(すそ)咄嗟(とっさ)(つか)み止めさせようとする。だがそれでも鳴き声を上げながら暴れだしてしまい、軽い身のこなしでその場から跳び跳ねた。

 

 

「猫だから服が邪魔なのかしら!? でももう、これ以上はまずいわ! ハルカ! ムツキ! 総動員で捕まえにいくわよ!」

 

 

 鼻息を荒らげながら、身に付けている衣服を次々と脱いでいくカヨコ。このままでは全てをさらけ出しかねない状況だ。

 ついに下着姿となってしまったカヨコを捕らえようと、指示を出して三人で取り囲む。

 

 

「カヨコっち……。何とは言わないけど、今日は中々攻めたものを着けてるんだねぇ」

 

 

 ムツキはこの状況を少しだけ楽しんでいるのか、にやにやと小悪魔のように笑う。

 ハルカは目を手で防ぎ、アルは遠慮がちに目を逸らしてた。

 

 

「そ、そうね……。とりあえず早く捕まえて、服を着させて正気に戻さないと。カヨコの尊厳(そんげん)のためにも、ね」

 

 

 アルは最悪の未来を避けるために全力でカヨコの捕獲を試みるも、常人とはかけ離れた動きで翻弄(ほんろう)されてしまう。いくら中身が猫になってしまったとはいえ、本人自体のの身体能力が高くなければこうはならないだろう。己の頭脳を生かす知略家の印象を持っていたが、どうやらその認識は改めなければならないようだ。

 

 

「はぁ……はぁ……ダメね、捕まえれる気配がしないわ」

「か、カヨコさんってあんなに動けたんですね」

「普段は実力を隠してたってやつ? かっこい~って言いたいところだけど、こんな形で分かっちゃうなんてねぇ?」

 

 

 三人は膝に手をついて肩で息をする。狭い部屋の中なのだが、触れることすらままならない。

 対する本人は()ました顔で立ち尽くしている。少しも息が乱れていない所をみると、まだまだ余裕そうである。

 アルは汗を額に浮かべる。このまま続けていても、きっと三人では彼女を捕らえることは難しいだろう。

 ここはもう、別の手を使う必要がある。

 

 

「……先生を頼るべきかしらね」

 

 

 アルはぼそりと呟いた。

 

 

「もしかしたら、先生ならあの薬のことも知ってるかもしれないね。あの薬、どこかの生徒ちゃんが作ったような感じがするもんね~」

 

 

 ムツキはそう言いながら気だるそうに欠伸を浮かべるカヨコの隙を狙って飛び付く。しかし、軽くいなされてしまう。

 

 

「もぉ! カヨコっちズルすぎ!」   

 

 

 アルは苦笑いを浮かべ、羽織っているコートのポケットに入れているスマートフォンを取り出した。モモトークというSNSアプリを開き、画面を下にスクロールし目的の人物を見つけたのかピタリと止めた。

 その人物は、連邦生徒会の派生部署である連邦捜査部『シャーレ』に所属しており、生徒達からは先生と呼ばれている者だった。学園都市キヴォトスに無数存在する学園の支援をしたり、時には起こった問題を解決するために日々奔走(ほんそう)しており、自分達ともいくつか接点があった。 

 基本的に『先生』のスタンスは困っている生徒達を助けるためには即行動してくれる奇人であり、学園には所属しているものの学園生活を営むことはせず、個人事業主として学園外で事務所を構えている自分達にすらも生徒として手を差しのべてくれる稀有(けう)な存在である。

  

 アルは早速通話ボタンを押し、スマートフォンを耳に当てる。しばらく待機音が鳴る。待っていると、通話が繋がった音が聞こえてきた。

 

 

「先生、ちょっと良いかしら!?」

 

 

 アルの肉薄した声色によって事の重要度を理解したのか、通話先の声が少しだけ低くなる。普段はふざけている時もあるが、この状態になった先生は非常に心強い。

 アルは早速カヨコの現状と謎の薬について話した。もちろん今彼女が目も当てられない状況になっているのは隠しているが。

 

 

『なるほど……。その謎の薬について、おそらくだけど私はその薬を調合した生徒を知っているよ』

「ほ、本当なの!?」  

 

 

 流石は先生である。アルはムツキと視線を合わせ、お互いこくりと頷く。

 

『うん。それと私は丁度ゲヘナ学園での用事を済ませてきた所だから、今からそっちに向かうよ』

 

 

 何とそれは吉報である。先生がここに来てくれれば非常に心強い。 

 だが――――。

 

 

「そ、それはありがたいのだけれど、今事務所に来るのはちょっと……」

 

 

 チラリとカヨコに視線を向ける。

 現在服を着ていない状態だ。これで先生を呼ぶには色々な問題が生じてしまう。

 どうしようかと戸惑っていると、ひょこりとムツキが隣に姿を現し、代わりに会話を始めた。

 

「じゃあ、それなら先に薬について教えてほしいなぁ。今先生が来ちゃうと社会的な問題になっちゃうんだよねぇ」

『この声は……ムツキ?』

「そうだよ~。久しぶりだねぇって話したいところだけどさ、思ってるよりもヤバそうなんだよね。この薬って時間経過で治るならいいんだけど、場合によっては手遅れになるのもあるよね。このままずっとカヨコちゃんの中身が猫になっちゃったら私、この薬の開発者のこと許せなくなっちゃうなぁ?」

『……そうだね。とりあえず生徒に薬の情報を聞いてくるから、カヨコをその事務所に留めておいて欲しい。その状態で外に出てしまうのが一番危険だからね』

 

 

 的確な指示を出した先生は『頼んだよ』と激励(げきれい)を送り電話を切った。

 奇想天外な問題に対しても驚くことなく、冷静な判断を下した先生に対し、アルは満足そうに頷いた。

 

 

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