便利屋68の参謀役、猫になる   作:さばちゃそ

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6話「カヨコを捕まえろ」

 

『なるほど……。私も今そっちに向かってるから(のち)に合流しようか。便利屋68の事務所周辺の地図情報は調べておくから、君たちはそのまま捜索を』

 

 

 現在の状況を説明すると、先生は冷静に指示を出してくれた。この余裕こそが『大人』という存在なのだろう。

 感心するアルだったが、今はそんな場合ではないと首をかブンブンと横に振る。アルは指示通りにムツキとハルカと手分けをしてカヨコの捜索を始めた。

 

 

 ビル間の狭い路地を通り抜けながら、アルは先生と電話を続けていた。その内容は謎の薬についてだった。

 

 

『カヨコが誤飲してしまった薬は、やっぱり私の知っている生徒が調薬したものだったよ。どうやら催眠薬の一種らしい。別の薬を作っている際に偶然できた産物で、その作用は己の内なる願望を実際に達成させるべく、精神に強く働きかけることにより自己催眠状態になるそうだよ。つまりカヨコは猫になりたかった、というよりかは猫になることによって己の願望を果たしたかった、ということになるね』

「なるほど、そういうことだったのね……」

 

 

 アルは顎に手を触れてカヨコの行動を思い出す。猫になったカヨコが求めていることとは、一体何のことだろうか。ここ最近の彼女の言動は特に変わってはいない。仕事中も事務所で休憩している時も普段通りである。強いていうなら、数日間はまともな食事を取れていないという所くらいだ。それが強いストレスになっていたとしても、やはり猫になるという部分と噛み合っていない。

 

 

「猫になってまでしたいことなんてあるのかしら」

『現状は私にも分からない。けどとにかく、その願望を達成することができたら催眠から自然に解けるらしいから、色々試してみないとね』

「そうね。まぁまずは彼女を見つける所からなんだけれども……」

 

 

 スマートフォンが震える。どうやらムツキからの連絡のようだ。その内容とは、現在後ろ姿を追っている最中だということだった。

 

 

「ムツキ室長が発見してくれたみたいよ。それに先生のサポートもあれば百人力ね。とりあえずカヨコ捕獲作戦を決行するわね!」

 

 

 アルはムツキが送信した現在地を確認しそこへ向かう。 

 しばらくすると騒ぎが聴こえてきた。そして遠くからムツキの声が耳にはいってくる。

 アルはその声がする方へ駆け寄っていく。幾つかの曲がり角を過ぎたところで視線の先にムツキが走っている姿が見えた。   

 

 

「待て待て~! カヨコっちぃ!」

 

 

 ムツキの楽しそうな声が聞こえる。

 もう一度スマートフォンから通知が来ると、どうやら狭い道に誘導させて、最後に挟み撃ちにするためにハルカがとある場所で待機してくれているとのことだった。

 

 

「流石は私が信頼する部下達ね」

  

 

 アルは嬉しそうに口端を上げる。  

 そしてムツキに追い付いたアルは、二人で合流ポイントに向かわせるために追い込み作業を始めた。ムツキが追いかけ、アルは愛用の銃を使い遠距離から物品を狙撃することにより道を一時的に封鎖させ道を制限していく。  

 そして共有した地点へたどり着くと、細道の奥の方でハルカが待ち伏せていた。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 カヨコもそれに気づいたのか、後ろに後退しようとする。しかしそこにはムツキとアルが、したり顔で立っていた。

 

 

「さてと、観念しなさい。ふぅ、それにしても今日は出歩いてる人が少なくて助かったわ」 

「ふっふっふ~。今度こそ逃げられないね?」

 

 

 人がギリギリ通り抜けられる裏路地であり、横のビル壁は絶壁のため登ることもできない。これでようやくカヨコを捕らえることができる。薬自体の効果はその願望を叶えると消えていくらしい。先生と合わせて解決策を見つければ、きっとどうにかなるだろう。

 アルは一歩前に出る。他の二人も少しずつ近付いていき、捕らえにかかる。

 しかし、カヨコはそれでも捕まる気はないのか、ハルカの方へ身体を向け、全力で駆け出した。   

 

 

「ハルカ! そのまま押さえ込みなさい!」

「はい! カヨコ課長すみません!」

 

 

 ハルカは精一杯両手を広げて突っ込んでいく。正面衝突の力比べではハルカに敵うものはいない。

 ――――そう思われたが、またもや左右の壁を利用しながら飛び越える、という神がかりな動きでハルカの背後に跳んでいってしまった。 

 

 

「ええっ!? 一体どうなってるのよ!」

「も、申し訳ございません!!」

 

 

 あまりの逃走劇に、アルは白目を向いて倒れそうになった。このままでは追いかけっこがまた始まってしまう、もうすでに空腹で限界ギリギリだ。それでもここで逃がしてしまい見失ってしまったら一貫の終わりだ。 

 

 

 まずい。カヨコが行ってしまう―――。

 アルは手を伸ばし、彼女の名前を呼ぶ。しかし、足は止めてくれない。それに対し三人全員、空腹と疲労で動けない。     

 万事休すかと思われた。その瞬間だった。   

 

 

「カヨコ。もう追いかけっこは終わりだよ」 

 

 

 現れたのは、誰もが見覚えのある人物だった。スーツ姿に純白の白衣。そして落ち着いた優しい声色。

 

 

「「「先生!!!」」」

 

 

 先生は路地裏の出口の前に立ち、走り寄って来る彼女に対してにこりと微笑みかける。なんと、ただそれだけでカヨコは速度を落とし、先生の前で立ち止まってしまった。 

 

 

「……みゃあ」

「なるほど。確かにこれは猫だ。うん? どうしたのかな?」

 

 

 小さく鳴き、先生の足元に座り込む。先生は苦笑いを浮かべながら、己の羽織っている白衣を脱いで彼女の肩にかける。その行動を気に入ったのか、カヨコは黙ったまま頭を差し出した。

 

 

「うーん。こういうこと……かな?」

 

 

 不思議な行動に戸惑いつつも、先生はその大きな手の平でカヨコの頭を優しく撫で付ける。とても心地良さそうな

顔をしていた。

 

 

「カヨコちゃん、先生に撫でられて嬉しそうだねぇ」

 

 

 合流したムツキはどこか嬉しそうな顔をしている。

 

 

「そうね。でも、ここまで大人しくなるものね。さてと、先生も来てくれたことだし、催眠を解く条件を探しましょうか」 

 

 

 アルはまだこの騒動が終わっていないことを知っている。早く彼女を猫から元に戻してあげなくてはならない。  

 そう思っていた瞬間、伏せて撫でられていたカヨコははっとした表情で起き上がった。

 

 

「――――こ、これはどういう状況なの……!?」

 

 

 カヨコは驚愕といった表情を浮かべる。

 そして、そんな彼女の反応に対し、アル達の方も驚きで一瞬フリーズしてしまっていた。

 

 

「な、治ったわ!!? どういうこと!?」

 

 

 

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