便利屋68の参謀役、猫になる   作:さばちゃそ

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最終話「便利屋68の日常」

「社長。それに皆……。私は一体……?」

 

 

 どうやら状況を呑み込めていないようだ。

 おそらく、猫化していた最中の記憶はないのだろう。不可解そうに周囲を見渡すカヨコはすぐ横にいる先生の顔を見てなにかを察した。

 

 

「そうだ、私は水と薬を間違えて飲んで……。うっ、そこからなにも思い出せない……」

「まぁまぁ。思い出さなくて正解だと思うよ~?」

 

 

 ムツキの言う通りだ。自分が催眠によって猫になり、下着姿で外を走り回ったなんて知ってしまったら、ひどくショックを受けてしまうかもしれない。

 

 

「私は何をしでかしたの? 薬で記憶が無いのと、先生がわざわざ私達の所に出てきてるのを考えるとよっぽどの事なのよね」 

「あーっとそれは……」

 

 

 アルは何て伝えたら良いか困ってしまう。言葉を濁していても|聡明(そうめい)な彼女であれば、すぐに違和感に勘づいてしまう。

 

 

「ん? ちょっと、なんで私……!」  

 

 

 カヨコは白衣の下が下着姿になっていることに気づき、体を小さく丸める。

 

「えっとそれはかくかくしかじかで……」

 

 

 アルは答えようとするが、事実を隠して説明するには難しく、しどろもどろになってしまう。

 

 

「私が説明しようか。カヨコが誤飲してしまったのは、願望を果たすために自らを催眠状態にかける薬だよ」

「何それ……?」

「か、カヨコ課長。まずはこれを」

 

 

 いそいそとやって来たハルカは背負っていた鞄の中から、カヨコがオフィスで脱衣した服を取り出して渡す。   

 そして先生を一瞬だけ遠くにやり、着替えだけ済ませてから話に戻る。

 

 

「――――という感じで、自分がしたい、されたいと思っていることができるまで催眠状態にかかる薬を飲んだんだ」

「それで私はこんなことに?」

「そうだね。でももう催眠は解除されているようだよ。偶然何かの行動がトリガーとなったみたいだね」

「……そういうことだったのね」

 

 

 カヨコはアルが思っていたよりも普段の冷静さを失わず、淡々と己の現状を把握していた。

 

 

「所で結局、カヨコっちの願望ってなんだったんだろうねぇ」

 

 

 ムツキはにやにやと小さく笑っている。

 確かにカヨコの願望の内容を知れるのであれば知りたい。

 しかし、カヨコは何かを言いかけた所で口を閉じてしまった。

 

 

「まあ……それは守秘義務かな」

「えーっ、いいじゃんそれくらい~!」

「まぁ、とにかく事も終わったようだし、何か食べに行きたいとかあるかな? みんなの分もそれぞれ頼んでいいからね。それにほら、まだ夜ご飯食べてないだろうし」

 

 

 夜ご飯というワードを聞いた瞬間、一気に(よだれ)が溢れだしてしまった。そういえばまだ夜ご飯を食べていないのだ。

 ぐう、と全員がお腹を空かせる。

 

 

「この時間帯ならラーメンが一番空いているのかな?」

「「ら、ラーメン……!」」

 

 

 素晴らしい響きである。特にムツキとハルカは先生の提案を聞くと目をキラキラと輝かせた。

 

 

「そうと決まればみんなでいこうか」

「やったー! 流石先生だね!」

「もうお腹ペコペコですぅ」

 

 

 はしゃぎ出す二人をよそに、社長という立場のアルは先生の耳元に口を近付けて小さな声で感謝を伝える。

 

 

「丁度お金も無かったし、正直ありがたいわ。次の報酬でお金が工面できたら返すわね」

 

 

 先生はそんなの別にいいのに、と言ってくれたが、これは貸し借りはきっちりとしないといけないという信条なのである。

 

 

「じゃあみんな、今日は我が経営顧問のお言葉に甘えて、ラーメンを食べに行きましょうか!」 

 

 

 アル達はこうして先生の計らいにより、いつもより豪華な夕食に胸を……いや、空っぽの胃を踊らせた。最寄りのラーメン屋の案内のために先に進む先生のすぐ後ろには、もう我慢が限界のムツキとハルカがぴったりとくっついている。その少し後ろから見守るアルとカヨコ。

 カヨコは、先生の後ろ姿をじっと見つめている。その眼差しに気付き、横目で見ていたアルは少し思案した後、なるほどね、とニヤリと笑った。

 

 

「ねぇカヨコ。もしかしてあなたの願望って、先生に会うこと、だったの?」

「うん? まぁ、そう……だね」

「……?」

 

 

 反応が薄い。核心を着いたと思ったのだが、カヨコは全く表情を崩さなかった。

 

 

「先生に貸した音楽プレーヤーをそろそろ返して貰おうかなって思ってたから」

「あ、ああ。なるほど、そういうことだったのね!」

「……それならもし、社長があの薬を飲んでたらどうなってたんだろうね?」

 

 

 聞き返されたアルはうーんと唸る。

 日頃の願望はアウトローな生き様をみんなに見せることだろう。

 

「そうねぇ。私が飲んでたら……ってあれ? いつの間にか話をすり替えられてないかしら?」

「ふふ。まぁ、とにかく、今日はありがとう」

「ええ。社員の問題はね、社長が解決するものなのよ」

 

 

 アルはそう言いながら、カヨコが元通りになって本当によかったと再び安堵する。自分が立ち上げた何でも屋の事務所である便利屋68に所属している社員は誰が欠けても駄目なのだ。全員がそれぞれ重要な役割を持っており、カヨコは特にこのチームの頭脳として貢献して貰わなければならないのだ。

 

 

「アルちゃーん! カヨコっちー! 早く来ないと置いてかれちゃうよー!」

 

 

 ムツキが呼んでいる。

 

 

「もう待ちきれないみたいね。私達も行きましょうか」

「うん、そうだね」

 

 

 今日は大変な1日だった。しかし、これは普段、自分達が送っている日常の、ほんの一欠片(ひとかけら)に過ぎない。

 これからも、常に危険や理不尽と隣り合わせで生きていくことになるのだろう。だが、それこそが自分達が選んだ道なのである――――。

 

 

 

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