取りあえず、コーウェンとの話は一段落する。
連邦軍再編計画とガンダム開発計画については、まだ正式に話が決まった訳でもないらしいので、これから色々と行動をする事になる訳だが……その件についてはルナ・ジオンとの交渉次第だろう。
共同開発に合意していれば、俺もシャドウミラーを率いる立場として、ルナ・ジオンに配慮するように言ったかもしれないが。
そうしてコーウェンとの話が終わると、本来なら部外秘の話題について話していたので疲れて眠っていた――事にしてある――ゴップとの話になる。
「それで、ゴップとの件だが……ジーラインだったが。そのMSはもうここにあるんだよな?」
「うむ。既に運び込んでいる。ただ、予備機については……いや、持ってきた機体が問題ないのなら、それで構わんか」
「予備機について? 何かあったのか?」
紅茶を飲み、視線を逸らしながらそう言うゴップ。
明らかに何かを誤魔化してそうな様子をしているのを見て、そう尋ねる。
するとゴップはこれ以上誤魔化すのは無理だと判断したのか、紅茶のカップをテーブルに置いてから口を開く。
「今回、ジーラインをアクセルに譲渡するのは、表向きの理由は色々とあれども実際には強硬派の行動が影響している。……いや、そもそも普通に考えてアクセルのような立場の者が1人でMSに乗って宇宙にいるというのがおかしな話なのだが」
「その辺は色々と常識が違うとしか言えないな」
UC世界においては、地位の高い者が最前線に出るというのは……あ、でもレビルの件もあったか。
もっともレビルの件ではそれが裏目に出て、デギン諸共に殺されてしまったんだが。
「異世界だとそのような世界もあるのだろうね。……とにかく、渡せなくなったのは予備機で、元々アクセルに譲渡する機体に問題があった場合の物だ。そういう意味では、特に問題はないだろう?」
「そうだな。ただ……どうせならお土産をもう少し欲しいな」
「……何が欲しい?」
自分が招待したベルファストでジオン軍残党の襲撃があったという事もあってか、ゴップは即座に断ったりはせず、そう聞いてくる。
もっともそれでもこっちの要望が大きければ……それこそ、ガンダム開発計画の機体を寄越せとかそういうのだったら、即座に断るだろう。
とはいえ、俺は別にそういうのを要望する気はない。
俺が欲しいのは、もっと別の物だ。それは……
「実はペズンからハワイに降下する際、ヤザンに護衛をして貰った。それはゴップが命じた事だったんだろう? 助かった」
「構わんよ。強硬派が妙なちょっかいを出す可能性があると思えば、そうした方がいい」
「ヤザンの怖さは強硬派も知ってるか」
というか、多分同じ連邦軍だからこそヤザンがどのような存在なのかを十分に理解しているのだろう。
同じ連邦軍に所属していても、ヤザンは敵に回せば躊躇なく殺しに来るという怖さがある。
そして実際、その怖さは決して間違いではないだろう。
「それで、そのヤザンからジム・コマンドについて面白い話を聞いてな」
「ジム・コマンド? 何かあったか?」
ゴップが俺の言葉にそう返す。
惚けているのか、それとも本当に気が付いていないのか。
コーウェンの方は俺が何を言っているのか理解したらしく、一瞬真剣な表情を浮かべる。
無理もないか。
アムロの強さを考えれば、その回避データというのは決して侮れるものではない。
勿論データしかない以上、本物のアムロの回避能力には及ばないだろう。
だがそれでも、アムロの能力の半分でも発揮すれば、それはかなりの回避能力になる。
異名持ちやエースならともかく、新人とかならそんな敵と戦った場合は対処不可能だろう。
雑魚狩り専門として考えれば、かなり便利ではある。
もっとも、あくまでも回避データでしかない以上、相手を撃破するには攻撃を命中させる必要があるが。
そうなると、当然だがパイロットにも相応の技量が必要となる。
「アムロの回避データを使ったジム・コマンド。それを何機か欲しいな」
「ああ、それか。……いいだろう。今回の件はこちらが迷惑を掛けている。それを思えば、そのくらいは構わん」
「ゴップ大将、本当によろしいので? ジーラインの件さえ、あれだけ騒動になったというのに」
コーウェンが心配そうに言うが、ジーラインの件でも騒動になっていたのか。
それが実際にどれだけの騒動だったのかは分からないが。
ちょっとした騒動程度なのか、それとも連邦軍全体で会議をする程なのか。
コーウェンが『あれだけ』と表現したのだから、ちょっとしたといった感じではないと思うけど。
とはいえ、ゴップの影響力があればその騒動についても問題なく対処出来たのだろう。
というか……多分だが、その騒動を起こしたのは強硬派の可能性が高い。
そうなれば、ジーラインを渡す原因になったのが強硬派である以上、ゴップに有利であってもおかしくはない。
まぁ、強硬派にも色々と派閥があるらしいから、俺にちょっかいを掛けてきた派閥と、ジーラインを渡すのを反対した派閥では違うのかもしれないが。
「構わんよ。ルナ・ジオンとの……いや、シャドウミラーとの関係は良好にしておきたい。新型とはいえ、MSでそれが出来るのなら問題はないだろう。そしてジム・コマンドという、旧型のMSをつけるくらいなら大将としての権限でどうとでもなる」
「……分かりました。ですが、ジム・コマンドを、それもアクセルが欲している仕様の物はすぐに用意出来るとは……」
「アクセルが欲してるのは、宇宙用だったな?」
コーウェンの言葉に、ゴップがそう聞いてくる。
ちなみにジム・コマンドはちょっと珍しいMSで、コロニー内部で戦うように設計された仕様と宇宙で戦う仕様がある。
その2つの違いは、細かいところなら色々とあるが……一番大きな違いは、やはりビームライフルの有無だろう。
コロニー内部ではコロニーを破壊しない為、威力の高いビームライフルではなく実弾のマシンガンを装備している。
それに対して、宇宙仕様は普通にビームライフルを装備しているのだ。
それが一番大きな違いとなる。
「アムロの回避データが入力されているのがあるのなら……いや、コロニー仕様と宇宙仕様の違いを確認してみたいし、どっちも希望する」
「欲張りだな」
「そのくらいの迷惑は連邦軍には掛けられている筈だが?」
そう言うと、ゴップも反論はしない。
欲張りだという言葉も、一応言ってみただけといったところか。
実際に今回の件だけではなく、1年戦争時代から連邦軍の強硬派には迷惑を掛けられているのだから。
とはいえ、その度にレビルからMSを貰ったりしていたが。
そういう風に考えれば、こっちの貸しはそこまで多くはない。
それこそジム・コマンドを数機貰ってその貸しを綺麗に清算出来るのなら、連邦軍……というか、ゴップにとっても悪くない話だと思う。
「そうだな。ではその要望を聞く為にこちらの要望も1つ聞いて貰えないだろうか?」
「……そうなると、また貸しが1つになるが?」
「いやいや、この件についてはそちらも負担はない。それどころか、寧ろジーラインを使う上で悪くないと思うのだがね」
「具体的には?」
「簡単な事だ。もう既にアクセル代表は知ってるかどうかは分からないが、このベルファストはジオン軍残党に襲撃された。それを撃退したのがファントムスイープ隊だ」
「ああ、その辺については話を聞いている。北米を解放したという英雄が率いる遊撃特務部隊らしいな」
このファントムスイープ隊については、俺をここまで案内した軍人から話を聞いていたので、既に知っていた。
だが、ゴップは俺がファントムスイープ隊について知っていても、特に驚いた様子を見せずに口を開く。
「その通りだよ。私もここに来る際に色々と調べたが……まぁ、不幸な出来事があったらしいが、本人はそれでも立派に有能な軍人として働いている」
不幸な出来事というのが、実際にどういうものなのかは分からない。
ただ、ゴップは特に表情を変えるような事はなく、コーウェンは不愉快そうな様子を見せているのを考えると、何となく予想は出来る。
本人のミスとかそういうのではなく、上官の無能による何かがあったとか、そういう感じなのだろう。
あるいはその上官というのが強硬派という可能性もあるか。
とはいえ、その件についてはゴップの様子を見る限りでは俺が聞いても特に何かを答えたりはしないと思う。
だとすれば、この件については無理に聞こうとしても意味はないだろう。
「それで?」
なのでわざわざその件について話しても仕方がない以上、話の先を促す。
「話す前に、ファントムスイープ隊について少し勘違いを正しておこう。北米の英雄と呼ばれる人物がファントムスイープ隊に所属しているのは事実だが、その人物が部隊を率いている訳ではない。実際にはマオ・リャン少佐という人物が率いている。ユーグ・クーロ大尉はエースではあるが、部隊を率いている訳ではない」
「そうなのか? 俺が聞いた話だと、そのユーグというのが部隊を率いているって話だったけど」
「北米の英雄と呼ばれるだけのエースだ。その人物が部隊にいて、しかも大尉という階級なのを考えると、そう勘違いするのは珍しい話ではないのだろう」
そういうものか。
いやまぁ、それだけの有名人であれば、そう誤解をしてもおかしくはないのか?
勿論、遊撃特務部隊に所属していたり、関わる事が多い相手ならそんな誤解はしないだろうが。
だが、そこまで親しい相手ではなく、しかも俺に説明した軍人の様子から、明らかにユーグを尊敬しているように思えた。
そう考えれば、勘違いしてもおかしな話ではない。
あ、でもそう言えば1年戦争の時に少し一緒に行動したような気がしないでもない。
1年戦争ではジオン軍だったり、連邦軍だったり、ルナ・ジオン軍だったりを行ったり来たりしてたので、アムロとかシャア……とはいかないまでも、モンシアとかヤザンみたいに印象が強くないと忘れたりするんだよな。
「そうなのか? 分かった。……とはいえ、幾ら精鋭であっても俺と関わりのない部隊だ。そこまで詳しく事情を説明しなくてもいいと思うが」
「いや、私からの頼みについては、遊撃特務部隊についての話が関わってくる。……ユーグ大尉は間違いなくエースと呼ぶに相応しい人物だ。だが同時に、エース止まりでしかない」
「つまり、異名持ちではないという事か?」
俺の言葉に頷くゴップ。
だが、それは別にそこまで気にするような事ではないだろう。
そもそも異名というのは、ジオン軍において使われてたものだ。
……白き流星とか、白い悪魔とか呼ばれているアムロであったり、他にも踊る黒い死神とか、連邦軍にも異名持ちはいるのだが。
ともあれ、エースでも異名を持たないという者はそう珍しい話ではない。
ルナ・ジオンにおいても、ソロモンの悪夢の異名を持つガトーと互角に戦えるノリスは異名を持たないしな。
だからといって、ノリスがガトーよりも弱い訳ではない。
年齢的にガトーの方が若いので、身体能力的な意味ではガトーの方が上かもしれないが、ノリスはその分経験がある。
月の大魔王なんて異名を持つ俺が言うのもなんだが、異名持ちになれるかどうかというのは、実力もそうだが運の要素も大きい。
そんな訳で、ユーグが異名持ちではないからといって弱いとは限らない。
「そうだ」
「……エースであれば十分だと思うんだけどな」
「それはそうだが、やはり異名持ちというのは戦いにおける影響力が強い。それはアクセル代表が分かっているのではないか?」
「それは否定出来ないな」
実際、1年戦争中にシャアが出たと知った時、連邦軍の士気はかなり下がった。
そういう意味では、異名持ちのメリットは大きい。大きいのだが、それはつまり異名持ちが撃墜されるような事があれば味方の士気が大きく下がるという事を意味している。
異名持ちとして有名なだけに、敵には標的にされたりもするだろう。
もしくは味方には実力以上の戦果を期待されたりもする。
そういう意味では、ちょっと腕がいいだけのパイロットが異名持ちになったりすれば、害悪でしかない。
そういう点を考えると、色々と大変だったりするのだが。
「けど、そのユーグというのは異名持ちになれるだけ……いや、なってからもやっていけるだけの実力はあるのか?」
「分からん。だが、実績から考えると問題はないと思う。……また、さっき少し話題に出したが、ジーラインの予備機。これをユーグ大尉に渡そうと思っている。ジオン軍残党の動きが活発なので、それに対処する為の戦力は必要なのでな」
「それで、俺に何をして欲しい?」
「アクセル代表にはユーグ大尉と模擬戦を行って欲しい。勿論、乗る機体はジーライン。これならアクセル代表にとっても実際に機体を動かしてその性能を体験出来るのだから、そこまで悪い話ではないと思うが?」
ゴップの提案は、実際に悪くない。
同じ機体で戦い、そして相手は腕利きのエース。
ジーラインというMSの性能を確認する意味でも、それなりに有効な手段だとは思えた。
「どうかね? アクセル代表にとっても悪くない話だと思うが」
「今回はゴップの言葉に乗せられてやるよ」
そう言い、俺はゴップの提案を受け入れるのだった。