「アクセル代表……御自分の立場というのを分かっていらっしゃるのですか?」
ノリスが困った様子でそう言ってくる。
ファントムスイープ隊のエースであるユーグとジーラインを使った模擬戦を行うと言ったところ、この反応だった。
「そう言ってもな。実際に今回の件はそんなに悪くない話なんだよ」
「ですが、MSの模擬戦であっても万が一がありますから。……それは私が代わる訳にはいかないのでしょうか?」
「気持ちは分からないではないが、止めておいた方がいいだろう」
ノリスはソロモンの悪夢の異名を持つガトーとも互角に戦えるだけの実力を持つエースだ。
そういう意味ではエースであっても異名を持たないユーグと同じ立場なのだろう。
だがそれでも、今回の件について考えた場合、やはり俺がやった方がいいのも事実。
まず第1に、ノリスは連邦系のMSの操縦に慣れていない。
ルナ・ジオンで使われているMSやMAは、基本的にジオン系だ。
そしてジオン系と連邦系では操縦の癖とかが色々と違う。
連邦系のMSのベースはザクを鹵獲なり買収なりして入手し、それを研究して開発された。
RX計画やV作戦はそれをベースに、そこに連邦軍独自の技術……分かりやすいところでは、関節駆動にフィールドモーターを使ったり、ビームライフルやビームサーベルを装備させたりといった具合にして完成した代物だ。
その辺……特にフィールドモーターの件もあり、操縦感覚はジオン系とそれなりに違う。
勿論それは致命的なものではないし、ノリス程の技量なら乗りこなすのにもそう時間は掛からないだろうが。
俺は1年戦争の時に連邦系のMSにも色々と乗ってるので、ジーラインも問題なく操縦出来るだろう。
性能を完全に引き出せるかと言われれば、すぐには難しいだろうが。
そして第2に、やはり今回模擬戦で使うのがジーラインだから、というのが大きい。
そのジーラインは俺が貰うMSだ。
そうである以上、どうせなら模擬戦は俺が行った方がいいだろう。
ジーラインの操縦性についてとかも、色々と説明しやすいし。
その辺りについて説明すると、ノリスは渋々ながら頷く。
「分かりました。ですが、十分に気を付けて下さい。アクセル代表という存在あってこそのサハリン家であり、ルナ・ジオンなのですから」
「模擬戦だし、そこまで気にする事はないと思うけどな」
もし事故があっても、混沌精霊の俺にとっては問題ないし。
「……一応、何かあった時の為に、私もMSで待機しておきます」
「わざわざそこまでやる必要があるとは思えないけど……まぁ、どうしてもって言うのなら、好きにすればいい」
これが例えば、強硬派が模擬戦を要求してきたのなら、ノリスが心配するのも分からないではない。
だが、今回模擬戦を提案してきたのはゴップだ。
俺との……シャドウミラーとの関係を重視するゴップが、模擬戦にかこつけて俺を殺そうとしたりはしないと思う。
模擬戦の相手のユーグも、話を聞いた限りでは決して強硬派に所属するって感じじゃないみたいだし。
あるいは、ユーグは問題なくてもメカニックとかに強硬派の手先がいて、ペイント弾ではなく実弾を、ビームも威力を模擬戦用ではなく実戦用にしたとか、そういう感じになる可能性は否定出来なかったりするが。
「はい。ではそのように」
「一応、ベルファスト基地には連絡を入れておけよ。でないと、妙な勘違いが起きてしまうかもしれないし」
ノリスがファット・アンクルに乗せて持ってきたのは、グフ・カスタムだ。
つまり、ジオン軍のMS。
そしてこのベルファスト基地はジオン軍残党から襲撃を受けたばかり。
そうなると、ベルファスト基地でグフ・カスタムを見た連邦軍の者達、特に今回の諸々の事情を知らない者達がノリスのグフ・カスタムをジオン軍残党だと判断して攻撃してきてもおかしくはない。
もしくは、実は違っていてもジオン軍を恨んでる奴とか、強硬派の手先が煽るとか。
一時的に協力してた俺が言うのも何だが、ジオン軍は1年戦争でやりすぎた。
毒ガスやコロニー落とし。
この2つが突出しているが、ジオン軍との戦いで死んだ者の家族や恋人、友人といった者達にしてみれば、ジオン軍のMSというだけで許容出来ない者がいてもおかしくはない。
ノリスもその辺については十分に理解しているのだろう。
俺の言葉に素直に頷く。
「分かりました。そのようにしましょう」
そうしてノリスと話をつけると、俺はまずジーラインを受け取る為にゴップに指定された倉庫に向かうのだった。
「なるほど、これがジーラインか」
MSの詳細については知っていたし、その中には映像データも入っていた。
だが、それでもやはりこうして直接実物を見ると、納得するものがあった。
元々このジーラインはアムロの乗っていたガンダムの完全量産化を目指して開発されたMSだ。
ちなみにこのアムロの乗っていたガンダムというのは、そのガンダムの性能だけではなく、アムロが乗って戦っているガンダムという意味らしい。
ただ、その割には外見としてはガンダムよりもジム系といった感じだ。
具体的には頭部が。
ただ、胴体や腕、足といった場所はジムのように簡素な装甲ではなく、相応に手間が掛かっているように思える。
「どうかね?」
ゴップが自慢げに言ってくる。
実際、それだけの性能は持っているのだろう。
とはいえ、当初の目的だったアムロが乗っているガンダムと同程度の性能というのは、さすがにちょっと大袈裟すぎると思うが。
……にしても、ジム・コマンドに入力された回避データの件といい、アムロは大人気だな。
まぁ、アムロが連邦軍最高のニュータイプなのは間違いないし、当然か。
とはいえ、アムロはあくまでも連邦最高のニュータイプであって、UC世界全体でのニュータイプとなると、やっぱりセイラだろう。
他にもコロニー落としを予知したという奇跡の子供達も高いニュータイプ能力を持っている。
ジオンは……ララァがそうだったんだろうけど、今となってはシャアか?
もっとも俺が知ってるニュータイプというにはそう多くはない。
もしかしたら俺が知らないニュータイプとかもどこかにいるかもしれない……というか、ほぼ間違いないだろうし。
1年戦争に関わってしみじみと思ったんだが、明らかにUC世界においては本筋以外に色々とあるだろう。
本筋がホワイトベースの戦いだとしたら、それ以外の面々……ブルーデスティニーだったり、アプサラスだったり、ガンダム4号機5号機だったり。
闇夜のフェンリル隊、外国人部隊、ヴィッシュ達のオーストラリアの件。
……あ、もしかしたら奇跡の子供達とヴィッシュ達は、舞台が同じオーストラリアだった事もあるし、もしかしたら同じ番外編に出ていたのかもしれないな。
ともあれ、それ以外にも俺が気が付かないだけで他に色々とあってもおかしくはない。
そう考えると、このUC世界は色々と特殊なんだろうな。
今まで俺が関与してきた他の世界でも、多分番外編とかあったんだろうし。
何しろペルソナ世界でも、月光館学園の件が終わってから現在進行形でマヨナカテレビの件とか起こってるし。
「いい機体なのは間違いないだろうな。とはいえ、外見よりも大事なのは実際の性能だ。……カタログスペックとかじゃなくて、本当の意味で実際に乗ってみての性能だけど」
カタログスペックだけは非常に高くても、実際に乗ってみればその数値通りの性能を出せないという事は珍しくない。
とはいえ、ゴップがこうして自信満々なのを考えると、そういう心配はいらないんだろうが。
「その辺についても心配はいらない。……君、ジーラインについての説明を」
「は!」
ゴップの言葉に、近くで待機していたメカニックの男が敬礼をする。
かなり緊張した様子なのは、連邦軍の大将という高い……それこそ雲の上の地位にいるゴップからの命令だからだろう。
ゴップ個人をどうこうと思ったりはしていないようだが。
連邦軍の中にはゴップの事を侮ったり、それこそ馬鹿にしているような奴もいるらしいが、このメカニックは違うらしい。
当然か。ゴップによって1年戦争中に補給が滞らなかったのだから。
特に物資の類を必要とするメカニックにしてみれば、補給というのはこれ以上ないくらいに重要だろう。
そんなメカニックにしてみれば、ゴップは感謝し、尊敬する対象であっても馬鹿にする相手ではない。
勿論全てのメカニックがそのように思っている訳ではなく、中には何となく気に入らないという理由でゴップを嫌っている者もいるのかもしれないが。
そんな風に考えている間に、メカニックはジーラインについての説明を始めていた。
とはいえ、大体は既に俺が知ってる内容だったので聞き流していたが。
「そしてこのジーラインは、換装する事によってその性能が大きく変わります。……その、ルナ・ジオン軍にはヅダというMSがあると聞きましたが、そのような感じですね」
ヅダか。
元々はザクとのコンペに負けたツィマット社が、それでも細々と開発を続けていたのだが、開発チームごとルナ・ジオンに身売りしてきたんだよな。
ヅダはコンペしたザクと比べても高性能なのは間違いないが、欠点もあった。
まずコスト。
ヅダ1機を作るのにザクの約2倍……正確には1.8倍だったか? とにかく大雑把にはヅダ1機を作るのにザクが2機作れる計算になる。
ヅダはザクよりも高性能だったらしいが、だからといってザク2機分の性能があるかと言われれば、それは無理だ。
個人的にはエース級が使う為に少数生産するのなら……そう思わないでもなかったが、FS型やS型といったザク系で高性能機がある以上、流用出来る部品から考えてもザクを採用した方が総合的にコストは安くなる。
ルナ・ジオンのように開発に必要な資源とかを気にしなくてもいいのなら、ヅダを量産出来るだろうが。
実際にシャドウミラーとの繋がりを活かして、ルナ・ジオンは1年戦争中にヅダを主力MSとして量産したのだから。
また、メカニックの説明にあったように、ルナ・ジオンで生産されたヅダはザクとのコンペの時とは違って改修されている。
この辺の改修についても、ザクとのコンペでヅダが負けた理由だろう。
何しろコンペで速度に機体が耐えきれず、爆散したのだから。
その点についても当然ながら改修されており、ルナ・ジオン軍で採用されたヅダはスラスターを全開にしても爆散するような事はない。
それ以外にも、メカニックが言っていた換装機能もヅダには付け加えられた。
狙撃用のSP型、強襲型のA型、強行偵察型のE型、そして換装していない標準の状態。
このうち、ガルバルディβとギャン・クリーガーが主力MSとなった今では、強襲型は使われなくなったものの、狙撃用のSP型や強行偵察型は未だに現役だ。
狙撃にしろ強行偵察にしろ、敵と直接戦うという事はない。
長距離から一方的に狙撃をしたり、攻撃をせずに偵察をするという方法が使われる。
特に偵察は、高い機動力を持っているヅダにこれ以上ない程に向いている。
偵察をして危なくなったら全速力で逃げ出せばいいのだから。
「ジーラインの換装はどういうのがある?」
換装については俺もかなり興味がある。
ヅダの例を見れば分かるように、換装によって機体性能は全く違うものになるのだから。
スパロボOGs世界でもそうだし、SEED世界やマクロス世界、X世界……すぐに思いつくだけでこれくらい換装システムというのは使われている。
この中でも特に分かりやすいのは、SEED世界のストライクガンダムだろう。
高機動用、近接戦闘用、遠距離射撃用のストライカーパックを使い、明らかに用途の違うMSとして運用出来る。
これは普通に考えて、非常に強力なのは間違いない。
それを知ってるからこそ、俺はヅダにも換装システムを採用したのだ。
もしかしたらジーラインが換装システムを採用したのは、ヅダの活躍もあっての事かもしれないな。
「現在ジーラインの換装システムとして用意されているのは、標準装備のスタンダードアーマー、軽量化された高機動型のライトアーマー、近接戦闘に特化したアサルトアーマーになります」
メカニックの説明になるほどと頷く。
標準状態はともかく高機動型と近接特化型というのは分からないでもない。
「遠距離からの狙撃型とかそういうのはないのか?」
「一応検討されたようですが、ガンキャノン系列やガンタンク系列のMSがありますので、遠距離の狙撃型は途中で却下されたようです」
これは多分、予算の問題もあるんだろうな。
コーウェンとの話でも、予算については話題に出ていた。
ヅダの狙撃型が機体性能に問題なく使えているように、代わりになるMSがあるのならそれで流用しようという事なのだろう。
遠距離からの援護射撃なら、それこそメカニックが言っていたようにガンキャノン系列やガンタンク系列のMSで問題はないんだろうし。
そうして納得しながら、俺はメカニックからの説明を聞くのだった。