俺からの提案は、結局マオの判断ではどうにも出来ないと思ったのだろう。
ゴップに通信が回されたが……
『アクセル代表が戦ってくれるのは嬉しいが、外聞の問題もある』
「その辺については、別にわざわざ俺が直接戦ったとか、そんな風に言わなくてもいいと思うけどな」
『そうは言われても、アクセル代表のような重要人物が万が一怪我でもした場合、こちらとしても大変な事になるのは分かって貰えると思うが?』
ゴップのこの言葉はそれなりに大きな意味を持つ。
実際問題、この状況で俺が怪我をしたという事になれば、それはベルファスト基地の防衛を頼んだゴップや、場合によってはコーウェンにもそれなりに責任の追及があるだろう。
特に強硬派にしてみれば、ここでゴップやコーウェンといった敵対する相手を排除すると考えた場合、何がどうあっても責める事になるのは間違いない筈だ。
俺の怪我の有無というのは、ゴップやコーウェンを排除したい強硬派にしてみれば、それこそどうでもいい事なんだろうし。
とはいえ、それはあくまでも俺が怪我をした場合の話だが。
「気にするな。俺がジオン軍残党を相手にどうにかなると思ってるのか?」
最悪の場合は、ジーラインが損傷をするかもしれない。
しかし、そのコックピットにいる俺は混沌精霊なので、魔力や気を使った攻撃ではない限り、ダメージを与える事は出来ない。
いやまぁ、ゴップはその辺について知らないのだから、俺が万が一の事になった時について心配してもおかしくはないのだが。
『この映像、残しておいて構わないかな?』
「好きにしろ。俺は自分の意思でこの戦いに介入する。そしてこの戦いで俺が何らかの被害を受けても、それはあくまでも自己責任だ。……これでいいか?」
『まさか、そこまで言って貰えるとは……支援は可能な限りさせて貰うよ』
「そうしてくれ。ああ、それと俺が出るという事は護衛のノリスも出る。ノリスの機体はグフ・カスタムだから、ジオン軍残党と間違わないようにして欲しい。誤射は1発だけでも駄目だぞ」
グフ・カスタムの生産数はそんなに多くはない。
それに元々グフ系は癖の強いMSだ。
エース級が使えば圧倒的な実力を発揮するものの、並のパイロットではその性能を完全に活かす事は出来ない。
そういう意味で、かなり扱いが難しい機体でもある。
……もっとも、グフ・カスタムはグフのフィンガーバルカンのように何故わざわざ内蔵する必要があるのかといった疑問のある機構を廃し、それなりに使いやすいMSとなっているのだが。
だが、グフ・カスタムは通常のグフよりも生産数は少ない。
それでも地上用MSである為、宇宙に脱出したジオン軍にしてみれば水陸両用MSとかと同じように宇宙で使える訳ではないので、地球に置いていった可能性が高い。
それをジオン軍残党が確保しているという可能性は十分に有り得る。
だからこそ、ノリスの乗っているグフ・カスタムがジオン軍残党の機体と間違われて誤射されるのは絶対に避けたかった。
特にここにいるのは連邦軍の軍人で、その中には1年戦争の時に仲間や家族、恋人、友人といった面々を殺された経験のある者がいてもおかしくはない。
あるいはそうではなくても、このベルファストはジオン軍残党に襲撃されたばかりである以上、恨みを持ってる者がいてもおかしくはない。
そういう者達にしてみれば、ジオン軍のMSであるグフ・カスタムに乗っているのを見た時、反射的に撃ったりする可能性は十分にある。
あるいはそういう恨みはなくても、純粋にジオン軍のMSだからジオン軍残党と判断して、誤射してもおかしくはなかった。
『分かっている。その辺についてはこちらでもきちんと配慮するので、心配しないで欲しい』
ゴップのその言葉に、取りあえず信用しておく。
「じゃあ、まずは倉庫に行ってビームの出力を変更して貰う。充電の方は、まだ問題ないだろうし」
相変わらずUC世界のビームライフルは、ビームライフルそのものを充電する必要があるんだよな。
SEED世界とかのように、機体の動力炉からエネルギーを流用してビームが撃てれば楽なんだが。
とはいえ、UC世界のビーム兵器は基本的にメガ粒子を使った代物だ。
将来的にはともかく、今の技術でSEED世界のビームライフルのように使う事は出来ないんだよな。
『分かった。ではすぐに倉庫まで向かって欲しい』
そう言い、一旦通信が切れる。
マオの方も既にこちらとの通信が切れていて、ユーグと共にこの場を離れていた。
俺が倉庫に向かって機体を調整するように、ユーグも同じようにするのだろう。
頭部バルカンの弾倉を入れ替えている時間は……こっちはちょっと難しそうだから、ペイント弾で戦った方がいいか。
模擬戦用のペイント弾だが、実戦で使えないという訳ではない。
敵の頭部……ジオン系MSならモノアイか。そこにペイント弾をぶつけてやればいい。
とはいえ、モノアイがメインカメラだが、それ以外に補助カメラは複数ある。
モノアイが潰れても、その補助カメラを使えば一応外の様子は確認出来るのだが、それでも俺を前に隙を見せれば撃破出来る。
それ以外にも、MSとかには効果がないものの、生身の人間を相手にした場合ならペイント弾でも十分に相手にダメージを与えられるだろう。
「ノリス、一度倉庫に戻るぞ。そこで実戦仕様にビームの出力を変更して貰う」
『アクセル代表、考えは変わりませんか?』
心配そうな様子のノリス。
俺の実力を知ってるんだし、そこまで気にする必要はないと思うんだが。
「ジーラインの性能を模擬戦じゃなくて実戦で試すいい機会だしな」
『……分かりました。では、自分も全力でアクセル代表をお守りしましょう』
「頼む。もっとも、俺よりも自分の事を重視して……いや、ノリスには言うまでもないか」
ノリス程の実力があれば、細かい事について俺がどうこう言ってもあまり意味はない。
それこそ好きに動いて貰えば、それが最終的に最高の戦果となるだろう。
それにグフ・カスタムを乗っているだけに、攻めてきたジオン軍残党も混乱するだろうし。
そんな風に思いながら、俺は倉庫に向かう。
ビームの設定を変えるだけなので、そこまで時間は掛からない。
……やっぱり頭部バルカンの弾倉を実弾に入れ替えるだけの時間はないな。
これは別にメカニックの腕が悪いとか、そういう理由ではない。
単純に、弾倉を替えるのにはそれだけ時間が必要となるのだ。
これが奇襲を受けている時でもなければ、そこまで心配する必要とかはないんだろうが。
そんな風に思いつつ、俺はメカニックに通信を送る。
「設定の方はもういいな? 出撃するぞ」
『了解しました、お気を付けて!』
メカニックに言葉に頷き、ジーラインを立ち上がらせる。
その手に持つシールドは……うん。ユーグのジーラインからの頭部バルカンで食らったペイント弾によって、かなりカラフルな感じになっている。
これは……洗って落とすのって一体誰がやるんだろうな。
ルナ・ジオンやシャドウミラーなら、コバッタとかに任せるんだろうけど。
まぁ、その辺については今は考えなくてもいいか。
とにかく出撃するとしよう。
さっきから、爆発音とかも聞こえてきているし。
俺がいる以上、この基地に被害が出るのは避けたい。
「アクセル・アルマー、ジーライン、出るぞ!」
倉庫にいる面々に俺が出撃すると聞かせるように、そして俺が出る以上は襲撃してきたジオン軍残党は撃退するという意味も込めて、宣言をしてから倉庫を出る。
今の俺の宣言で、ある程度は安心してくれればいいんだが。
そうして倉庫から出ると、そこにはグフ・カスタムの姿もある。
俺が倉庫にいる間、ここを攻撃させないように待っていたのだろう。
「ノリス、出るぞ。襲撃してきた連中を片付ける」
「は」
ノリスは特に反論もなく俺の言葉に頷く。
ノリスにしてみれば、襲ってきたジオン軍残党はかつての仲間なのだが。
もっとも、ノリスの意識はジオン軍よりもサハリン家に仕える者というものだっただろうが。
あるいはサハリン家に従っていたジオン軍が残党となっているのなら、もう少し思うところはあるのかもしれないけど、生憎とそういうのはないらしい。
あるいはあっても、それを表に出していないだけか。
ともあれ、俺のジーラインとノリスのグフ・カスタムは、戦闘が起こっている方に向かう。
ジーラインもグフ・カスタムも、どちらも機動力に長けているMSだ。
すぐに戦場となっている場所が見えてくる。
戦場に到着すると、そこではベルファスト基地に所属するジム改が水陸両用MSと戦っていた。
このジム改というMS、色々と特殊な経歴を持ってるんだよな。
1年戦争中、連邦軍はジムをベースとして多種多様なバリエーションを開発した。
そのジムについても先行量産型、前期型、後期型によって色々と違うらしいし。
多種多様なMSを開発したという点では、ジオン軍と同じだ。
ジオン軍と違うのは、連邦軍の場合はあくまでもジムをベースにしたバリエーション機といった事だろう。
それに比べると、ジオン軍はそのベース機となるMSの方を多種多様に作った。
ただでさえ連邦に比べると国力で圧倒的に劣っているジオン軍にとって、それは致命的だろう。
だが、そうしてジムをベースに大量のバリエーション機が出来た結果、連邦軍の方でも補給や整備の件で混乱が起きたらしく、最終的にはジム改という機種に統一される事になったとか。
ジムⅡじゃないんだな。
ともあれ、ジム改は連邦軍が1年戦争中に使っていたジムと比べると総合的に性能は上となる。
そんなジム改が、ジオン軍残党と戦っていたのだが……
「不利だな」
ジム改のパイロット達は腕利きという訳ではないが、腕が悪いという訳でもない。
だがそれでも、ジオン軍の水陸両用MS……アッガイやゴッグ、ズゴックといった敵を相手に不利な状況に押し込まれていた。
『加勢します』
「ああ、俺もすぐに行く」
そう言い、戦場に突っ込むグフ・カスタム。
普段であれば、グフ・カスタムの特徴的な装備であるガトリングシールドを装備していたりするのだが、遠距離や中距離から攻撃するのではなく、グフの本領を発揮すべく近接戦闘を挑む以上、ガトリングシールドは重量的な意味でも、取り回し的な意味でも邪魔だ。
その為、現在のグフ・カスタムは左手の3連装ガトリクング砲を使って牽制しつつ、右手にヒートサーベルを手に突っ込む。
そんなグフを援護するべく、俺はショートビームライフルを構え……
「そこだ」
その呟きと共に放たれたビームは、自分達に向かって突っ込んでくるグフ・カスタムを見て動揺し、動きを止めたズゴックのコックピットを貫く。
今回攻めてきた水陸両用MSの中で一番厄介なのは、このズゴックだ。
その運動性は、水陸両用MSであるにも関わらず地上でも非常に高く、ザク……それも地上用に改修されたJ型と同様、あるいは上回ると言われている。
そして何より、両腕にあるメガ粒子砲が厄介だ。
実際には統合整備計画によって開発されたE型やハイゴッグなんかがいればかなり厄介なのだが、これらの機体は元々数が少ない事もあってか、幸いこの襲撃に参加はしていない。
……グラブロすら用意しているのだから、統合整備計画の機体を用意していてもおかしくはないと思うんだが。
こっちにとって悪くないので、気にしなくてもいいか。
ともあれ、ズゴックが撃破された事によって、ジオン軍残党の危険度は減った。
勿論ズゴックが1機だけではない以上、こちらとしてもそれなりに注意する必要はあるのだが。
そんな風に考えつつ、俺はこっちに向かってやって来たアッガイに狙いを定めるが……そんなアッガイの前にグフ・カスタムが立ち塞がる。
『我らジオンの機体を鹵獲して使うとは、連邦共め!』
アッガイが外部スピーカーでそう叫ぶ。
ああ、なるほど。この状況を見れば、そんな風に誤解をしてもおかしくはないか。
何しろグフ・カスタムが連邦軍のMSと一緒に自分達と敵対しているのだ。
そして連邦軍はジオン軍のMSをかなり接収している。
そんな中でこうして奇襲があったのだから、そのジオン軍のMSを使って襲撃してこないとも限らない。
アッガイのパイロットがそう判断してもおかしくはないが……
『貴様がそう思うのであれば、そう思っておけばいい。だが……私は自らの使命を全うするのみ!』
ノリスが相手と同じく外部スピーカーで叫ぶと、ヒートサーベルを手に敵との間合いを詰める。
そんなグフ・カスタムに向かってアッガイは右手のメガ粒子砲を向ける。
アッガイは腕部は換装可能で、メガ粒子砲であったりミサイルであったりを使えるようになっているのだが、この場合はメガ粒子砲を使えるらしい。
だが、グフ・カスタムはその射線軸上から素早く回避しながら突っ込み、ヒートサーベルの一閃によってアッガイのコックピットを切断する。
同時に、そんなグフ・カスタムの隙を突くかのように攻撃しようとしたゴッグのコックピットが、俺のジーラインの撃ったビームライフルによって貫かれるのだった。