ファントムスイープ隊というのは、ちょっと変わった部隊だ。
いや、実際にはそう変わってないのかもしれないが。
ただ、俺のイメージする部隊となると、どうしてもアークエンジェルやホワイトベースといった印象になるので、母艦となる軍艦にMS部隊が所属していて、それで行動するといった感じになるというのが普通だと思っていた。
ガンダム世界だけではなく、他の世界でも大体が似たような感じだったし。
特にファントムスイープ隊の目的はジオン軍残党を捕縛するなり撃破するなりする事だ。
どこにジオン軍残党の拠点があるか分からない以上、そういうMSの母艦は必要だと思ったんだが……基本的に拠点となるのは連邦軍の基地を間借りする形になっていた。
そんな訳で、現在ファントムスイープ隊はミデアでベルファスト基地からインドシナ半島の基地にやって来たところだった。
「ムウ特務少佐、機体は私達と一緒の運用で構いませんね?」
基地に到着すると、マオがそう聞いてくる。
その言葉には言外に俺を特別扱いしないと、そういう意味が込められていた。
それについては俺も特に異論がないので、素直に頷いておく。
「それでいい。ああ。ただジーラインはスタンダードアーマーじゃなくてライトアーマーに換装しておいて欲しい。基本的に俺は遊撃隊として行動する以上、機動力は必要だし」
ファントムスイープ隊と行動を共にするにあたって、基本的に俺はマオの指揮下にはない。
ただ、特に何か理由がない限りはマオの命令……というか、要請を聞く形になるが、どちらにしろ基本的に俺は1機での遊撃隊扱いとなる。
1機なのに遊撃隊というのはどうかと思うけど。
ともあれ、そうして遊撃隊として活動する以上、機動力は高い方がいい。
ジーラインのライトアーマーは、高い機動力を持ち……そしてこれは意外なのだが、実は攻撃力という点ではスタンダードアーマーを上回っている。
スタンダードアーマーが標準装備するビームライフルは、ショートビームライフルで普通のビームライフルと比べて威力に劣る。
それに対して、ライトアーマーのビームライフルはヘビーライフルという狙撃用の高出力ビームライフルだ。
……もっとも、狙撃用という事で普通のビームライフルより大きく、取り回しはショートビームライフルに劣るんだが。
基本的にライトアーマーというのは高い機動力を有するジム・ライトアーマーのコンセプトをベースに開発されたらしいが、ジム・ライトアーマーの場合は高い機動力で敵に接近して攻撃し、一撃離脱をするといった感じだった筈だ。
つまり、近接戦闘を重視した機体の筈なのだが、このジーラインは狙撃にも使えるビームライフルを持っているのを見れば分かるように、近接攻撃よりも遠距離攻撃を得意としている。
それで高機動型となると……もしかして、ヅダを参考にしたのか?
ルナ・ジオンが1年戦争中に主力MSとして使ったヅダは、ジーラインと同じく換装型だ。
その換装の1つに、SP型がある。
ヅダの高機動性を活かした狙撃型で、まさにジーラインのライトアーマーと同じタイプだ。
遠距離からの狙撃をして、持ち前の高機動を活かして即座にその場から離脱する。
敵と直接戦ったりせず、一方的に遠距離から攻撃をするので、ギャン・クリーガーとガルバルディβが主力MSとなった今でも、偵察型と共に現役で使われている。
狙撃に失敗して敵が倒そうと思って近付いて来ても、ヅダの機動力に追いつくのは難しい。
ジーラインのライトアーマーは、ジム・ライトアーマーではなくそんなヅダのコンセプトを継承しているような気がするのは、決して俺の気のせいではないだろう。
まぁ、俺にしてみればビームライフルの威力が高いのは好ましいが。
それとシールドはスタンダードアーマーと同じく打突部位がある。
何か見覚えのあるシールドだと思っていたんだが、改めて聞いてみるとどうやらガンダム7号機のシールドを流用したらしい。
……いや、何でガンダム7号機?
そう思わないでもない。
ガンダム7号機は1年戦争の時に俺が乗っていたMSだ。
そのガンダム7号機のシールドがそのまま流用されるのは、ちょっと疑問だ。
あるいは単純に、ガンダム7号機の完成度がそれだけ高かったからという理由からなのかもしれないが。
実際、ガンダム7号機は素の状態でもかなり高性能なMSだった。
それだけではなく、FSWS計画という増加装甲やそれに付随する強力な武器を使う為の計画が最初から適用されている機体だった。
しかもただ増加装甲を装備するのではなく、1段階目と2段階目がある。
その上、2段階目になるとMSというよりもMA的な性質を持つMSとなっていた。
ガンダムの中でも最後の方に作られたMSだけに、ガンダム7号機の完成度は高い。
噂によるとガンダム7号機の後に8号機も作られたらしいのだが、それはあくまでも噂で、実際に作られたのかどうかは俺には分からなかったが。
ともあれ、ガンダム7号機とジーラインにはもしかしたら何らかの関係があるのかもしれないな。
あるいは……本当にあるいはの話だが、この水天の涙関係の原作においてはガンダム7号機が何か大きな活躍をしたという可能性もある。
「ジーラインのライトアーマーですね。分かりました。……では、私は基地司令との約束があるので、これで失礼します」
そう言い、マオは俺の前から立ち去る。
マオにしてみれば、臨時とはいえ自分と同じ階級。しかも実際には異世界の存在で、しかも国を率いる俺という存在は、非常に扱いにくいのだろう。
怪我をしても連邦軍に責任を問わないという書類は出しているものの、それでも俺に何かがあれば問題になる可能性が高い。
ましてや、マオは俺が人間ではなく混沌精霊であるという事は知らない。
いっそ教えた方がいいか?
俺が魔力や気を使った攻撃でもなければダメージを受けないと知れば、マオも多少は安心するだろうし。
とはいえ、混沌精霊という存在が大きく知れ渡ると、それはそれで面倒な事になりそう気がしないでもないが。
そんな風に思いつつ、俺はファントムスイープ隊に割り当てられた区域に向かおうとしたのだが……通路の向こうにいる数人の男がシェリーに言い寄っているのを見つける。
どうやらシェリーが1人で基地を出歩いていたところ、軍人に絡まれたらしい。
ファントムスイープ隊に入ったばかりの俺としては、ここで助けないという選択肢はないだろう。
それに見た感じ、シェリーは決して気が強い方ではない。
それでいて顔立ちが整っている事もあり、美人と評しても問題ないくらいの人物だ。
そのような人物だけに、男に言い寄られるのは決して珍しくはないが……その性格から、明確に断るのは難しいように思えた。
つまり、このままにしておくとちょっと不愉快な出来事になりかねない訳だ。
そんな訳で、俺がファントムスイープ隊に馴染む為という理由もあって、俺はシェリーと男達に近付いていく。
「なぁ、いいだろ? 退屈はさせねえからよ」
「そうそう、こいつの親父はこの基地のお偉いさんなんだ。だから、な? 分かるだろ?」
そんな会話が聞こえてくる。
なるほど、シェリーが断るに断れない様子だったのは、シェリーの性格もあるが、言い寄っている男の1人の父親がこの基地のお偉いさんってのも理由の1つか。
自分が誘いを断り、それによってファントムスイープ隊に不利益があったら……といったころか。
「その辺にしておけ。親の権力を使わないと女を口説けないとか、情けないとは思わないのか?」
その言葉に、シェリーを口説いていた男達の動きが止まる。
そして苛立ち混じりにこっちを見てきた。
しかし、その視線はすぐに苛立ちから嘲笑に変わる。
無理もないか。今の俺は20代じゃなくて10代半ばの姿だ。
シェリーに言い寄っていた男達にしてみれば、今の俺はそれこそ容易に叩きのめせる相手に思えるのだろう。
「何だ、このガキ。……誰に何を言ってるのか分かってるのか?」
1人の男がそう言いながら俺の方に近付いてくる。
「そもそも軍服じゃなくて私服だと? どこから迷い込んだ? まぁ、いい。取りあえず……死ね」
その言葉と共に振るわれる拳。
いや、死ねって。
呆れながらも、そのまま前に出て拳を回避し、極限まで手加減して鳩尾を殴る。
「ぐ……」
呻き声を漏らし、床に崩れ落ちる男。
それを見た他の男達は、視線を鋭くして俺の方に近付いてくる。
街にいるチンピラとかと違い、この連中は軍人としてしっかりと鍛えているので質が悪いんだよな。
悪質な性格と軍人としての能力が合わさり、厄介な存在となっているのだ。
とはいえ、俺にしてみればネギま世界の人間ならともかく、ガンダム世界の軍人というのはMSにでも乗っていない限り、厄介な存在ではない。
男達は全員が鳩尾を殴られ、最初の男と同じように地面に崩れ落ちた。
「さて、ちなみに俺はこういう者なんだが……」
呻いているという事は、まだ意識があるという事だ。
そんな相手に向かい、特務少佐の階級章を見せる。
ちなみに特務少佐の階級章そのものは少佐のものと変わらない。
つまりこの連中は俺を少佐だと判断したのだ。
その表情は、驚愕に変わる。
10代半ばの俺が少佐という階級にあるとは、とてもではないが信じられなかったらしい。
「に……偽物だ……」
回復の早かった男の1人が、苦しそうにしながらもそう言う。
普通に考えれば、俺のような年齢で少佐というよりも、俺が誰かの少佐の階級章を勝手に持ってきたのだと考えた方が可能性としては高いと判断したのだろう。
無理もないか。
実際、俺も同じような状況ならそんな風に考えてもおかしくはなかったし。
とはいえ、この階級章は本物で、そして俺の物なのは間違いのない事実だ。
「そう思うのなら、出る場所に出るか? 憲兵隊辺りが俺が偽物の階級章を持っていると知れば、逮捕するだろうし。ただ本物だった場合にどうなるのかは、きちんと考えた上で判断すればいい」
そう言うと、意識のある男達は首を横に振る。
俺の態度から階級章が本物だと思ったのか、あるいは偽物であっても憲兵隊に今回の件を知られると不味いと思ったのか。
ただ、この男達のうちの1人がこの基地のお偉いさんだという話が本当なら、憲兵隊を誤魔化すような手段はあると思うが。
あるいはお偉いさんだというのは事実だが、息子の為にその権力を使うような奴ではないのか。
その辺りについては俺もちょっと分からないが、この連中が大事にしないというのなら、それはそれで構わない。
「大丈夫か?」
「あ、はい。その……ありがとうございます」
シェリーが戸惑ったように感謝の言葉を口にする。
シェリーにしてみれば、まさか俺にこういう風に助けられるとは思っていなかったのだろう。
「気にするな。ただ、この基地は柄の悪い軍人がそれなりにいるみたいだ。シェリーも出歩く時は1人じゃなくて誰かと一緒に行動した方がいい」
これが例えば、俺の恋人であったり、もしくは何らかの重要人物であれば、以前X世界でティファの護衛としたように炎獣を出しても構わないのだが。
ただ、X世界で自由に炎獣を出せたのは、戦後世界でインフラ……特に情報の設備とかがほぼ壊滅していたから、魔法について見せてもそこまで情報が広がらないと判断していたからだ。
そんなX世界に対し、このUC世界は同じ戦後世界でも世界が受けた被害の規模が違う。
普通に通信網とかは整っているし、連邦も崩壊していない。
いやまぁ、もし連邦が崩壊していてもX世界のように新しい連邦を作って自分達が世界を支配しようとかは……いや、今の連邦軍に強硬派が多いのを考えると完全に安心は出来ないか。
「分かりました。そうさせて貰います」
「取りあえず今は他に誰もいないし、ファントムスイープ隊に割り当てられている場所までは俺も一緒に行くよ。……それにしても、何でわざわざ1人でこんな場所に?」
「まさかああいう人達がいると思わなかったので、ちょっとこの基地がどんな場所なのかを見て置こうと思いまして。どのくらいになるのかは分かりませんけど、暫くはこの基地を拠点にするという事ですから」
なるほど。自分の住む場所についてある程度見ておきたいといったところか。
それが結果として、ああいう連中に言い寄られる事になってしまった訳だ。
ついてないというか、なんというか。
とはいえ、軍人の中にああいう連中がいるのはそんなに珍しい事じゃない。
方向性は違うが、ヤザンとか。そして同じ方向性だとモンシアとかか?
まぁ、モンシアは裸踊りの件もあってバニングに目をつけられ、1年戦争中はその手の問題はあまり起こさなかったみたいだが。
そう言えば1年戦争が終わってモンシア達はどうなってるんだろうな。
ヤザンはゴップの部下として動いているみたいだったが。
そんな風に思いつつ、俺はシェリーをファントムスイープ隊に割り当てられた場所まで送るのだった。