「へぇ、確かにスタンダードアーマーよりは機動性が高いな」
森の中を進みながら、俺はそんな風に言う。
俺達が基地に到着した翌日、ジオン軍残党の拠点があると思しき森の中を進んでいた。
森とはいえ、そこまで密集したような森ではない。
生えている木々の間にはそれなりに隙間があり、MSであっても移動する事が可能だった。
そんな森の中を俺達は進んでいた。
基本的にはファントムスイープ隊はMSが3機で1小隊というジオン軍と同じ構成なのだが、そこに俺が加わっている形だ。
まぁ、俺はいざとなったら別行動をするので、そういう意味では正確に表現すると3機+1機といったところなんだが。
それと1年戦争中に連邦軍が使用していたホバートラックにマオが乗っている形だ。
あのホバートラックはその名の通りホバー移動するのが特徴だ。
他にもアンダーグラウンドソナーという、地中の音を察知して敵の数や位置を把握するという特殊な装置もあるが、これは基本的に聴覚に鋭い者でなければ使いこなすのは難しい。
マオがそれを使いこなせるのかどうかは……生憎と分からない。
また、それ以外にも指揮車両としての能力もある。
マオがホバートラックに乗ってるのは、多分これが理由だろうな。
『やっぱりこのスタンダードアーマー……動力炉の出力が高くて、使いこなすのが難しいです。一応、昨日はある程度練習したんですけど……』
悔しそうな様子でシェリーが言う。
テストパイロットをやっていた以上、それなりに腕は立つ筈なんだが。
その割には、ちょっと……俺の期待しすぎか?
とはいえ、折角の高性能機なんだから、ファントムスイープ隊としてはしっかりと乗りこなして貰う必要があるだろうが。
『この森を探索しながら中央に向かい、そこで東アジア方面軍の部隊と合流する事になる。ここにジオン軍残党がいるのはほぼ間違いない。いつ敵が出て来てもおかしくはないので、気を付けるように』
マオからの指示を聞きながら森の中を進み……いた。
「全機、聞け。こちらの隙を窺っているグフを2機発見した」
そう通信を入れると、全員が驚きの様子を見せる。
にしても、グフか。
昨日基地で考えたように、ゲルググ程ではないしろ、グフも製造数がそんなに多くはないMSだ。
性能そのものはザクとそう違いはないが、機体バランスとかそういう性能表に現れないところでの改良により、使いこなす者が使えば一騎当千の実力を発揮する。
だが、それはつまり使いこなせなければザクとそう違いはないという事を意味している。
そんな風に極端にパイロットの技量に左右されるのがグフだ。
ジオン軍としても、一部のエースパイロットに使わせれば大きな戦力となるものの、それ以外のパイロットが使った場合はそこまで性能を発揮しないグフは量産する価値がないと判断したのだろう。
……もっとも、その割には何故かグフ・カスタムやグフ・フライトタイプを始めとして、バリエーション機がそれなりに作られているのが疑問だが。
そして問題なのは、こっちの隙を窺っているグフのパイロットがそのエースかどうか。
普通に考えれば、ジオン軍が宇宙に撤退する時に大きな戦力となるエースは優先的に地球を脱出させるだろう。
とはいえ、何らかの理由で地球に残ったエースであったり、1年戦争が終了した後、ジオン軍残党としてゲリラ活動をしている中でエースと呼ばれるまでに生長した者がいてもおかしくはなかったが。
とはいえ、やはりそこまでではないパイロットの可能性が高い。
エースというのは、数が少ないからこそエースと呼ばれる。
その辺のMSパイロットでも軒並みエースになったら、それこそエースが標準となるだろう。
『こちらでも確認しました。では、アクセル代表が右の1機を攻撃して下さい。ユーグ大尉とヒュー中尉は左のグフを。シェリー中尉は不測の事態があったら即座に援護出来るようにして欲しい』
マオからの指示が出る。
俺に対してとユーグ達に対する言葉遣いが違うものの、これはいつか慣れると思っていいんだろうか。
そう思うと同時に、俺に1機を任せるのは俺の実力を信用しての事なのかもと思う。
まぁ、模擬戦ではユーグに勝ったのだから、それだけの実力がある以上はグフの1機程度どうとてもなると考えたのか。
それに完全に俺だけに任せた訳ではなく、シェリーに後方から何かあったら援護するようにとも言っているし。
「分かった。……ユーグ、攻撃を仕掛けるタイミングはそっちに任せる。それに合わせて俺も攻撃する」
『了解。では……3……2……1……今!』
その言葉と同時に、俺は一気に前に出る。
ビームライフルを使ってもよかったのだが、そうなるとグフは派手に爆発して他ジオン軍の残党に俺達の襲撃を知らせる事になる。
実際には俺達だけではなく、俺達が一時的な拠点とした基地のMS部隊も行動しているので、既にジオン軍残党は自分達が攻められているのは理解しているだろうし。
空にはコアブースターっぽい戦闘機も飛んでいるのを見れば、この状況で自分達が敵に襲撃されていないと考えるようなお気楽な性格では、ジオン軍の残党として活動するのは無理だろう。
それでも、目立つような行為は出来るだけしない方がいいのも事実。
そんな訳で、ビームサーベルを構えてグフに突撃する。
向こうも自分に向かって突撃してくるジーラインの姿を見れば、隠れている自分達の存在に気が付いたというのは理解したのだろう。
即座にヒートロッドを放ってくる。
グフのヒートロッドは、ノリスが使っているグフ・カスタムとは違う。
グフ・カスタムのヒートロッドはKMFのスラッシュハーケンに似た機能となっている。
勿論、実際には色々と違うのだが。
電撃を流すといった機能はKMFのスラッシュハーケンにはないし、グフ・カスタムのヒートロッドはスラッシュハーケンと違って打突武器としては使えないというように。
だが、どこかに移動の補助に使ったりという点では同じだ。
そんなグフ・カスタムのヒートロッドに対し、グフのヒートロッドは純粋に鞭のような打突武器としても使えるし、ルナ・チタニウム合金を容易に斬り裂く効果もあり、こちらはグフ・カスタムと同じだが電撃を流す機能もある。
言ってみれば、自由自在に動けるヒートサーベルといった感じか?
代わりに移動を補助するような感じでは使えないが。
そんな訳で、木々の向こう側に隠れているグフにとっても、ビームサーベルやヒートソードよりも射程の長いヒートロッドは、近付いてくるジーラインを牽制するという意味でも、悪くない選択肢ではあるのだが……
「甘いな」
スラスターを使ってジーラインを横に動かし、ヒートロッドの一撃を回避する。
だが、向こうもこの状況ではヒートロッドを回避されるというのは理解していたのか、ジーラインが回避した瞬間にヒートロッドを大きく動かす。
それによってジーラインが回避した隙間を埋めるかのように、ヒートロッドがこちらにやって来るが……
「甘いと言った」
頭部バルカンを撃ってヒートロッドを弾く。
ヒートロッドは赤熱化しているし、頭部バルカンの威力そのものがそこまで強力という訳でもない事もあってか、ヒートロッドの破壊は出来なかった。
だが、それでもヒートロッドの軌道を変えるのはそう難しくはない。
……そもそもその辺のパイロットどころか、そこそこ強いエースであっても、自分に向かってくるヒートロッドに頭部バルカンの一撃を当てるのはかなり難しいのだが。
ただ、俺の場合はPPによって射撃と命中の数値がとんでもない事になっているし、何より普通ではとてもではないが積み重ねられない、これまでの戦いの経験がある。
そんな訳で、普通なら無理な事を俺は容易に出来る。
とはいえ、出来ればビームサーベルだけで勝負をつけたかったのだが。
今の射撃音により、ここで戦闘が起きているというのを森にいるジオン軍残党に知られてしまっただろう。
あるいは運が良ければ、森の植物によって頭部バルカンの発射音が吸収された可能性もあるが……それについては、期待しない方がいいだろう。
ヒートロッドをああいう風に動かせるという事は、このグフのパイロットはそれなりの技量の持ち主らしい。
そんな風に思いつつ、ジーラインを操縦する手を止めない。
木々の向こう側にいるグフとの間合いを詰める。
それを見たグフは、今の行動から我に返ったのか、左手のフィンガーバルカンを向けてくるが……
斬、と。
ライトアーマーの高い機動性を活かし、一気にビームサーベルの間合いに入ると同時にこちらに向けているグフの左腕を切断する。
既に装填されていたフィンガーバルカンの弾丸がそこら中に放たれるのを映像モニタの片隅で確認しつつ、ビームサーベルを振るう。
ここで本当の腕利き……エースと呼べる者なら、ヒートサーベルでビームサーベルの一撃を受けたりしただろう。
だが、このグフのパイロットはそれなりに腕利きではあっても、エースと呼べる程の実力はなかったらしく、ヒートサーベルを手に取る事もなく、あっさりとコックピットがビームサーベルで貫かれる。
これで1機。
ユーグ達の方はと見てみると、そこではユーグがビームサーベルでグフのヒートサーベルを防いでおり、そこにヒューのジム・コマンドとシェリーのジーラインがビームライフルを撃ってグフを撃破したところだった。
あー……これで俺達の件は間違いなく知られたな。
そう思うも、俺も頭部バルカンを撃った以上は反論出来たりしないのだが。
とはいえ、さっきも思ったようにジオン軍残党は既に連邦軍が攻めてきているのは知っている。
であれば、ここで俺達が多少配慮したところで、あまり意味はないだろう。
そう考えると、俺も最初からビームライフルで攻撃しておけばよかった。
いや、実際に攻撃に移る前にその辺についてきちんと話しておけばよかったのか。
『よし、MSの沈黙を確認した。このまま進むぞ。……アクセル代表、グフはどうしますか?』
進むと言いつつ、マオがそんな風に聞いてくる。
一体何だ? と思ったが、俺がファントムスイープ隊に協力する上での条件の1つ、俺が見つけた、もしくは倒した機体についての所有権は俺にあるというのがあったな。
マオはその件について気が付き、そう聞いてきたのだろう。
俺が倒したグフはコックピットを綺麗に貫いている。
その気になれば、それこそコックピットを入れ替えれば……それと左手とヒートロッドを修理すれば、普通に動かせるだろう。
何だか結構修理する場所が多いような気がしないでもない。
とはいえ、このまま置いておけば問題にもなるか。
「分かった、ちょっと待ってくれ。すぐにグフをこっちで確保する」
『すぐと言われましても、クレーン車の類を呼んでいる暇はないのですが』
戸惑ったような言葉。
映像モニタに表示されているマオの表情は、間違いなく混乱していた。
今この場で俺がクレーン車なり、あるいは何らかのMSを運搬する車両、もしくは輸送機でも基地から呼ぶから待っていて欲しい。
どうやらそんな風に認識されたらしい。
いやまぁ、普通に考えればそんな風に思ってもおかしくはない。おかしくないが、マオは俺が魔法を使える事を知ってる筈なんだけどな。
実際には空間倉庫は魔法ではなく、俺の転生特典なんだが。
「気にするな。魔法でどうにかする」
そう言い、コックピットから下りる。
乗降ワイヤーを使わず、そのまま跳躍した事に繋がっていた通信から悲鳴が聞こえてきたものの、当然ながらこの程度の高さから下りた程度でどうにかなる筈もない。
そのままあっさりと地面に着地し、俺が倒したグフに向かう。
まだ熱いグフの装甲に触れ……次の瞬間、グフは消える。
生きている相手は空間倉庫に収納出来ないので、グフのパイロットは間違いなく死んでいたらしい。
ビームサーベルでコックピットを貫かれて生きていたら、それは明らかに疑問だが。
ただ、世の中には何でそれで生きている? といったような事があったりする。
例えばどの世界の話かは忘れたが、戦争で頭部を撃たれたにも関わらずヘルメットを被っていたので、そのヘルメットを貫いたものの、撃たれた者の頭部ではなくヘルメット内側に沿って弾丸が移動し、それによって撃たれた者は死ななかったとか。
一体どんな偶然が重なればそうなるのか。
それに比べると、ビームサーベルで貫かれながらも何とかコックピットから脱出しようとしていたので、手足とかは失いつつも実はまだ生きているとか、そういうのはそこまで珍しくもないと思う。
そんな風に思いつつ、跳躍ではなく空中を飛んでコックピットに戻る。
『アクセル代表……一体何がどうなって……?』
「魔法だ、魔法。取りあえず分からない事は魔法だと思っておけばいい」
決してアクセルだからで納得しないで欲しいと思いつつ、俺はコックピットに乗り……
ザザ、ザ……ジジ……
不意にそんなノイズ音が聞こえてくるのだった。