結局、基地のMS部隊と合流したものの、大きな戦果はなかった。
勿論全く何の戦果もなかった訳ではない。
ジオン軍残党の拠点は制圧したし、そこに最後まで残っていた敵も捕虜にするなり、あるいは殺すなりしている。
……ちなみに、俺が倒したザク3機のうちの1機、コックピットを避けてビームサーベルで袈裟懸けにした機体のパイロットは消えていた。
それはつまり、コックピットから抜け出して脱出したという事を意味している。
MSのコックピットは、普通に考えて結構高い場所にある。
この普通というのは、UC世界の人間……いや、魔力や気による身体強化が出来ない者達という意味だ。
そんな高さから、機体が切断されて落ちたにも関わらず、無事だったというのは素直に凄いと思う。
無事ではすまなかったと思うが。
ともあれ、パイロットを1人逃がしてしまったのは事実。
煙幕の件がなければ、捕虜にしていたんだろうけど。
ただ、結局のところザクのパイロットという事で、そこまで詳しい情報とかは持っていなかった可能性が高い。
であれば、他の捕虜が持ってる情報と同じような情報しか知らなかったと思う。
もしかしたら、本当に万が一の可能性だが、そのパイロットだけが持っていた情報があったかもしれないが。
そうして基地に戻ると、俺達を待っていたのは3人の男達だった。
1人目は黒人の筋肉質の男、ロブ・ハートレイ中尉。
2人目は小柄なカマル・クマル中尉。
3人目は危険手当が目的と言い切る金の亡者ハイメ・カルモナ中尉。
この3人が、新たにファントムスイープ隊に追加された人員だったらしい。
「よく来たな、新入り達。ただ、この部隊は並じゃねえぞ?」
「ほほう、よろしく先輩」
そう言い、ロブがヒューに握手を求めるが……うん、そこで何が起きたのかは、考えるまでもないだろう。
「その辺にしておいてやれ」
「……貴方がアク……いえ、ムウ特務少佐ですか」
喚いていたヒューから手を離したロブが、俺を見てそう言う。
その表情にあるのは、困惑だ。
俺の名前をアクセルと言いそうになった事を思うと、どうやら事情は聞かされているらしい。
ファントムスイープ隊として行動を共にする以上、俺の事を知らされているのはそうおかしな話ではないが。
「ああ、ムウだ。他に関係者のいない場所でなら、アクセルと呼んでも構わない。今のような時とか」
現在俺達がいるのは、基地の格納庫の2階部分だ。
とはいえ、キャットウォーク……というのとはちょっと違うが、2階の壁に沿って通路がある感じで、中央部分は空いている。
これはMSの整備とかする時に使ったりするからなんだろう。
実際、俺達のいる場所からは2階部分にMSがはみ出ているし。
そしてここにいるのは関係者……ん? ユーグとシェリーがいつの間にかいなくなってるな。
もしかしてそういう関係だったりするのか?
俺はてっきり、マオとそういう関係なのかと思ったんだが。
マオは生真面目な性格をしているが、ツンデレっぽい雰囲気を持っているし。
「そうですか。では、今はアクセルさんと呼ばせて貰います。よろしくお願いします」
そう言い、握手を求めて来るロブ。
本気か?
何を考えて握手を求めて来たのかは、ヒューとのやり取りを見れば明らかだろう。
それを見せつけた上で俺に握手を求めて来るのは……まぁ、いい。ここで逃げたと思われると、この先面倒な事になったりしそうだし。
そんな訳で、ロブの握手を受け入れる。
すると次の瞬間には思い切り握ってくるが……うん。まぁ、一般人ならこの程度だろ。
ヒューはすぐに痛みに悲鳴を上げていたが。
ただ、ヒューも軍人としてそれなりに鍛えている筈だ。
そのヒューがすぐに悲鳴を上げたのだから、ロブはそれだけ腕力……いや、この場合は握力か? それに自信があるのだろう。
これは俺が混沌精霊だからだろう。
「一応忠告しておく。痩せ我慢はするなよ?」
「え?」
忠告に一瞬戸惑ったような表情を浮かべたロブだったが、次の瞬間その顔が強張り、やがて痛みに耐えられなくなったのか、慌てた様子で、口を開く。
「参った! 俺の負けだ! 頼む、手を離してくれ!」
急いでそう叫ぶロブに、俺は素直に手を離す。
「一応聞いておくけど、大丈夫だな?」
「あ、ああ。……アクセル代表、凄いですね」
「こう見えて、俺は色々な世界で戦いを経験してきたしな。それに基本的に魔力によって身体機能は増しているし」
「魔力って……じゃあ、魔法を?」
「そうだな。ほら」
パチンと指を鳴らすと、俺の影から影槍が伸びる。
先端は尖らせていないものの、そのままロブを含め、他の2人の前に突き出されると、それを見た3人は驚きの表情を浮かべる。
まさか自分の目で直接魔法を見る事になるとは思っていなかったのだろう。
あ、いや。でもそうでもないか?
俺が魔法を使えるというのは、それこそ大々的に公表したので多くの者が知っている。
それでもこうして驚いているのは、現在の俺の外見が10代半ばだというのもあるし、映像で見たり人から話を聞いたりしたのとは違って直接自分の目で見ているからというのが大きいのかもしれない。
「これが……魔法……」
影槍を戻すと、ロブが驚きの声で呟く。
「魔力は魔法を使う為に必要だが、魔力を使った身体強化とかも出来る。俺の場合は基本的に常時そんな感じだな」
実際には意図的に魔力で身体強化している訳ではなく、混沌精霊だからこその身体能力だったりするのだが、その辺についてはまだ秘密にしておいた方がいいだろう。
まだ秘密というか、実際にその件について話すかどうかは分からないが。
「おい、アクセル。あの連中がお前を睨んでるんだけど、もしかしてシェリーに言い寄ってお前と揉めた奴か?」
握手の痛みから回復したヒューが、そう言ってくる。
その言葉にヒューの視線を追うと、そこには確かに見覚えのある数人に軍人がいた。
だが、俺が視線を向けると忌々しげな様子を見せつつ、即座に立ち去る。
「そうだな。シェリーに言い寄ってた奴だ。……面倒な事にならないといいんだけどな」
いや、もう面倒な事になってるのか?
あの連中の1人の親がこの基地のお偉いさんだって話だったし。
マオからも少し問題になってるといったような話を聞いた覚えもある。
とはいえ、そんな連中に俺達がどうにか出来るのかと言われれば、微妙なところだが。
何よりファントムスイープ隊は、別にこの基地に所属する部隊ではない。
現在俺達がここにいるのは、あくまでも今回の作戦でジオン軍残党の拠点を潰すという目的があった為だ。
それと同時に、ベルファストを襲撃した者達と関係があるというのも大きいが。
そのような理由である以上、ここでの作戦を終えたのだから、そう遠くないうち……それこそ場合によっては明日にでもまたミデアで他の作戦を行う為に移動する可能性が高いのも事実。
シェリーに言い寄っていた連中が何かをしようとしても、その時にはもう俺達がこの基地にいない可能性が高かった。
そんな状況でもしやるとしたら……考えられる可能性としては、俺達についての悪評を連邦軍に広める事だろう。
この基地だけではなく、他の基地にいる連邦軍についても。
そうなれば、もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、連邦軍全体にファントムスイープ隊が気に入らないという雰囲気に持っていける可能性もあった。
そんな事になる前に、ゴップやコーウェンが動いて対処するだろうが。
「気にする必要はないだろ。俺達に何かをしようにも、ここでの作戦が終わった以上、俺達はすぐにでもこの基地からいなくなる」
「けどよ、向こうもそれは分かってる筈だろ? なら、それでも何かをしてくるんじゃないか?」
「その場合は、こっちも相応に対処すればいいだけだ」
そう言うと、ヒューは微妙な表情を浮かべる。
ヒューにしてみれば、今の俺の言葉には何か思うところがあったのだろう。
とはいえ、それでも特別に何かを言わなかったのは、ヒューも何かあったらすぐにどうにかしたいと思っていたからだろう。
その後はロブ達の歓迎会という訳ではないが、いつもより少し豪華な食事をする。
とはいえ、食事そのものは基地の食堂でのものだったので、追加の料理は俺の空間倉庫の中から出した奴になったが。
ペルソナ世界のジュネスのスーパーで買った料理だったが、ジュネスは一応全国展開のスーパーだけに、それなりに美味い料理も売っている。
勿論そういう豪華な料理は高いが、料金は桐条グループから渡されたカードで支払っていたので、特に問題はない。
ロブ達も喜んでいたので、歓迎会をやったのは悪くなかっただろう。
ユーグとシェリーは歓迎会に参加しなかったが。
ロブ達が挨拶にやって来た時に途中から2人ともいなくなったが、やっぱりあの2人はそういう関係なのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、俺はこの基地での生活を楽しんでいたのだが……
「は? 嘘だろ?」
マオから明日にはこの基地を出発するという連絡があってから数時間後……再び急に呼び出された俺達に知らされたのは、ニューヤークがジオン軍残党に占拠されたという事だった。
そう聞かされた俺が、思わずそんな言葉を口にしてしまったのは、ある意味当然だろう。
実際に俺以外の他の面々も、マオの説明を聞いて理解出来ないといった表情を浮かべている。
ここ最近様子がおかしかったユーグやシェリーもそれは同様だ。
「マオ、一応確認させてくれ。ジオン軍残党は、ベルファストの時のようにニューヤークを襲撃したのではなく、占拠したんだな?」
「はい。それは間違いありません」
こうしてマオが間違いないと断言する以上、それはつまり間違いのない事実なのだろう。
俺が知ってる限りだと、ニューヤークは1年戦争の時にガルマ率いる地球方面軍との戦いにおいて、非常に大きな被害を出していた。
それこそ半ば壊滅といったような。
……もっとも、そこまでの被害を出しておきながら、ガルマはそのカリスマ性で北米の権力者達と友好的な関係を築いたのだが。
この辺、何気にガルマの凄さが発揮された形だ。
普通に考えて、自分達の住んでいる街を……それも北米どころか世界でもトップクラスに発展されている街を半ば壊滅状態にした相手と友好的な関係を結べるか。
いやまぁ、言ってみれば当時のガルマは新たな支配者であった以上、ニューヤークの権力者達にしてみれば敵対すれば殺される、あるいはもっとニューヤークが破壊されると思って、内心を押し殺して友好的に接したのかもしれないが。
これと同じような事は、オーストラリアでもあったらしい。
コロニー落としによって莫大な被害を受けたオーストラリアだったが、それを行ったジオン軍が炊き出しや補給を行うという事で、オーストラリアに住んでいた者達はその内心はどうあれ、表向きはジオン軍に友好的な態度を取る必要があったらしい。
ただ、オーストラリアと北米で違うのは、オーストラリアの方はジオン軍に友好的だったのは、あくまでも表面的なものでしかなかったのに対し、北米では全員ではないにしろ、本心からガルマと友好的な存在がいた事だ。
勿論、それはガルマだけの実力ではなく、ガルマに惹かれて恋人となり、今となってはジオン共和国のファーストレディとなったイセリナの存在も大きな意味を持つだろう。
ともあれ、そんなニューヤークだけに、今となっては連邦の一部ではあっても、同時にジオン軍残党……つまりガルマとも親しい関係にある。
連邦としてもその件については色々と思うところがあるのだろうが、それでもニューヤークという知名度や連邦にもたらす利益を考えると、復興させるという選択をしたのだろう。
勿論、その選択にはニューヤークに関係する連邦議員が関わっているのだろうが。
そうして1年戦争が終結し、完全ではないにしろある程度復興したニューヤークがジオン軍残党に占拠されたのだ。
元々ジオン軍残党にはガルマ派やデギン派、ダイクン派はいなかったものの、それでもこうして明確にガルマに敵対姿勢を取るとは思わなかった。
一体何がどうなってこんな感じになったのやら。
あるいは、これもまた水天の涙に関係のある事なのか。
俺達が行った作戦から、そう時をおかずして起きたニューヤークの占拠。
これを偶然と見るか、あるいは水天の涙に関係すると見るべきか。
何となく話の流れから考えると、水天の涙に関係しているような気がする。
とはいえ、未だに水天の涙についてはまだ何も分かっていないのが現状だ。
一応可能性としては、ハワイのアプサラス強奪作戦もあるが、それはまだ確実ではない。
というか、それをやる為ならニューヤークの件はあまり意味がない。
今回の件で水天の涙というのがハワイのアプサラス強奪ではないのは、ほぼ決まったと思ってもいい。
そんな風に思いつつ、俺は少しでも情報を集めるべくマオの説明に集中するのだった。