マオからの説明については、大体が終わった。
そんな中でもニューヤークの解放にわざわざ北米の英雄と呼ばれるユーグのいる部隊を派遣するという事には何らかの意味があるのではないか。
そんなヒューの言葉に一時ブリーフィングルームは緊張したものの、マオはそれを黙殺した。
ユーグとの間に何かあったのか?
そうも思ったが、ユーグは結局マオとシェリーのどっちとそういう関係なんだろうと疑問にも思う。
とはいえ、今はまずニューヤークに向かうのを先決にする事になった。
「うーん、残念ですね。出来ればアクセル代表と模擬戦をやってみたかったんですけど」
ロブが自分のジム・コマンドを見ながら、そう言ってくる。
握手の件では負けを認めたものの、MSの模擬戦では話は別だと、そう言いたいのだろう。
「そうだな。模擬戦くらいはやっておいた方がいいと俺も思う」
ファントムスイープ隊に配属される以上、性格的には多少の問題があっても、MSの操縦技術という点では間違いなく相応の技術を持っている。
そうでもなければ、ジオン軍残党と戦うという、戦後においても最前線で戦う部隊に配属されたりはしないだろうし。
だが、MSの操縦技術が高いからという一点でファントムスイープ隊に配属されたとしても、どのようにMSを操縦するのかが分からないと、いざという時の連携に失敗する。
……とはいえ、俺の場合は基本的に戦力外として計算される遊撃隊扱いなので、そこまで問題になる事はないのだろうが。
寧ろその辺はユーグ達の方が気にするべき事だろう。
とはいえ、それでもいつ一緒に行動する事になるのか分からない。
実際、イフリートと遭遇したあの時の戦いでも、最初は一緒に行動していたのだから。
ロブ達とも同じような感じになる可能性は十分に高く、そうなった時の事を考えると、やっぱりここは模擬戦とかを経験しておきたいと思う。
「ニューヤークでの戦いはアクセル代表と一緒に行動をする事になると思うんで、よろしくお願いしますよ」
そう言うロブに、俺は頷くのだった。
「アクセル代表、少しいいですか?」
ミデアでニューヤークに向かってる途中、マオからそんな風に声を掛けられる。
その顔には真剣な表情があり、何か気軽に話すような内容ではないのは明らかだった。
もっとも、俺とマオはそこまで親しい訳でもない。
マオが俺にそんな言葉を掛けてくるとは思えなかったが。
「何だ? 今は特に何も用事がないし、構わないぞ」
現在俺がいるのは、ミデアの中でも端の方。
言葉通り、本当に今は何もやる事がないので、空間倉庫から取り出した雑誌を読んでいたのだ。
……俺が雑誌を読んでる時は、決まって何か不味い事が起きると言われていたりするが、まさか今回もそんな感じじゃないよな?
マオも特に緊迫してる様子はないし。
「実はニューヤークでの作戦なのですが、アクセル代表をどのような戦力として使うべきか迷っています」
「俺を? この前みたいに遊撃として使えばいいんじゃないか?」
「ですが、それではアクセル代表という強力なカードの効果を存分に発揮出来ません」
その言葉には納得出来る。
ぶっちゃけ、政治とかそういうのを考えないで効率的に戦うのなら、俺を遊撃隊として扱わず、俺を中心とした戦い方にするのが一番いい。
マオ達は分からないが、混沌精霊の俺はもし万が一ジーラインが撃破されても、死ぬ事はない。
つまり……これは例え話になるが、俺を敵陣に特攻させるといった事をしても問題はないのだ。
とはいえ、当然ながら政治的な問題でそんな事を出来る筈もない。
ルナ・ジオンの後ろ盾、もしくは上位組織のシャドウミラーを率いる俺を特攻要員にするなんて事をしたら、それこそ普通に考えればルナ・ジオン&シャドウミラーVS連邦といった戦いになる。
そして連邦軍は、1年戦争の時にルナ・ジオンの力……それにメギロートやバッタの能力を見ている。
バッタはともかく、メギロートはそれこそ1年戦争時代のMSと比べれば性能は圧倒的に上だ。
パイロットのAIも、エース級に勝つのは難しいが、ベテランや準エースといった相手なら倒せるくらいの実力を持っている。
それはつまり、異名持ちやアムロのような面子ならメギロートを倒せるという事なのだが……それはつまり、連邦軍の大半のパイロットにはどうしようもないという事を意味していた。
また、アムロと戦っても1対1ならアムロが勝つだろうが、1対2、1対10、1対100ならどうか。
しかも戦力が減ったら補充して、1時間、10時間、1日……といった具合に戦い続けたらどうなるか。
アムロが連邦軍最高のニュータイプにして、最高のパイロットだとしても、それでも人間なのは変わらない以上、体力や精神力、集中力といったものには限界がある。
そんなアムロに対して、こっちはメギロートやバッタを数万機……いや、少し頑張れば数十万機、もっと頑張れば更に多くを出せる。
アムロでさえ、大量のメギロートやバッタと戦えば最終的に負けるのだ。
そうである以上、連邦軍として月や俺達と戦いたいとは思わないだろう。
「政治的な問題がある以上、それは仕方がないと思うが? 勿論、それをどうにか出来るのなら、それに協力してもいいけど」
結局のところ、俺が遊撃隊として活動してるのは政治的な問題が大きい。
だからといって、その政治的な問題を無視して強引に俺を部隊に本格的に組み込むのは、それはそれで問題がある。
「それにロブを始めとして、3人が新たに加わったんだろう? ファントムスイープ隊に配属される以上、腕は間違いなく立つ筈だ。なら、ここで無理に俺を部隊に組み込まなくても、何とかなるんじゃないか?」
ファントムスイープ隊に配属される以上、ロブ達も腕が立つのは間違いない。
その代わり、性格的に色々と問題があるのかもしれないが。
「それはそうですが……それを加味した上でも、アクセル代表の本格的な協力が欲しいのです」
「何故そこまで? 今までも何とかなってきただろう?」
「ですが今回は今までの襲撃とは違い、占拠です。それもニューヤークという大都市を」
マオは真剣な表情でそう言う。
なるほど、気になっているのはそこか。
実際、襲撃というのは一時的に姿を現すが、襲撃が終われば消える。
ベルファストでの一件を見れば明らかだろう。
……ハワイやベルファストのように、襲撃に失敗して撃破されたり捕まったりする事もあるが、それはそれとして。
そんな襲撃に対し、占拠というのはマオが言うよにずっとそこにいる必要がある。
ジオン軍残党にしてみれば、そのような事をする以上は連邦軍が出てくるのは当然ながら想定している筈だ。
つまり、そのような時の為の対処をしているのは間違いない。
……敵がよっぽどの無能であった場合は、実は連邦軍が出てくるとは全く考えていないという可能性もあるが……うん、そんな事はまずないだろう。
そんな迂闊な奴が、1年戦争終了後もジオン軍残党として今まで生き延びてこられたとは到底思えないのだから。
それこそエースの1人や2人がいたところで、連邦軍の物量を相手にした場合はどうにもならないのだから。
そんな諸々の事情を考えると、マオがどうにかして俺というカードを……それも最強のカードを有効に使いたいと思ってもおかしくはない。
マオにしてみれば、俺というカードを使う事でファントムスイープ隊を全員生還させる事が出来るかもしれないのだから。
これで俺という存在を知らなければ、マオも自分達だけでどうにかしようと考えただろうが。
だが、マオは幸か不幸か俺という存在を知っている。
それだけに、ファントムスイープ隊をどうにか全機生還させる為にも俺の力を借りたいのだろう。
「状況については?」
「ニューヤークがジオン軍残党に占拠されたのは間違いないですが、敵が主に戦力を集中している部分は2ヶ所です」
つまり本来なら、ある意味丁度よかった訳か。
俺を抜きにして、ファントムスイープ隊はMSが6機いる。
基本的に3機で1小隊となると、2小隊いる事になる。
そしてニューヤークでジオン軍残党の戦力が集まっているのは、2ヶ所。
そう考えると、1ヶ所に1小隊ずつ派遣するといった事も可能になる訳だし、マオの様子を見る限りではそういう風に考えていたのは間違いない。
だが、そこに俺というカードが……それも最強のカードがあるので、色々と思うところがあるのだろう。
そうだな。マオに貸しを作れると考えれば、そんなに悪くないか?
「なら、こうしよう。マオが心配しているのは、2小隊をそれぞれ別行動させるという事だろう? 戦力の分散は避けた方がいいと。だから、占拠しているうちの1ヶ所は俺だけで対処する。もう1ヶ所は、ユーグ率いる2小隊で挑めばいい」
「それは……もしそれが出来るのなら、私としては助かります。ですが、アクセル代表は大丈夫なのですか?」
「問題ない。これでも月の大魔王の異名持ちだぞ? ジオン軍残党程度で俺に対抗するのはまず不可能だ」
実際には俺が月の大魔王の異名を得たのは、ニーズヘッグを使っての戦いでだ。
ニーズヘッグとUC世界のMSでは、性能が違いすぎる。
とはいえ、その後も色々なMSに乗って活躍してきたので、ニーズヘッグなしでも異名持ちになれるくらいの活躍はしていると思う。
現在俺が乗っているジーラインも、量産機とはいえ、連邦軍の最新鋭量産機だ。
それを操縦する俺が、ジオン軍残党が占拠している場所に攻め込んで敵を倒すのはそう難しくはないと思う。
例外としては、ジオン軍残党の中にアムロやシャアのような腕利きがいた場合の話だが……その心配は基本的にないだろうし、もし実際にそういう事になっても、それはそれで対処のしようがある。
万が一にもジーラインを破壊されても、混沌精霊の俺は魔力や気を使わないこの世界の攻撃で死ぬ事はないし。
「……アクセル代表、本気で1人で戦うと?」
「問題はないな。ただ、忘れるなよ。これは貸しだ。いつになるのかは分からないが、いずれ返して貰う。それでもいいのなら引き受けよう」
そう言うと、マオは自分の身体を守るように抱きしめる。
そんなマオを見て、マオが何を考えているのかを理解し、慌てて首を横に振る。
「勘違いするな。貸しを作ったからといって、そういう事……具体的にはマオの身体を求めている訳じゃない。そういう意味での貸しではないから、勘違いするなよ」
マオが美人なのは間違いない。
その気の強そうな美貌を見れば、多くの者がマオを抱きたいと思ってもおかしくはない。
実際マオはこの若さで少佐という立場にいる。
いやまぁ、少将とかではないので、20代で少佐というのはそこまで珍しいものではないのは間違いないが、同時にそのようになれない者も多数いる。
そう考えると、マオが有能なのは間違いない。
だがそれだけに、マオの美貌と能力を欲して言い寄ってきた者はこれまで多くいた筈だ。
あるいは断れずに身体を許したことがある可能性も……いや、マオの性格を考えれば、それはないか。
だが、それでも男に……それも別に好意を抱いていた訳でもない男に言い寄られた経験があるのは、マオの美貌を考えれば間違いない。
だからこそ、これが貸しだと言った俺の言葉にそっち方面を想像したのだろう。
「何かあった時……それがいつなのかは具体的には分からないが、それでも俺が手を貸して欲しいと思った時、連邦軍を裏切ってでも俺に手を貸して貰う。そう約束出来るのなら、俺は1人でジオン軍残党の拠点を1つ潰そう。どうだ?」
その言葉に、マオは悩む。
マオにしてみれば、俺の提案は魅力的だ。魅力的だが、それでも素直に頷けないのは間違いない。
何しろ、連邦軍を裏切ってでもと、そう俺は口にしているのだから。
とはいえ、これが本当にそうなるのかどうかは分からない……とまでは言わない。
現在の連邦軍において、強硬派が影響力を増しているのは事実。
そうである以上、いずれ強硬派が暴発して月に攻めてくるといった可能性は十分にあった。
マオもそれを理解しているからこそ、素直に俺の言葉に頷けないのだろう。
いや、外から見ている俺よりも、実際に連邦軍に所属しているマオの方が強硬派については敏感に察している筈だ。
だからこそ、ここで俺の提案に素直に頷く事は出来なかったのだろう。
だが……それでも、今のマオに他の手段があるかと言われれば、それは否だ。
これである程度の時間があったら、もしかしたらどうにか出来たかもしれないが、今はその時間がない。
そうである以上、ここでマオが選べる選択肢はそう多くはなく……
「どうする?」
マオに返事を促すと、マオはそんな俺を一際強く睨み付けてから口を開く。
「分かりました。アクセル代表の提案を受けさせて貰います」
こうして、マオは俺との取引を成立させるのだった。