俺がハワイに戻ってきてから数日が経った。
その間にペルソナ世界にいる美鶴に連絡をしてみたが、雪子はもう元気になって学校にも通っているらしい。
その事に安堵しつつ、俺はギャン・クリーガーを使って模擬戦を行っていた。
「っと!」
こちらに向かって振るわれるビームランス。
その一撃は非常に強力で、命中すればそれこそジーラインですらあっさりと貫かれるだろう。
勿論これは模擬戦なので、命中しても実際にコックピットが貫かれたりはせず、システム的に命中したと判断されるだけだ。
そんなビームランスの一撃を、俺のギャン・クリーガーは同じくビームランスで弾く事で回避する。
ビームランスは外見上は馬上槍のような形をしているから突くという攻撃手段が一般的だと思われるものの、実際にはビームで構成されている以上、普通にビームで斬り裂いたり出来たりするんだよな。
普通なら馬上槍の場合は突く以外の攻撃方法はないものの、このビームランスは巨大なビームサーベルとして使うことも出来る。
そんな訳で、こちらに向かって放たれたビームランスの一撃を弾くと同時にギャン・クリーガーの手首の動きを調整し……
「ここ!」
その言葉を発した瞬間、俺のギャン・クリーガーが持っていたビームランスは模擬戦相手のギャン・クリーガーのコックピットに突きつけられていた。
『参りました』
そう通信を送ってきたのは、ヴィッシュ。
荒野の迅雷の異名持ちで、このハワイにおける主戦力の1人だ。
タイプとしては、個人としての能力に特化しているノリスやガトーと違い、部隊を指揮して戦う方に力を発揮する。
ユーグと同じようなタイプだと考えれば分かりやすいだろう。
もっとも、それでも異名持ちとして相応しいだけの実力は持ってるのだが。
「ギャン・クリーガーは地上でも十分に性能が発揮出来る機体なのは間違いないな」
『そうですね。ですがここがハワイである以上、やはりホバー移動出来るドム系の方が使いやすいのは間違いないですが。……それにしても、ジーラインとかいう機体はどうしたのですか?』
ヴィッシュは俺がギャン・クリーガーに乗ってるのを疑問に思ったらしく、そう聞いてくる。
それだけジーラインが気になっている……というのも、あるのだろうが。
「ジーラインは現在ギニアスやその部下達によって徹底的に調べられている。色々と古い部分もあるが、ルナ・ジオンから見ても新しいと思える場所もあるらしいな」
全体的に見れば高性能な機体だけに、ギニアスとしても興味深い場所は多いらしい。
また、ギニアスが興味を持っていたライトアーマーの狙撃用ビームライフルについてもかなり集中して調べているらしい。
そのうち、ギャン・クリーガーのビーム砲も強力になるかもしれないな。
ちなみに現在のギャン・クリーガーは、シールドに内蔵されているビーム砲と、エース級や異名持ちが装備を許可されている複合兵装のシェキナーがある。
だが、このシェキナーはかなりの大きさで取り回しが悪い。
だからこそエース級や異名持ちといった者達だけに使用許可が出ているのだが。
もし素人がシェキナーを使おうとすれば、使いこなせずに荷物になるだけだ。
……とはいえ、これはあくまでも宇宙での話。
重力のある地球では、シェキナーは宇宙よりも更に使いにくい武装だ。
そういう意味では、ヴィッシュも俺もシェキナーを使ってないのはある意味で当然の話なのだろう。
『そういうものなのですか? ……ともあれ、模擬戦はこの辺で終わりにしましょう。ありがとうございました』
そう言い、通信が切れる。
格納庫にギャン・クリーガーを移動させていると、離れた場所には多くの軍人の姿がある。
今回の模擬戦は、見学する者達も多かったのだ。
ヴィッシュが出来るだけ見るようにと連絡をしていたのが大きい。
いわゆる、見取り稽古という奴だな。
こうして見ているだけでも、相応に勉強になるのは間違いない。
ヴィッシュもそれを狙って今回は見るようにと言ったんだろうし。
ギャン・クリーガーを所定の場所に戻し、コックピットから降りる。
するとすぐにメカニックが近付いて来て、整備を行い始めた。
模擬戦自体はそこまで長時間やった訳ではなかったし、そこまで機体を強引に動かしたりもしていない。
関節部分を全部取り替えるとか、そういう感じにはならないと思う。
さて、取りあえず要請された模擬戦はこれでいいとして……これからどうするかだな。
ハワイの観光に出掛けるか、あるいは海で泳ぐか。もしくは、アイナが無人島でやっている放牧を見学するというのも悪くはない。
そんな風に考えていると、ギャン・クリーガーのコックピットから降りたヴィッシュが女と話しているのが見える。
黒髪の気の強そうな美人……マヤ・コイズミだったか。
ヴィッシュがオーストラリアにいた時からの付き合いで、噂では過去には恋人だったらしい。
ただ、過去にはというか、今もじゃないか?
あの関係を見ると、元恋人同士というにはちょっと距離が近いように思える。
とはいえ、それは結局のところあの2人の関係である以上、俺が口を挟むような事ではないが。
そんな風に思っていると、やがてヴィッシュがマヤを連れてこっちにやって来る。
「アクセル代表、ジオン軍残党の件について新情報です。6つ目の蜂起地が鎮圧されたようです。ファントムスイープ隊が活躍したと」
「これで半分か。思ったよりも早いな」
ニューヤークの件が終わってから蜂起し、占領した場所は12ヶ所。
既にその半分が鎮圧された事になる。
もっとも、その全てをファントムスイープ隊がやった訳ではない。
ファントムスイープ隊抜きで、連邦軍だけの力で鎮圧した場所もある。
ともあれ、これで半分を鎮圧したのは事実。
そうなると残り半分だが……
「残り6ヶ所には、蜂起した以外のジオン軍残党も集まってきているのか?」
「どうやらそのようです。……蜂起した者達と繋がりがあった他のジオン軍残党がそこに集まったのでしょう。あるいは、既に鎮圧された場所から逃げ延びた者達がまだ鎮圧されていない場所に逃げ込んだのかもしれませんが」
「……そうなると、残りの場所でも戦力が増えるか。厄介だな」
勿論、連邦軍側もファントムスイープ隊を始めとして、精鋭を用意するだろう。
だが、双方共に戦力を集めるとなると……ん? これはもしかしたらアムロとかが出るか?
元ホワイトベース組で、現在も連邦軍に所属しているのはあまり多くはない。
カイとかは恋人と一緒にルナ・ジオンに来たしな。
とはいえ、アムロという戦力は非常に大きい。
もしジオン軍残党に苦戦をしているのなら、それこそアムロを派遣しても……いや、けどどうだろうな。
連邦軍において、ニュータイプ脅威論というのがそれなりにあるらしいし。
元々連邦軍はニュータイプという存在については懐疑的だった。
いや、ジオン軍でもそこまで信じている者はいなかっただろう。
だが、実際にそれらしい能力を持った者が現れ、そのニュータイプによる攻撃によって連邦軍は大きな被害を受けている。
あるいはその程度なら、連邦軍もニュータイプをそれなりに危険視はしたが、それでも決定的とはならなかっただろう。
その決定的となったのが、ルナ・ジオンの建国だった。
ニュータイプについて最初に唱えたジオン・ズム・ダイクンの娘のセイラ。……いや、アルテイシア・ソム・ダイクン。
このセイラがニュータイプとして覚醒し、それを全面に押し出して出来たのが、ルナ・ジオンなのだから。
実際には別にニュータイプの為の国という訳ではなく、俺とセイラが接触した時に見た光景……シャアが小惑星を地球に落とすというのを阻止する為の組織としてルナ・ジオンを建国したというのが正しいのだが、それは公になっていない。
結果として、UC史上最高のニュータイプとなったセイラの存在が大々的に表に出た。
当初こそ、連邦軍……いや、連邦政府もそこまでセイラの存在については重要視していなかったものの、面会した連邦政府の役人や政治家達が心の中を読まれるという経験をした事によって、高いニュータイプ能力を持つセイラの危険性が連邦には認識されてしまった。
その結果として、連邦軍や連邦政府はニュータイプに強い危機感を持ち……そうなれば、セイラに劣るものの連邦最高のニュータイプのアムロがどのような扱いになるのかは容易に想像出来るだろう。
とはいえ、アムロは自分から望んで連邦軍に残った。
一応俺はホワイトベースの面々に月に移住するように誘ったのだが、それを受け入れたのはカイだけだ。
アムロは全てを承知の上で連邦軍に残った以上、この状況は仕方のない事だろう。
もっとも、今のアムロにしてみれば想像よりも酷い状況なのかもしれないが。
もし今度アムロに会う事があったら、もう一度月に誘ってみてもいいかもしれないな。
アムロの気分も変わっているかもしれないし。
「取りあえず、報告までに。アクセル代表が手を貸していた、ファントムスイープ隊の話について情報が入りましたので」
「ああ、悪い。情報助かったよ」
そう言うと、ヴィッシュとマヤはそれぞれ敬礼をして俺の前から立ち去る。
さて、連邦軍にしてみれば、ようやく蜂起したジオン軍残党の半分を倒したとはいえ、残り半分の戦力は増強された訳か。
アムロを出すのが危険だと判断したら、ルナ・ジオンに出撃要請をしてくるか? ……いや、ないな。
連邦軍はアムロを危険視しているが、ルナ・ジオンはそのアムロ以上に警戒している筈なのだから。
だとすれば、何かもっと別の手段を講じるだろう。
例えば、ジオン共和国に戦力を出させるとか?
これは結構ありそうだが、反対する者も多そうだ。
ジオン軍残党を倒すのをジオン共和国にやらせるのを良しとするか。
あるいは、ジオン軍残党を連邦軍の手でどうにか出来ないのは恥だと考えるか。
その辺については分からないが、強硬派の性格を考えると自分達の手で事態を収めようと考えてもおかしくはないと思う。
そうなると、やっぱり俺の出番はないか?
けど、マオとの間で水天の涙についての情報を得たらこっちにも流すようにという事で話はついている。
これまでのジオン軍残党の動きから、12ヶ所の一斉蜂起が水天の涙と関係がないとは到底思えない。
だとすれば、やはりここは待つのが最善か。
まさか強引にジオン軍残党を倒す為に俺が勝手に出撃する訳にはいかないし。
ルナ・ジオンと連邦は、明確に別の国なのだ。
そうである以上、何の断りもなく戦闘に乱入したりすれば、それこそ連邦との関係が悪化するだろう。
ましてや、ハワイにいるルナ・ジオン軍を引き連れるような事があったら、それこそ洒落にならない事態になる。
連邦に喧嘩を売るのが目的ならそれもいいのだろうが、今のところそんなつもりはない。
強硬派が厄介というか面倒だが、強硬派が何かをやらかせば、それは連邦軍の開発している新型MSや新技術とかを入手出来る。
これは正直なところ、非常に美味しかった。
ゴップやコーウェンにとっては全く納得出来るような事ではないだろう。
しかし、それで何もしないという選択をした場合、それはルナ・ジオンと……そしてシャドウミラーと敵対するという事を意味していた。
ゴップやコーウェン、他にも戦力差をきちんと把握出来ている者達にしてみれば、そんな選択は絶対に出来ないだろう。
ましてや、今の連邦は戦後復興で幾らでも金が欲しい。
それこそジオン軍残党との戦いすら、本来なら避けたいくらいに金銭的に余裕はない。
だからこそ、ファントムスイープ隊のような遊撃特務部隊とかを結成したのかもしれないが。
ともあれ、今は俺も何もする事はなく……模擬戦をしたり観光をしたりと、半月程の時間をハワイで休暇代わりに楽しむ。
その間にペルソナ世界の方ではチンピラがどうとかそういう話もあったが、いつマオから連絡が来るのか分からない以上、俺はハワイでゆっくりとしていた。
そうした日々を楽しみ、今日もまた海で泳ごうかと思っていると……
「失礼します。アクセル様。ノリス様から連絡が入っております」
ホテルを出ようとしたところで、そう声を掛けられる。
どうやらちょうど今のタイミングで連絡が入ったらしい。
けど、ノリスから?
これが例えばギニアスとかだったら、ジーラインの解析についてとか、ジム・コマンドのアムロの回避データについてとかの話題で納得も出来る。
アイナであれば、放牧についてだったり、ハワイの住人の生活の質を高める相談とかかもしれない。
ちなみに無人島で放牧をしているのを見に行ったが、豚や牛、羊、山羊、鶏といった動物がかなり元気に育っていた。
今のところは熊のような肉食獣はいないので、放牧している動物がそういうのの被害に遭うような事はなかったが。
ともあれ、今はまだそこまで多くの肉を用意は出来ていないが、将来的に有望なのは間違いない。
そんな風に思いつつ、俺はノリスとの通信に出るのだった。