俺達がオーガスタ基地に来てから数日……その数日の間に、ユーグ以外のファントムスイープ隊の面々とも会って、軽く言葉を交わしている。
……ソロモンの悪夢と荒野の迅雷がいる事に、驚愕している者もいたが。
特にシェリーは信じられないといった様子で口を大きく開けて驚いていた。
無理もないか。
シェリーの年齢を考えれば、もしかしたら既にガトーやヴィッシュが載っている教科書で勉強をしたのかもしれないし。
あるいはテストパイロットとしてこのオーガスタ基地にいる時、ガトーやヴィッシュの活躍について実際にそれを見たMSパイロットから聞いたという可能性もある。
ともあれ、そんな訳でファントムスイープ隊との再会もされ、後はいつジオン軍残党が襲撃してくるかという事だったのだが……
「来たな」
ヴィー、ヴィーという警報音を耳にし、そう呟く。
その警報が何の為に流れたのかは考えるまでもない。
格納庫に向かう為に部屋を出ると、ほぼ同時にガトーとヴィッシュも部屋から出て来る。
ちなみに俺達の部屋は個室だ。
それも恐らくオーガスタ基地の中でも明らかに上等な部屋だろう。
この辺はマオやゴドウィンの根回しなのか、あるいはオーガスタ基地の上層部の考えなのかは分からないが。
スライムを使って監視カメラや盗聴器の類がないのを確認しているので、そう考えるとマオやゴドウィンの根回しと考えた方がいいのだろう。
「アクセル代表!」
「分かっている。すぐ格納庫に行くぞ。MSの準備も問題ない筈だ」
俺達が乗るギャン・クリーガーは、元々ハワイで万全の状態にまで整備されていた。
だが、ハワイと北米では温度や湿度、それ以外にも色々と違う。
その為、ギャン・クリーガーの性能を万全に発揮する為には調整が必要になるのだが、その調整もそこまで時間が掛かるものではない。
俺達がここに来てから既に数日。
それを考えれば、この程度の調整は既に終わっている。
「ここが地球上だったのが幸いですね!」
格納庫に向かって走っていると、ヴィッシュがそう言う。
その言葉に、ガトーも同意するように頷く。
「パイロットスーツを着ないでいいのは、楽だからな」
2人の会話は俺にも納得出来る事だった。
パイロットスーツは宇宙では必須だが、着るのにどうしても相応の時間が掛かる。
だが、地上ではパイロットスーツは必須ではない。
とはいえ、パイロットスーツには多少なりとも耐G性能があるし、ダメージを受けたり操作ミスで建物にぶつかったりした時の衝撃をある程度吸収してくれるという機能もある。
操縦の安全性を考えるのなら、地上での戦いの時もパイロットスーツは着た方がいいのだ。
……俺は生身のままで宇宙空間にも出られるし、魔力や気が関係していないような物理攻撃でダメージを受けないので、宇宙でもパイロットスーツを着ていないが。
ガトーやヴィッシュは、異名持ちだ。そう簡単に敵にやられる事はないので、パイロットスーツがなくてもいいという判断なのだろう。
そうして格納庫に向かうが、既にガンキャノンⅡであったり、ジム・コマンドであったりと結構な数のMSが出撃している。
これは俺達の行動が遅かった訳ではなく、格納庫で待機していた者達だろう。
このオーガスタ基地が狙われているという情報があったのだから、オーガスタ基地側でも相応に警戒するのはおかしな話ではない。
その者達が出撃したのだろう。
そして遠くから聞こえてくる破壊音。
どうやら既に戦闘は始まっているらしい。
「ガトー、ヴィッシュ、敵の狙いがなんなのか分からない。オーガスタ基地を襲撃して何をしようとしているのか。けど、向こうが何をしようとも俺達なら何とか出来るのは間違いない」
「アクセル代表の言葉とあらば、ソロモンの悪夢と呼ばれた私の実力を思う存分発揮してみせましょう!」
「こちらも負けないように異名持ちの実力を発揮させて貰おうか」
ガトーとヴィッシュがやる気満々といった様子を見せる。
そのまま格納庫に向かうと、そこにはコバッタやメカニック達の姿がある。
「準備は?」
「万端です!」
即座に返ってくるメカニックからの返事。
その様子に頷くと、俺とガトーとヴィッシュはそれぞれ自分のギャン・クリーガーに乗り込む。
ちなみに俺のギャン・クリーガーはパーソナルカラーの赤に、ガトーのギャン・クリーガーはパーソナルカラーの緑の胴体に青い四肢、ヴィッシュの機体は通常のギャン・クリーガーだ。
荒野の迅雷の異名を持つヴィッシュだが、異名持ちにしては珍しくパーソナルカラーがないんだよな。
本人がその辺をあまり気にしていないのかもしれないが……パーソナルカラー持ちというのは、戦場に異名持ちがいるというのを示し、味方の士気を上げ、敵の士気を下げる効果を持つ。
……もっとも、場合によっては味方に過剰なまでの戦果を要求され、敵からは異名持ちということで集中的に狙われたりもするが。
その辺はそれぞれの考え次第だろう。
ともあれ、ヴィッシュにもいずれパーソナルカラーを決めるように言っておいた方がいいのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、機体を起動させる。
するとそのタイミングを待っていたかのように、マオからの通信が入る。
というか、マオにしてみれば自分以外の者が俺達に通信を送ると問題になるかもしれないとか考えてるんだろうな。
強硬派が何らかの挑発をしてきたり、あるいは少しでも情報を引き出そうとして媚びてきたり。もしくは恋人になりたいと思って接触してくる奴もいるかもしれない。
実際にはガトーにはアイナがいて、ヴィッシュにはマヤがいて、俺には20人近い恋人がいる以上、恋人云々はちょっと難しい。
俺だけ少し違うが、それは取りあえず置いておくとして。
「で、戦況は?」
『敵の狙いはオーガスタ基地の殲滅といったものではなく、レーダーの類や対空施設を集中的に攻撃しています』
「……何?」
単刀直入に俺に状況を説明してきたマオだったが、その内容はさすがにちょっと予想外だった。
ただ、これがジオン軍残党にとって本格的な攻撃ではなく、あくまでも本番前の準備段階と考えれば納得出来るのか?
とはいえ、ジオン軍残党にガウのような強力な……それこそ空中要塞と呼ばれる事もある飛行機を用意出来るかと言えば、どうだろうな。
いやまぁ、今はまだ1年戦争が終わってからそこまで時間が経っていない。
なら、ガウや……もしくは輸送機だがファット・アンクルを保有していてもおかしくはないのか?
勿論、数はそう多くはないが。
ユーコン級やマッドアグラー級のように、オデッサ作戦が終わって戦局が不利になった事でジオン軍は撤退する時、宇宙で使えない兵器は置いていった。
ザンジバル級のように地球でも宇宙でも使えるのならともかく、ガウやファット・アンクルのように地球でしか使えない飛行機は当然のように置いていっただろう。
そうして置いていかれた飛行機の大半は連邦軍に確保されたものの、ジオン軍残党が確保した分もある。
とはいえ、潜水艦のように海水で機体を隠したり出来ない飛行機は……ましてや、ガウやファット・アンクルのように結構な大きさがある場合、どうしても見つかりやすくなる。
ミノフスキー粒子があるので、レーダーとかには引っ掛かりにくいだろうが、そのミノフスキー粒子もいつまでもそこにある訳ではない以上、散布されれば散布されたと分かり、そうなるとそこに何らかの存在……ミノフスキー粒子を散布する何者かがいるという事を意味している。
『それでアクセル代表達にはこの地区……A-3地区にあるレーダーと対空施設の護衛をお願いします』
マオからA-3という地区のデータが流れてくるのだが、それなり基地から近い重要な場所なのは間違いない。
「いいのか?」
こうして半ば無理矢理押しかけてきている状態で、オーガスタ基地の中でも最重要……とまではいかないが、それなりに重要な場所の防衛を任せてもいいのか。
そう思って尋ねるが、映像モニタに表示されたマオは躊躇なく頷く。
『アクセル代表が頼れる味方である事は、既に分かっています』
「ファントムスイープ隊と一緒に行動していた時は、信用を得る為に大人しくしていただけかもしれないぞ?」
『それでも、私はアクセル代表を信じられると判断しました。それに……アクセル代表なら、ここで連邦軍を敵に回す事の危険は理解しているのでは?』
「……そうだな」
ルナ・ジオンとしては、連邦に負けない事は出来るが勝つのも難しい。
シャドウミラーとしては連邦軍に勝つのは難しい事ではないが、そうなるとジーラインやガンダム開発計画を始めとした、新型MSの入手が難しくなる。
それこそシャドウミラーの国是である未知の技術の収集という点については大きなマイナスだ。
1年戦争中に起きた数々の出来事、そして今回の水天の涙。
それを考えると、恐らく……本当に恐らくだが、このUC世界ではまだ多数の原作があると思ってもいい。
ペルソナ世界で月光館学園での話が終わった後、稲羽市の話があったように。
とはいえ、明確にUC世界がそのような世界だという証拠がある訳ではない。
1年戦争の時に明らかに本筋から外れた出来事が多数起こったり、今回の水天の涙の件の状況証拠と俺の勘でしかないのだから。
『では、アクセル代表にはA-3地区の護衛をお願い出来ますか?』
「分かった」
半ばマオに説得されたような形だったが、今後の事を思えばやはりここは素直に向こうの要望を聞いておいた方がいいだろうと判断して、そう返事をする。
『では、お願いします。こちらで何かがあったら、また連絡をしますので』
その言葉と共に通信が切れる。
マオは俺達以外にもファントムスイープ隊に対しても指揮をする必要がある。
こちらだけに関わってはいられないのだろう。
とはいえ、普通なら連邦軍ではない俺達を野放しにするという事はちょっと考えられない。
そういう事をする気はないが、この機会にオーガスタ基地に何かを企むといったように思われてもおかしくはないのだから。
となると、俺達が任されたA-3地区は重要な場所ではないか、あるいは何らかの手段でこっちの行動を見張っているか。
その辺は俺にもちょっと分からないので何とも言えないが、可能性は十分にあった。
「ガトー、ヴィッシュ、俺達が任された場所はこのA-3地区だ。早速向かうぞ」
A-3地区についてのデータを2人に送ると、格納庫から出る。
ガトーとヴィッシュも当然のように俺を追ってくる。
すると格納庫の外では、ちょうどジム・コマンド数機が移動しているところだった。
ジム・コマンドのうちの1機はギャン・クリーガーの姿を見て驚いたのか、反射的にビームライフルを向けてくるが……
『止めろ!』
オープンチャンネルで響くその言葉に、こちらにビームライフルの銃口を向けたジム・コマンドはその動きを止める。
『馬鹿者が! ビームライフルを下ろせ! 味方だ!』
『す、すいません!』
同じくオープンチャンネルで聞こえてきたのは、かなり混乱している様子の女の声。
なるほど。最初は強硬派がドサクサ紛れに俺を攻撃しようとしたのかとも思ったのだが、どうやら違ったらしい。
声の様子から、恐らく俺にビームライフルを向けてきたパイロットはこれが初陣か、あるいは初陣ではなくてもまだ新米といったところか。
『申し訳ない、ムウ特務少佐。新米のやる事だと許してくれとは言わん。だが、処罰するのはこの戦いが終わってからにして欲しい。今は援軍に行く事に納得して欲しい』
「分かった」
『それで……いいのか? 本当に?』
MS小隊を率いるだろう男は、まさか俺が素直にその言葉に納得するとは思わなかったのか、驚きの声を上げる。
「気にするな。俺達のMSを見てそういう風に反応してもおかしくはない」
ギャンはジオン軍では数機しか作られなかったMSだが、それでもジオン系か連邦系かと言えば、それは間違いなくジオン系だ。
ジオン軍残党が襲撃してきているこのオーガスタ基地において、いきなりジオン系MSのギャン・クリーガーを見た場合、反射的に攻撃しそうになってもおかしくはない。
「それに今はまずこのオーガスタ基地を守るのが優先だろう? なら、ここでどうこうといった事を話しているような余裕はない」
『感謝する。この件は戦いが終わったらすぐ上に報告して、謝罪をさせて貰う』
そう言い、小隊長は部下のジム・コマンドを引き連れてその場から立ち去る。
『よろしいのですか、アクセル代表』
一連の様子を見ていたガトーが、不満そうな様子でそう通信を送ってくる。
ガトーにしてみれば、今回の一件は決して許せる事ではないのだろう。
とはいえ……
「気にするな。敵意があっての行動ならともかく、反射的な行動だ。しかも俺をアクセルだと知らないんだ。ここで大事にしても面倒なだけだ」
『アクセル代表がそう仰るのであれば……』
完全に納得した様子ではなかったが、それでもガトーはこれ以上この件では何も言わないと態度で示す。
俺はそれに頷き、A-3地区に向かうのだった。