「何? それは本当か?」
『ええ。ペズンからの報告だから間違いないわ』
オーガスタ基地にある俺達の部屋。
その中で、空中に映し出された映像スクリーンに映し出されたモニクが俺の問いに頷く。
オーガスタ基地での戦いが終わった翌日、これからどうしようかと思っていたところで、月にいるモニクからの連絡が入ったのだ。
その内容は、俺にとっても驚くべき事であると同時に、安堵すべき事でもあった。
即ち……
「フィフス・ルナの襲撃か。時間を考えると、明らかにオーガスタ基地の襲撃と連動している作戦だと考えた方がいいんだろうな。せめてもの救いは連邦軍が撃退に成功してフィフス・ルナを守り切った事か」
『私もそう思うわ。とはいえ、何故そこでフィフス・ルナなのかという事が疑問だけど』
「連邦軍の施設という意味では、ソロモンやルナツーもある。そんな中でフィフス・ルナを襲ったのは……考えられるとすれば、警備が一番手薄だからか?」
フィフス・ルナは現在連邦軍が開発を進めている場所だ。
その中にはアナハイムの部署があったりもするらしい。
それだけに、相応の警備があるのは間違いないだろうが、それでもソロモンやルナツーの警備と比べるとどうしてもその警備は劣ってしまうだろう。
……ん? 待て。もしかして……
今回UC世界にやって来てからフィフス・ルナについての話を聞いた時の事を思い浮かべる。
『そうね。アクセルの言うように単純に警備がそこまで厳しくないからというのもあるけど、フィフス・ルナについては少し不安材料があるのよ』
俺の不安を肯定するかのように、モニクはそう言う。
いつもは凜々しいといった顔立ちのモニクだが、現在その表情には若干ではあるが不安そうな色がある。
「不安材料?」
『ええ。アクセルが知ってるかどうか分からないけど、フィフス・ルナにはマスドライバーが設置されているわ。そして、ジオン軍は1年戦争の時に月のマスドライバーで地球を攻撃した事がある』
「それは……」
なるほど。モニクの言いたい事も分かった。
同時にオーガスタ基地を攻撃したジオン軍残党が、レーダーや対空施設を集中的に狙っている理由も理解する。
それはつまり、マスドライバーから発射された弾頭……恐らくスペースデブリとかそういう岩塊だと思うが、それでオーガスタ基地を狙う際に少しでも発見を遅らせる為にレーダーを、そして見つかった場合に発射された岩塊を迎撃されないように対空施設の破壊を狙っていたのだとすれば、納得出来る。
元ジオン軍……それもギレン直轄の組織に所属していただけあって、モニクはジオン公国の秘密についてかなり深く知っている。
もっとも、ギレン直轄の組織の一員ではあったが、その中でも幹部だったとかそういう訳ではないらしく、あくまでも構成員の一員でしかなかったらしいが。
それでもこうして色々と知ってるのは助かるのだが。
その組織のトップ……ギレンの副官にして、愛人でもあったという秘書がいれば、もっと詳しい情報を入手出来るのだろうが。
残念ながら、その秘書は1年戦争後行方不明だ。
もしかしたら連邦軍に捕らえられているのかもしれないが。
連邦軍にしてみれば、ギレンの側近中の側近にして愛人だという噂もある人物だ。
普通なら知らない情報を数多く知っている以上、是非とも捕らえて尋問をしたいだろう。
まぁ、とにかく今はその件は関係ないか。
今の状況で重要なのは、インビジブル・ナイツとやらがフィフス・ルナにあるマスドライバーを使ってオーガスタ基地を攻撃しようとしているという事だ。
今回はフィフス・ルナの占拠を防ぐ事が出来た。
だが、次は?
……普通に考えれば、ジオン軍残党の戦力は決して多くはない筈だ。
とはいえ、地球での一連の行動を見ると、本当にそうなのか? と思わないでもなかったが。
何しろハワイを攻撃して、ベルファストを2度攻撃し、アジアでの戦いがあり、ニューヤークを占拠し、同時に地球上の12ヶ所を占拠した上で、オーガスト基地に大規模な攻撃を仕掛けて来たのだ。
これが本当に残党という規模なのか?
それこそ残党ではなく明確に戦力が揃っている軍隊と表現した方が、この場合は相応しいような気がする。
とはいえ、まだ1年戦争が終わってからそう時間が経っていない以上、ジオン軍残党も戦力をきちんと保持しているし、士気が高くてもおかしくはない。
例えば、これが1年戦争が終わってから10年経過していた場合、整備とかの問題でMSを含めた兵器も使い物にならなくなったり、場合によっては共食い整備とかをしたりも……いや、違うな。共食い整備が出来るのならまだ幸運な方か。
最悪の場合は共食い整備すら出来ず、MSを含めた兵器が朽ちていく可能性もある。
連邦軍の基地とかを襲撃してMSの部品を奪えるとかすればいいが、その辺はそう簡単に出来る事ではない。
ああ、でも民間の工場とかを襲撃して部品を確保したりは出来るのか?
MSを含めた兵器はそうでも、ジオン軍残党の士気はそうもいかない。
今はまだ戦争が終わって少ししか経っていないが、時間か経過するに従って士気が低下し、ジオン軍残党を抜ける者、あるいは連邦軍に降伏する者も出てくるだろう。
あるいはどこか……例えば連邦を嫌っている組織に匿われている場合は、そこにいる女と夫婦になって死ぬのが怖くなるとか。
その辺の諸々を考えると、今回のように大規模な攻撃を行う事が出来たのは、あくまでも今だからこそだろう。
逆に言えば、今回の一連の襲撃でジオン軍残党が受けたダメージによって、これからはそこまで活発に動いたりはしないかもしれない訳だ。
「取りあえず、その情報についてはマオに教えてもいいか?」
『……言っておくけど、クリスとは違って現役の連邦軍の女はそう簡単にアクセルには引っ掛からないわよ? 美砂が言っていた、チョロいんじゃないんだから』
どこから突っ込めばいいんだろうな。
というか、美砂は何を教えてるんだ、何を。
「マオはファントムスイープ隊の隊長で、別に俺が口説いてる相手じゃない。というか、寧ろユーグとの関係が怪しいな」
本人は可能な限り表に出していないようだったが、マオがユーグを見る目は女が男を見る目のように思える。
それにシェリーとユーグが話しているのを気にしているように……ああ、もしかしたらこっちはシェリーをスパイとして疑っていたから、そっちの関係だったりするのか?
「それに……チョロいんってのは俺が言うのも何だけど、モニクも十分チョロいんだと思うぞ?」
『ちょっ! 誰かチョロいんよ! こう見えても、身持ちが堅いって有名だったんだからね!』
「だろうな」
それは分かっている。
具体的には、俺がモニクの初めての男だったというのがX世界ではっきりしたのだから。
まぁ、最後まで行かなくても男と付き合うくらいはしたかもしれないが……うん。これもまた俺が言うのもなんだが、モニクの強気な性格は自動的に男除けのような感じになっていたと思う。
それでも美人のモニクだけに、男に言い寄られる事はあったみたいだが。
『全くもう、アクセルは私がいないとどうしようもないんだから』
そう言いつつも、本人的には何故か嬉しそうな様子。
それこそ俺が言うのもなんだけど、モニクって悪い男に引っ掛かりやすそうな性格をしてるように思える。
本人が有能で割と何でも出来るだけに、世話を焼くのが好きといった感じか。
下手な男に引っ掛かるよりは、俺に引っ掛かった方が……うん。まぁ、良かったと思っておこう。
「取りあえず、ファントムスイープ隊にフィフス・ルナの件とマスドライバーの件は知らせておく」
『そうしておいてちょうだい。……ああ、それと。アクセルにとっていい話があるわよ』
「いい話? 今の状況でいい話と言われても、あまり期待出来ないんだが」
『今の話とはちょっと違うわ』
そう言い、笑みを浮かべるモニク。
何だ? この様子だとモニクは本当にいい話だと思ってるみたいだが。
「具体的には?」
『実は、数日前にアクシズからの親善大使が来てるのよ。木星に行った帰りにアクシズに寄って、その時に一緒にシステムXNで連れて来たみたいだけど』
「それはまた……」
月から木星まではシステムXNを使って一瞬だ。
それを考えれば、帰って来る時に月と木星の間にあるアクシズに寄ってくるのは、そう難しい事ではないだろう。
「それで、それが俺にどうサプライズなんだ? いやまぁ、アクシズの親善大使というのはちょっとした出来事だと思うけど」
『アクシズにしてみれば、ルナ・ジオンは自分達の仕えている存在、あるいは主君で、シャドウミラーはその上位組織でしょう? そんな訳で、アクシズから来た親善大使は手土産を持ってきたの』
「手土産? アクシズから?」
俺が知ってる限り、アクシズというのはジオン共和国の存在を認めないという者達が避難をした場所の1つだ。
実際にはインビジブル・ナイツを始めとして、地球に残ってゲリラ活動を行っているものであったり、ギレン派の筆頭とも言うべきデラーズに従ったり、キシリア派はキシリアのいる火星に行ったりと、ジオン軍残党は残党で、色々と分かれている。
そんな中で、アクシズは様々な理由からそういう場所に行けなかった者や、派閥に入っていなかった者達が集まっている。
他にもそれぞれの勢力からスパイ目的で送り込まれている者もいると聞く。
そんなアクシズから手土産と言われても……それこそすぐに思い浮かぶのは、スペースデブリとかそんな感じか。
まぁ、ぶっちゃけ下手に金塊とか宝石とかを貰うよりは、キブツに入れられるスペースデブリの岩塊とかそういうのの方が嬉しかったりするのも間違いないのだが。
『ええ、そうよ。……その様子だとアクセルはあまりアクシズに興味がないから知らないみたいだけど、アクシズはジオン公国が作った木星に向ける中継所のようなものよ』
「それは知っている」
アクシズについての、大雑把な事情についてはそれなりに情報が入っている。
だからこそ、多数の勢力からスパイ目的に入ってる奴がいる件についても知ってるのだから。
『じゃあ、こっちは知ってる? アクシズには兵器製造プラントもあるのよ。そして兵器製造を得意としてる人もそれなりに多く集まってるわ。ニュータイプ用の兵器開発が得意な人とかも』
「……何? それは本当か? 冗談でも何でもなく?」
モニクの口から出たのは、俺にとっては予想外の言葉だった。
俺にとってアクシズというのは、ダイクン派を始めとして様々な派閥の者達が集まっている……そんな場所だと思っていた。
言ってみれば、政治の場といった感じか?
勿論、MSの類が全く製造されていないとは思っていなかった。
だがしかし、モニクの言葉を聞く限りでは俺が想像していた以上に高い技術力と生産能力を持ってると思ってもおかしくはない。
『ええ。……とはいえ、それでもアクシズが小惑星基地で規模が小さいのは変わらないわ。結果として、それなりに高い技術力を持ってはいるけど、現在は新型機の開発よりも持ち込まれた兵器を強化する方向がメインらしいわ。ただ、それでも新型を作っていない訳ではない』
そう言い、意味ありげな視線を俺に向けてくるモニク。
それを見れば、何となく何が言いたいのかを理解出来る。
これは多分、俺がモニクの事を以前よりもよく理解しているという事なのだろう。
「つまり、その新型機が献上品という訳か?」
『正解。……とはいえこの新型機、少し訳ありなんだけど。聞く?』
その言葉に首を横に振るという事が出来る筈もない。
「聞かせてくれ」
『少し事態が複雑なんだけど、現在アクシズを率いているのは、マハラジャ・カーンという人よ』
「ダイクン派で、だからこそセイラに自分達はルナ・ジオンに従うと言ってきたんだよな?」
『ええ、その通り。ただ、このマハラジャには何人か娘がいて、その娘の1人……長女が、ドズル閣下の愛人だったらしいわ』
「……そうなのか?」
それはちょっと意外な繋がりだ。
ザビ家がダイクン派を敵視していたのは間違いない。
そんな中でドズルがダイクン派のマハラジャの娘を愛人にしていたとなると……ザビ家的に問題はなかったのか?
いやまぁ、ドズルの性格を考えると問題があっても強引に押し通したのかもしれないが。
『ええ。そんな訳で、アクシズとドズル閣下の繋がりは深かった。そしてドズル閣下は1年戦争中にアクシズに1つの命令をしたの。それが、赤い彗星の異名を持つシャアの専用MAの開発』
「いや、けどシャアは……」
『そうね。ガルマ閣下を死なせた……と思わせた件で、ドズル閣下の宇宙攻撃軍を追放され、キシリアの宇宙突撃軍に拾われたわ』
ドズルが閣下なのは、現在のジオン共和国が実質的にガルマ派とドズル派だからだろう。
しかもガルマは実質的にキシリアの部下だったので、比率的にはドズル派の方が多い。
それに対して、キシリアは1年戦争でジオン公国が負けた戦犯だし。
それに色々と後ろ暗いところもあるのは間違いない。
『そんな訳で開発は途中で止まっていたけど、アクシズがルナ・ジオンに従うという事になって開発が再開されて完成したMA……ゼロ・ジ・アールがアクセルに対する手土産よ』
そうモニクは言うのだった。