ゼロ・ジ・アール。
どうやらそれがアクシズの親善大使が持ってきた手土産らしい。
とはいえ、MA……MAか。
いやまぁ、MAが決して悪いという訳ではない。
実際、MAはMSのような汎用性を捨てた代わりに、得意とする戦場においてはその性能を存分に発揮出来る。
局地専用MS……水中用MSや宇宙用MSが、汎用性の高いザクやジムと得意とする戦場において戦った場合、かなり有利に戦えるのと同じ理屈だろう。
それをもっと極端にしたものだ。
それは分かる。
分かるんだが、MAというのは巨大なだけにどうしても運動性に難がある。
高い加速性や高機動力を持ってるのはいいし、物理法則のGを無視出来る俺にしてみれば、その加速性や高機動性を最大限発揮出来るのも事実。
また、機体が大きくなる分、大規模なメガ粒子砲も装備出来る点は大きい。
しかし、同時にMSに接近された時の対処が難しいという弱点もある。
とはいえ、アクシズが俺の為に献上品として用意したのなら、受け取らない訳にもいかないだろう。
実際に乗ってみて、ここはこういう風にといったようにアドバイスをしてもいいかもしれない。
とはいえ、MAのような大きさだとどうしてもMSのような運動性は持てない。
あるいはMAの大きさでMSのような運動性があるのなら、そのMAを実際に使って見たいという思いがない訳でもないのだが。
「取りあえずゼロ・ジ・アールについては分かった。地上での一件が終わって月に戻ったら乗ってみる」
『そうしてちょうだい。……一応、何か妙な仕掛けがないか、確認はしておくから』
「妙な仕掛け?」
モニクのその言葉に疑問を抱く。
だが、すぐに納得した。
「なるほど。ゼロ・ジ・アールの開発や設計をした中には、アクシズの中でも主流派のダイクン派以外の連中も関わってるのか」
『どうやらそうらしいわね。それに主流派がダイクン派なのは間違いないけど、だからといってダイクン派だけで他の派閥全てをどうにか出来るといったくらいの影響力がある訳でもないわ。それこそ、場合によっては他の派閥が全て協力すればダイクン派を相手に渡り合えるくらいだもの』
「で、そんな他の派閥の中でゼロ・ジ・アールが俺に献上されると知った場合、これ幸いと特定の操作とかでコックピットが爆発するとか、そういう仕掛けがあるかもしれない訳だ」
俺が混沌精霊で、物理的な攻撃が一切効かないというのは、殆ど知られていない。
だからこそ、コックピット諸共爆弾で破壊してしまえば……と、そんな風に考える者がいてもおかしくはない。
「とはいえ、アクシズ側でもその辺は調べてると思うけどな」
『それでも念の為よ』
モニクの言葉に納得しつつ、先程のモニクの言葉に疑問を抱く。
具体的には、ダイクン派以外の派閥が協力したらダイクン派に対抗出来るという話だ。
それは間違いないだろう。
だが、その派閥のうち、間違いなく大きな派閥なのはギレン派とキシリア派だ。
しかしこの2つの派閥が協力するとは到底思えないのも事実。
何しろキシリアは自分の手でギレンを殺したのだから。
それが原因で1年戦争におけるジオン軍の負けが決定したのは間違いない。
シャドウミラーが協力していた以上、もしギレンがキシリアに殺されていなくても、結局は連邦軍が勝利しただろうが……ジオン軍、それもギレン派の者にしてみれば、ギレンが生きていれば1年戦争で勝利したという風に考えている者もいるらしい。
つまりジオン軍残党の中でもギレン派の者にしてみれば、キシリアのせいでジオンが負けたと思っているのだ。
そんな2つの派閥が協力するかと言われれば、正直なところ俺は難しいと思う。
とはいえ、ジオン軍残党として追い詰められた場合にはもしかしたら……本当にもしかしたら、手を組むかもしれないが。
ただ、アクシズにいる連中にしてみれ、そんなに切羽詰まった状態ではないだろう。
つまりギレン派とキシリア派が協力する可能性はかなり低い。
お互いの派閥に憎悪や確執を乗り越えて協力するといった者がいれば、また話は別だが。
だが、1年戦争終了後に遭遇したギレン派の男……デラーズだったか? あの男を見る限り、そういう心配はないように思える。
ただ問題なのは、ギレン派はギレンが死んでいるが、キシリア派はキシリアが生きている事だろう。
ギレンの暗殺とか、何でそのタイミングで? と思うところはあるが、それでも基本的にキシリアが有能な人物なのは間違いない。
MSの有用性をいち早く理解したり、ニュータイプについての研究もそうだし、有能な人材を集めて特殊部隊を作ったりとかもそうだ。後はキシリア機関とか。
そんな諸々を考えると、キシリアはやっぱり有能なのだ。
特に陰謀とかそういうのが。
つまり、キシリアが陰謀でギレン派をいいように動かすという可能性も否定は出来ない。
そういう場合は注意が必要か。
「ともあれ、ゼロ・ジ・アールの件についてはそっちに任せる。量産型Wやコバッタを使えば、精巧に爆弾の類を隠していても見つけるのは難しくない筈だ。……ただ、個人的には見つからない方がいいんだけどな」
もし爆弾が見つかれば、アクシズに対して今まで通りの対応をするという事は不可能になる。
ゼロ・ジ・アールの件を見ても分かるように、アクシズは何気に技術力は高いとみるべきだけに、それは惜しい。
出来ればマハラジャには頑張って欲しいものだ。
『それには賛成よ。ただ、アクシズを今以上に味方に引き込むにしても、まずはアクシズ内にいる不穏分子をどうにかする必要があるでしょうね。……ああ、それと1つ報告を忘れていたけど、どうやら火星付近で戦闘があったみたいよ』
「……それはつまり、ギレン派とキシリア派の戦闘か?」
『いえ、どうやら連邦軍のようね。恐らく火星にキシリアが潜伏しているという情報を得ての行動だと思われるわ』
「なるほど」
俺達にもキシリアが火星に潜伏してるという情報は入手出来たのだ。
であれば、連邦軍にもその辺の情報が入手出来てもおかしくはない。おかしくはないが……場所は火星だぞ?
片道だけでもかなり難しいのに、火星で戦ってどうやって戻ってくるつもりだったんだ?
これが例えば、シャドウミラーのシステムXNのように転移技術を持ってるなら、まだ分からないでもない。
だが、連邦軍の軍艦で火星まで行って戻ってくるだけの往復が可能な種類は……あるのか?
あるいは片道切符を承知の上で討伐軍を派遣したとか?
普通に考えれば、そういう非人道的な事はしない。
だが、軍縮を進める今の連邦軍なら、そういう事をしてもおかしくはないと思える。
特に強硬派が大きな力を持っている現状では。
「その辺の話についてはもう少し詳しく情報を集めてくれ。もしかしたら火星だけではなくアクシズに手を出してくる可能性も否定出来ない」
『アクシズに? 既に連邦軍は、アクシズがルナ・ジオンの所属だというのは分かってる筈よ?』
「それでも連邦軍の場合……というか、強硬派の場合は何をしてくるか分からないしな」
これがゴップやコーウェンなら、ルナ・ジオンと……そしてシャドウミラーと敵対するような事はしないだろう。
だが、これが強硬派となると話が違ってくる。
強硬派にしてみれば、自分達が勝てない相手というのは決して許容出来ないのだろう。
このUC世界において、自分達こそが覇者であると思いたいのだ。
だからこそ、ルナ・ジオンにちょっかいを出してきたりして、その結果がジーラインの一件のような感じだ。
文字通りの意味でゴップが強硬派の尻拭いをしている。
そんな強硬派にしてみれば、アクシズがルナ・ジオンの所属であっても、遠く離れた場所にあるから攻撃しても分からないと考えたり、もしくはアクシズにはギレン派やキシリア派がいるのでルナ・ジオンの所属であると認められないと言い張り、テロリストの拠点と強引に認定して攻撃しても、驚きはない。
「何かあったら月に連絡が入るようにしておいた方がいい。もし連邦軍がアクシズに攻撃をしてきたら、援軍に向かう必要があるし」
普通なら月から火星までの移動は数ヶ月単位での時間が必要となる。
だが、これがルナ・ジオンであれば話は違ってくる。
何しろ木星までシステムXNを使って一瞬で転移出来るのだが。
その転移先を火星にすれば、こちらもまた容易に転移することが可能性になるだろう。
『分かってるわ。アクシズにもその辺は伝えてあるから心配しないで。……さすがにそんな馬鹿な事はしないと思うけど……』
「それをやるのが強硬派だ」
きっぱりとそう言う。
するとモニクも、そんな俺の言葉に反論は出来なかったのか黙り込む。
モニクにとっても、連邦軍の強硬派は厄介な相手と認識されてるんだろうな。
「じゃあ、取りあえずフィフス・ルナの件をファントムスイープ隊に知らせてくるから、通信は切るぞ」
『そうね。それは少し急いだ方がいいと思うわ。……アクセルにはわざわざ言う必要もないと思うけど、頑張ってね』
そう言い、通信は切れるのだった。
「何故それを……?」
オーガスタ基地でファントムスイープ隊に割り当てられている部屋に行き、マオにフィフス・ルナの件を言うと驚かれる。
ちなみに今回は俺1人でやって来ている。
ガトーとヴィッシュを連れてきてもよかったのだが、あの2人はかなりの有名人だ。
そんな2人を引き連れて移動しようものなら、間違いなく目立つ。
いっそ影のゲートで転移を……とも思ったが、それなら護衛が必要ないのは一緒だ。
そんな訳で、現在ガトーとヴィッシュはルナ・ジオン軍に貸し与えられた格納庫に行っている。
整備状況や、何か問題がないのかを確認する為だ。
そうして俺は1人でマオに会いに来たのだが……
「そういう風に言うって事は、どうやらそっちもフィフス・ルナが襲撃されたのは知っていたらしいな」
「フィフス・ルナは連邦の所有なのだから、襲撃されたという情報が……それもオーガスタ基地の襲撃とタイミングを合わせてとなると、その情報がこちらに下りてくるのは当然かと」
まぁ、それは当然か。
とはいえ、ミノフスキー粒子が散布されたのを思えば、一体どういう経路で情報が下りてきたのかは分からないが。
あるいは、どこか他の基地がフィフス・ルナの件についての情報を入手し、それをオーガスタ基地まで知らせに来たのかもしれない。
まぁ、情報を入手してるのは特におかしくはないので、マオのその言葉には取りあえず頷いておく。
「だろうな。それで、こっちについても知ってるかどうかは分からないが、フィフス・ルナの中でもマスドライバーが集中的に狙われたらしい。そしてオーガスタ基地のレーダーと対空施設の破壊が行われていたという事は……」
「ええ、その通りです。水天の涙というのは、マスドライバーを使って地球を攻撃するという作戦です。シェリー中尉がユーグ大尉に話しました」
「……そうか」
スパイとして捕まったシェリーの件も心配だったのだが、ユーグに話したという事だし、待遇そのものはそこまで悪くないのかもしれないな。
とはいえ、それでもスパイである以上は尋問とかはあるのだろうが。
「情報を持ってくるのが遅かったみたいだな」
「いえ。シェリー中尉が話しても、スパイである以上、その情報をどこまで信じられるのかは分かりません。別のルートから同じ情報が入ったのなら、それはこちらが得た情報の補強となります」
そう言うマオだったが、何となく……本当に何となくだが、シェリーがユーグに話したという情報は正しいのだろうと思っていたような気がする。
まぁ、それでもマオの言葉を聞く限りではその辺を突っ込む必要はないのだが。
「ちなみにですが、シェリー中尉からの情報によると、この水天の涙という作戦はジオン軍残党になってからの作戦という訳ではなく、1年戦争時代に行われる予定だった作戦らしいですね」
「……そうなのか?」
「はい。ただ、その作戦の時は月のマスドライバーを使う予定だったのですが、その前にルナ・ジオンが建国してしまい、マスドライバーの占領が出来なくなりました。それ以外にも戦局の変化によって、結局1年戦争中は水天の涙作戦は出来なかったらしいです」
「それはまた……ん? ちょっと待て」
マオの説明に驚きつつも、その言葉が切っ掛けになってとある事を思い出す。
「あー……あー、あー、あー……思い出した」
「アクセル代表?」
突然の俺の言葉に不思議そうに聞いてくるマオ。
だが、俺はそんなマオを気にせず、以前の一件を思い出す。
X世界で入手したコロニーレーザーの設置とかをしている時、ジオン軍……この場合はジオン公国軍ではなく、ジオン共和国軍のMSが不具合を起こして近付いて来た時に助けた事がある。
その時、そのパイロットが月のマスドライバーに強い興味を示しており、その時に水天の涙という言葉を口にしたのだ。
どこかで水天の涙という言葉を聞いたと思ったら、この時だったんだな。