マオに情報を渡したものの、その情報は残念ながら既に知っているものだった。
考えてみれば当然か。
マオが言ったように、フィフス・ルナは連邦の管理下にある小惑星……いや、急速に発展しているのを考えると、小惑星基地と表現した方がいいのか?
ともあれそのような状況である以上、マオがその情報を知ってるのはおかしな話ではなかった。
ベッドの上に寝転がりながら、これからどうするべきかを考える。
元々俺が水天の涙という言葉に興味を持ったのは、どこか聞き覚えがあるからというのが大きい。
その理由はマオとの会話で思い出した。
多分……いや、間違いなく、MSの不具合で助けたあの男はインビジブル・ナイツの仲間だったのだろう。
また、もう1つ水天の涙が気になったのは、もしかしたらジオン軍が開発中だったMSやMAのコードネームではないかと思った事もある。
その意見にはシェリーも賛成していたのだが……今にして思えば、マスドライバーを使った攻撃という、本来の水天の涙について俺達が気が付かないように行動していたんだろうな。
ともあれ、水天の涙の正体が分かった以上、これからどうするのかという問題がある。
とはいえ、俺にとって水天の涙というのが新型MSやMAといったものでなかったのは残念だが、だからといってインビジブル・ナイツを見逃す手はない。
具体的には、インビジブル・ナイツが所有しているイフリートだ。
ステルス性能を強化したイフリート。
地上用MSである以上は宇宙では使えないものの、地上ではまだ十分に高い性能を持っている。
実際、ユーグの操縦するジーラインと互角に戦えるだけの性能があるのは確認されている。
もっとも、それはイフリートを操縦しているパイロットの技量もあるだろう。
何だかんだと、イフリートは1年戦争中に開発されたMSだ。
それに対して、ジーラインは戦後に開発されたMS。
それもアムロの乗ったガンダムの性能を目指して作られたMSだ。
それと互角に戦ったのだから……うん。
イフリートが地上用のMSで、ジーラインは汎用型のMS。
つまり、地上はイフリートの専門であると考えても、それでもジーラインと互角に戦えるというのは、イフリートの高い性能と操縦しているパイロットの技量を示していた。
ジオンのMS系の技術は連邦の10年先を行くというのは1年戦争中に聞いた話だが、イフリートの性能を見ると完全に間違っているという訳でもないんだよな。
ビームライフルとかの特定の技術では連邦軍が勝っていたのは間違いないが。
とにかく、イフリートはグフとドムの中間に存在すると言われているMSで、その製造数は少ない。
一応俺も1年戦争時代に入手はしているものの、インビジブル・ナイツが使っているイフリートは、ステルス性を強化した改修機だ。
であれば、それは入手しておきたい。
……これが連邦軍にあった場合は、それこそゴップとかと交渉をしたり、あるいは強硬派がまた何かをやらかした後でその賠償として貰うといった手段があるのだが、今回は違う。
インビジブル・ナイツが連邦軍から奪った上、現在のイフリートの所有者はジオン軍残党だ。
そして俺がファントムスイープ隊に協力する際の条件として、俺が倒した敵MSの所有権は俺のものだというのがある。
つまりあのイフリートを俺が倒せば、あのイフリートの所有権は俺の物になるという事だ。
……ただ問題として、インビジブル・ナイツがどこにいるのかが分からないというのがある。
インビジブル・ナイツが行う予定だった水天の涙という作戦は、フィフス・ルナのマスドライバーを占拠出来なかった事によって失敗に終わった。
そしてインビジブル・ナイツは、元々水天の涙を行う為に結成された特殊部隊だ。
であれば、それが失敗に終わった今……どうするつもりなのかはちょっと分からない。
インビジブル・ナイツがこのまま解散するという可能性もあるが、ジオン軍残党の性格を考えると、恐らくそれはないだろうと思う。
そうなると、ジオン軍残党として行動を続けるか、あるいはどこか別のジオン軍残党と合流するか。
そうなる前にどうにかしてインビジブル・ナイツを捕捉出来ればいいんだが。
そんな風に思っていると、誰かがこちらに近付いてくる気配を感じる。
それも普通に歩くのではなく、早歩きで。
早歩きでやって来た誰かは、俺の部屋の扉の前で足を止めると、ノックがある。
そのノックも普段通りの……普通のノックではなく、かなり急いでいるノック。
誰だ?
そう思いながら扉を開けると、そこにいたのはマオ。
「マオ? どうした?」
「アクセル代表、至急来て下さい。ジオン軍残党に動きがありました」
「……この期に及んでか?」
真剣な表情でそう言うマオは、とてもではないが冗談を言ってるようには思えない。
そもそもマオは生真面目な性格で、こういう冗談を言ったりはしない。
つまり、ジオン軍残党に動きが……それもこうして知らせに来るという事は、ちょっとやそっとの動きではなく、かなり大規模な動きがあったという事を意味している。
だが……ジオン軍残党の総力を結集したと言ってもいいような規模でのオーガスタ基地襲撃が失敗し、何より水天の涙が失敗した今この状態で、更にジオン軍残党が動く?
ジオン軍残党は一体どれだけの戦力を持ってるんだ?
下手をすれば……いや、下手をしなくてもジオン軍として行動していた時よりも戦力が増えてるように思うんだが、それは俺の気のせいという訳じゃないよな?
「はい。この期に及んでです」
「……具体的に聞かせてくれ」
「現在ジオン軍残党は陸・海・空のあらゆる経路からアラビア半島に集結しています。恐らくですが、目的は旧ジオン軍のアデン基地にあるHLV発射施設かと」
「つまり、宇宙に脱出しようと?」
「恐らくですが」
断言はしないマオだったが、その表情を見る限りでは明確な証拠こそないものの、まず確実にそうだと思っていいだろう。
俺もそれについては納得出来るところがある。
今回の水天の涙において動いたジオン軍残党にしてみれば、連邦軍……それもジオン残党を専門に追うファントムスイープ隊に狙われる可能性が高くなった。
地球にいる他のジオン軍残党に合流するという手段もあるだろうし、恐らくだが実際にそういう手段を取った者もいるのだろう。
だが、それ以外……このまま地球に残ってもどうしようもないと判断した者達は、宇宙に脱出するという選択肢を選んだといったところか。
宇宙に上がれば、ギレン派とキシリア派、あるいは単純に連邦が気にくわない無派閥といったジオン軍残党もいるかもしれない。
……というか、キシリアは恐らく火星にいるんだろうが、ギレン派の中でも強い影響力を持つデラーズがどこにいるのか未だに不明なんだよな。
アクシズにいないのは確認している。
だとすれば、キシリアと同じく火星にいるのか?
実際、火星はキシリア派が占拠しているものの、火星は広い。
中にはギレン派が占領している場所があってもおかしくはない。
あるいは……まだ地球圏にいて、連邦やルナ・ジオンの隙を窺っているのか。
一度本格的にギレン派の残党については調べてみた方がいいのかもしれないな。
「話は分かった。俺もアデン基地に行こう」
「……いいのですか?」
マオは驚きの視線を俺に向けてくる。
俺がファントムスイープ隊と行動を共にしていたのは、水天の涙というのがジオン軍残党の秘密兵器……そんなMSやMAであると思っていたのだから、それも当然か。
だが、俺はマオの言葉に頷く。
「ああ。今回の一件で俺が目的としていたのは、水天の涙もそうだがイフリートの件もある。そしてジオン軍残党が宇宙に脱出しようとしてるのなら、地上用MSのイフリートは地上に置いていく筈だ。それを確保したい」
まぁ、技術次第では地上用MSを宇宙用MSとして使うのも難しくはない。
そのいい例が、ドムとリックドムの関係だろう。
地上用MSのドムは少し改良しただけで宇宙用MSとなり、ゲルググが完成するまでの間だが主力MSにもなった。
そう思えば、本来地上用MSのイフリートを宇宙用MSに回収するという可能性も……まぁ、ない訳ではない。
とはいえ、ドムの場合はジオン軍として活動しており、ジオン公国の後ろ盾があっての話だ。
ジオン軍残党となった今、そのような技術や資材があるのかと言われれば……どうだろうな。
正直、微妙なところだとは思うが。
ちなみに連邦軍側でも陸戦型ガンダムを宇宙用に改修するとか、そういうのもあったらしい。
「なるほど、アクセル代表はそちらにも熱心でしたね。……分かりました。では、今回もファントムスイープ隊と一緒に行動するという事で構わないでしょうか?」
「そうしてくれ。……てっきり反対されるかと思ったんだが」
マオの性格を思えば、この状況で俺達が一緒に行動するのは避けたいと思ってもおかしくはない。
なのに、こうもあっさりと俺達が一緒に行動するのを受け入れたのだ。
それを不思議に思うのは、そうおかしな話ではない。
だが、マオはそんな俺の様子に若干の呆れを込めた視線を向けてくる。
「ゴップ提督からくれぐれもと言われているので。それに……アクセル代表の性格を考えれば、それこそもしファントムスイープ隊と一緒に行動をしないとなったら、自分達だけで動くのは予想出来ますので」
「それは否定しない」
実際、もしマオがどうしても自分達と一緒に行動にするのが駄目だと言った場合、俺はガトーとヴィッシュを率いて……あるいはイフリートを確保するだけなので、俺だけでアラビア半島にあるアデン基地に向かっていた可能性が高い。
ぶっちゃけ、そうした方がイフリートを確保するという意味ではかなり成功率が高いのは事実だし。
とはいえ、そうなったらそうなったで面倒な事があるのも事実。
総合的に見た場合、ファントムスイープ隊と一緒に行動した方が面倒が少ないのは事実なんだよな。
そういう意味では、こうしてマオが俺を受け入れてくれたのは感謝だ。
「だからですよ。それに……こう言ってはなんですが、アクセル代表達の戦力は非常に強力ですから」
「異名持ちが3人だもんな」
あ、けど今の俺はムウだし……いや、でもムウならエンデュミオンの鷹の異名があるから、結局異名持ちが3人なのは変わらないのか?
「それも全員が士官学校の教科書に出て来るレベルの有名人ですしね。……アクセル代表の場合は、士官学校だけではなく普通の学校にも出て来るでしょうけど」
「異世界の国を率いる人物と考えれば、そうおかしな話じゃないか」
異世界の国を率いている人物となれば、やはり普通に学校の教科書の写真に載るだろう。
それこそ、小学校、中学校、高校、大学……その全てで。
しかも俺の場合は混沌精霊で不老なので、それこそ20年後、30年後に学校の教科書で勉強をした生徒であっても、普通に俺と会ったりも出来るんだよな。しかも写真に写っている外見のままの俺と。
とはいえ、問題なのはこのUC世界で20年後、30年後も俺がこの世界に来ているのかどうかは分からないが。
基本的に俺はゲートを使って未知の世界に行く事が多い。
とはいえ、ペルソナ世界でのマヨナカテレビの一件とかを考えると、絶対という訳でもないんだが。
マクロス世界でもフロンティア船団の一件が終わった後、シャドウミラーから……アウルとかスティングとかだったか? とにかく、マクロス世界の一部で統合政府に対して反乱を起こした一件については、俺は関わっていなかったが、恐らくそれもマクロス世界の原作においては番外編か続編かは分からないが、あった事なのだろう。
そんな例外もあるが、それでも基本的に大きな騒動が解決した……原作が終わった世界には行く頻度はどうしても落ちる。
ただ、今回の水天の涙の件もあるように、UC世界はまだ何となく他にも色々とあるような気はするんだよな。
その20年後や30年後に何かまた原作がある騒動が起きたら、俺が姿を現す可能性は否定出来ないだろう。
この世界の暦だと、UC100かUC110くらいか。
「そもそも私達にとっては、異世界というのが全く想定外でしたしね。……ルナ・ジオンの人は異世界に行けるんですよね?」
「ああ、そうなる。ただし、ルナ・ジオン側で許可を出した者達だけだ。もしそういう連中が何か問題を起こしたら、その世界全ての者達がペナルティを負う事になる」
「それは……厳しいですね」
「それだけ異世界というのは特別な存在って事だ。ちなみに異世界気分を味わいたいのなら、ルナ・ジオンの首都のクレイドルに来るだけでもいいぞ」
「何でも異世界の動物や植物がいるとか。……いつか行ってみたいとは思っています。旅行先としても人気らしいですし」
そうして、俺は少しの間マオとクレイドルについて話すのだった。