こちらの前に立ち塞がった3機のザクを撃破した俺達は、そのままアデン基地に向かって進む。
幸いなことに、ジオン軍残党がこっちを追ってくる事はなかった。
ジオン系MSのギャン・クリーガーを見て、もしかしたら自分達の味方だと思ったのか、あるいは連邦軍の相手をするのに精一杯でこっちにまで手を回せなかったのか。
……うん。普通に考えればやっぱり後者だろうな。
ギャン・クリーガーがジオン系MSなのは間違いないが、それでもここまで目立つMSだ。
しかもそれが3機も一緒に行動しているのだから、それをただ見逃すというのはちょっと有り得ないと思う。
そうなってくれたら手っ取り早くて楽なんだが。
けど、俺達を狙っていたザクキャノンはどうしたんだろうな?
あのザクキャノンは俺達が敵だというのは分かっている筈だ。
だからこそ、先程はこっちを狙ってきたんだし。
なのに、あのザクを倒してからは全く攻撃してくる様子がない。
考えられるとすれば、こっちを攻撃している余裕がなくなったという事か?
アデン基地を守っているジオン軍残党の中に、ザクキャノンがどれだけいるのかは分からない。
ザクキャノンは遠距離からの援護射撃を行えるという意味で、ジオン軍残党にしてみれば非常に重要なMSだ。
そうである以上、誰もが欲しいと思ってもおかしくはない。
それでいて、大量に量産されたのならそこまで問題にはならなかったのだろうが、ザクキャノンはそこまで……それこそ3000機とも5000機とも量産されたと言われるザク程には量産されていない。
それなりには量産されたのだが。
アデン基地に向かう俺達にとっては、ありがたいのだが。
そんな風に思いつつ、アデン基地に向かって進み続ける。
やがて映像モニタにアデン基地が……より正確にはHLVの打ち上げ施設が見えてくる。
「よし、どうやらまだ宇宙に脱出はしていないらしいな。急ぐぞ」
『了解』
ガトーとヴィッシュが揃って返事をしてくる。
……まぁ、本当にイフリートだけを狙っているのなら、実は別にHLVの発射を防ぐ必要はなかったりする。
何しろイフリートは地上用のMSだ。
宇宙に脱出しようとする者達が、わざわざ持っていくとは思えない。
なら、HLVの打ち上げが終わった後で確保するという選択肢もあるのだが……それもまた難しい。
インビジブル・ナイツにしてみれば、地上に残る他のジオン軍残党にイフリートを譲渡しようとするだろうし、あるいはそれが無理ならイフリートを連邦軍に渡さないようにと自爆するなりなんなりするだろう。
つまり、イフリートを確実に確保するにはやはり直接戦って鹵獲する必要があるという事になる。
そんな訳でアデン基地に近付いたところで……
「あ」
HLVの発射施設に爆発が起こる。
どうやら俺達はちょっと遅かったらしい。
『アクセル代表、どうしますか?』
「取りあえずHLVのある場所に向かう。HLVが他にもあるかもしれないし」
そうして俺達は基地に近付くが……
「面倒な」
ザクが1機とマゼラ・アタックが複数、姿を現す。
どうやらアデン基地の防衛をしていたMSらしいのだが、それなら俺達ではなく先に基地に侵入した連邦軍を相手にすればいいものを。
そう思っていると……
『アクセル代表、ここは私達に任せて下さい。アクセル代表は先にHLVを……いえ、イフリートを。念願を叶えて下さい!』
ガトーがそう叫ぶと、ギャン・クリーガーがビームランスを手にザクに向かって突っ込む。
そんなガトーを追うように、ヴィッシュのギャン・クリーガーもマゼラ・アタックに向かう。
『ここは任せて下さい!』
これが俗に言う『ここは俺に任せて行け!』という奴だったりするのか?
ヴィッシュの言葉を聞いてそう思ったが、この2人ならお約束通りになったりはしないだろう。
そして何より、次の瞬間にアデン基地から巨大な爆発が起きたのが決定的となった。
HLVやその発射施設を破壊しただけでは、あそこまで大きな爆発は起きないだろう。
それこそ連邦軍側の攻撃ではなく、ジオン軍残党が自爆したと思った方がいい。
何が何でそんな事になったのかは分からないので、それを確認する必要があった。
「分かった。じゃあ、ここは任せる。……言うまでもないと思うが、死ぬなよ」
この程度の相手に、ソロモンの悪夢と荒野の迅雷の異名を持つ2人が死ぬとは思えない。
そんな訳で、この場は2人に任せてアデン基地に向かったのだが……
「遅かったか」
視線の先でイフリートとジーラインが戦っている光景を見て、そう呟く。
そのジーラインは機動性と運動性を重視したライトアーマーで、俺以外にそんなジーラインを使っているのはユーグしかいない。
いやまぁ、元々ジーラインの数が決して多くはないので、そういう意味では俺とユーグ以外にライトアーマーを使っている者がいないというのは、そんなにおかしな話ではないのだろうが。
そして予想通り基地は先程の爆発によるものか、壊滅的に近い被害を受けている。
先程の爆発に巻き込まれたのか、ファントムスイープ隊の中で確認出来るのはイフリートと戦っているユーグだけだ。
シェリーの件はともかくとして、他にもヒューを始めとした面々がいた筈なんだが……もしかして全員、さっきの爆発に巻き込まれたのか?
とはいえ、ここはどうしたものか。
いや、難しく考える事はないか。
俺が欲しいのはイフリート。
そしてユーグが行いたいのは、HLVの発射阻止。
で、ついでとばかりに破壊された基地の中にはHLVがあって今にも発射しそうになっている。
つまりこれは、俺がイフリートの相手をしてユーグをHLVに向かわせるというのが最善の選択だろう。
「ユーグ!」
ファントムスイープ隊の通信を使い、イフリートと戦っているユーグに通信を送る。
すると即座に映像モニタにユーグの顔が映し出された。
『アクセル? 一体どうして……』
「イフリートの相手は俺がする。お前はHLVを止めろ!」
『な……いや、だが……』
ユーグが俺の言葉に反論しようとする。
無理もない。
ユーグにとって、イフリートのパイロットは宿敵のようなものだ。
元々ユーグがジーラインに乗ったのも、ジム・コマンドでイフリートと戦った時、機体性能で負けたからというのが大きいらしいし。
そんな訳で、ユーグにしてみればイフリートのパイロットとの戦いを俺に任せろと言われても、素直にそれに従う訳にもいかなかったのだろう。
不思議な事に、ユーグと戦っていたイフリートは俺が姿を現すと数歩後ろに下がって様子見をしている。
敵が2機になったから警戒しているのか、それとも俺の正体……正確にはジオン系MSのギャン・クリーガーについてまだ情報が入っておらず、敵か味方か把握してないのか。
もしくは、仲間割れをするかもしれないと警戒してるのか……ああ、単純に時間稼ぎになるのなら何でもいいと考えているのかもしれないな。
イフリートのパイロットにしてみれば、HLVの打ち上げこそが重要なのだ。
ここで俺達が何らかの理由で揉めて、それで時間を稼げればそれでいいと判断したのか。
その辺の理由は生憎と俺には分からなかったものの、それでも向こうにとって今の状況が悪くないのは間違いない。
疑問なのは、イフリートのパイロットはインビジブル・ナイツの中でもエースが乗っていた筈だ。
イフリートという、高性能なMSに乗るのだからエースなのは間違いないと思う。
だが、そのエースがここにいるという事は、インビジブル・ナイツのエースを地球に置いて、他の面々だけが宇宙に向かうのか?
インビジブル・ナイツを始めとした者達が、宇宙に上がって何をしようとしているのかは分からない。
まさかとは思うが、平穏に暮らしたいとかそんな事はないだろう。
平穏に暮らしたいのなら、素直にジオン共和国に戻るなり、連邦に出頭するなりすればいい。
もしくはジオン軍残党として活動せず、普通に地球で暮らすのでもいいだろう。
そういう手段ではなく、多くのジオン軍残党が集まってきて旧ジオン軍の基地を使ってまで宇宙に上がろうとしてるのだ。
何らかの騒動……普通に考えれば、水天の涙に次ぐ第2の何らかの作戦をやろうとしてるというのはそう間違ってはいないと思う。
「行け!」
再度叫ぶ。
その言葉に、ユーグはジーラインを動かそうとし……だがその瞬間、まるでタイミングを計ったかのようにHLVが動き始める。
『ぐ……させるか!』
ここでようやくユーグもイフリートに構っている場合ではないと判断したのだろう。
咄嗟にビームライフルの銃口をHLVに向ける。
ここでHLVを撃てば、中に乗っている者達は死に、捕らえる事は出来なくなるが、それでも宇宙に逃がすよりはいいと判断したのだろう。
だが……ユーグのジーラインが動きを見せた瞬間、イフリートもまた動き出す。
ヒートソードを手に、ジーラインとの間合いを詰める。
詰めるが……何だ?
その動きが、以前見たイフリートに比べると明らかに違う。
ただMSを進めるという行為であっても、そこには少なからずパイロットの癖が出る。
その癖が、明らかに以前のイフリートのパイロットとは違うのだ。
一瞬戸惑い、その一瞬でイフリートは既にヒートソードを振り下ろしていた。
ただし、その一撃が向かう先はジーラインのコックピットではなく、ジーラインの持つ狙撃用のビームライフル。
スタンダードアーマーの時に持っていたビームライフルと違い、ライトアーマーのビームライフルは狙撃用で威力も高いが形も大型だ。
それだけに、イフリートの攻撃を回避することは出来ず、銃身の中程から真っ二つにされる……そして次の瞬間には、イフリートのヒートソードを持った右腕が、俺の操縦するギャンクリーガーのビームランスを振るった事によって切断され、空中を飛ぶ。
イフリートが動き出した時、その動きが一瞬遅れたものの、俺もまたギャン・クリーガーを動かしていた。
その結果が、今の状況だった。
そうして返す刀……槍? で、その切っ先をイフリートのコックピットに突きつけ、気が付く。
イフリートの動きが鈍かった理由。そしてHLVに乗っているだろうインビジブル・ナイツ。
この2つの状況から描き出されるのは……
「お前、元々のイフリートのパイロットじゃないな?」
オープンチャンネルでイフリートに尋ねる。
イフリートのパイロットは無言だったが、その問いはオープンチャンネルだっただけに、ユーグにも聞こえたのだろう。
『な……に……』
いや、お前はHLVの方をどうにかしなくてもいいのか?
そう思ったものの、HLVはまるでそのユーグの隙を見抜いたかのように出発する。
ユーグは混乱しつつも、そっちに向かって攻撃しようとするも、ビームライフルが破壊されている以上、対処は出来ず……そしてイフリートを確保した俺がついでにという事でシールドに内蔵されているビーム砲をHLVに向けようとした瞬間、イフリートが動く。
って、おい。マジか?
コックピットにビームランスを向けている現状、既にイフリートのパイロットはチェックメイトだ。
それでもこうして動くとなると、俺もビームランスでコックピットを貫くしかなく……次の瞬間、ジム・コマンドが姿を現す。
『待って下さい、アクセルさん! エリクもこれ以上は止めて!』
『タチアナ!?』
『え? その声……兄さん!?』
ジム・コマンドから聞こえてきたシェリーの声。
それに動揺するパイロットの声。
そして俺は何故スパイとして捕まった筈のシェリーがここにいるのかに戸惑い、俺のコックピットを通じて行われたその声はユーグにも動揺をもたらし……その隙を突いたかのように、HLVは発進する。
激しい噴射炎を周囲に放つその姿に、もう近付くのが不可能なのは明白だ。
そしてゆっくりと……確実にHLVは空に上がっていくのだった。
「さて、それでこれからどうするかだが。……取りあえず全員外に出て来い。今のうちに話を決めておくぞ」
HLVが打ち上げられた後、意図的にオープンチャンネルではなく外部スピーカーでそう告げる。
そんな俺の言葉に戸惑った様子を見せる他の面々。
無理もないか。
まさかこの状況でいきなりそんなことを言われるとは思っていなかったんだろうし。
ただ、正直なところ今のこの状況は色々と不味い。
それ以外にも、こっちで情報収集を行う必要もある以上、まだ人が集まってきていない今がこの状況をどうするのか、はっきりさせやすい。
今はミノフスキー粒子散布下という事もあって、遠距離から通信を送ってくる事も出来ない。
……この付近には他の連邦軍やファントムスイープ隊もいるのを思えば、そういう連中がやって来るよりも前に情報交換であったり、これからの事を決めておく必要があるのは間違いなかった。
そもそも何故スパイであるシェリーがここにいるのかといった事や、イフリートのパイロットとの関係、そんな面々をどうするのか……そうして決める事は、幾らでもあるのだから。