外部スピーカーでMSの外に出て来るように言ったが、まだ誰も出て来ない。
イフリートのパイロットは自分がジオン軍残党であるというのを理解している以上、警戒をしてもおかしくはない。
シェリーも自分がスパイなのにここにいる以上、恐らく脱走をしてきたのだろう事は予想出来る。
連邦軍の性格を考えると、スパイだったことが判明したシェリーをそのまま戦力として使うとは到底思えない。
だとすれば、やはりこれは脱走してきたのだろう。
ユーグは……HLVを逃がしたというショックや、何故シェリーがここにいるのかといった疑問、宿敵――という程に深い因縁かどうかは分からないが――のイフリートと戦っていたら、実は違う相手だったという事による動揺。
そのような状況を考えれば、まだ誰も出て来ないのは理解出来てしまう。
なら……そうだな。俺から出るか。
普通に考えれば、俺の行動は自殺行為でしかないだろう。
だが、魔力や気を使わない攻撃では俺にダメージを与える事は出来ない。
それだけに、俺がいつ攻撃をされてもそれは全く問題ない。
わざわざそれを教える必要はないが。
「まず、俺が外に出る。それを確認したら、他の連中も出て来てくれ」
外部スピーカーでそう言い、ギャン・クリーガーのコックピットを開ける。
重力のある地球でなら、普通はワイヤーとかを使って下りるのだろうが、俺はそれを無視して軽く跳躍する。
何人か動揺している気配を感じたものの、俺はそれを特に気にせず、あっさりと地面に着地する。
「ほら、こうして俺が出たんだから、問題ないのは分かる筈だ! お前達も出てこい!」
大きな声でそう言うと、最初に動きを見せたのはジム・コマンド。
コックピットが開き、シェリーがワイヤーを使って下りてくる。
そんなシェリーの動きを見てか、次にユーグが……そして最後にイフリートのコックピットが開く。
「あ、兄さん……足が……もしかして、今の戦いで怪我を!? すいません。兄を助けてきます!」
そう言い、シェリーはイフリートのコックピットに向かう。
「兄妹……それに足が……」
そんなシェリーの様子を見ていたユーグが、呆然と呟く。
その気持ちは分からないでもない。
兄妹というのはともかく、イフリートの動きはとてもではないが足が不自由な男に出来るようなものではなかった。
本人の執念もあるが、技術的にそれなりに高いのだろう。
とはいえ、男がコックピットから下りてくる様子を見る限り、今日初めて怪我をしたのではなく、怪我をした状態に慣れているようにも見えるのだが。
「詳しい話を色々としたいところだろうが、今はそれは置いておけ。……まずシェリー。何故お前がここにいる?」
「その、私以外に連邦軍に侵入していたスパイが連れ出してくれたんです。オーガスタ基地で戦闘機を奪って脱出して合流しようとしたんですが……その、敵だと思われてザクに攻撃されて脱出したんです」
「タチアナ、お前……」
シェリー……いや、タチアナというのが本名なのか?
ともあれ、今はシェリーという事にしておくが、その兄が驚きの声を上げる。
自分の味方が妹を殺しそうになったというのだから、それも当然か。
「それからロブさんに会って、ジム・コマンドを借りてここに来たんです」
ロブというのは、ファントムスイープ隊のメカニックの1人だったな。
シェリーはオーガスタ基地でテストパイロットをやっていたという件もあって、それなりに親しかった筈だ。
そう考えれば、ジム・コマンドを渡してもおかしくはないのか?
とはいえ、シェリーはスパイとして拘束されていた身だ。
そう考えれば、ロブが脱走してきたシェリーにMSを渡したのは、後々問題になるかもしれないな。
「シェリーについては分かった。それでそっちは?」
次に俺が視線を向けたのは、シェリーの兄。
視線を向けられた男は、渋々といった様子ながら口を開く。
「俺はクリスト・デーア。タチアナ……シェリーの実の兄だ」
「その様子を見れば恐らく違うだろうとは思うが、一応聞いておく。イフリートは以前からお前が操縦していたのか? その足については……イフリートの操縦でそうなったのか?」
その問いに、ユーグは複雑そうな表情でクリストを見る。
自分の部下であるシェリーの兄を攻撃してしまった事に、思うところがあるのだろう。
そんな視線を向けられたクリストだったが、首を横に振る。
「いや、違う。誰かというのは言うつもりはないが、今までイフリートに乗っていたのは俺とは違う奴だ。それにこの足は1年戦争の時のもので、今日の戦いは関係ない」
「兄さん!?」
クリストの言葉に驚くシェリー。
どうやら足の怪我の件については全く知らなかったらしいと思いつつ、同時にやっぱりなとも思う。
足の件はともかく、イフリートのパイロットの件については、MSの操縦の癖から恐らくそうではないかと思っていた。
何より、片足が不自由なクリストが、MSを思う存分操縦出来るとは思えない。
俺と同じように思ったのか、ユーグもどこか安堵した様子を見せている。
前のパイロットが誰なのか言うつもりがないというのは、インビジブル・ナイツについての情報をこっちに渡したくないということなのだろう。
それは別に構わない。
というか、そういう風になるのは大体予想していた通りだったし。
「分かった」
「……何?」
何故か俺がクリストの言葉に頷くと、それを言ったクリストの方が驚きの表情を露わにする。
「何で驚く?」
「いや、それは……タチアナ、どうなっている?」
「兄さん、落ち着いて聞いて。その人はアクセル・アルマーさんよ」
「…………何?」
先程驚いた時よりも明らかに長い沈黙の後で、理解出来ないといったようにそう言う。
そんなクリストに、タチアナは疲れたような笑みを浮かべて口を開く。
「兄さんの考えは間違ってないわ。ルナ・ジオンの後ろ盾のシャドウミラーの代表のアクセルさんで間違いないわ」
「いや、だが……」
そうして何かを言おうとしたところで、遠くからこっちに近付いてくる数機のジムの姿を確認する。
「時間がないな。悪いが、この2人とイフリートは俺が預かる」
「え? ちょ……」
俺の言葉に何かを言おうとしたシェリーだったが、それを無視して、イフリートやその部品を空間倉庫に収納する。
それを見たクリストが口を大きく開けるが、それを無視してシェリーを呼ぶ。
「シェリー、ちょっと来てくれ」
「え? その、なんでしょう?」
「いいから早く来い。来ないとお前の兄さんも一緒に連邦軍に捕らえられるぞ」
そう言うと、シェリーは急いでクリストと共にこっちに近付いてくる。
「ユーグ、俺はすぐに戻ってくるから、ギャン・クリーガーは取りあえずそのままにしておいてくれ。ガトーとヴィッシュが来たら、俺はハワイに戻ったと言っておいて欲しい」
「ハワイ?」
理解出来ないといった様子のユーグだったが、俺はそれを無視して影のゲートを展開する。
「うおっ!」
「きゃあっ!」
クリストとシェリーが影に沈む感触に悲鳴を上げるのを聞きながら、俺もまた影のゲートに沈んでいくのだった。
ハワイにある一室……医務室というか、保健室というか、どう判断すればいいのか分からないものの、その場所に姿を現す。
「アクセル代表? どうしたのですか? ガトーと一緒に連邦軍と共に行動している筈では?」
そう俺に声を掛けてきたのは、アイナ。
いきなり現れた俺に、驚きの表情を向けている。
それでも何が起きたのか全く理解出来ていない様子のクリストとシェリーよりはマシだが。
「悪いが、説明している時間はない。この2人の面倒を頼む。一応ジオン軍残党だから、コバッタをつけてくれ」
俺の言葉にアイナはすぐに頷く。
それを確認してから、次にクリストとシェリーの方を見る。
「時間が出来たらこっちに戻ってくるから、お前達は取りあえずここで大人しくしていろ。色々と話はあるだろうが、それはその時だ」
そう言うと、俺は2人の返事も聞かずに再び影のゲートでその場から離れるのだった。
アデン基地まで戻ってきたが、こっちに近付いていたジム・コマンドはまだ離れた場所にいる。
どうやら1分かそこらで戻ってきたらしい。
「アクセル? ……シェリーはどうした!?」
「そう焦るなって。さっきも言っただろ? ハワイに置いてきた。まさか、シェリーをこのままここに置いておく訳にもいかないだろうし。それにシェリーの兄のクリストはここにいればジオン軍残党として捕らえられるのは間違いない。そうなれば、多分銃殺刑だぞ?」
イフリートを奪い、オーガスタ基地を襲い、同時にフィフス・ルナも襲い、マスドライバーを使って地球を攻撃する水天の涙という作戦を行おうとした。
また、それが失敗するとアデン基地に他のジオン軍残党を集め、宇宙に脱出した。
これらの主導的な立場だったのがインビジブル・ナイツだ。
そのインビジブル・ナイツの中で唯一捕らえられたのがクリストである以上、銃殺刑にされる前に尋問……いや、拷問でもして少しでも情報を引き出そうとするだろう。
ましてや、シェリーと兄妹だと知られれば、一体どうなるか。
お互いを人質にして、尋問されるのは間違いない。
ユーグもその辺については理解しているのか、俺の言葉に反論する様子はなく黙り込むのだった。
「では、一度帰ると?」
「ああ、そうなる。ユーグから報告があると思うが、こっちにも色々とやるべきことがあってな」
アデン基地から一番近い場所にある連邦軍の基地。
現在、俺はそこでマオと話をしていた。
俺の言葉にマオが微妙な表情を浮かべる。
……ん? 微妙な表情?
これ、もしかしたらもうユーグから報告を受けてるのか?
一応、この基地に到着してからすぐに戻ると口にしたのだが。
事態が事態なだけに、ユーグは少しでも早くマオに事情を説明しようとしてもおかしくはない……と思う。
「分かりました。私にアクセル代表を止める権利はありませんし。ただ、その……彼女をお願いします」
そう言い、頭を下げるマオ。
なるほど。やっぱりユーグから事情を聞いていたか。
そもそもシェリーは連邦軍基地から脱走してこの戦場にやって来たのだ。
そうである以上、連邦軍側としても色々と動きがあってもおかしくはない。
とはいえ、その件で言質を与えると不味い。
いや、俺じゃなくてマオの立場が。
何しろ自分の元部下とはいえ、脱走したジオン軍残党のスパイをよろしく頼むと言ってるようなものなのだから。
「何の事を言ってるか分からないが、一応最善はつくそう」
そう言うだけに留める。
それでもマオはその言葉の意味をしっかりと理解し、頭を下げる。
「ありがとうございます。……それで、すぐにハワイに戻るということでしたが、この基地にある輸送機はどうしますか?」
「そっちも一緒に連れていくよ」
「……羨ましいですね」
しみじみと呟くマオ。
マオにしてみれば、MS諸共に移動出来る影のゲートというのは、非常に羨ましいのだろう。
普通ならMSを移動させるには輸送機が必要だ。
それが全く関係なく移動出来るのだから。
その気になれば、敵の中枢にすら転移することが可能なのだ。
普通に考えた場合、軍を動かす上でどれだけの利益になるのかは、考えるまでもないだろう。
「俺も自分で使っていて便利だとは思う。……とはいえ、魔法使いの中でも転移魔法を使えるようになるのはほんの一握りだけだし、色々と制約はあるけどな」
具体的には、俺が使う影の転移魔法は影がない場所には移動出来ないという欠点がある。
また、移動距離や転移する者達の重量によって消費する魔力量が多くなる。
それ以外にも魔力については自然環境に左右されるので、このUC世界は……X世界よりもマシなのは事実だが、決して潤沢という訳ではない。
コロニー落としとか自然環境の破壊とか、そんな諸々が影響してるのは間違いない。
そんな中でこうも気軽に転移魔法を使えているのは、単純に俺の魔力……SPがPPによって圧倒的に強化されているからというのが大きい。
ネギま世界の魔法を使える魔法使いでも、ぶっちゃけ俺より魔力が大きい者は……絶対にいないとは限らないが、それでもかなり少ないのは間違いないだろう。
そんな魔法使いが、わざわざUC世界に来るかと言われれば、それはそれで疑問だ。
そんな訳で、基本的に……本当に基本的にはの話だが、UC世界において転移魔法を使えるのは俺だけだと思ってもいい。
もっとも、転移魔法ではなくシステムXNにおける転移はルナ・ジオンにおいて木星やアクシズに行くのに頻繁に使われているのだが。
「そうだといいんですけどね。……この世界でアクセル代表の使うような転移魔法を使う者は出来るだけ少ないように願っています」
そうしてマオとの会話を終えると、次に俺が向かったのはガトーとヴィッシュのいる場所だ。
「悪いが、色々と事情があってこれからすぐにハワイに戻る事になった。お前達も一緒に戻って貰う。……何か用事があったりするか?」
「いえ、私の方は問題ありません。ヴィッシュはどうだ?」
「こっちも問題ないですね」
2人揃って問題ないらしい。
ハワイに戻ればそれぞれにアイナやマヤという恋人がいる。
その恋人に少しでも早く会えるのなら、転移を使って一瞬で戻るのは寧ろ歓迎するといったところか。
「分かった。ならファット・アンクルの連中にも話をしに行くぞ。機体とかは全部空間倉庫に入れて持っていくから」
そう言い、俺はガトーとヴィッシュを引き連れてファット・アンクルのある場所に向かうのだった。