アデン基地の攻略が終わり、シェリーやクリストをハワイに連れ込んでから数日……
「じゃあ、俺の提案に乗るという事でいいんだな?」
「ああ。ただ、それはあくまでも俺達だけじゃなくて、インビジブル・ナイツ全員での話だ」
「……言いたい事は分かるが、お前達以外のインビジブル・ナイツを捕らえようとした時の戦いで向こうが死ぬ可能性もある。その時は勘弁して貰うぞ?」
「分かっている。命懸けの戦いをするんだ。その戦いの中で死んでも、それを責めるつもりはない」
そう言うクリストだったが、強く手が握られているのを見れば、本人的にもかなり無理をしているのは明らかだ。
とはいえ、クリストにとって……そしてインビジブル・ナイツにとって、最良の選択がそれだと判断したからこそ、俺の提案を受け入れたのだろう。
ルナ・ジオンに亡命するという選択を。
いや、この場合は亡命という表現は正しくないのか?
同じようなものだから、気にする必要はないかもしれないが。
「その、アクセル代表。兄さんの足の件も……」
シェリーの言葉に頷く。
「心配するな。約束は守る。きちんと足を治してやる。……場合によっては、妙な改造が施されるかもしれないが」
基本的に足の治療はレモンがやるのだが、もし技術班の面々がこの件を知れば、自分の研究成果を試す為に何か妙な仕掛けをしかねない。
オーラ力で脚力が一時的に倍増するとか。
さすがにミサイルを隠したりは、義足ではないからそんな心配はいらないだろうけど。
「えっと……その、普通の足でお願いします」
「注意しておく」
今度は先程のように素直に頷くのではなく、そう言葉を口にしておく。
実際、俺がホワイトスターにいられる時間というのはそう長くはない。
技術班が妙な事をしないようにするには……レモンとかに言っておけば、取りあえず心配はないと思うが。
「じゃあ、フィフス・ルナに行く前に色々と準備をする必要があるな。こっちも新型機の調整があったり、連邦軍……ファントムスイープ隊との連絡をしたりする必要もあるし」
そう言うと、クリストとシェリーの表情が一瞬緊張する。
俺の口からフィフス・ルナという単語が出てくるとは思っていなかったのだろう。
どうやら当たりか。
恐らくそうだろうと予想はしていたものの、それはあくまでも予想でしかなく、確証はなかった。
だが、クリストとシェリーの一瞬の緊張が俺の予想が正しかった事を証明している。
「別に隠す必要もないだろう? お前達の条件にインビジブル・ナイツを出来るだけ殺さずに確保するというのがあるんだ。そうである以上、どこかで接触する必要がある。その場所が分からないと、そもそも生け捕りに出来ないだろうし」
俺の言葉に、クリストとシェリーは数秒沈黙し……
「その通りだ」
やがてクリストがそう告げるのだった。
「HLVか。……こうして見ると、不思議な気分だな」
ハワイにあるHLVの発射場。
そこにやって来た俺達だったが、クリストが複雑な表情で呟く。
クリストから水天の涙についての詳しい情報を聞き出してから数日。
こうして宇宙に出発する準備が整い、俺達は発射するHLVの前にやって来ていた。
クリストがHLVを見て複雑な表情を浮かべたのは、アデン基地の一件があるからだろう。
アデン基地では、HLVを発射する為にインビジブル・ナイツだけではなく、多くのジオン軍残党の協力を必要とし、その上でアデン基地にあったHLVの多数を破壊され、奥の手として用意されていた隠されたHLVでようやく発射して宇宙に脱出出来たのだ。
それが、ハワイではこうして堂々とHLVを用意し、出発の準備を待っているにも関わらず敵の襲撃を心配しなくてもいい。
実際には、もし何らかの理由……例えばジオン軍残党のテロ行為や、連邦軍強硬派の破壊工作とかが行われる可能性もあるので、メギロートやバッタ、量産型W、コバッタでしっかりと警備はされているのだが。
「ルナ・ジオンは連邦と肩を並べるだけの実力を持っているから、HLVの打ち上げに心配はいらない」
クリストにそう言ったのは、俺達の見送りに来ていたギニアスだ。
他にもアイナ、ガトー、ノリス、ヴィッシュの姿がある。
ヴィッシュの恋人のマヤは……あまり俺達と関係がなかった事もあってか、来ていない。
マヤは事務職としてかなり忙しい毎日を送っているとも聞いているので、それも仕方がないのかもしれないが。
クリストとギニアスが会話を交わしてるのを見ていると、ガトーが俺に向かって口を開く。
「アクセル代表、宇宙でも戦いに参加すると聞きましたが、お気を付け下さい」
「ああ、分かっている。インビジブル・ナイツの中には最低でも1人、エース級と呼ぶのに相応しい奴がいるらしいしな。それに、ただ撃破するだけじゃなくて、生け捕りにする必要もあるし」
普通に考えれば、撃破するだけならコックピットを撃ち抜けばそれで終わりだ。
だが生け捕りにする場合、攻撃を命中させるのもコックピットではなく、頭部や手足といったところだ。
しかも宇宙での戦闘である以上、コックピットから外に出るとそれだけで死にかねない。
実際にはパイロットスーツを着ているので、それだけで死んだりとかはしないのだが。
ただ、機体の損傷によってパイロットスーツが裂けたりした場合……うん、やっぱりかなり難易度が高いのは間違いないな。
しかもそれが雑魚ならともかく、エース級であった場合は余計に生け捕りにするのが難しくなる。
例えばこっちが最初からコックピットではなく手足を狙っているのに、向こうはコックピットを狙われてると思って回避した結果、手足を狙う筈がコックピットを貫く……なんて事にもなりかねないのだから。
「宇宙にいるルナ・ジオン軍のパイロットは、精鋭が多いのでアクセル代表の助けになるでしょう。出来れば、私も協力したいところなのですが……ハワイをそう長い間、空ける訳にもいきませんので」
「だろうな」
ルナ・ジオンの地球のおける唯一の領土であるハワイ。
月から遠く離れたこのハワイ……しかも観光資源に恵まれており、税収も非常に高いこのハワイは連邦軍にしてみれば是非とも欲しい場所なのは間違いない。
特に強硬派にしてみれば、本来なら自分達の領土をルナ・ジオンに奪われたという思いを抱いている筈だ。
そんな強硬派が、多少はちょっかいは出してくるが実際に攻撃をしてこないのは、単純にハワイにある戦力が強力だからだろう。
ソロモンの悪夢に荒野の迅雷といったように。
だからこそ、ハワイからあまり戦力を移動させたくはない。
……もっとも、オーガスタ基地やアデン基地での一件では普通にガトーやヴィッシュを動かしたのだが。
ただ、その時は闇夜のフェンリル隊やアプサラスといった戦力もあったし、結局のところ同じ地球上だ。
何かあってもそれなりにすぐ戻れるようになっていたのは間違いない。
しかし、それが宇宙となると話が違ってくる。
本当にいざとなったら、ペズンからMS部隊を降下させたりも出来るのだが。
それでもハワイを攻撃されれば相応に被害が出るのは間違いない。
そんな訳で、ガトーやヴィッシュを宇宙に連れていくのは止めておいた方がいい。
「取りあえず、宇宙の件については心配するな。恐らくペズンを拠点に行動する事になるだろうし、そうなればサイクロプス隊もこっちの戦力として使えるし」
ペズンでは1年戦争時代にペズン計画で開発されたアクト・ザクの調査とかもやっていた筈だし、もしかしたらそれを戦力として出したりも出来るかもしれないな。
アクト・ザクの性能はそれなりに高性能らしいから、場合によってはルナ・ジオン軍で正式採用されていた可能性もある。
とはいえ、ペズン計画の中にあったガルバルディαが採用されて、その改修機であるガルバルディβが結局正式採用機になったのだが。
ガルバルディαとアクト・ザクは、ある意味でゲルググとギャンのような関係……いや、これはちょっと違うか?
「そうだといいのですが。……アクセル代表の技量であれば心配はいらないと思いますが、お気を付け下さい」
ガトーの言葉に頷き、他の面々とも短く言葉を交わし……俺とクリスト、シェリー、それ以外にもペズンや月に用事のある者達はHLVに乗り込むのだった。
「お帰りなさいませ……という表現は、この場合、少し違うのでしょうかね」
ペズンで俺達を出迎えたのは、以前と同じくサイクロプス隊のシュタイナーだった。
地球に行く前と違うのは、宇宙に上がった時にヤザンの護衛がなかったことか。
もっとも、あの時のヤザンの様子からすると、恐らく俺の護衛をする為だけにわざわざ宇宙に上がっていた……あるいは宇宙にいても無理矢理俺の護衛をする為に行動したといった感じだったのかもしれないが。
とはいえ、ゴップからの命令だって話だったし、無理矢理とか強引とかじゃないのか?
とにかくシュタイナーは相変わらず似合わないような丁寧な言葉遣いで俺に挨拶をしてきた。
「そうだな。サイクロプス隊にとってはペズンが現在の拠点である以上、その表現も合ってるのかもしれないが。……それで月に向かうシャトルは?」
「30分後には出発しますので、お急ぎ下さい」
「予想よりも早いな」
俺とシュタイナーの会話を聞いていたクリストとシェリーの2人は、驚いた様子を見せる。
ペズンに到着してから30分後には月に向かうシャトルが出発するというのだから、驚いても当然かもしれないが。
「アクセル代表ですから。……それで、こちらが?」
シュタイナーがクリストとシェリーの2人に視線を向ける。
その視線に2人は気圧される。
無理もないか。
クリストとシェリーの2人は、インビジブル・ナイツの所属だ。
そしてシュタイナーはサイクロプス隊の所属。
双方共にキシリアの部下だった訳だ。
そうである以上、色々と思うところがあるだろう。
元キシリアの部下で特殊部隊となると、黒い三連星がその筆頭だが、実力という点ではサイクロプス隊も決して劣ってはいない。
それだけに、クリストとシェリーに対して色々と思うところがあるのだろう。
「ああ。インビジブル・ナイツ所属のクリストとシェリーだ。……つい最近地球で行われた、水天の涙を起こした者達だ」
「ほう……」
感心した様子のシュタイナーに、クリストとシェリーはそれぞれ敬礼して自己紹介を行う。
そんなやり取りを横で眺めていた俺だったが、シャトルが出発するまで時間がないので、すぐに口を開く。
「それで、フィフス・ルナに何か動きはあるか?」
「ええ。偵察用のヅダが様子を見に行きましたが、連邦軍の被害はそれなりに大きかったようです。……もっとも、それを撃退したので安心してるようですが」
「それはまた」
ベルファストでもそうだったが、一度襲撃をして撃退された後で、再び襲撃をするというのはそれなりに効果がある。
何しろ一度撃退したという事で、気が緩むのだから。
まさかそこでもう一度攻撃してくるとは、思わないだろう。
一度安心させて、実は……というそれは、ある意味で地中に人の死体を埋めた後、そこにある程度土で埋めてから、犬か何かの骨を埋めるというミステリー小説のトリックに通じるものがある。
もっとも、今時のミステリー小説ではその程度はありふれていて使われることはないだろうが。
……いや、ある意味使い古されていて誰も使わないからこそ、敢えて使ってみるとか。
どのみち俺はミステリー小説とかはあまり読まない方なので、その辺について気にする必要はないと思うが。
「インビジブル・ナイツが再度フィフス・ルナに攻撃を仕掛けた場合、どうなると思う?」
「……一時的に占拠されることにはなると思いますが、最終的には連邦軍に奪還されるかと」
「だろうな。けど、インビジブル・ナイツにしてみれば、水天の涙を実行するだけの時間があればいいんだから、フィフス・ルナを……いや、マスドライバーを占拠するのは一時的でいい訳だ」
「そうなりますね」
「となると、いつ新たに攻撃をするかだが……」
「そう遠くないうちになるでしょう」
「その時は、場合によってはペズンからも戦力を出して貰うかもしれない。そのつもりで準備をしておいてくれ」
「分かりました。元々その辺りの準備は出来ていますので、いつでも出撃は出来ます」
そうして短い打ち合わせを終える。
なお、その打ち合わせを聞いていたクリストとシェリーの2人は、微妙な表情を浮かべていた。
この2人にしてみれば、自分達が所属するインビジブル・ナイツの攻撃をこうもあっさりとどうこうするといったことに、思うところもあるのだろう。
もっとも、インビジブル・ナイツが纏めてルナ・ジオンに亡命する事になるというのを考えると、それは悪くない状況なのは間違いなかったが。
そんな風に思いながら軽くシュタイナーと打ち合わせをした後、月に向かうシャトルに乗り込むのだった。