クリストとシェリーは、取りあえずモニクに預ける事になった。
本人達がフィフス・ルナでの戦いに参加する事を希望し、農場での骨休めは却下された為だ。
ちなみにフィフス・ルナでの戦いに参加するとはいえ、別にMSで実際に戦いに出る訳ではない。
基本的にはブリッジに待機していて貰う。
そこから、何かあったら……そう、具体的にはインビジブル・ナイツのMSに通信を送って降伏を促したりする予定になっていた。
そんな訳で、モニクはクリストとシェリーを連れて政庁に向かった。
実際に戦いが始まるまでどのくらいの時間があるのかは分からないが、ホテルかどこかで休ませるのだろう。
モニクの性格を考えると、もしかしたらセイラに会わせて何か妙な事を企んでないかを確認とかはしそうだが。
クスコが2人に会って何も問題はないと判断した以上、そこまでやる必要はないと思うが。
クスコは元々それなりのニュータイプ能力を持っていた。
だが、俺と直接接触した事によってそのニュータイプ能力は強化され、更に俺に抱かれた事でより強化された。
今となっては、UC世界においても最高峰のニュータイプ能力者の1人と言ってもいいだろう。
……だが、セイラはそんなクスコと比べても更に高いニュータイプ能力を持つ。
UC世界最高のニュータイプというのは、大袈裟でも何でもなく、正真正銘の事実だ。
そんな訳で、モニクが念の為にとクリスト達をセイラに会わせても、納得は出来た。
そうしてモニクとクリスト、シェリーと別れた後で俺とクスコ、クリスが向かったのは、ディアナ。
「ここでいいか?」
「ええ、お願い」
クリスに指示された場所に、空間倉庫から取り出したジーラインやジム・コマンドを置く。
するとディアナのメカニック達がコバッタを引き連れて機体に群がっていった。
ここで徹底的に調べられるのだ。
とはいえ……ジーラインはそこまで何らかの新技術を使っている訳ではない。
ライトアーマーの時のビームライフルのように、新型の武器はあるが。
ただ、換装システムはそれなりに便利だろう。
一応ヅダで換装システムは採用しているものの、それでも似たシステムの情報は多ければ多い程にいいのだから。
そしてジム・コマンドのアムロの回避データは……どうだろうな。
プロテクトとかもあるだろうし、正直なところそこまで魅力的かと言われると微妙なところだ。
まぁ、新兵とかにとっては悪くない……いや、それに慣れると技量的な問題が出て来るから、それはそれで問題があるか。
ともあれ、短期的な目で見ればプラスなのかもしれないが、長期的な目で見れば大きなマイナスだろう。
それにデータだけに、当然ながらパターンがある。
そのパターンを知れば、それこそ容易に撃破されてしまうだろう。
……あ、でもアムロは今も連邦軍にいるんだし、そのアムロの回避データをアップデートしていけるのなら……まぁ、それにしたってアムロがいてこその話だ。
1人に頼り切りになっていたら、それこそいざという時……それこそアムロが事故なり病気なり、場合によっては暗殺なりで死んだ時、アップデート出来なくなってしまう。
それは危険な事だろう。
もっとも、連邦軍に所属している軍人は多い。
その中にはアムロ程ではなくても、高い能力を持っている者もいる。
それこそ俺の知り合いとなればヤザンとか。
あとは不死身の第4小隊の面々もそうだし、北米の英雄と呼ばれるユーグもそうだろう。
そういう連中の回避データでもアムロ程ではなくても大きな力となるかもしれないが……それでも、個人的にはどうかと思う。
「アクセル、ここの機体はこれでいいとして、そろそろお目当てを見にいかない? 私も実は見るのは初めてだから、ちょっと楽しみなんだけど」
「クスコもそうなのか? 俺と違ってクレイドルにいたんだから、見る機会はあったんじゃないか?」
クスコの言うお目当てというのは、アクシズからの献上品であるゼロ・ジ・アールだ。
今日からその機体の調整を始める事になっているのだが、クスコが見た事がないというのはちょっと意外だった。
まぁ、クリスはこのディアナの所属だが、クスコはニュータイプ研究所のアルテミスの所属だ。
そう考えれば無理もないのか?
とはいえ、別にディアナとアルテミスは敵対関係にある訳ではない。
寧ろ、ニュータイプ用のMSやMAを開発するのにディアナが協力したりしているので、お互いの関係は良好だ。
……もっとも、それはあくまでも組織の間の話だが。
個人としては、お互いに気に入らない相手がいたりもするらしい。
その辺は人間関係を考えると仕方がない事だろう。
「そうね。見る機会はあったわ。それにマリオンがヨナ、ミシェル、リタの3人と一緒に見に行ったと言ってたわね」
ヨナ、ミシェル、リタという名前を出されたものの、最初その3人が誰なのか分からなかったが、すぐに思い出す。
オーストラリアにコロニーが落ちてくるのを察した奇跡の子供達と呼ばれる3人だ。
この3人全員がニュータイプなのか、それともこの中の1人がニュータイプなのかはまだちょっと分からないが。
「なら、何でクスコは見に行かなかったんだ?」
そう尋ねると、クスコは桃色の髪を掻き上げつつ、呆れの視線を向けてくる。
「アクセルが戻ってきたら真っ先に見に行くから、その時に一緒に見たいと思ったに決まってるじゃない」
「……あー、うん。そうか」
まさかクスコの口からそういう言葉が出るとは思わず、驚く。
それが嬉しいかどうかと言われれば、間違いなく嬉しいのだが。
「恋人らしいでしょ?」
「恋人らしいかどうかは別として、嬉しく思うかと言われれば間違いなく嬉しく思うな」
「ふふっ、そうでしょ。なら行きましょうか。ほら、クリス。案内してよ」
俺の腕を抱きながらクスコがそう言う。
クスコの豊かな双丘が押し潰される感触を味わっていると、クリスがジト目でこっちを見てくる。
「何だか私、当て馬にされてるように感じるんだけど?」
「そんなことないわよ。なんなら今日は私と一緒にアクセルに抱かれる?」
「馬鹿、こんな場所でそんな事を口にしないでよ!」
慌ててクスコの口を押さえるクリス。
幸いな事に、メカニック達は俺の出した機体に集中しており、クスコの言葉は聞こえていない……いや、何人かは機体に集中する振りをしながらも意識がこっちに集中してるな。
ディアナで働いているという事は、アルテミスに所属しているクスコと会う事もあるだろうし、それがなくても顔は知っていてもおかしくはない。
UC世界全体で見た場合に最高のニュータイプはセイラだが、アルテミスだけで見た場合はクスコが最高のニュータイプなのだから。
シャリアとかも高いニュータイプ能力を持っているが、俺に抱かれて更に能力が強化されたクスコには及ばないし。
ましてや、クスコは派手な系統の美人だ。
そしてクリスは同じディアナの所属という事で、当然ながら顔見知りだろう。
聞いた話だと、クリスはディアナでも結構モテるらしい。
全部断ってはいるようだったが。
とにかくそんな訳で、メカニック……男のメカニックにしてみれば、さっきのクスコの言葉は気にするなという方が無理だったらしい。
自分達に意識が向けられているの理解したのか、クリスは薄らと頬を赤く染める。
「ほ、ほら。さっさと行くわよ!」
そう言い、俺と俺の腕に抱きついているクスコを引っ張ってクリスは格納庫を去るのだった。
ピッ、という音がして扉が開く。
手首の静脈と網膜、声紋。そしてIDカードと暗証番号。
かなり厳しい本人確認を行い、それでようやく扉が開く。
「随分と厳しいな」
「それはそうよ。アクシズからの献上品よ? しかもスペックはかなりのものだから、もしこれが誰かに奪われるような事があったら、洒落にならないもの」
クリスがそこまで言うという事は、ゼロ・ジ・アールはそれだけのものなのだろう。
クリスは純粋にMSパイロットとしても高い技術を持っているが、その本領はディアナに所属しているのを見れば分かるように、テストパイロットだ。
そのクリスがここまで太鼓判を押すのだから、ゼロ・ジ・アールの性能が高いのは容易に予想出来る。
「ただ、性能は凄いけど……問題点がないでもないわ」
「具体的には?」
「その話は後よ。まずは中に入ってちょうだい。先に実機を見た方がいいでしょ」
そう言い、クリスは部屋の中に俺達を案内する。
そこにあったのは、かなり大きな格納庫。
そして巨大なMA。
何と言うか……巨大なMAと言われて思い浮かべるのはビグ・ザムだが、明らかにそのビグ・ザムよりも大きい。
確かビグ・ザムは全高が約60mくらいだった筈だが、このゼロ・ジ・アールは70m以上はあるだろう。
MAとなると、アプサラスやビグロ、ヴァル・ヴァロ……それ以外にも色々と知ってるが、ゼロ・ジ・アールより巨大なMAはいないな。
あ、けどゼロ・ジ・アールは見た感じ全高的な意味では大きいが、全長という意味ではかなり細身だ。
何というか……そう、こういうのをスタイリッシュとでも表現すればいいのか?
どこか洗練された外見をしている。
機体色が赤なのは、元からこういう色なのか、それともパーソナルカラーに赤を使っている俺に対する献上品だからなのかはちょっと分からないな。
「軍艦が使うようなメガ粒子砲が……両肩に2、腰に2、下半身に1」
ゴッグとかのような内蔵されている形式ではなく、砲口を自由に動かせるようなタイプのメガ粒子砲だ。
「後は口の部分もメガ粒子砲になってるのか」
ジオングがそういう感じだったが、そっちの系統を引き継いでもいるらしい。
「それと身体中に内蔵されているメガ粒子砲もあるな」
砲塔系とは違い、射角とかを自由に出来る訳ではなく、その内蔵されているメガ粒子砲が向けられる場所にしか撃てないものの、それでも全身にメガ粒子砲が内蔵されているのは凄いと思う。
総じて、MAらしいMAという印象だ。
「どう?」
「凄いと思うけど、少し大きすぎないか?」
全高70mオーバーともなると、それこそちょっとした軍艦サイズの大きさだ。
もっとも軍艦の場合は全長なのに対して、これは全高といった感じだが。
「そうね。でも、MAってそういうものでしょう?」
クリスが断言するのは、やはりルナ・ジオン軍ではMAがそれなりに使われていることが多いからだろう。
それだけMAを見る機会が多いからこその言葉。
……うん。何しろ連邦軍ではMSは使っているものの、MAは基本的に使っていない。
敢えて挙げるとすれば、ボールがMA的な感じか?
人型をしていないという意味で。
ジオン共和国軍においては、元々MAという種類はジオン軍……ジオン公国軍が開発した兵器の種類だが、そのジオン公国軍においてもMAはそこまで多くはなかった。
そして1年戦争で負けた結果として、一応独立国という扱いにはなったものの、それでも半ば従属国という立場である以上、軍事についてもかなり厳しくなっている。
新しくMAを開発するのは勿論、所有するMAを運用する事すら簡単ではない。
そう考えると、MAを運用出来る組織はルナ・ジオン軍だけなんだよな。
ジオン軍残党もMAは使っているが、そっちは結局残党だから、近い未来には部品とかそういうので問題が起きるだろう。
そういう意味では、やっぱりMAを正式に使っているのはルナ・ジオンだけなんだよな。
特にルナ・ジオンは、SEED世界のアドゥカーフ・メカノインダストリー社と提携をしたいという話も出ており、まだ正式ではないにしろ、特例でその件が認められる可能性が高い。
そしてギニアスのようにアプサラスを開発した技術者もいるし、旧ジオン軍時代にMAの開発がメインだったMIP社の有能な人材も多く、ケリィが率いるMA隊もいる。
そういう意味では、ルナ・ジオンはMAを重要視していると言ってもいいだろう。
何しろMAを生産する上で最大のネックとなるのはコストだ。
いやまぁ、MAは操縦方法もMSとは違うし、MAと一口に言ってもビグロとビグロマイヤー、ヴァルヴァロ……後はグラブロもか? それなら同系統なのでそれなりに操縦方法も似ているが、そこにアプサラスとかが入ると操縦方法は違う。
そういう意味で、パイロットの養成も厄介なのは間違いないが、それでもやはりコストの面が大きい。
大きいのだが、ルナ・ジオンはキブツを使うシャドウミラーと取引を行っているので、その辺はあまり問題なかったりする。
「それと、このゼロ・ジ・アールはルナ・ジオンに……というか、ルナ・ジオンを通してシャドウミラーに、そしてアクセルに献上された物だけど、少しアクセルにとっては使いにくいかもしれないわよ?」
「具体的には?」
クリスの言葉にそう尋ねる。
そんな俺の言葉に、クリスはゼロ・ジ・アールを見ながら口を開く。
「基本が自動操縦なのよ」