クリスの口から出た、自動操縦。
それ自体はそこまでおかしな話ではない。
連邦軍でジム・コマンドに搭載したアムロの回避データも、言ってみれば自動操縦なのだから。
連邦軍と同じような技術がアクシズにあってもおかしくはないし、自動操縦そのものはそこまで特殊な技術という訳ではない。
だが……この場合問題なのは、ゼロ・ジ・アールの操縦が基本的に自動操縦という点だ。
「クリス、自動操縦についての詳細を教えてくれ」
「そうね。アクセルが操縦するのだから知らないで乗る訳にはいかないでしょうし。……クスコ、ちょっとアクセルから離れてくれる。この件は真剣な内容だから、アクセルがクスコの身体の感触を楽しみながら聞くというのは避けたいのよ」
「分かったわ」
クスコもクリスの言葉に俺の腕から素直に離れた。
享楽的な面のあるクスコだが、それでもきちんと周囲の状況から自分がどう動くべきなのかは判断出来る。
柔らかな感触が離れるのが少し残念という思いはあったが。
「アクセル、いい?」
俺の考えを読んだかのように聞いてくるクリスに頷く。
少し怪しそうな視線を向けていたものの、それでもクリスはすぐに口を開く。
「このゼロ・ジ・アールは非常に強力なMAよ。それは間違いないわ。それこそソロモンで猛威を振るったビグ・ザムと比べても、恐らくこちらの方が性能が上。けど、それだけ高性能なMA……しかもメガ粒子砲が多数あって、Iフィールドの管理もするとなると、どうしても操縦性が複雑になるの」
その説明に、ある程度納得する。
「つまり、その操作が複雑な部分に対処する為に自動操縦を?」
「ええ。とはいえ、それでも全てが自動操縦という訳ではないわ。ゼロ・ジ・アールの防御は基本的にIフィールド任せで、どういう風に動くのかが自動操縦。パイロットは火器管制を行うのがメインになるわ」
「……Iフィールドか。それは分かるが、敵が実弾を使ってきたらどうするんだ?」
Iフィールドはビームに対して絶対的な効果を持つ。
もっとも、それはあくまでもこのUC世界の……ミノフスキー粒子を使ったビームに対してだが。
そもそもIフィールド自体がミノフスキー粒子の性質を利用したものである以上、ミノフスキー粒子以外を使ったビーム……具体的にはUC世界以外のビームに対しては全く何の効果も持たない。
それ以外にも、シャドウミラーで使われている重力波砲の類にも無力だ。
とはいえ、その辺はルナ・ジオン軍では気にする必要はない。
このUC世界におけるビームは全てがミノフスキー粒子を使ったメガ粒子砲なのだから。
寧ろその辺を警戒しないといけないのは、連邦軍……特に強硬派だろう。
ルナ・ジオンの戦力としても使われているメギロートが使うサークルレーザー。
これはミノフスキー粒子を使ったビーム……どころか、普通のビームですらなく、レーザーだ。
もしIフィールドがあっても防ぐ事は出来ない。
「実弾は装甲で耐えるしかないでしょうね。もしくは、メガ粒子砲で迎撃するか」
「それはまた……」
全高70mの巨体である以上、装甲は相応の厚さを持ってるのは間違いないだろう。
だが、それでも実弾は装甲で防御するか、もしくはメガ粒子砲で迎撃するかとなると……バズーカの類なら対処は難しくないものの、マシンガンとかそういうのだとそう簡単な事ではない。
装甲で敵の攻撃を防ぐというのは、ドムで採用されたコンセプトだ。
とはいえ、ゼロ・ジ・アールと違ってドムはIフィールドがないので、ビームライフルを食らえばあっさりと撃破されるが。
「ともあれ、話は分かった。自動操縦がメインでも、それがオフに出来るのなら特に問題はない。俺が操縦する時はマニュアルで操縦する」
「アクセルなら問題ないとは思うけど」
「似たようなタイプだと、1年戦争の時に重装フルアーマーガンダムを操縦した事があるしな」
重装フルアーマーガンダムはFSWS計画の機体で、ガンダム7号機にファーストアーマーとセカンドアーマーという2種類の増加装甲を装備した機体だ。
分類上はMSだが、MA的な運用方法を想定されている機体だ。
重装フルアーマーガンダムは、それこそ武器が大量に搭載されており、それを全て使いこなすのはかなりの操縦技術や、何よりもセンスを必要とする。
このゼロ・ジ・アールも、言ってみれば重装フルアーマーガンダムと似たような機体だろう。
こっちの方は最初からしっかりとMAとして設計されているだけに、一種の潔さがある。
「それなら何とかなるかもしれないわね。……とはいえ、連邦系とジオン系だと大体の操縦方法は同じでも、細かい場所はかなり違いがあるわよ? 特に聞いた話からすると、重装フルアーマーガンダムというのはMAのような使い方をするらしいけど、あくまでもMSなんでしょう? それに対してゼロ・ジ・アールは最初からMAとして開発されているわ」
「……手も足もないしな」
クリスの言葉に、改めてゼロ・ジ・アールを見る。
その外見は、Tの字に近い外見だ。
両肩はあるがそこに手はなく、両肩の先端部分にゼロ・ジ・アールの特徴である戦艦に使うような砲台型のメガ粒子砲が設置されている。
ビグロ系は一応腕があり、それを使ってAMBAC機能を使えるが、ゼロ・ジ・アールにはない。
アプサラスのような感じか。
そう思ったのだが……
「あら、ゼロ・ジ・アールは腕はあるわよ?」
そうクリスが言う。
だが、改めてゼロ・ジ・アールを見ても、腕があるようには見えない。
となると、今は見えない訳か。つまり……
「両肩に収納されているのか?」
MAは別に人型に拘ってる訳ではないので、別に両肩に腕がなくてもいい。
だが、こうして下から見ると、両肩の内側に何かが収納されているように見える。
「正解。ちなみにビグロ系の腕のように、純粋に攻撃用の腕……いわゆるクローアームとかそういうのじゃなくて、MSと同じように指がきちんとあるタイプよ」
「それは……何の為にだ? AMBACに使うのなら、それこそMAだけにクローアームのように攻撃に使える腕の方がいいだろう?」
クリスの言葉に戸惑う。
これが例えば、クリスの言うクローアーム……ビグロやヴァル・ヴァロ、グラブロのように攻撃をする為の腕なら、俺も納得出来る。
MSが人間の手を模しているのは、ビームライフルやビームサーベル、マシンガン、バズーカといった手持ち式の武器を自由に使えるようにだったり、あるいはコロニーの内部に侵入する時に作業用ハッチを開けたりとか、そういうのをやる為だ。
だが、ゼロ・ジ・アールの全高は70m程もあり、大体のMSが18m前後なので、MSの3倍程の大きさとなる。
そんなゼロ・ジ・アールの腕である以上、MSと同じ大きさの腕とはいかないだろう。
つまり、MSが使う手持ち式の武器を使ったり、コロニーの作業用ハッチを開けたりとか、そういう事は出来ない訳だ。
前者はともかく、後者はもしコロニーのハッチを開けてもゼロ・ジ・アールの大きさでは中に入る事は出来ないだろうが。
そうなると、一体何故ゼロ・ジ・アールにわざわざそんな腕を持たせたのかという事になる。
考えられる可能性としては……
「ゼロ・ジ・アール用に別途手持ち式の武器を開発したとか? ……いや、ないか」
これが例えば、ゼロ・ジ・アールがルナ・ジオンで開発されたのなら、全高70m程のMAが使う手持ち式の武器を開発するといった事も出来るだろう。
何しろルナ・ジオンには優秀な技術者が多数集まっており、その上でキブツを持つシャドウミラーと取引をしてるのでコストをそこまで気にしなくてもいいのだから。
実際、ディアナやアルテミスでも新技術を確立する為に色々と作ってるという話は聞くし。
だが、そんなルナ・ジオンと違い、アクシズは決して資源とかに余裕がある訳ではない。
1年戦争終了後に結構な数のジオン軍残党がアクシズに逃げ込んだ影響もあるし。
もっとも地球圏に残った者達や火星に向かった者達がいるのを考えると、多少はアクシズにも余裕はあったのかもしれないが。
とはいえ、だからといってゼロ・ジ・アール用の手持ち武器をわざわざ作るとは思えない。
だとすれば、やはりゼロ・ジ・アールの腕がMSのようになっている理由が分からなかった。
「そうね。アクシズからの献上品の中にゼロ・ジ・アール用の武器とかはなかった筈よ」
「……それは結局、どういう理由でゼロ・ジ・アールにMSと同じ手をつけたんだ?」
「考えられる可能性としては、技術立証試験機的な意味があるとか、あるいはアクシズでは作れないけど、ルナ・ジオンでならゼロ・ジ・アール用の手持ち武器を作れるだろうと思ったとか?」
「なるほど」
その可能性ならあるか。
例えば威力は高いがMSが持つにしては取り回しの悪いシェキナーを使う……いや、駄目だな。
シェキナーはジャイアントガトリング、メガビームランチャー、マイクロミサイルランチャーを一纏めにした複合兵装だ。
ただし、UC世界の技術ではどうしても小型化は出来ない。
そして大きめな複合兵装という事で、使いこなすのも難しい。
実際、使っているのはルナ・ジオン軍の中でもエース級の面々……具体的にはギャン・クリーガーに乗ってる面々だけだ。
ギャン・クリーガーに乗っている者達でも全員が使っている訳ではない点からも、シェキナーを使いこなすのが難しいのは分かりやすいだろう。
特に地上で俺やガトー、ヴィッシュがギャン・クリーガーを使った時は、重力下でシェキナーを持っていても邪魔になるという事で、結局誰も使ってなかったし。
宇宙空間でなら、相応に使えるのだが。
ともあれ、そのシェキナーならゼロ・ジ・アールに……そうも思ったが、そもそも手の大きさがMSサイズではない以上、シェキナーを使うのは難しいだろう。
「ゼロ・ジ・アールの腕をMSと同じように使おうと考えた場合、専用の武装を開発する必要があるな」
「具体的には?」
そう尋ねてくるクリスの様子を見る限り、恐らく俺と同じ結論になっていたのは間違いない。
……MSやMAを開発する兵器メーカーにテストパイロットとして務めている以上、クリスが俺と同じ結論になるのはそうおかしな話ではないが。
けど、ゼロ・ジ・アール用の武器か。
すぐに思いつくのはビームライフルだが、射撃武器については身体中にメガ粒子砲が内蔵されている以上、追加ではいらないよな。
腕で持つという事で、内蔵されているメガ粒子砲よりも射角が広いというのはあるが……砲塔型のメガ粒子砲もあるので、そちらは身体に内蔵されているメガ粒子砲よりも射角は広いし。
となると、それ以外でビームライフルの次に思い浮かぶのは、ビームサーベルか。
これは悪くない選択だと思う。
ビグロにしろ、アプサラスにしろ、そしてビグ・ザムにしろ……遠距離からの攻撃はメガ粒子砲で非常に強力な一撃を放てる。
だが、MSに接近されると対処が難しい。
……というよりも、元々MAというのはMSに近接戦闘を挑まれることを想定していない。
だからこそ、MSによる近接戦闘には弱い。
だが、ゼロ・ジ・アールがビームサーベルを持てばどうか。
勿論普通のMSが使うビームサーベルをそのまま流用は出来ないから、ゼロ・ジ・アール用に巨大なビームサーベルを開発する必要はあるだろう。
ルナ・ジオンでならそのくらいは開発するのは難しくないものの、ゼロ・ジ・アールの為だけに開発するのはどうかと思う。
巨大なビームサーベルとはいえ、MSが使うビームサーベルをただ単純に巨大化すればいいというだけの話ではないだろう。
それはザクマシンガンを開発する時に、人が使うマシンガンをただ巨大化させた訳ではなく、多数の独自技術を使ってという事からも明らかだ。
「ビームサーベルが無難だろうけど、すぐにとなるとちょっと難しいだろうな」
「そうね。ディアナでゼロ・ジ・アールに手があるのを知った時、技術者の人達もアクセルと同じ結論になっていたわ。……それで、どうする?」
クリスの問いは、ゼロ・ジ・アール用の……いや、MA用の巨大なビームサーベルを作るかという問いだった。
「そこまで忙しくない連中がいるのなら、任せてもいいと思う」
「分かったわ。……とはいえ、色々と忙しい人も多いから、絶対にどうにか出来るとは限らないけど。取りあえずそういう話を上にしてみるから」
「言っておいてなんだが、本当にいいのか?」
「大丈夫よ。アクセルからの頼みだけと聞けば、問答無用で却下したりはしないでしょうし。……それより、ゼロ・ジ・アールにそろそろ乗ってみない? それともマニュアルから読む? かなり分厚いけど」
だろうな。
MSとは比べものにならないくらいに操縦が複雑で、しかもMSではなくMAだ。
そのマニュアルが分厚くなるのは理解出来るが……ともあれ、まずは乗ってみようと判断するのだった。
調整とかは乗ってからやればいいし。