『これは……凄いな』
接触回線でガルシアの声が聞こえてくる。
本人にしてみれば、別に俺に聞かせるつもりでいったのではなく、あくまでも独り言のつもりだったのだろうが。
とはいえ、無理もないか。
現在サイクロプス隊の面々が乗るギャン・クリーガーとアクト・ザクは、ゼロ・ジ・アールの手に捕まった状態で宇宙空間を飛んでいるのだから。
ゼロ・ジ・アールにある、腕。
手持ち式の武器がある訳でもないし、全高70mのゼロ・ジ・アールの大きさを考えれば、当然ながらMSと同じように細かい作業が出来る訳でもない。
唯一の利点としては、AMBAC肢として使うくらいか。
後は……そうだな。MAが使える巨大な腕を作る上での技術的な蓄積とか?
ただ、技術的な蓄積という意味では、このゼロ・ジ・アールはあくまでもアクシズで開発された以上、その蓄積はアクシズの者達のものとなる。
一応ルナ・ジオンでもゼロ・ジ・アールのデータは解析されているが、それはあくまでもデータだけだ。
経験の蓄積とかそういうのは、どうしようもない。
現物がある以上、何もない場所から作るよりは楽だろうが。
ともあれ、そんなゼロ・ジ・アールの腕だったが、MSを掴めるのを利用して、サイクロプス隊のMSを運んでいた。
もっとも、サイクロプス隊全員分のMSを掴むという訳にはいかないので、手で掴んでいる以外に腕に掴まっているMSもあったが。
そしてゼロ・ジ・アールの機動力で、フィフス・ルナに向かっていた。
とはいえ、最大加速をするとGによってサイクロプス隊の面々がダメージを受けるので、全速力ではないが。
それでもカトンボで移動するよりは速い。
「見えた」
映像モニタに小さくだが、しっかりとフィフス・ルナの姿が映し出される。
「サイクロプス隊各員、フィフス・ルナの姿が見えてきた。前もって言ってあったように、インビジブル・ナイツの面々は可能な限り生け捕りにしろ」
『了解です。ただ、地上でのインビジブル・ナイツの動きを考えると、他のジオン軍残党も協力している可能性がありますが、それはどうしますか?』
「その場合は……そうだな。判別がつかない場合、可能な限り全員を生け捕りにする必要がある」
ファントムスイープ隊を襲撃していた時のように、ビグロを出してきたらさすがにそれはインビジブル・ナイツの戦力ではないだろう。
マスドライバーを占拠しようとしたのだから、宇宙にもそれなりにインビジブル・ナイツの隊員がいたのは間違いない。
だが、それでも主力は地上にいた面々の筈だ。
……実はこれで、宇宙にいたのがインビジブル・ナイツの主力だったとかなったら、ちょっとどうかと思うが。
ただ、特殊部隊という規模で考えると、やはりそこまでの数はいないというのが俺の予想だ。
闇夜のフェンリル隊のようにそれなりの人数がいる特殊部隊もいるので、絶対という訳ではないのだが。
『……分かりました。難しいですが、可能な限りやってみましょう』
「悪いな。こういう状況で言うのもなんだが、やっぱりペズンに残っていた方がよかったんじゃないか?」
そう言うと、シュタイナーは首を横に振る。
『いえ、特殊部隊として腕の見せどころですから。それに……連邦軍が来るよりも前にインビジブル・ナイツを全機生け捕りにした時、連邦軍がどのような顔をするのか見てみたい気持ちもありますし』
趣味が悪いな。
そう思ったが、キシリアの下で活動していたと思えば、そのくらいのことは思ってもおかしくはないのか?
シュタイナーに限らず、ルナ・ジオン軍の中には連邦軍……いや、連邦政府も含めて連邦という存在に色々と思うところがあるのは知っている。
とはいえ、それを露骨に表に出すような者はあまりいないが。
「なら、これ以上は何も言わない。サイクロプス隊の実力を見せてくれ。……っと」
十分にフィフス・ルナに近付いて来たとこともあり、当然ながらインビジブル・ナイツ側でも近付いてくる俺達に気が付いたらしい。
全高70mのゼロ・ジ・アールなんだから、気が付かない方がおかしいか。
ともあれ、近付いてくる前に撃破しようと考えたのか、先制攻撃が行われる。
光った瞬間、咄嗟にゼロ・ジ・アールを動かそうとしたものの、それは止めておく。
その攻撃が実弾ではなくビームだと理解した為だ。
ビームであれば、ゼロ・ジ・アールにとってその攻撃は何の意味もない。
それを示すかのように、ビームはIフィールドによって弾かれる。
『これが……Iフィールド……』
シュタイナーの口から驚きの声が上がる。
あれ? シュタイナーはIフィールドを見た事がなかったか?
もしこれが初めて実際に見るにしても、ビグ・ザムとかの戦いの映像とかで見ていてもおかしくないと思うんだが。
あるいは映像ではなく実際に自分の目で見たのが初めてとか?
とはいえ、全天周囲モニタである以上、そこに映し出されたのはあくまでも外部カメラによって映し出された映像で、実際に自分の目で直接見た訳ではない。
そういう意味では、全天周囲モニタで見ても保存された映像で見ても、そう違いはない……のか?
Iフィールドが使われた場所にいるという時点で違うのかもしれないが。
「そうだ。とはいえ、防げるのはビームだけだがな」
そう言い、スラスターを使ってゼロ・ジ・アールの軌道を変更する。
次の瞬間ゼロ・ジ・アールのいた空間を弾丸が貫いていく。
「じゃあ、それぞれ行動してくれ。サイクロプス隊の実力を見せて貰えるのを、楽しみにしている」
そう言うと同時に、ゼロ・ジ・アールの腕を大きく振るう。
するとゼロ・ジ・アールの手で掴んでいたMSがカタパルトで射出されたかのように飛んでいく。
また、手ではなく腕に掴まっていたMS達も、その反動を利用して飛ぶ。
驚いたのは、バーニィの操縦するアクト・ザクだろう。
腕が振るわれた時、その力が最大限伝わる最善のポイントでゼロ・ジ・アールの腕から離れたのだ。
勿論、バーニィも決して新人という訳ではない。
1年戦争当時はサイクロプス隊に配属されたばかり新人だったが、ルナ・ジオンに亡命してからサイクロプス隊に鍛えられているのだから。
しかし、それでも実戦はなかった……いや、もしかしたらジオン軍残党を相手に戦ったりしたのかもしれないが、それでも戦いの経験は決して多くはない筈。
特にジオン軍残党との戦いとなると、遭遇するまでが大変ではあっても実際に遭遇してしまえば圧倒的に有利な状況で戦える。
ジオン軍残党だけあって戦いの経験はあるだろうが、国のバックアップがなくなった以上は補給やMSの部品、弾薬等はどうしても不足するので、本来の力を十分に発揮出来ない。
そう考えると、やはり残党狩りをする場合は見つけてしまえばそれなりに有利に戦える。
もっとも、グラブロやらビグロやら、MAを用意しているようなジオン軍残党を相手にした場合は少し厄介だろうが。
もしそういう強敵と戦っていれば、ルナ・ジオンに連絡くらいはあるだろうし、そうなれば俺の方にも連絡くらいは入っていてもおかしくはない。
しかしそういうのがなかったのを考えると、やはりグラブロやビグロというのは特殊な例なのだろう。
……そういう特殊な例に何度も当たった俺は……まぁ、原作に介入してるんだろうから、そういう風になってもおかしくはないのかもしれないが。
そんな風に思いつつ、MSを全て投擲したのを確認するとゼロ・ジ・アールのスラスターを全開にして進む。
それでも投擲したサイクロプス隊にすぐに追いつくことは出来ず……フィフス・ルナのすぐ側になる辺りでようやくサイクロプス隊に追いつく。
また、丁度そのタイミングでインビジブル・ナイツもこちらに向かって攻撃してくる。
無理もないか。インビジブル・ナイツにしてみれば、マスドライバーは地球を攻撃する上で絶対に確保しておく必要がある。
それこそ狙いを外す訳にもいかない以上、戦いは勿論、攻撃で狙いがずれるといったような事も避けたい筈だ。
だからこそ、インビジブル・ナイツは俺達を近づけないように遠くからこちらを攻撃していたのだろう。
インビジブル・ナイツだけなのか、宇宙にいるジオン軍残党も協力してるのか、結構な戦力が揃っている。
そんな中……ゲルググが真っ直ぐこちらに向かって突っ込んできた。
その手に握っているのは、ビームナギナタ。
個人的にこの武器を見ていつも思うのだが、普通にビームサーベルとして使った方が使いやすいんじゃないか?
いやまぁ、ゲルググを開発する際にビーム兵器の担当はMIP社らしいから、そう考えると普通のビームサーベルではなくビームナギナタにしたのも理解出来てしまうのだが。
ディアナでMSを開発する際には、MIP社が妙なビーム兵器を作らないように注意しておいた方がよさそうだな。
そんな風に思いつつ、スラスターを全開にしてゼロ・ジ・アールの軌道を変更する。
何しろゼロ・ジ・アールは近接用の武装を持ってない。
メガ粒子砲を使えば倒せるだろうが、そうなるとこのパイロットを殺してしまう可能性が高い。
こういう時、頭部バルカンとかビームサーベルとかがないのは痛いよな。
いや、ビームサーベル……なるほど。データを取る為にも悪くないか。
ここで使えば間違いなく壊れるだろうが、それもまたデータ収集の一環と思っておこう。
そう判断し、ゲルググの振るうビームサーベルの一撃を後ろに下がりつつ回避しながら、ゼロ・ジ・アールの手を振るう。
ゼロ・ジ・アールの手は、ここに来る途中MSを握って運搬してきたように、普通のMSに比べてかなり巨大だ。
それだけに、単純にその手を振るうだけでも十分武器となる。
……ただし、手というのは人間の骨を見れば分かるように、小さな骨が集まって出来ている場所だ。
人間なら鍛えれば自分の力で拳を壊すといった危険は減るし、あるいはシャドウミラーやネギま世界の住人のように魔力や気で身体強化が出来るのなら手はかなり頑丈になる。
そんな諸々と違い、機械の場合は手を鍛えるといったことは出来ない。
水陸両用MSで使われているアイアンネイルのように最初から武器として使われているのなら話は別だが、ゼロ・ジ・アールの手はあくまでも普通の手でしかない。
そんな訳で、ビームナギナタに当たれば勿論、機体に命中しても手にダメージはあるだろう。
だがそれを考えた上でも、近接戦闘の方法がそれしかない以上、仕方がない。
「死ぬなよ」
そう呟きつつ、ゼロ・ジ・アールが後方に下がったせいでビームナギナタの一撃が外れたのを確認しつつ、ゼロ・ジ・アールの手を振るう。
ガン、と。
そんな音が響きつつ、ゼロ・ジ・アールの手はゲルググに命中して、その質量差から吹き飛ばす。
拳で殴るのではなく、掌底……いや、平手打ちか。そのお陰で、手のダメージはどうやらそこまではない。
とはいえ、ゼロ・ジ・アールが持つ近接戦闘能力は結局そこまで強くない。
大きな手による平手打ちは、ゲルググに与えるダメージとしては決して大きくはなく、それを証明するかのように、吹き飛ばされたゲルググはスラスターやAMBACを使ってすぐに体勢を立て直し……再びビームナギナタを手にこちらに向かってくる。
少し助かったのは、ゲルググがゼロ・ジ・アールを強敵でそのまま放っておけないと判断した事だろう。
一瞬だけ周囲の戦況を確認すると、敵はザク系が主だ。
多分だが、HLVで地上から宇宙に持ってきたMSだろう。
これが1年戦争時代なら、地上で使っていたMSは地上に置いてきて、宇宙にやって来たら宇宙で使える……場合によっては宇宙用のMSを用意出来たりした筈だ。
だが、ジオン軍残党のように補給とかに余裕がある訳ではないので、地上で使っていたMSを持ってくるしかなかったのだろう。
クリストが使っていたイフリートのように、地上用MSであれば置いてくるしかなかったが。
そんな訳でギャン・クリーガーやアクト・ザクといったMSを有するサイクロプス隊は、数でこそ劣っているが、互角に……いや、寧ろ有利に戦闘を進めていた。
特にバーニィの操るアクト・ザクは、その高い機動性を十分に発揮してインビジブル・ナイツのザクを相手に優位に戦っている。
その動きは、他のサイクロプス隊の面々に決して劣ってはいない。
ザクに特化した才能というのは、ある意味で凄いな。
そう思ったところに、体勢を立て直したゲルググが再度ビームナギナタを手に近付いてくる。
ビームライフルでの攻撃を最初から捨てているのは、先程のIフィールドを見たからだろう。
この判断の素早さはさすがだ。
とはいえ、ビームライフルは無理でもザクマシンガンのような実弾兵器を使えばゼロ・ジ・アールには有効なのだが。
そんな風に思いつつ、俺はこの敵が恐らく最優先目標の1人だろうと判断し、説得する事にする。
ビームナギナタの一撃を回避し、手を伸ばす。
先程と違うのは、平手打ちで吹き飛ばすのではなく、掌でゲルググを掴む事だ。
向こうもまさか俺がそんな行動をするとは思わなかったのか、動揺し……結果的にゲルググはゼロ・ジ・アールの両手によって掴まえられるのだった。