転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3755話

「随分と久しぶりな気がするな」

 

 ハンバーガーを食べながら、視線の先にある天城屋旅館を見て呟く。

 ジュネスでハンバーガーを購入し、ついでにホットドッグの屋台について聞いてから、俺は数個のハンバーガーをフードコートで食べると、天城屋旅館に戻ってきた。

 ちなみにホットドッグ屋の店主は現在ホットドッグを更に一段上の料理にする為に素材を探しに行ってるらしい。

 その間、あの場所をホットドッグ屋の店主の知り合いのあのハンバーガー屋の店主が使っているらしい。

 ちなみに一番安いハンバーガーでも1000円以上したので、数個食べたということは数千円の食事代になった訳だが……まぁ、金に関しては桐条グループのブラックカードがあるので、そのくらいの出費は問題なかったりする。

 そうして天城屋旅館の中に入ると……

 

「客はそんなに多くはないか」

 

 既に6月も後半だ。

 結局ゴールデンウィークがどうだったのかは分からないが、今はちょうど次に忙しくなる頃……夏休み前なので、旅館もシーズン外という事になるのか?

 いや、でも6月なら山を見たりするのは丁度いい季節でもある。

 山菜とかはもう期待出来ないが、初夏の山というのはそれなりに人気があってもおかしくはない。

 もっとも、初夏の山となると当然のように虫もいるので、それが気になる者には気になるだろうし。

 山となると、単純に危険な虫とかもいるしな。

 そういう意味では……山が見える天城屋旅館も、決していい場所とは言えないのだろう。

 

「アクセル? 戻ってきたのか?」

 

 そう声を掛けられる。

 声のした方に視線を向けると、そこには美鶴の姿があった。

 夏らしく薄着なのは俺的に嬉しい。

 美鶴の女らしい曲線が、男を誘うかのような……昨夜の件もあってか、どうしてもそっち方面に考えが向かってしまうな。

 

「ああ、ちょうどさっきな。……一応、今日戻るって連絡はしてあったよな?」

「聞いてはいたが、こちらに到着したら連絡をしてくれれば助かったのだが。……まぁ、いい。これからは暫くこっちにいると思ってもいいのか?」

「そのつもりだ。……取りあえず、大広間に向かうか。今もそこを拠点にしてるのだろう? ここに来る途中でジュネスに寄って差し入れを買ってきた。出来たてのハンバーガーだから、美味いと思うぞ。ちょっと大きいから、もしかしたら食べきれない奴もいるかもしれないが」

「そうか。では、行こう。アクセルが帰ってきたと知れば、皆も喜ぶだろう」

 

 そう言うと、美鶴は俺と一緒に大広間に向かう。

 

「そうだ、少し落ち着いたらゆかりに連絡をしてやれ。ゴールデンウィークにこっちに来たのだが、アクセルと会えなくて残念がっていたぞ?」

「ん? 一応、俺がUC世界に行くというのは言ってあった筈だが……」

「それでもゴールデンウィークの時は天城屋旅館に顔を出すと思っていたのだ。……ふふっ、いつものように『馬鹿じゃないの。っていうか馬鹿じゃないの』と何度も言っていたぞ」

 

 そう言う美鶴の言葉に、不機嫌そうなゆかりの様子が目に浮かぶ。

 大事な事なので2回言いましたといった様子のゆかりの姿が。

 

「そうだな。後で連絡をしておくよ。夏休みになったらこっちに来るように誘ってみるか。……マヨナカテレビの件を考えると、あまり悠長にしてもいられないんだが」

 

 大学の夏休みというのは大分長い。

 大学のある場所や個人によっても違いがあるが、大雑把には2ヶ月くらいあると聞く。

 高校の夏休みが1ヶ月くらいだとすれば、ざっと2倍。

 いや、東北や北海道になると、夏休みは東京とかと比べても短いんだよな。

 その分、冬休みが東京とかよりも長くなってるけど。

 基本的に休日の総合的な日数は一緒になる筈だし。

 ともあれ、2ヶ月くらいの夏休みがあるのなら、ゆかりが天城屋旅館に来るのは全く何の問題もない。

 とはいえ、ゆかりも大学での付き合いとかあるから、夏休み中ずっと天城屋旅館にいるといった事は出来ないだろうけど。

 

「そうした方がいい。……戦力にもなるしな」

「いや、それはそうだけど。俺としては戦力として呼ぶんじゃなくて、純粋にゆかりと会いたいから呼ぶつもりなんだが」

 

 そう言うも、ゆかりの性格を考えればこの状況で自分が戦力となるのなら戦わないという選択肢はないだろう。

 ゆかりはシャドウに対して複雑な思いを抱いているしな。

 ゆかりの父親はシャドウの研究に関わっていた。

 その結果として、桐条グループからスケープゴートにされ、ゆかりと母親は散々な目に遭ったらしい。

 とはいえ、シャドウはシャドウでもニュクスやタルタロス関係のシャドウと、マヨナカテレビのシャドウでは、名称こそ同じであっても実際には違う。

 それでもシャドウはシャドウであるという事で、ゆかりにとっては戦闘に協力するのに十分な理由なのは間違いなかった。

 そうして話をしているうちに、大広間に到着する。

 丁度昼時という事もあってか、シャドウワーカーの面々の中には食事をしている者もいる。

 基本的に天城屋旅館の食事は朝と夜の2食しか出ないが、別途注文すれば昼食も用意してくれる。

 旅館の料理人が作る料理だったり、仕出し弁当だったり色々らしいが。

 普通ならそういう別途の注文は旅館側でもあまり好まれないのだが、シャドウワーカーの場合はこの大広間を借り切ってるしな。

 ゴールデンウィークの時も結局ずっとこの大広間を借りっぱなしになっていたらしい。

 ……宿泊料金とか、一体どうなっているのか少し気になる。

 まぁ、それでもシャドウワーカーの拠点として考えれば、悪くない場所なのだが。

 何しろ普通に稲羽市で建物を借りるとなると、この大広間のように広い場所を借りるのは難しい。

 ましてや、大広間の掃除や食事の用意、洗濯……そのような事を全て天城屋旅館側でやってくれるのだから、シャドウワーカーの面々も仕事に集中出来る。

 しかも気分転換に好きな時に温泉に入れるというのも大きい。

 勿論、快適な分は宿泊料に跳ね返ってくるのだが。

 その宿泊料も、個人ではなく桐条グループが支払っている以上、何も問題はない。

 

「あ、美鶴さん……アクセルさん? お久しぶりです」

 

 大広間に入ってきた俺と美鶴に真っ先に気が付いた女が美鶴の名前を呼び、その次に俺がいる事に驚く。

 まぁ、2ヶ月近くUC世界に行っていたんだから、そんな風になるのは無理もないか。

 特にシャドウワーカーの面々は、俺の正体についての詳細は殆ど知らないし。

 

「ああ、こっちの用事が終わったから、暫くはこっちにいるつもりだ。それと、これは差し入れだ。丁度昼だし、まだ食事をしていない奴はこれでもどうだ? ジュネスのフードコートで売っていたハンバーガーだ」

「え? それってもしかして、あの高級ハンバーガーですか!?」

 

 俺と話していた女が驚きの声を上げると、大広間にいた面々の視線が集まる。

 この様子を見ると、どうやらあのハンバーガー屋のハンバーガーは美味いと評判らしい。

 それ以外にも一番安いのでも1000円くらいするから、そう簡単に手を出せないのかもしれないが。

 いや、でも1000円くらいならそうでもないのか?

 まぁ、もっと高級なのになると3000円オーバーのもあったし、そっちは本当に手が出しにくいだろうが。

 とにかくハンバーガーは人気で、まだ昼食を食べていなかった者達が集まってくる。

 既に昼食を食べ終わった者、あるいは既に半分以上食事を食べてしまっていた者達は、恨めしそうな視線をこっちに向けていた。

 とはいえ、ぶっちゃけ天城屋旅館の用意してくれた昼食ともなれば、普通に1000円以上はすると思うんだが。

 もう何ヶ月も食べているので、飽きた……もしくは慣れたという者もいるのかもしれないが。

 ともあれ、ハンバーガーを希望する面々に渡し終えると、俺は大広間の隅に向かう。

 ……いつの間にかソファとか用意されており、休憩所のような感じになっていた事には驚いたが。

 このソファとかは、多分美鶴の方で用意したんだろう。

 正確には桐条グループでだろうが。

 

「それで……この様子なら聞くまでもないと思うが、まだ足立は捕まってない訳か」

「残念ながらそうなる。……一応、こちらもそれなりに手を尽くしているのだが、TVの中の世界は未だにその多くがどのような場所か不明だ。まるでタルタロスだよ」

 

 美鶴もソファに座り、俺の言葉にそう答える。

 美鶴にしてみれば、今の状況は決して好ましいものではない。

 それだけ足立の悪知恵が凄いのか。

 

「堂島は?」

「今は五飛と共にTVの中の世界で訓練をしている。まだ足立の足取りは掴めていないものの、いざ動けるようになった時はすぐにでも自分の手で捕らえようとしてるのだろう」

「だろうな」

 

 堂島にとって足立は、短いながらも自分の相棒だった男だ。

 その足立が山野真由美の殺人事件に関わっていた。

 それもTVの中の世界に入れるという、普通では考えられない能力を使って。

 更には、山野真由美の事件以外にも、その死体の最初の発見者だった早紀に言い寄り、それを断られると稲羽署の取調室で早紀をTVの中にいれようとした。

 そんな諸々を考えると、堂島にしてみれば自分の手で足立を捕らえようと考えるのは当然の話だ。

 とはいえ、そんな堂島の執念も今はまだ成就していないようだったが。

 

「確か、俺がUC世界に行ってる間に、また新しく1人仲間が加わったんだよな?」

「巽完二。年齢は鳴上の1つ下だな。アクセルが何度か通ったという、染め物屋の1人息子だ」

「ああ、名前に聞き覚えがあると思ったらそういう事か。で、以前連絡をした時には詳細は聞いていなかったが、その巽……いや、それだと染め物屋と間違えやすいか。巽も足立の手でTVの中の世界に放り込まれたのか?」

「おそらくはそうだろう。もっとも、本人はTVの中に入れられた前後の事をあまりよく覚えていなかったが」

「雪子と同じか」

 

 雪子もその辺は同様で、自分がTVの中に入れられた前後の事を覚えてはいなかったらしい。

 もしかしたらTVの中の世界にはそういう副作用があるのか?

 そうも思ったが、五飛やムラタを始めとした他の面々にそういう事はない。

 俺の場合はそもそも人間ではなく混沌精霊なので、もし何かがあってもそう簡単に同じような事にはならないだろうが。

 

「そうなるな。もっとも、混乱を避ける為にまだ公にはされていないものの、足立は既に稲羽署の全員が追っている。もし街を出歩いているのを見つければ、即座に捕らえるか……もしくはこちらに連絡が来る筈だ」

 

 ニュクスの一件に関わったペルソナ使い達と違い、稲羽市で……というか、TVの中の世界でペルソナ使いとして覚醒した者は、基本的にTVの中の世界以外ではペルソナを召喚出来ない。

 これは今までの例を見れば明らかだった。

 つまり、もし街中を歩いている足立を稲羽署の刑事達が見つければ、その場で取り押さえる事は可能なのだ。

 もっとも、足立が使えないのはあくまでもペルソナだけで、TVの中の世界にいるシャドウを自由に操れるという可能性はあるかもしれないが。

 それでも稲羽署の刑事達……いや、より正確には署長や副署長のような上層部にしてみれば、足立のような存在を出しただけで監督不行き届きとかそういうので、出世について道が閉ざされる可能性が高い。

 その失態を少しでも取り返すには、自分達の手で足立を捕らえる必要がある。

 ……何だかUC世界のフィフス・ルナでMS部隊を率いていたジャマイカンを含めた上層部と同じような感じになってる気がするな。

 どこの上層部も、自分達の失態を消すのに忙しいといったところか。

 

「その辺りの連絡がこないという事は、まだ足立が発見されていないという事か。……足立は食事とかそういうのはどうしてるんだ? 以前はジュネスだったが」

「今はジュネスに限らず、色々な場所に出入りして好き放題に持っていってるよ」

「ジュネスに行かなくなったのは、やっぱり見張りが厳しくなったからか?」

 

 俺が水天の涙に関わる前にも、夜のジュネスにはそれなりに刑事がいた。

 だが、それでも足立はジュネスで食料や飲み物、それ以外にも色々と生活必需品であったり、娯楽品すらTVの中の世界に持っていっていた。

 そのようなことが出来たのは、ジュネスがデパートだからだ。

 つまり1つの建物の中に幾つものテナントが入っている形だったのが大きい。

 でなければ、それこそ食料を売ってる店、酒を売ってる店、服を売ってる店、本を売ってる店……それ以外にも何かが欲しかったらその店に行く必要がある。

 また、この稲羽市は過疎化が進んでいる場所で、人口も少ない。

 それはつまり、専門店も少ないという事を意味している。

 例えば肉を買うにしても、普通の肉なら売っているがブランドの肉……それも全国的に有名で高級な肉となれば、それこそ特別に取り寄せるような事をしないと購入出来ない。

 だが、デパートの場合はそういう肉が普通にある。

 足立にしてみれば、色々な物を盗むという意味ではジュネスは非常に便利な場所なのは間違いない。

 それでもジュネスを使っていないという事は、本格的に稲羽署が動いたんだろうな。

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