美鶴とある程度の情報交換をすると、ちょうどそのタイミングで五飛とムラタ、そして堂島が大広間の中に入ってくる。
「アクセル?」
大広間の端にあるソファに座っている俺を見て、堂島が驚きの声を上げた。
ただ、五飛とムラタは特に驚いた様子がない。
別に気配を消していた訳でもないので、それで俺の存在を察知していたのだろう。
「久しぶりだな。TVの中の世界で訓練をしてるって話だったが、もういいのか?」
「あ、ああ。やりすぎるのもどうかと思うしな。……それにしても、随分と久しぶりだが、どこに行ってたんだ?」
「俺も色々とやる事があるんだよ。稲羽市の件が重要なのは間違いないが、他の場所でも色々と仕事をする必要があるし」
この言葉は半ば誤魔化しだが、同時に半ば事実でもある。
原作的に大丈夫だったとは思うが、ルナ・ジオンの建国とかそういう原作とは違う展開があった場合、インビジブル・ナイツによるオーガスタ基地へのマスドライバーによる攻撃が成功していた可能性があるのだから。
そのようなことにならなかったのは、俺にとって非常に幸運な出来事だった。
「なるほど、そういうものか」
堂島は俺の言葉にある程度理解したものの、それでも完全に納得した訳ではないといったところか。
無理もない。
堂島にしてみれば、マヨナカテレビの一件が起きているのは自分の地元だ。
場合によっては娘の菜々子も巻き込まれる危険がある……いや、足立と堂島の関係を考えると、その可能性はそれなりに高い以上、まずマヨナカテレビの一件を片付け、足立を捕らえたいと思ってもおかしくはない。
「それで、堂島は今日これからどうするんだ?」
「少し稲羽署に顔を出す必要がある。報告書とかも提出する必要があるしな」
その言葉に、俺は公務員の大変さを改めて理解する。
いや、それが普通なのかもしれないが。
そういう観点から見た場合、シャドウミラーという国は異質でしかないのだろう。
とはいえ、国の形というのはそれぞれで違う。
シャドウミラーに関しては、今のままで上手く回っているのだから問題はないのだろう。
……魔法球と時の指輪、あるいはその受信機があって初めてシャドウミラーは今のような事になっているのだが。
そういうのがなければ、恐らくシャドウミラーもそこまで上手く回っていなかっただろう。
そうなると一体どういう風になっていたんだろうな。
あるいは国ではなく組織のままで活動していたか?
他の世界に接触しても、今のように大々的に貿易をしたりとか、そういう事せず、相手に気が付かれない……あるいは気が付かれても国ではなく組織と取引をするとか、そんな感じだったかもしれない。
「アクセル? どうした?」
「いや、堂島は凄いと思ってな」
「……アクセルにそんな風に言われると、ちょっと不思議な感じがするな」
そんな俺の言葉に、堂島は不思議そうな表情で視線を向けてくる。
多分、堂島にとってそれは普通にやってる事なので、そんな風に言われても……とか、そんな感じに思ってるんだろうな。
「その辺の感覚は人それぞれだしな。……ああ、そうだ。これを渡しておくよ。土産って訳でもないけど」
そう言うと、空間倉庫からジュネスの屋上で買ったハンバーガーを取り出す。
シャドウワーカーの面々に差し入れとして渡したのとは別の奴だ。
堂島、五飛、ムラタの3人にそれぞれ1個ずつ渡す。
「何だ、これは?」
「見て分かるだろ。ハンバーガーだ。ジュネスの屋上で買ってきた、ちょっといいハンバーガーだな。この時間に帰ってきたんだ。まだ昼は食べてないんだろ?」
「それはそうだが……まぁ、貰っておく」
堂島がそう言うと、ハンバーガーを取り出して一口食べる。
すると、堂島の目が大きく見開かれる。
ハンバーガーという事で、そこまでは期待していなかったのだろう。
だが、実際に食べてみるとそれが予想以上に美味かったらしい。
五飛とムラタもそのハンバーガーを食べて、少し驚きの表情を浮かべている。
ムラタはともかく、五飛は料理とかにも拘りがありそうな感じがする。
自分で中華料理を作るとか。
……実際、以前ちょっと聞いた話だと、ホワイトスターにある超包子には結構な頻度で通ってるらしいし。
まぁ、超包子の場合は中華料理というか、純粋に四葉の料理の腕が凄いからってのもあるんだろうが。
五飛にしてみれば、まさか看板娘の明日菜やステラが目当てなんて事はないだろうし。
それはそれでちょっと面白いかもしれないが。
明日菜も時の指輪の受信機があるので20代のままだが、そろそろ恋人くらいは出来てもいいと思う。
あるいは、まだ高畑の一件を引きずってるのかもしれないが。
五飛と明日菜……似合いと言えば似合いか?
そんな風に思った瞬間、何だか微妙に嫌な気分になる。
何だ?
ふとそんな疑問を抱くが、その答えに辿り着く前に五飛が口を開く。
「どうした、アクセル。俺をじっと見て」
「五飛がハンバーガーを食べている光景が珍しくてな。俺の勝手な印象だが、五飛は中華料理しか食べないと思っていたから」
そう言うと、五飛の顔が微かに不愉快そうな色を宿す。
「俺を一体何だと思っているんだ? 普通にこういうハンバーガーも食べるぞ。それにオペレーションメテオの時は……いや、何でもない」
途中で無理矢理言葉を切る五飛。
シャドウワーカーの面々は離れた場所で食事をしたり、話をしたりしているが、堂島が側にいるに気が付いたのだろう。
その堂島にオペレーションメテオという単語を聞かせ、その具体的な内容を喋る訳にはいかないと、そう思ったのだろう。
実際、その判断は正しい。
堂島にその辺について話せば、当然ながら報告書が書かれ……どこまで俺達の詳細について知られるか分からない。
普通に考えれば異世界の存在を信じるとは思えない。
だが、それでも万が一を考えれば、知らせない方がいいのは間違いなかった。
「足立の足取りが掴めないとなると、今までとは違った手段を考える必要があるな」
美鶴ナイス。
そう言いたくなるが、それを言えば話題が移った事に堂島が気が付くかもしれないので、黙っておく。
もっとも、話題の転換が急すぎた事もあって堂島が疑問に思っている可能性は否定出来ないが。
とはいえ、その話題は足立の件だ。
堂島にしてみれば、その話を無視する事は出来ないだろう。
堂島にとっては、足立を捕らえる為に少しでも役立つのなら積極的に話をしたいとすら思ってもおかしくはないのだから。
「具体的には、どのような手段を? 今まで何度もTVの中の世界に行って捜してはいるが、足立を見つけることは出来ていない。何かもっと別の手段と言うが、何かあるのか?」
「考えられる可能性としては……山岸を呼ぶ事だろうな」
なるほど、山岸か。
山岸のペルソナは戦闘能力という点では決して優れていないものの、探知能力については最高峰の性能を持つ。
TVの中の世界で足立を捜すのに、これ以上ない程の適役だろう。
ただ、問題なのは……
「山岸はもう一個のシャドウの方に行ってるって話だったけど、そっちはいいのか?」
この稲羽市に、元特別課外活動部の面々が来ていない理由。
それはゆかりのように大学に通っている者がいるというのもあるが、それ以外にこことは別の場所でシャドウが関係していると思しき騒動が起きているからというのが最大の理由だ。
そちらも放っておく事は出来ず、山岸を始めとした他の面々はそちらで行動している。
こっちには俺を始めとして、シャドウミラーの面々がいるからと、そういう風に戦力を分けたといった感じか。
その山岸をこっちに呼ぶとなると、当然ながら向こうの方にある程度の余裕が必要となる。
「いや……向こうの方もまだそこまでの余裕はない。だが、山岸がいれば足立を見つけるのは簡単とは言わないまでも、かなり楽になる筈だ。であれば、まずは山岸を呼んで足立を捕らえて、それから向こうに戦力を追加投入した方がいい。……そうは思わないか?」
美鶴の言葉は、それなりの……いや、それなり以上の説得力を持っていた。
そういう意味では、美鶴の言うように山岸をこっちに呼んでも構わないだろう。
「話は分かった。……出来れば、こっちで山岸と同じタイプのペルソナ使いを見つけられればいいんだがな。クマもそこまでの能力はないし」
クマはそこそこの探知能力を持っているが、その能力は美鶴のアルテミシアに及ばないくらいでしかない。
美鶴の前のペルソナの。ペンテレシア並……という表現が相応しいのか?
そんな訳で、クマでは足立を見つけることは出来ない。
美鶴に対する山岸のように、クマに対する誰かが仲間になってくれると助かるんだが。
とはいえ、それはつまり新たな誰かがTVの中の世界に入らなければいけないという事を意味している以上、けっして好ましい事ではないのだが。
新しくペルソナ使いになったという巽も、聞いた話だと直接戦闘型のペルソナらしいし。
「そうなると嬉しい……が、それはそれでこちらの力不足に思えるな」
「かもしれないな」
そんな風に話をしていたが、堂島や五飛、ムラタの3人はハンバーガーを食べ終わると温泉に向かう。
TVの中の世界で思い切り動いて汗を掻いても、こっちに戻ってくればすぐに風呂に……それも温泉に入れるというのは大きいよな。
そうして堂島がいなくなったところで、俺は気になっていた事を聞く。
「鳴上達がTVの中の世界で戦うのを、堂島は認めたのか?」
「認めるしかなかった……というところか。巽完二を助けたのも、鳴上達だしな」
一体何がどうなってそうなったんだろうな。
雪子の一件では、雪子の親友だった里中がTVの中の世界について知っていて、鳴上や花村の友人という繋がりでなし崩し的に事態に関わる事になった。
けど俺が聞いた話によれば、巽の時はそこまで顔見知りという訳ではない筈だ。
いや、巽の実家は天城屋旅館と取引があり、年齢も1歳違いということで雪子と顔見知りであってもいいとは思うんだが。
それでも、他の面々と違って俺がこっちで活動している時には顔を合わせるような事はなかった。
つまり、鳴上達がTVの中の世界に関わる必要はなかった筈だ。
「私が言うのもなんだが、その辺は半ば成り行きというのが正しい」
「……成り行きか」
何だかそうやって言われると、納得してしまうな。
とはいえ、そこまで気にしても仕方がないという思いもあるが。
あるいはこの事件の原作の主人公である鳴上だからこそ、何となくそのような事になったとか、そういう風に思っておいた方がいいかもしれないな。
「そういうものだと認識しておけば、多少は納得出来るのかもしれないな」
「アクセル、それは現実を放棄しているように感じるぞ?」
「そう思われても仕方がないとは思うが、世の中はそういうものだったりするのも間違いはないだろう?」
そんな風に会話をし……美鶴もいつまでも俺と話をしている訳にはいかず、仕事に戻るという事で俺は久しぶりに稲羽市を見て回る事にするのだった。
「とはいえ……まぁ、特に何か変わった事はないよな」
元々が過疎化の進んでいる街だ。
人口も決して多くはない以上、以前と比べて特に何かが変わったという様子はない。
とはいえ、俺がここで何を言っても意味はない。
いやまぁ、桐条グループの力があれば、稲羽市を栄えさせる事は出来るかもしれない。
そして俺が桐条グループに口利きをすれば、それもどうにか出来るかもしれないが……そこまでやる必要があるかと言われると、正直微妙なところなんだよな。
大きな目で見た場合、利益らしい利益は殆どないし。
あるいは、マヨナカテレビがずっと残るのなら、その研究の為であったり、中で見つけられるマジックアイテムの研究だったりで、資本を投下する可能性はあるのだが。
とはいえ、タルタロスの件を考えると、多分マヨナカテレビの一件が解決すればTVの中の世界も消滅する可能性が高い。
出来ればそれまでにマジックアイテムの類は可能な限り集めておきたいとは思っているが。
実際、俺がUC世界に行っていた間に美鶴達はそれなりに頻繁にTVの中の世界に入っては、マジックアイテムとかを確保していたし。
ただ……万が一、本当に万が一の話だが、マヨナカテレビの一件が解決してもTVの中の世界は残ったままだったら、桐条グループが本格的に資本を投下して研究施設とかを作る可能性は十分にある。
「うそだろ、俺のりせちーが……りせちーが……」
「誰がお前のりせちーだよ。ったく、俺のりせちーだろ?」
「てめえ、やるか?」
「やらいでか」
街中を歩きながら考えていると、不意にそんな声が聞こえてくる。
学生……ではないな。スーツを着てるし、まだ時間的に高校は終わってないし。
サラリーマンなんだろうが、仕事をしないで何をしてるのやら。
そんな風に歩いていると……
「きゃっ!」
不意に聞こえてきた声に視線を向けると、そこには帽子とサングラスで顔や髪型は確認出来ないものの、それでもどこかで見覚えがあるような、ないような……そんな雰囲気の女が石に躓いて転んでいるところだった。