転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3757話

 声の聞こえた方に視線を向けると、そこには転んでいる1人の女がいた。

 どことなく見覚えがあるような、ないような……

 とはいえ、俺が稲稲羽市に来てから色々な場所に行った事を思えば、どこかで会った事がある相手であってもおかしくはないか。

 そんな風に思っていると、転んだ女が俺を見る。

 ……いやまぁ、午後2時くらいという事で、周囲に人がいないのは仕方がないのかもしれないが。

 もう1時間くらいすれば、学校が終わって学生達がそれなりに姿を現したりすると思うけど。

 とはいえ、それでも散歩なり買い物なりをしているような者がいてもおかしくはないのだが、俺しかいないのは……偶然だろうな。

 これで実は結界とかそういうのの効果ですと言われれば、素直にそれに納得してしまうかもしれないが。

 そんな風に考えていると、女が俺の方を見て口を開く。

 

「声くらい掛けなさいよね」

「……学生なら学校に行け」

 

 女は外見的にまだ学生……恐らく高校生くらいだろう。

 そんな女がこの時間にここにいるのは、恐らくサボっているから。

 もっともそれは別にそこまで珍しいものでもないが。

 学生がサボるなんてのは、それこそよくある事なのだから。

 

「この状況でそんな事を言うの? ……はい」

 

 手を伸ばしてくる女。

 俺に握手を求めている……訳がなく、起こして欲しいと態度で示しているのだろう。

 女の様子に若干の違和感があるが、取りあえずこのままにしておけば面倒そうなので、とっととこの場を立ち去るか、あるいは女を起こすか。

 少し考え、後者を選ぶ。

 何となく、そのままにしておくのはどうかと思ったというのもあるし、マヨナカテレビについての何らかの情報を持っていないかとも思った為だ。

 

「ほら」

「……ありがとう。まさか本当にこういう事をしてくれるとは思わなかったわ」

 

 何故か驚かれる。

 なら最初からするなと突っ込みたくなったが、女は俺の手を握って立ち上がる。

 

「一応聞いておくけど、大丈夫か?」

「……一応って言われても嬉しくないんだけど」

「そうか? 心配するだけありがたいと思ってくれ」

「ふん。……痛っ!」

 

 不満そうに鼻を鳴らして立ち去ろうとした女だったが、1歩踏み出した瞬間動きを止める。

 その様子と、痛いという言葉から恐らく転んだ事で捻挫でもしたのだろう。

 

「送っていくか? 一応言っておくが、下心とかはないからな」

「いらないわよ」

 

 何だかうんざりした……虚無ってるとでも言うのか? もしくはうんざり? そんな風に言いつつ、女は歩き出す。

 幸いなことに、捻挫はしているようだが、そこまで酷くはないらしい。

 少し歩き方にぎこちなさはあるが、それでも歩けない程ではないといったところか。

 もしかしたら、本人は痛いのを痩せ我慢してるだけなのかもしれないが。

 ……しょうがないか、か。

 ただ転んだ相手を見ただけならともかく、こうして目の前で痛みを我慢して歩いてるのを見ると、さすがにそのままにしておけない。

 

「ほら、大丈夫か? なんならおぶって連れて行ってもいいけど、どうする?」

「いらないって言ってるでしょ。どうせあんたも……」

 

 何かを言いたそうにしているものの、結局それ以上は何も言わず、俺を無視して歩き出す。

 こうまで拒否されたとなると、これ以上は関わらない方がいいのか?

 そう思いつつ、このタイミング……マヨナカテレビの一件がある場所で意味ありげな行動をしている女となると、もしかしたら原作キャラじゃないのかとも疑問を抱く。

 サングラスと帽子のせいで、顔つきや髪型とかは分からない。

 それでもさっき転んだ時にも思ったが、どこかで見たことがあるような、ないような、そんな雰囲気の人物だ。

 とはいえ、だから誰なのかと言われれば、素直に思い浮かべる事が出来ないのも事実。

 そうして分からない以上、ならそれを直接聞いてみればいいと判断して、隣を歩く女に尋ねる。

 

「なぁ、お前は俺とどこかで会った事がないか?」

「はぁ? ……ナンパのつもり?」

 

 サングラスをしていても、面倒そうな視線を向けられているのが分かる。

 いやまぁ、確かにそんな風に思われても仕方がない言葉ではあったが。

 とはいえ……

 

「別にそんなつもりはない。そもそも恋人がいるしな」

 

 20人近くだけど。

 とはいえ、その辺についてはペルソナ世界では目立つ……それも悪い意味で目立つので、口にしないが。

 

「ふーん。でも、恋人がいても他の女に言い寄ったりは普通にするんでしょ?」

「それは否定出来ないが、ドラマとか漫画の影響を受けてないか?」

「そんな訳ないでしょ。実際に芸能界じゃ……」

 

 そこまで言った瞬間、女は見て分かる程にしまったといった表情を浮かべる。

 サングラスで目は見えないが、それでも十分にやってしまったといった感じなのは理解出来た。

 

「芸能界?」

 

 てっきりドラマや漫画とかで見て、それでその辺の状況について分かった振りをしているのかと思ったが、まさかここで芸能界という単語が出てくるとは思わなかった。

 あるいはワイドショーとかそういうので、芸能界についての妙な知識を得て、それによって何らかの偏見があるとか?

 まぁ、それは普通にありそうな事だが……ただ、女の言葉を聞く限りでは、そういう感じではなく、実体験からそんな風に言ってるように思えるんだよな。

 だとすると、この女は芸能界で活動していたとか?

 けど……稲羽市出身の芸能人がいたら、稲羽市を歩き回っている時に多少はその辺の噂を聞いてもおかしくはない。

 芸能界全体として考えれば、芸能人は多数いるのでそこまで有名ではなくてもおかしくはない。

 だが、稲羽市出身となればそれこそ多くの者が知っていてもおかしくはないだろう。

 これが例えば、あまりメジャーではない何らかの競技とかでの有名人とかだったりした場合は、知る人ぞ知るといった扱いになってもおかしくはない。

 まぁ、それでも過疎化している稲羽市だ。

 少しでも活気をという事で、地方新聞とかで大々的に取り上げてもおかしくはないが。

 ともあれ、そのようなマイナーなのとは違い、芸能人というのはかなりメジャーな存在だ。

 それだけに、この女が芸能界で活動している芸能人なら、知られていない方がおかしい。

 あるいは……稲羽市にいるが、旅行か何かで来ただけという可能性もあるか。

 とはいえ、その割には何だが暗い雰囲気なんだよな。

 

「もしかして、旅行先で恋人が浮気して喧嘩をしたとか、そんな感じか?」

「はぁ?」

 

 俺の言葉に全く理解出来ないといった様子で声を上げる女。

 この様子からすると、俺の予想は完全に外れてしまったらしい。

 

「違うのか」

「一体何があってそんな風に思ったのよ」

「話の流れからだが」

 

 そう言うと、女はサングラスをしていても分かるくらいに、呆れの視線を向けてくる。

 

「馬鹿らしい。……ちょっと休むわ」

 

 道を歩いていると川が見えてくる。

 鮫川という名前だったか。

 その鮫川は道路と比べれば低い場所があり、土手がある。

 その土手の上で女は休むと口にしたのだ。

 

「痛いのか? もし痛いのなら、背負ってもいいけどどうする」

「いらないわよ。スケベ」

「……そんなつもりはなかったんだが。というか、そんな風に言うだけの身体か?」

 

 その言葉に何かを言おうとした女だったが、すぐにやめる。

 実際、この女は決して女らしい身体付きという訳ではない。

 いや、正確には大人の女という意味での女らしいだが。

 美鶴は高校生の時から大人顔負けの身体だったし、ゆかりも平均以上に女らしい身体付きだった。

 だが、この女は……初夏ということで、それなりに露出の多い格好だが、そういう意味ではまだまだだ。

 いやまぁ、貧乳という程ではないとは思う。

 あくまでも底上げされていなければの話だが、平均くらいはあるだろう。

 顔立ちも……サングラスや帽子で分からないが、それでも見える部分だけを見ても整っているのは間違いないと思う。

 

「ちょっと。嫌らしい視線を向けないでくれる?」

「そんなつもりはなかったんだけどな。……ともあれ、休むのならそれでもいいか。それより、マヨナカテレビって知ってるか?」

「え? 何よいきなり?」

 

 俺の問いに戸惑う女。

 そもそも俺は、この女からマヨナカテレビについて何らかの情報を聞き出せるかもしれないと思って、こうして一緒に来たのだ。

 そうである以上、その件について聞かないという選択肢はない。

 

「ちょっと気になってな。この稲羽市だけ広がっている噂だ」

「それは……まぁ、ちょっとは聞いた事はあるけど。何よ、信じてるの?」

「そういう噂話があるのを知って、少し気になっただけだよ」

「……それをなんで私に聞くのよ」

「何となくだな。特に何か理由があって聞いてる訳じゃない。もしかしたらお前が何か情報を知ってるかと思って聞いただけだ」

 

 もしこの女がこの事件の原作の主要キャラなら、マヨナカテレビについての詳しい情報を知っていてもおかしくはない。

 そう思ったのだが……

 

「知らないわよ。ここには久しぶりに来たばかりなんだから」

「……久しぶりに来た?」

 

 これが引っ越したとか、あるいは遊びに来たとかいう表現なら、特に気にする事はなかっただろう。

 だが、久しぶりに来た。

 それはつまり、以前はこの稲羽市に住んでいたという事を意味している……んだと思う。

 あるいは両親の実家とかがあって、夏休みには遊びに来ていたとか。

 俺の言葉に女は動揺した様子を見せる。

 うん? 今の言葉は口にしない方がよかったのか?

 言ってしまった以上は仕方がないか。

 

「そうか。なら、マヨナカテレビについて何か詳しいことを知ったら、教えてくれないか?」

「……本当にナンパじゃないの?」

「まだそれを引っ張るのか」

 

 自意識過剰……いや、違うな。

 この女からはそんな雰囲気は感じない。

 自分がモテるというのは、十分に理解している感じだ。

 それを理解した上で、自分がナンパされてもおかしくはないと、そんな風に思っているのだろう。

 

「そうじゃないみたいね。それにしても、何でこんな事になったのかしらね」

「……それを俺に言われても」

 

 一体何があったのか、それが分からない以上は俺がどうこう言ったりは出来ない。

 

「もし本当に話を聞いて欲しいと思ったら、その事情を話してみたらどうだ?」

「今日、初めて会った貴方に?」

「だからこそ、だけどな。今日初めて会ったんだから、お互いに初対面だ。そんな相手なら、自分の思うところを遠慮なく言っても問題ないと思わないか?」

「それは……」

 

 俺の言葉に、女は戸惑った様子を見せつつも鮫川に視線を向ける。

 川の側ということで涼しい風が吹く。

 6月ということで、もう少しで夏になり……そうなると、この川でも夏の太陽によって生温い風が吹きそうだが。

 にしても……初対面か。

 いや、間違いなく初対面だとは思う。

 ただ、帽子やサングラスで顔がしっかりと分からない以上、はっきりと断言出来ないのも事実だが。

 それでも多分初対面なのは間違いないと思う。

 思うのだが……それでも、何となく初対面という雰囲気じゃないんだよな。

 そんな風に思っていると、女が口を開く。

 

「実はね、私……ちょっとした有名人なんだ」

「そうなのか?」

「うん。多分貴方も私の事を知って……はいなくても、どこかで見た事があると思う」

 

 自意識過剰でそのように言ってるのでなければ、実際に有名人なのは間違いないのだろう。

 とはいえ、俺が知ってるかどうかは別の話だが。

 何しろ俺はついこの前までUC世界にいたのを見れば分かるように、決してこのペルソナ世界だけにいる訳ではない。

 そうである以上、このペルソナ世界で有名人だからといって、その相手を知っているという事にはならないのだから。

 

「何かのスポーツ選手とかか?」

「え? ……そうかもしれないわね」

 

 一瞬意表を突かれたような表情を浮かべたのを見ると、恐らく違うな。

 本人にとっても意外といった様子だったし。

 とはいえ、その辺について突っ込むような事はしない方がいいだろうけど。

 

「そういうものか」

「そういうものよ。それより、そろそろ行こうかな。お婆ちゃんを待たせてるかもしれないし」

 

 その言葉からすると、どうやら祖母がいるらしい。

 両親について口にしなかった事を考えると、両親との関係が悪いのか……あるいは、逃げてきた先が家族の住んでいる家ではなく、祖母の家だったりするのかもしれないな。

 その辺の詳しい事は聞かない方がいいだろうけど。

 

「分かった。じゃあ、どうする? 足がまだ痛いのなら送っていくけど」

 

 そう聞くと、女は首を横に振る。

 

「ううん。平気。じゃあ、私はそろそろ行くね。話を聞いてくれてありがと」

「気にするな。今は暇だったし」

「暇って……そう言えば、仕事は?」

「それを言うのなら、お前は学校どうした?」

「……お互いに追及しない方がよさそうね。じゃあ、また。お仕事が見つかるように頑張ってね」

 

 そう言い、去っていく女。

 いや、それって俺が無職……いわゆる、プーだと思われてないか?

 あるいはニートか。

 この時間にここにいれば、そういう風に誤解されてもおかしくはない。おかしくはないが……それでも、次に会った時は色々と話をする必要があるなと思うのだった。

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