転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3759話

 俺がペルソナ世界にやって来た翌日……いつものように特に何かをする必要もない俺は、今日も稲羽市を適当に見て回ろうと思っていたんだが……

 

「アクセル、今日の稲羽市は人が多いから、注意した方がいいぞ」

 

 大広間から外に出ようとした俺に、堂島がそう声を掛けてくる。

 

「人が多い? もしかして、また足立が何かやらかしたのか?」

 

 この稲羽市において騒動となると、それは足立の事になる。

 いや、実際にどうなのかはちょっと分からないが。

 ただ、それでも俺の感覚としてはそんな感じだ。

 巽の件からそれなりに時間が経っているので、そろそろまた動き出してもおかしくはない。

 そう思ったのだが……

 

「違うよ。何だ、もしかしてTVを見てないのか?」

「……TV? そう言えば昨日は見てなかったな」

 

 特に何か理由があってTVを見なかった訳ではなく、ただ何となくTVを見なかったというのが正しい。

 そんな俺に対し、堂島は大きく息を吐く。

 

「実は、有名なアイドルが突然引退を宣言したんだよ。……いや、休業だったか?」

「それが稲羽市にどんな関係があるんだ?」

 

 そう言いながら、昨日会った女の姿が思い浮かぶ。

 サングラスと帽子で顔や髪型は確認出来なかったが、自分で自分の事を知らない人はいないといったように口にしていた女。

 自意識過剰……という訳ではなく、本当にそのように思っているかのような雰囲気を持っていた。

 その辺は、シェリルという歌姫……色々な意味で芸能人の頂点とも言うべき存在を知っているので、恐らく間違いはないと思う。

 

「そのアイドルの親戚が稲羽市にいてな。……丸久豆腐店だ。アクセルも何度か行った事があるだろう?」

「……あそこが?」

 

 丸久豆腐店というのは、商店街にある豆腐屋だ。

 効率重視の豆腐とかではなく、昔ながらの古き良き製法を守って作っている豆腐屋で、実際にその豆腐は美味い。

 全国的に有名な老舗旅館であるこの天城屋旅館でも、その豆腐を使っていると言えばどれだけ豆腐の質が上か分かりやすいだろう。

 実際にその豆腐を俺も食べた事があるが、美味かったし。

 空間倉庫の中には買い置きした豆腐がそれなりにある。

 そんな美味い豆腐だが、高級食材のように値段が高い訳ではない。

 勿論、効率性重視で作られている豆腐に比べると高いが、いわゆる高級豆腐……1丁1000円以上するような、そんな値段と比べると圧倒的に安い。

 そういう意味でも庶民の味方だな。

 もっとも、丸久豆腐店は店主の婆さんが1人でやってる店なので、そんなに量は作れないのだが。

 ともあれ、あそこが昨日会った女の親戚なのか。

 自分でもかなり有名で、俺に対しても自分の顔を見ればどこかで見た事があると言うとか、そんな風に言ってたな。

 堂島の様子を見ると、どうやらその言葉は決して自意識過剰とかそういうのではなかったらしい。

 

「そうだ。実際にニュースでもその辺の情報を言っていてな。丸久豆腐店の前にはかなりの野次馬が集まってきているらしい」

「……ちなみに、そのアイドルの名前は?」

「久慈川りせ。ちなみに芸名というか……愛称か。その愛称はりせちーらしい」

「詳しいな」

「菜々子が好きなアイドルだったからな。話を聞いているうちに、自然と覚えたんだよ」

 

 そう言う堂島だったが、それが実は自分も久慈川……いや、りせちーか? そのりせちーを好きで誤魔化しているのか、本当に菜々子がりせちーを好きで自然と覚えたのかは分からない。

 とはいえ、堂島の様子を見る限りではその辺について誤魔化している様子はないし、何より堂島の性格を考えればアイドルに興味があるとも思えなかったが。

 ……これで実は堂島がアイドルのコンサートとかに行くのなら……ハッピを来て、ハチマキを巻き、暗闇で蛍光色に光る棒を持ってアイドルのコンサートに参加している堂島を思い浮かべる。

 

「ぷっ!」

 

 あまりの異質さに、思わず吹き出す。

 堂島はそんな俺を訝しげに見る。

 まさか自分が想像の中でそのような姿になっているとは思っていないのだろう。

 ……普通ならそうかもしれないが。

 

「どうした、アクセル?」

「いや、何でもない。……にしても、りせちーか」

「あ、こういう子ですよ」

 

 俺と堂島の話を聞いていたシャドウワーカーの女が、雑誌を見せに来る。

 そこには水着でいわゆる女豹のポーズをしている女の姿があった。

 あー……うん。やっぱり。

 髪や目は帽子やサングラスで隠されていたものの、この雰囲気はやっぱり昨日会った女だな。

 ほぼ間違いないと予想していたが、その予想が見事に当たった形だ。

 身体付きが標準くらいだというのも、この写真から見れば明らかだ。

 勿論アイドルらしく、無駄な肉とかそういうのはついてないが。

 そして俺が月光館学園にいた時、TVか何かでりせちーが映った映像を見た事があったが、多分だけどそれで既視感を覚えたのだろう。

 とはいえ、普通ならちょっと見た程度で覚えているという事はない。

 ……月光館学園時代にちょっとTVで見たりせちーについて覚えていたのは、マヨナカテレビの件があったから……なのかもしれないな。

 あくまでもこれは予想で、本当にそうなのかは分からないが。

 

「可愛いでしょう? こんなに人気なのに、何で休養なんかする事にしたんですかね。もっとも、もしかしたらりせちーに会えるかもしれないから、私も嬉しいんですけど」

「コホン」

 

 シャドウワーカーの女の言葉を聞いていた美鶴が、小さく咳払いをする。

 その瞬間、女は慌てたように雑誌を俺に渡し、自分の仕事に戻った。

 いや、この雑誌を渡されてどうしろと?

 そう突っ込みたくなったが、仕事に集中している――ように見える――女の事を考えると、俺もどう接したらいいのかちょっと分からない。

 ここで雑誌を返すのも、それはそれで騒動が起きそうなので、その辺に適当に置いておく。

 

「丸久豆腐店か」

「……一応言っておくが、妙な騒動は起こさないでくれよ? 今はたたでさえ警察は忙しいんだ。そっちに人を回す余裕は……ない訳ではないが、出来れば他の事に集中したい」

 

 呟きを聞き取った堂島のその言葉に、だろうなと納得する。

 何しろ現在の稲羽署は足立の件を最優先で解決するべく動いている。

 稲羽署の者達にしてみれば、身内から犯罪者が出たのは許せないのだろう。

 ましてや、署長や副署長を始めとした上層部にしてみれば、足立の件が出世に響くのは間違いない。

 上層部以外……現場に出る者達にとっても、自分達の身内から犯罪者を出したのは許容出来ないだろう。

 結果として、稲羽署の刑事達は自分達でどうにかして足立を捕らえようとしている。

 だが、稲羽署は結局のところ過疎化しつつある稲羽市の警察署でしかない。

 刑事もそれなりにいるんだろうが、普通の仕事をこなした上で足立を捕らえる必要がある。

 そうなると、どうしても余裕はない。

 そんな中でりせちーの一件で人手を割かれるのは、出来る限り避けたいのだろう。

 とはいえ、それでも雑誌を見たり、さっきの話を少し聞いた限りだと、りせちーは国民的なアイドル……とまではいかないまでも、限りなくそれに近い地位にいたらしい。

 そんなりせちーと会えるかもしれないと思えば、熱狂的なファンは……いや、そこまで熱狂的でなくても、もしかしたら会えるかもしれないと思った者が丸久豆腐店に来る可能性は十分にあった。

 丸久豆腐店のある商店街はそれなりの大きさではあるものの、あくまでもそれなりだ。

 人が集まりすぎると、それによって何らかの問題が起きる可能性が十分にあった。

 例えば、人が密集しすぎたせいで車が通れず、渋滞になったり。

 他にファン同士で喧嘩になったりする可能性は十分にある。

 また、りせちーを撮ろうとして盗撮をしようとする者がいる可能性もある。

 そんな諸々を考えると、やはり警察が動かない訳にもいかないだろう。

 

「ふむ、ではシャドウワーカー……いや、桐条グループの方で人を出しても構わないが、どうする? 警備部門の者達はそれなりに……いや、かなり優秀だぞ?」

 

 俺と堂島の話を聞いていた美鶴が、そう声を掛けてくる。

 その提案に、堂島は難しい表情を浮かべていた。

 堂島の様子を見る限りだと、堂島としては美鶴の提案を引き受けたいのだろう。

 だが、ここで勝手に頼む訳にはいかないといったところか。

 もしここで勝手に頼んだりしたら、どうなるか。

 恐らく上司に叱られるのは間違いないだろう。

 ただ、叱りながらも内心では喜んだりしていてもおかしくはないが。

 

「俺の独断では決められん。上に話をしてもいいか? そこで許可が出れば、頼めると思うんだが」

「構わん。ただ、警備部門の者を呼ぶにもそれなりに時間が掛かる。それまでの間は少し状況が不安定になるだろう」

「……短い時間なら、人手を派遣は出来ると思う」

 

 堂島の言葉に美鶴が頷く。

 

「では、早いところ許可を取るといい」

「分かった。じゃあ、ちょっと上司に連絡をしてくる」

 

 本当に急いでいるのだろう。

 堂島は携帯を手に大広間から出ていく。

 別にこの大広間で話をしてもいいとは思うんだが。

 俺達には聞かせられない話をするのか?

 刑事として考えれば、そんなにおかしなことではないだろうとは思うが……今更という気がするのも、事実なんだよな。

 

「さて、では私の方も警備部門から人を呼んでおくか」

「……いいのか? 正式に決まってからって話だったんじゃないか?」

「稲羽署の現状を考えると、私の提案を受けないという理由はないだろう。それに……ここで下手に意地を張れば、警視庁の方から注意される筈だ」

 

 美鶴の言葉には強い説得力がある。

 実際、稲羽署が現在足立の行方を追っているのは、自分達の出世とかそういうのもあるが、警視庁から直々に命じられたからというのも大きい。

 そのような状況で、通常の業務を行えない……のはともかく、それを解決する手段を提示されているのに、プライドや縄張り意識から断るような事をすれば、注意……いや、もっと正確には叱られる事になるだろう。

 ましてや、シャドウワーカーは警視庁と協力関係にある。

 そしてシャドウワーカーは桐条グループの部門の1つだ。

 つまり、シャドウに関する件については、桐条グループと警視庁は手を組んでいる訳だ。

 もっとも、警視庁としてはもっと深くシャドウワーカーに協力したかったらしいが。

 例えば警視庁の人間をシャドウワーカーに送り込むといったように。

 だが、それについては既にシャドウミラーの協力を取り付けており、ペルソナ世界で影響力を増していた桐条グループは断った。

 もしシャドウミラーが桐条グループと取引をしていなければ、シャドウワーカーについて桐条グループが警視庁からの要請を断ることは出来なかっただろうが。

 

「桐条グループ絶好調といったところだな」

「そうだな。お父様のお陰だ」

 

 相変わらずファザコンの気がある美鶴だが、ある意味ではそれでこそ美鶴というような思いもある。

 それに実際、美鶴の父親の武治は桐条グループをしっかりと運営している。

 美鶴の祖父、武治の父の起こした影時間の一件を解決した事により、肩の荷が下りたという一面もあるのだろう。

 それに……武治はホワイトスターで治療を受けたという話も聞いている。

 情報によれば、ストレスとかそういうのでかなり酷かったらしい。

 もっとも、レモンの手によってその辺もきちんと治療されたらしいが。

 不治の病とか、重度の強化や薬物中毒とか、そういうのを治療するのに比べれば、大分楽なのは間違いない。

 ……ああ、治療と言えばUC世界の方が落ち着いたら、クリストの足を治療するという話になっていたな。

 一応、余裕があったらちょっと顔を出してみてもいいのかもしれない。

 

「武治が元気なうちに、シャドウワーカーについてはしっかりとする必要があるかもしれないな」

 

 現状、桐条グループによって運営されているシャドウワーカーだが、動き始めてからまだそこまで経っていないという事もあり、色々と試行錯誤されている点もある。

 例えば現在の件だと、シャドウワーカーの規模がそこまで大きくない事もあり、今回のように稲羽市と同時に別の場所でシャドウによる騒動が起きているとなると、シャドウワーカーの純正な人員だけでは対処出来ず、有里達に協力して貰っているといったように。

 シャドウを倒すだけなら、量産型Wを貸し出すという方法もあるんだが。

 何しろギルガメッシュの細胞を培養したり、凛からガンドだけだが魔術を使えるようにしたり、他にも数は少ないが呼吸を使える者もいる。

 だが……量産型Wの場合、ヘルメットの件があって怪しいんだよな。

 もっとも、厄介なのはそれだけなので、街中ではなく、人の少ない場所……山とかそういう場所でシャドウが暴れているのなら、問題ないのかもしれないが。

 

「ふふっ、そうだな。お父様を驚かせる為にも頑張るとしよう」

 

 そう言う美鶴と少し話をしてから、俺は丸久豆腐店に向かうのだった。

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