転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3760話

「うわ、これ凄いな」

 

 目の前の光景に、思わずそう呟く。

 堂島の話から、りせちーが芸能界の中でも人気のあるアイドルであるというのは知っていた。

 その為、念の為に……本当に念の為に俺は丸久豆腐店からそれなりに離れた場所に影のゲートで転移したのだが、どうやらそれは正解だったらしい。

 何しろ丸久豆腐店の前には30人以上の野次馬が集まっていたのだから。

 ……それでも店の中に入る様子がないのは、警察官がいるからだろう。

 堂島の話では丸久豆腐店に人をやれる余裕はないみたいな事を言っていたのだが、それでもこの状況では警官を派遣しない訳にはいかなかったらしい。

 どうやらそのお陰で、野次馬達も丸久豆腐店を外から見ているだけらしい。

 もし警察官がいなかったら、恐らく店の中に突入していた奴もいただろう。

 そういう意味では、稲羽署の警察官はしっかりと仕事をしている感じか。

 とはいえ……この状況では、一体どうしたものやら。

 りせちーに会って色々と話を聞こうかと思っていたんだが、この様子だと俺もそう簡単に中には入れないな。

 もっとも、りせちーが昨日俺の会った女かどうかは確証がない。

 サングラスや帽子で変装をしていたり、何よりこの事件の原作の流れを考えると元アイドルというのは恐らく主要キャラで間違いなく、昨日会った女は多分それだとは思うが……それでも確実ではないのだ。

 その辺を確認する為に、丸久豆腐店の中に入りたい。

 だが、あの様子だと警察官が俺を通すかどうかは分からない。

 いっそ、影のゲートで直接丸久豆腐店の中に入るか?

 りせちーが主要キャラなら、当然こっちの……というか、鳴上の仲間になるだろう。

 であれば、俺が魔法とかを普通に使えるというのを見せても問題はない筈だ。

 そうは思うも、もしそこまで試して実際にりせちーが主要キャラではなかったり、あるいは……可能性としてはあまりないと思うが、敵になる人物だったりした場合はどうなるのか。

 そんな諸々について考えると、やっぱりそう簡単に影のゲートを見せたりは出来ないか。

 となると、どうにかして丸久豆腐店の中に入る必要があるんだが……こうなったらいっそ、普通に店に入るか?

 実際、俺は常連という程ではないが、あの店の豆腐の味は気に入っていて、それなりに購入している。

 もっともUC世界に行っていた期間は買い物に来てなかったので、顔を忘れられている可能性も否定は出来ないが。

 それならそれで、りせちーと会える可能性もあるし、それはそれでいいか。

 そう判断し、丸久豆腐店に向かう。

 その途中、野次馬……あるいはりせちーの熱狂的なファンと思しき者達に視線を向けられる。

 自分達がいるのに、その群れを割るようにして進む俺に対して、不満そうな表情を向けている者が多い。

 とはいえ、そちらに視線を向けるとすぐに視線が逸らされるが。

 この手のタイプは、堂々と視線を向けられると逸らしたりする。

 勿論全員がそんな訳じゃなく……

 

「……」

 

 怒り? 苛立ち? 嫉妬? どういう感情かは分からないが、俺を睨み付けてくる相手もいる。

 そんな相手だったが、視線に力を込める……それこそ殺気とも呼べないような弱い力を込めて見ると、何かを感じたのか顔を真っ青にしてその場に座り込む。

 ……股間の辺りが濡れてるのは、見なかった事にしておこう。

 

「あ……」

 

 野次馬達が店の中に入らないようにしていた警察官が、俺を見て声を上げる。

 稲羽署の警察官だけに、俺の事を知っていたのだろう。

 とはいえ、稲羽署に所属する全員が俺の顔を知ってる訳ではない。

 そういう意味では、この警察官が俺の顔を知っていたのは幸運だったのかもしれないな。

 

「中に入らせて貰っていいか?」

「え? いや、けど……」

 

 俺の言葉に困った様子を見せる警察官。

 恐らくは誰も通すなと言われているのだろう。

 そう思ったが、不意に丸久豆腐店の扉が開き、50代くらいの女が1人出てくる。

 その手にはビニール袋があり、中には恐らく店で購入したのだろう豆腐が入ってるようだ。

 

「あら、どうしたの?」

 

 野次馬達を見ても特に驚いた様子がないのは、もしかしたら野次馬がいる中で店に入ったのか?

 この警察官がよく通した。

 そう思ったが……なるほど。もしかしたら店で購入しようと思えば中に入れるのか?

 

「豆腐を買いに来たけど、この警察官に止められてしまったんだよ」

「あらまぁ……駄目よ、お店の邪魔をしたら」

「いや、そう言われてもですね。自分は上から言われてここにいる訳で……」

「でも、私は入れてくれたでしょう?」

「それは買い物をするという目的があったからです」

「ならこの人も入れてあげるべきでしょう? ここ最近は見なかったけど、この人はよくマルキュウさんでお買い物をしていたのよ?」

 

 マルキュウというのは、丸久豆腐店の略称か。

 とはいえ、豆腐店を省略しただけである以上、そこまで気にする必要もないと思うが。

 

「え? いや、けど……」

「いいでしょう?」

「……分かりました」

 

 女の持つ妙な迫力に、警察官もついに頷く。

 まぁ、警察官が俺の事を知っていたというのも、この場合は大きいのだろう。

 もし俺の事を知らない警察官だったら、多分中に入れるのは駄目だと言ってただろうし。

 ともあれ、俺は女に押されるように、半ば強引に店の中に入る。

 

「っと」

「……いらっしゃい」

 

 店の中に入った俺にそう声を掛けたのは、1人の女。

 顔を隠している……訳ではないが、店に合うような地味な格好をしている事もあって、アイドルのようには見えない。

 いや、それだけなら本人の輝きでアイドルのように思えてもおかしくはないのだが、この女の場合は本人の持つ雰囲気が芸能人らしい輝きを持っていないのか。

 

「りせちー、か」

「何よ。やっぱり知ってたのね。昨日は嘘を吐いていたの?」

 

 不満そうな様子でこっちを見てくるりせちー。

 ……いや、久慈川と呼んだ方がいいな。

 

「やっぱり昨日の女はお前か。……生憎と、俺がお前について知ったのは今朝のニュースを見てだよ」

「それでこうして私をわざわざ見に来たの? 全く、こんなことならおばさんに頼んであんたを入れて貰うんじゃなかったわね」

 

 そんな久慈川の言葉に納得する。

 さっき警察官と話して、俺を半ば無理矢理店の中に入れた女の行動はかなり強引だと思っていたが、どうやら久慈川があの女に頼んだらしい。

 

「俺は助かったけどな。店の前には久慈川のファンとか野次馬が大量にいたし」

「……迷惑よね。あの人達が見てるのは、本当の私じゃないのに」

「久慈川?」

「何でもないわよ。それであんたは一体何をしに店に来たの? 昨日のお礼もあってこうしておばちゃんに店に入れて貰うように頼んだけど、あんたも私を見に来たってだけなら、迷惑だから帰ってくれる?」

「いや、普通に豆腐は買うよ。……さっきの女が言ってたのを聞いてたかどうかは分からないが、俺はこの店の豆腐を気に入ってて、今まで何度も買ってるし」

 

 これは嘘でも何でもなく、真実だ。

 それが分かったのか、久慈川の表情が微かに……本当に微かにだが落ち着いたものとなる。

 

「そう。……そうなんだ。私もお婆ちゃんの作る豆腐は好きなんだ」

「美味いしな」

 

 昔ながらの製法で作っている豆腐だけに、その味も納得出来る。

 実際に天城屋旅館でも使われているし、ホワイトスターにいる時に聞いた話によると、超包子でも使ってみたいと四葉が言っていたらしい。

 実際に取引が成立するかどうかは分からないが。

 何でも、この豆腐を使うと麻婆豆腐の味が上がるとかなんとか。

 個人的には、麻婆豆腐のように強烈な味付けをするという意味では、豆腐の味はそこまで重視されないと思うんだが。

 寧ろ湯豆腐や冷や奴……あるいはあんかけ豆腐とか、そういうのでなら豆腐の味を堪能出来そうな気がするものの、料理の素人……精々が男の料理くらいしか作れない俺と違って、本職の四葉がそう言うのなら、多分麻婆豆腐でも豆腐の味の違いというのはしっかりと分かるのだろう。

 

「そう言って貰えると、お婆ちゃんも喜んでくれるわ。……そう言えば、私の名前は知ってるのに、貴方の名前は分からないのよね。自己紹介くらいはしてくれてもいいんじゃない?」

「ん? そう言えばそうだったか? それなりに話してるように思えるから、何となく自己紹介はしてあったと思ったけど。……まぁ、いい。アクセル・アルマーだ」

「やっぱり外国人なんだ。その割には日本語が上手いわね」

「色々な場所に行ったりしてるしな」

「この時間にこうしてここにいるって事は、やっぱり無職なの?」

「まだそのネタを引っ張るのか」

 

 昨日の会話を思い出してそう告げるが、実際普通に考えて午前中のこの時間に、こうしてここにいるのは明らかに不自然だろう。

 ……もっとも、それを言うのなら丸久豆腐店の前に集まってる者達は何なんだという事になるが。

 

「だって、こうしてここにいるでしょう?」

「いるけど、一応これでも仕事はしてるぞ。桐条グループに勤めている」

「……え?」

 

 意外、心底意外といった様子の視線を向ける久慈川。

 実際には違うんだが、まさかシャドウミラーという国を率いてるとか、そんな風に言える筈もない。

 久慈川が原作に登場する主要キャラの1人なら、あるいはいずれ俺の正体についても話す事があるかもしれないが……それはあくまでも将来的にの話で、今の話ではない。

 なので、表向きはそういう事にしておいた方がいいだろう。

 実際に桐条グループのブラックカードとか持ってるのも、俺が桐条グループに勤めているという証拠として使いやすいし。

 もっとも、桐条グループの規模はかなり大きい。

 特に今は異世界間貿易をペルソナ世界で一手に担っているだけあって、その影響力は広がる一方だ。

 とはいえ、まさか異世界間貿易をしているなどということを公表は出来ないし、政府にも伝える事が出来ない以上、異世界間貿易で手に入れた商品やら物資やら、その他諸々はどこか別の場所から購入したように、色々と辻褄合わせをする必要があるのだが。

 公平な目で見れば、それは脱税……いや、脱税になるのか? 詳細については分からないが、恐らく何らかの犯罪になるのだろう。

 もっとも、シャドウミラーの存在を公に出来ない以上、仕方がないのだが。

 

「桐条グループって、あのシェリル・ノームの?」

 

 先程までの暗い様子から一変した久慈川は、驚きの表情を俺に向けてくる。

 ああ、そうか。芸能界でりせちーとして活動していた久慈川にしてみれば、桐条グループと言われて思い浮かぶのは自分と同じ業界にいたシェリルになるのか。

 とはいえ、シェリルと久慈川では同じ芸能人でもジャンルが違う。

 あくまでも歌姫、歌手としての活動しかしていないシェリルに比べて、久慈川はアイドルとして歌以外にもCMやバラエティ番組、俳優……場合によっては声優とかもやっていてもおかしくはない。

 ましてや、久慈川は日本の芸能界ではかなり名前が売れていたアイドルかもしれないが、シェリルは全世界で活動している。

 知名度という点では、シェリルと久慈川……いや、りせちーとの間では圧倒的な差がある。

 

「ああ、そうだ。もっとも、俺は別に芸能部門という訳でもないけど」

 

 桐条グループが影響力を強め、その規模を拡大しているのは事実だ。

 だがそうなると、当然ながら桐条グループが雇っている人数も増えていく。

 例えば末端の者であっても、桐条グループに勤めていると言えたりもする。

 そういう意味では、実は桐条グループに勤めている者というのは相応に多いんだよな。

 俺の立場的には……まぁ、無難なところだとシャドウワーカーの一員とかか?

 ちなみにシャドウについては公になっていないので、シャドウワーカーは外向きには警備会社という扱いになっている。

 だとすれば、俺は警備員なのか?

 ……自宅警備員ではないだけマシだと考えるとしよう。

 

「何だ、芸能部門じゃないの」

「休養中でも、やっぱりシェリルには興味があるのか?」

「当然でしょ。あの歌声……一体どうやったらあんな風になれるのか、全く想像出来ないわ」

「だろうな」

 

 俺は正直なところ、歌にはそこまで詳しい訳ではない。

 だが、そんな俺でもシェリルの歌はいつまでも聴き続けたいと、そう思ってしまうくらいの歌をシェリルは歌う。

 マクロス世界において銀河の歌姫と呼ばれていたのは伊達ではない。

 そう考え……ふと思いつく。

 

「久慈川が何かを悩んでいたのは知ってるけど、もしシェリルがそれを聞いたら解決出来たりするのか?」

「はぁ? 一体何を言ってるのよ? 正気?」

「聞いてみただけだ。もしかしたら……と思ってな。で、どうだ?」

「それは……分からない。ただ、もしシェリルに……あの人に会えたのなら、聞いてみたい事が色々とあるのは間違いないわ」

 

 シェリルの事を語っていた時の様子から恐らくそうだろうとは思っていたのだが、どうやら久慈川はシェリルのファンらしい。

 だとすれば……ちょっとしたサプライズを考えてみてもいいかもしれないな。

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