転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3762話

「シェリルを?」

 

 美鶴が驚きの表情でそう言うと、慌てて周囲を見回し、幸いにも今の言葉を誰も聞いていなかったのを確認すると、小声で言葉を続ける。

 

「本気か? ただでさえ、久慈川りせの一件で、多くの注目が集まっているのだぞ? そこにシェリルまで現れたら、それこそ世界中から人が集まってもおかしくはない」

 

 美鶴のその言葉は決して大袈裟ではない。

 何しろシェリルはこのペルソナ世界においても歴代最大級のCDの売り上げやネットでのDL数を稼いでいるのだから。

 世界的な歌姫と認知されているシェリルが、この稲羽市のような……言っては悪いが、片田舎に来る。

 そんな事をした場合、全世界からファンやマスコミが集まってもおかしくはない。

 シェリルが日本にいる事そのものは、実際にはそこまで大きな問題ではない。

 久慈川が言っていたように、シェリルが所属する事務所は桐条グループの傘下なのだから。

 そして桐条グループの本拠地は日本。

 であれば、シェリルが日本にいるのはおかしくはないのだ。

 

「一応シェリルだと知られないように変装はさせる」

「年齢詐称薬か?」

「まさか。そうなると、久慈川がシェリルをシェリルと認識出来なくなるだろう?」

 

 年齢詐称薬は、幻影だがその名の通り本来の年齢よりも年上になったり、年下になったように見せる事が出来る。

 それを使えばシェリルだとは知られないだろうが、そうなると久慈川もシェリルをシェリルと認識出来なくなる。

 それは今回の場合、致命的だ。

 そんな訳で、シェリルには久慈川が変装していたように帽子とサングラス……あるいはカツラとかウィッグとかそういうので髪を弄って貰うか。

 ストロベリーブロンドのロングヘアーというのが、シェリルの象徴の1つだ。

 髪の色が違えば、まさかそれがシェリルだとは思わないだろう。

 分かったら、それはそれで凄いと思うけど。

 

「アクセルがそう言うのであれば構わんが……シェリルは納得したのか? シェリルの場合、時々突拍子もない行動をしたりするだろう?」

「それは否定しないが、一応やって欲しいと要請して頷いて貰っている」

「そうか。なら安心だな。……とはいえ、シェリルが来るとなると、どこに泊まらせる? それとも久慈川と会ったらすぐにホワイトスターに戻すのか?」

「その辺はシェリル次第だな。……ぶっちゃけ、鳴上達よりも戦力としては上だし」

 

 この事件の原作の主人公である鳴上は、多数のペルソナを使いこなす。

 そういう意味では間違いなく腕利きなのだが、もしシェリルと戦った場合にどちらが勝つかと聞かれれば、俺は考えるまでもなくシェリルと答えるだろう。

 シェリルも俺の恋人である以上、当然のようにエヴァから生身での戦いの訓練を受けている。

 ましてや、シェリルは多くの世界で広く名前を知られている。

 マスコミの前には顔を出さず、基本的に写真とかはCDのジャケットくらいだ。

 だが、それでもシェリルの歌声とその美貌は多くの者を惹き付ける。

 そうして惹き付けられた者の中には、質の悪い者達……ストーカーとかも多い。

 そしてストーカーの中には自分の中だけで何らかの物語を作り、それでシェリルは自分の恋人だという風に認識する者も多い。

 これがただの妄想の類なら、人に迷惑を掛けない限り好きにすればいいが……ストーカーの中には妄想と現実の区別がつかなくなる者もいて、そのようなタイプは最悪シェリルを自分だけのものにしようと襲い掛かったりしてもおかしくはない。

 実際、以前ちょっと聞いた話だとマクロス世界においてランカがストーカーに襲われてアルトに助けられたらしいし。

 そういう意味では、護衛をつけるのもいいが、やはり狙われる本人がしっかりと鍛えるに越した事はない。

 シェリルもそれを分かってるからこそ、エヴァとの訓練をサボったりはしない。

 ……いや、たまに何かが降りてきたとか言ってサボる事はあるらしいが。

 そんな訳で、シェリルはそれこそ生身ではこの世界の者達に比べれば……それこそペルソナ使いを含めて考えても、恐らく勝てる者はいないだろう。

 あ、この世界の出身でありながら、俺の恋人でもある美鶴やゆかりは例外とする。

 

「だが……シェリルだぞ? 公の場に出なくても、天城屋旅館にいるだけで騒動になるのは間違いない」

「鳴上達も、シェリルについては知ってるだろうしな。いや、鳴上はその辺はあまり興味がなさそうか? けど、花村とかなら間違いなく知ってそうだな。そうなると、TVの中の世界でシェリルの事が気になりすぎて、シャドウに不覚を取るとか、そういう事になってもおかしくはない……か?」

「有り得るのが不安だな」

 

 美鶴もそれなりに花村との付き合いは長かったりする。

 その結果として、花村がどういう性格をしているのかを理解しているのだろう。

 

「結局のところ、シェリルがどうするかだ。あるいはシェリルがTVの中の世界に入りたいと希望しても、別に鳴上達と一緒に行動する必要はない。それこそ俺や五飛、ムラタといった面々が一緒に行動すればいいだろうし」

「……そうだな。もしシェリルがTVの中の世界に入りたいと希望した場合は、その方向で話を進めよう。もっとも、高校生組はともかく……うちの者達がどうなるのかは分からないが」

 

 そう言い、美鶴は大広間で仕事をしている面々に視線を向ける。

 今は真面目に仕事をしているものの、何気にノリがいい面々だ。

 もしここにシェリルが来るという事を知れば、それこそ大騒ぎになるのは間違いないだろう。

 ……そのような状態であっても、相応に仕事をこなしている辺り、有能なのか質が悪いのか。

 微妙なところだ。

 

「まぁ、今すぐにという訳でもないし……」

 

 そう口にした瞬間、まるでそれがフラグだったかのように受信機が着信を知らせる。

 話の流れから、まさかと思いつつ通信を受けると……

 

『アクセル、ペルソナ世界に来たから、迎えに来てくれる?』

「早い、早いぞシェリル……」

 

 映像モニタに映ったシェリルに、思わずそう突っ込み……

 

「え? シェリル……? シェリル・ノームですか、その人?」

 

 俺の声が聞こえたのか、こちらを見たシャドウワーカーの1人がそう呟く。

 そして1人がそう言えば、他の者達の視線もこちらに……より正確には俺の側に浮いている映像スクリーンに向けられる。

 これは不味いか?

 そんな俺の予想は、次の瞬間当たってしまう。

 

「きゃあああああああああっ!」

 

 そんな黄色い悲鳴が大広間の中に響き渡る。

 こうなってしまうと隠すのは無理だ。

 隣を見ると、美鶴も額を押さえている。

 この状況は美鶴にとっても予想外だったのだろう。

 ……いや、でもシェリルが突拍子もない行動を云々と話していたのを思えば、実は予想された結果だったりするのか?

 

「ほら、落ち着け!」

 

 生シェリル――映像スクリーン越しだが――を見て歓声を上げているシャドウワーカーの者達に向け、美鶴が落ち着かせるように言う。

 それですぐに静まるのは、さすが美鶴の統率力といったところか。

 ただ、その統率力も完全には発揮されておらず、美鶴の言葉を聞いて静かになっても、そこにはシェリルに対する強い好奇心の色のある者達が少なくなかったが。

 

「全く……これからシェリルは少し用事があってここに来る。だが、仕事を放り出してシェリルに関わるような事はないように。……シェリル、お前もこいつらを挑発するような事は止めてくれ」

 

 映像スクリーンの向こう側から、自分を見て歓声を上げていたシャドウワーカーの面々に手を振っているシェリルに、美鶴が注意する。

 

『あら。ファンは大切にするべきでしょう? それにこの人達は美鶴の部下なんだから、これからもそれなりに付き合いは長くなるかもしれないじゃない』

「それでも、ここでそのような事をすれば、こいつらがまともに働かなくなってもおかしくはないだろう。……シェリル、お前はもっと自分の影響力について考えるべきだ」

『そう? それなりに考えてはいるつもりなんだけど?』

「……それでか?」

 

 シェリルに呆れたように言う美鶴。

 その気持ちも分からないではないが、それでもシェリルは気にした様子はない。

 そんな2人を、シャドウワーカーの面々は驚きを隠せない様子で眺めていた。

 2人の気軽なやり取りがそれだけ衝撃的だったのだろう。

 

『とにかく、アクセルは迎えに来てちょうだい。それとも桐条グループの方から車でも出す? ただ、それだと稲羽市だっけ? そっちに行くまで結構時間が掛かるのよね?』

「分かった。今すぐ迎えに行くから、そこから動くな。……美鶴、シェリルの変装道具を適当に準備しておいてくれ」

「うむ、分かった。ではアクセルはシェリルを連れてきてくれ。ここで下手に時間を掛けると、それこそ何をするか分からないのでな」

『ちょっと、美鶴? それ、どういう意味なのかしら?』

「どういう意味も何も、こうして実際に行動を見れば明らかだろう。……全く、お前は自分が有名人だという自覚があるのか?」

『大丈夫よ。何かあっても適当にどうにかするから』

 

 そう言うシェリルだったが、実際にそう出来るだけの実力を持っているから、始末が悪い。

 

「取りあえず俺がすぐに迎えに行くから」

『待ってるわね』

 

 そう言い、通信が切れる。

 その瞬間、シャドウワーカーの面々が揃って動き出し……

 

「じゃあ、行ってくるから」

「ちょ、おい、アクセル!?」

 

 シャドウワーカーの面々に群がられて困惑している美鶴をその場に残し、俺は影のゲートを生み出し、そこに沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「あら、本当に早かったのね」

 

 東京のとある場所にあるゲートに到着すると、そこではシェリルが手を振ってそう声を掛けてくる。

 実際、その言葉は間違っていない。

 通信が切れてから1分……どころか、30秒もしないうちに俺はシェリルの前に姿を現したのだから。

 

「影のゲートを使ったしな。それより、俺が頼んだとはいえ、こんなにあっさりと来ても大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。今日はある程度暇な時間があるし」

 

 シェリルの様子からして、無理はしていないか。

 とはいえ、シェリルの仕事体系からして、そんなにおかしな話ではない。

 普通の芸能人なら、歌を歌う以外にも写真集だ、バラエティ番組だ、CMだ、ドラマだ、取材だ……といったように、かなり忙しい。

 だがシェリルは、基本的にその手の仕事は全て断っている。

 純粋に歌だけで勝負をしているのだ。

 これはある意味で凄い。

 普通なら知名度の点で、どんなに優秀な歌手であってもまず表に出ない。

 それに比べると、シェリルはその優秀な歌手という枠を飛び越えた存在であるからこそ、可能な事だった。

 勿論、宣伝を全くしていないという訳ではない。

 だがそれは、桐条グループの方で行っているので、シェリルの負担はない。

 また、歌は他の世界で出しているのと同じ歌というのも大きいだろう。

 仕事で疲れたら、ホワイトスターの魔法球を使えばすぐに疲れは取れる。

 そんな諸々の理由から、シェリルは色々な世界で売れている歌手であるものの、こうして時間を作る余裕はあるのだろう。

 

「分かった。なら、早速天城屋旅館に行くぞ。ただ、シェリルがいると知られると大きな騒動になるから、変装して貰うことになる」

「しょうがないわね。……ただ、温泉に入る時とかはさすがに無理よ? 美鶴やゆかりから聞いて、楽しみにしてたんだもの」

「それが狙いか」

 

 シェリルがこうしてペルソナ世界に来た狙いを理解する。

 とはいえ、温泉というだけならホワイトスターにも魔力泉のスパがあるのだが。

 

「混浴は出来るの?」

「いや、ない」

「……そう、残念ね」

 

 どこで混浴なんて覚えたのやら。

 考えられるとすれば、円……いや、美砂辺りか?

 もしシェリルが混浴に入ったりしたら、それこそとんでもない事になりそうだが。

 俺はシェリルと一緒に風呂に入るのもそれなりに慣れてるからいいけど。

 

「それより行くぞ。ここは量産型Wくらいしかいないからいいけど、外に出たりすれば誰かに見つかる可能性もある。……もっとも、普通に考えればシェリルだとは思わないだろうけど」

 

 ちょっとした有名人くらいならともかく、シェリルのような世界的な有名人が街中を歩いているのを見ても、そのような人物がいる筈がないという思い込みから、それがシェリルだとは認識されなかったりする。

 全員が全員気が付かないという訳ではなく、中にはシェリルだと気が付く者もいるだろうが。

 

「そうなったらそうなったで、少し面白そうだけどね。アクセルと腕を組んで歩いている姿が見られたり、写真に撮られたりしたら、ちょっと面白い事になりそう」

「止めておいてやれ。俺はともかく、桐条グループの方が大変な事になるぞ」

 

 シェリルの所属する事務所は、桐条グループの有する芸能事務所だ。

 シェリルと俺の件が知られたら、文字通りの意味で全世界に激震が走り、事務所の面々は文字通りの意味で寝る暇もなくなるだろう。

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