転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3763話

 シェリルと共に影のゲートで天城屋旅館に戻る。

 ただし、姿を現したのはシャドウワーカーの仕事場として使っている大広間ではなく、俺と美鶴の部屋だ。

 このまま大広間に行けば、間違いなく騒動になっていただろうし。

 それは俺がシェリルを迎えに行った時の様子を見れば明らかだろう。

 ……美鶴をあの場に置き去りにしたので、それについて何か言われるかもしれないという思いもそこにはあったが。

 美鶴の処刑は……うん。あまり考えたくないし。

 そんな訳で、俺はこうしてシェリルと共に部屋に転移したのだが……

 

「ふーん、ここがアクセルと美鶴の愛の巣ね」

「いや、その表現はどうなんだ?」

 

 物珍しげに周囲の様子を見ながら言うシェリルに、そう突っ込む。

 だが、シェリルは俺のそんな言葉に不思議そうな視線を向けてくる。

 

「違うの?」

「……どうだろうな」

「ふーん。……まぁ、それはいいけど。じゃあ、取りあえず美鶴に会いに行きましょうか」

 

 そうシェリルは言うものの、出来ればそれは遠慮して欲しい。

 とはいえ、今の状況を思えばそうするしかないのは事実でもあるか。

 

「分かった。ただ、大広間にいるシャドウワーカーの面々はシェリルのファンも多い。多分、サインをして欲しいとか、一緒に写真を撮りたいとか、そんな風に言ってくると思うけど、大丈夫か?」

「サインなら問題ないけど、写真はちょっと問題あるわね。ペルソナ世界に限らず、他の世界でも私は極力表に出ない形で売り出してるし」

「取材とかそういうのがあるからだろう?」

「そうね。でも、人というのは隠されれば隠される程、興味を持つものよ」

 

 そう言い、シェリルは笑みを浮かべる。

 そんなに簡単にいくのか?

 そう思いはするものの、実際にそれで成功してるのも事実。

 シェリルの言う売り方は、間違っていないのだろう。

 ……それに大丈夫だとは思うが、シャドウワーカーの面々がシェリルと一緒に写真を撮り、それをネットに上げるといったことをした場合、非常に面倒になる。

 何しろ世の中には瞳に映った光景から相手がどこに住んでいるのかを探り出すといったような事も普通に出来るらしいし。

 写真の一体どこにこの天城屋旅館についてのヒントがあるのか分からない以上、写真が駄目というシェリルの言葉には納得出来るものがある。

 

「分かった。じゃあ、それで」

 

 別に俺はシェリルの写真が撮られると困る訳ではない。

 シェリルが嫌だというのなら、俺はその辺について何かを言ったりはしない。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 そうして俺はシェリルと共に部屋を出る。

 出来れば、大広間に到着するまで他の客や従業員に見つからないといいんだが。

 そんな風に思いながら進んでいると……あ、駄目だ。

 あるいは俺の考えそのものがフラグとなってしまったのか、廊下の向こう側から天城屋旅館の従業員がやって来るのが見えた。

 従業員が手に持っているのは、見覚えがある。恐らく浴衣だ。

 そんな従業員は俺達と近付いたところで頭を下げようとし……その動きを止める。

 40代程の女の視線が向けられているのは、俺……ではなく俺の隣にいるシェリル。

 ただ美人だという事で目を奪われているのではない。

 自分の視線の先にいるのが誰なのか、十分に理解して足を止めていた。

 今更だが、しまったなと思う。

 もしここが街中であれば、シェリルを見ても美人だと認識はしても、シェリル・ノームだと認識しない者はそれなりにいると思う。

 だが、ここは天城屋旅館だ。

 老舗旅館として全国的にも有名で、芸能人とかは勿論、会社の社長や政治家、海外から来たVIPといった者達も泊まったりする。

 それはつまり、有名人を見る機会が多いということを意味していた。

 それだけに、シェリルを見ても美人だという認識ではなく、きちんとシェリル・ノームであると認識してしまったのだろう。

 これが例えば、日本の芸能人……例えば、それこそ久慈川がいたりした場合であったり、それこそ大きな会社の社長や政治家がいた程度であれば、従業員も内心では驚きはするものの、それを表情に出す事はないのだろう。

 だが、その相手がシェリルとなれば話は違う。

 日本だけで有名な相手という訳ではなく、全世界で有名な相手なのだから。

 そう考えると、驚きの表情や態度を隠すといった事は不可能だったらしい。

 

「あ……」

 

 足を止め、手に持っていた畳んだ浴衣を落としてしまう従業員。

 

「悪いけど、客の秘密は守って欲しい」

 

 シェリルと一緒に廊下を歩きながら、すれ違った時に従業員にそう言っておく。

 天城屋旅館の従業員の間では、シェリルがいたという情報は広まるかもしれない。

 だが、さすがにネットに天城屋旅館にシェリル・ノームがいたとか、そんな風に書き込む者はいないと思いたい。

 ……あ、でもシェリルがどうやって、いつの間に天城屋旅館の中に入ったのかという事で疑問に思う者が出てくるかもしれないな。

 何しろ天城屋旅館の中に入るには、基本的にホールを通る必要がある。

 そしてホールには受付があり、最低でも一人は従業員がいる事が多い。

 勿論、実際にはホールのある玄関以外にも入る場所はあるだろう。

 具体的には、従業員や配達する者が使う裏口とか。

 だが、当然ながら普通はそのような場所は使わず、玄関を使う。

 ホールに誰かがいれば、シェリルが入ってきたのはすぐに分かるだろう。

 そしてシェリルが来たと分かれば、それこそ従業員の間で情報が共有される筈だ。

 それがなかったのに、ここにシェリルがいる。

 これは従業員にとって疑問でしかない筈だった。

 

「大丈夫なの?」

 

 従業員とある程度離れたところで、シェリルがそう聞いてくる。

 シェリルにしてみれば、自分の情報が伝わるかもしれないという事で不安でもあるのか……いや、シェリルの性格を考えれば、それはないな。

 

「多分大丈夫だろ。ここで客の情報を勝手に外部に漏らしたりすれば、それこそ老舗旅館としては失態でしかないだろうし」

「そういうものかしら。……まぁ、騒動になったら私はホワイトスターに帰ればいいだけなんだけど」

 

 俺が影のゲートを使えば、即座にゲートのある東京まで転移出来る。

 そう考えれば、シェリルが言うように何かあったら即座にホワイトスターに帰れるのだから、問題はないか。

 もしシェリルがここにいたという情報が広がっても、すぐにシェリルをホワイトスターに帰してしまえば、幾ら天城屋旅館を捜してもシェリルはどこにもいないのだから。

 

「分かった。何かあったらそうするよ。……それより、あそこだ」

 

 大広間が見えてきたので、シェリルにそう言う。

 シェリルは俺の言葉に興味深そうな表情を浮かべる。

 別にそこまでシェリルが興味を持つようなものは、ないと思うんだが。

 寧ろシェリルのファンが大量にいて、それでサインとかを頼まれるような面倒が起きるとしか思えない。

 ともあれ、シェリルがその辺を気にしてないのなら、俺もそこまで気にする事はないだろう。

 シャドウワーカーの面々だけに、妙な行動に出る奴はいないと思うし。

 それにシェリルも強い。

 ……その上で、もし万が一何か危険であった場合は、俺が対処すればいい。

 そう思いながら、大広間の扉を開ける。

 

「え?」

 

 大広間の中を見た瞬間、俺の口からは思わずそんな声が出ていた。

 何故なら、てっきり扉を開けた瞬間に歓声が上がるものだとばかり思っていた為だ。

 それこそ、俺がシェリルを迎えに行った時の様子を思えば、そんな光景を予想するのは当然の話だ。

 だが、こうしてシェリルを連れて大広間に入っても、シャドウワーカーの面々は自分の仕事に集中していた。

 シェリルを無視している訳ではない。

 実際に何人かは、仕事をしつつ意識をこちらに……より正確には俺の隣にいるシェリルに向けているのが分かる。

 しかし、その上で歓声が起きたりはしない。

 その光景を疑問に思ったが、大広間の端に存在する氷を見て、納得する。

 恐らく美鶴の処刑が行われたのだろうと。

 幸いなことに、氷の中には特に誰かの姿がある訳ではない。

 そういう意味では、シャドウワーカーの面々に被害はなかったという事なのだろう。

 

「アクセル……」

 

 美鶴が俺を見て、そう声を掛けてくる。

 ただし、その目には恨めしそうな色や呆れの色が混ざっている。

 どうやらあの場に美鶴を置いていったのが不満だったらしい。

 とはいえ、まさかあの状況で美鶴も一緒に連れていく訳にはいかなかったしな。

 

「美鶴、元気そうで何よりね。……それなりに暖かい気温だけど、あの氷がいい具合に部屋の中を冷やしてくれているわ」

「……シェリル、お前がいきなり来るというから、このような騒ぎになったのだがな」

 

 シェリルの言葉に息を吐き、美鶴は召喚器でペルソナを召喚して氷を消す。

 どのみち、大広間にあのような巨大な氷の塊があれば、天城屋旅館の従業員が来た時に驚いたのは間違いない。

 そうなると、勝手にこのような巨大な氷の塊を持ち込んだという事で騒動になっていた可能性がある。

 もっとも、大広間を数ヶ月に渡って借りている美鶴だ。

 ちょっとした注意程度で、そこまで大きな騒動にはならなかったと思うが。

 大広間以外にも堂島一家や早紀、それに五飛やムラタといった面々の泊まる部屋も借りてる、言わばお得意さんだし。

 ともあれ、それでも騒動を起こしたという事で面倒な事になるよりは、美鶴にしてみればとっとと氷の塊は破壊してしまった方が手っ取り早いのだろう。

 おおー、と。

 氷が砕け、消えていく光景にシャドウワーカーの面々がそんな声を上げる。

 美鶴が視線を向けると、すぐに仕事に戻ったが。

 

「お見事。……で、私はこれから久慈川りせという子に会いに行けばいいのよね?」

「そうだ。とはいえ、シェリルがそのままの姿で出掛けるのは問題がある」

 

 そう言い、シャドウワーカーの面々に視線を向ける美鶴。

 自分達に視線を向けられているのは理解している為か、シャドウワーカーの面々はより一層自分の仕事に集中していた。

 その光景を見て、ふと学校の授業中に教師が誰かに当てようとしてるのを察して、必死に視線を逸らしている光景が目に浮かぶ。

 美鶴も同じ事を思ったのか、それとも何か別の事を考えたのか。

 それは分からなかったが、大きく息を吐くと少し離れた場所に置いてあった紙袋を手に、シェリルに近付いて行く。

 

「そんな訳で、カツラと帽子とサングラスだ。これがあれば完全に誤魔化せる……とは限らないが、それでもすぐにシェリル・ノームだと見破られるような事はないだろう」

「ふーん。……よくこの短時間で用意出来たわね」

 

 そう言うシェリルだったが、俺もそれは不思議に思った。

 シェリルから連絡が来て、すぐに俺は影のゲートでシェリルの場所に転移し、そしてすぐに天城屋旅館に戻ってきた。

 戻ってきたのは念の為に俺と美鶴の部屋だったが、そこからすぐに大広間に向かった。

 途中で天城屋旅館の従業員に遭遇はしたが、それだって足を止めてゆっくりと話した訳ではない。

 俺が大広間で影のゲートを使ってから、再度この大広間に戻ってくるまで10分は掛かっていない。

 その短い時間の間に、カツラ、帽子、サングラスという変装3点セットを用意したのは、驚くべき事だった。

 一体この短時間にどうやって?

 そう思ったが、シェリルの疑問に美鶴は笑みを浮かべて口を開く。

 

「乙女の嗜みだ」

 

 どういう嗜みだよ。

 思わずそう突っ込みたくなったものの、もしそれを突っ込めば面倒な事になるのは間違いない。

 なら、それについてはスルーした方がいいと判断し、紙袋を受け取ったシェリルに視線を向ける。

 

「乙女の嗜みだそうだ」

「そう。……でも乙女?」

 

 シェリルが呆れの視線を美鶴に向ける。

 いやまぁ、その気持ちは分からないでもない。

 乙女というのは、当然ながら男を知らない……処女を示す事が多い。

 そのような定義の中で、美鶴は俺に数え切れないくらいに抱かれている。

 それこそ美鶴の身体で俺の手と指と唇が触れていない場所はないと断言出来るくらいに。

 しかも、基本的に夜の行為は多人数であるのを考えると……うん。乙女と表現するのはちょっと無理があるか?

 実際。美鶴は俺に抱かれた事によって凛とした雰囲気の中に女としての艶を持つようになってるし。

 

「シェリル、それをお前が言うのか?」

「あら、そうかもしれないわね」

 

 ざわり、と。

 今の会話を聞いていたシャドウワーカーの面々がざわめく。

 俺と美鶴の関係については、美鶴の俺に対する態度……そして何より、一緒の部屋で寝泊まりをしている以上、予想をしていた者は多いだろう。

 だが、そこにシェリルが入るというのは、完全に予想外だったらしい。

 ギギギ、と何人かが壊れた人形のような動きでこちらに視線を向けてくるが、言い争いをしている美鶴とシェリルはそれに気が付いていない。

 シャドウワーカーの面々は俺に視線を向けてくるものの、俺はそっと視線を逸らすのだった。

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