転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3771話

 結局久慈川が行方不明になったという話は、基本的には秘密という事になった。

 足立によってTVの中の世界に連れ去られたのか、もしくは芸能界のトップアイドルの1人だっただけにストーカーに連れ去られたのか。

 どっちにしろ、貞操の危機という意味ではかなり危険なんだよな。

 いや、どっちも貞操どころか命の危機でもあるんだが。

 とにかく今の状況でやるべき事は、久慈川を見つける事だ。

 TVの中の世界については……本人がTVの中に入れば、マヨナカテレビではしっかりと映し出されるので、それが目安となるだろう。

 そうなると問題なのは、ストーカーに連れ去られた場合だ。

 何しろ桐条グループの警備員を出し抜いて丸久豆腐店を出ただけに、具体的にどこに行ったのかの手掛かりがないのは痛い。

 小さい頃に稲羽市に来ていた経験があるのなら、ある程度の稲羽市についてはどういう場所か分かっている筈だ。

 だとすれば、久慈川にしてみればそれなりにどこにでも行けた筈だ。

 

「朝、久慈川がどこに行ったのかは分かってないのか? 防犯カメラとかそういうのは?」

「ある場所にはあるが、そもそもそんなのは少ない」

 

 だろうな。

 そう言いたくなったものの、我慢しておく。

 実際、俺も色々と稲羽市を見て回ったが、防犯カメラの類はそう多くは見ていない。

 それこそ稲羽署の中とかには結構あると思うものの、それ以外となると……ああ、ジュネスにはあるか。

 丸久豆腐店のある商店街にも多少は防犯カメラのある店とかもあるだろうけど、本当に多少だ。

 それもそういう場所の防犯カメラは、最新の防犯カメラという訳ではなく、もし偶然久慈川の姿が映っていても、かなり不鮮明な画像でもおかしくはなかった。

 

「となると、自力で捜すしかない訳だが……早朝ってのがな」

「そうだな。牛乳や新聞配達、犬の散歩、ジョギング……そういうのをしてる者もいるから、全く目撃者がいないという訳ではないと思うが……それでも日中に比べると、人の数は恐ろしく少ない」

 

 いっそ警察犬とかを連れて来た方がいいんじゃ?

 いや、稲羽署に警察犬がいるのかどうかは分からないけど。

 

「ともあれ、話は分かった。……こうなると、寧ろ足立にTVの中に入れられたという方がまだマシだな」

 

 山野真由美や早紀にはその身体を求めて言い寄った足立だったが、雪子はTVの中の世界に入れただけで、性的な意味で襲おうとはしていない。

 どういう基準なのかは分からないが、今回もそうであれば……

 ストーカーの場合は、もし久慈川を連れ去った場合、間違いなく襲う。

 そう考えれば、まだ足立の方が救いはある。

 ……もっとも、足立によってTVの中に入れられたという事は、シャドウが関係してくるので、性的な意味ではなく命的な意味で襲われる可能性があった。

 

「そうだな。……俺にとっては複雑な心境だが」

 

 堂島にしてみれば、足立は自分が捕らえる相手という認識だろう。

 なのに、久慈川は出来れば足立によってTVの中に入れられて欲しいと、そのように思っているのだから、堂島としては色々と思うところがあるのだろう。

 

「ともあれ、今日は俺も特にやるべき事がないから久慈川を捜してみる。どこに手掛かりがあるのか分からないしな。……稲羽署の方はどう動くんだ?」

「アクセルと同じだよ。ただでさえ芸能人……いや、元芸能人か? とにかく有名人が行方不明になったんだ。まだその辺についての情報は流れていないが、それでもいつこの情報が広がるかは分からないしな。それに……足立の仕業である可能性が高い以上、ここで俺達が動かないという選択肢はない」

「だろうな」

 

 堂島の説明は俺が予想した通りのものだった。

 稲羽署の刑事達は、自分達の身内から出た犯罪者の足立を何としても捕らえるべく動いている。

 今回の久慈川の件についても足立が関わっている可能性が否定出来ない……どころかかなり高い以上、ここで動かないという選択肢は稲羽署にはないだろう。

 稲羽署の署長や副署長、それ以外にも上層部にしてみれば、ただでさえ身内から犯罪者を出したという点で出世に問題が出ているのだ。

 何としてでも足立を捕らえ、少しでも挽回したいと思うのは当然だろう。

 もっとも、ただでさえ稲羽署は田舎の警察署という事で、決して人が多い訳ではない。

 聞いた話によると、周辺の警察署や警視庁からも援軍に来て貰ってるとか。

 とはいえ、その援軍の面々はTVの中の世界とかについては知らされていないようだったが。

 何しろ魔法とかTVの中の世界とか、常識的に考えればファンタジーな存在でしかない。

 実際。シャドウについて知っているのは、警視庁の中でも上層部の一部やシャドウワーカーと連携を取る少数の限られた者達だけらしいし。

 とはいえ、人の口に戸は立てられぬと言うし、同僚という意識もあるから、その辺の情報について流れるのはそう遠い事ではないだろうけど。

 もっとも、それを聞いて信じるか、相手がゲームか何かの話をしていると思うのか、正気かどうか疑うか……取りあえず素直に信じるというのはないと思ってもいい。

 一応守秘義務とかあるんだが、全員がそれを守れるとは到底思えないし。

 

「とにかく、俺は適当に歩き回って久慈川を捜してみる。もし何らかの手掛かりがあったら、堂島に連絡をすればいいか?」

「頼む」

 

 堂島との会話を終えると、まずは商店街に向かう。

 久慈川がどこで足立なり、ストーカーなりに連れ去られたのは分からない。

 だがそれでも、丸久豆腐店から出て行ったのは間違いないのだ。

 であれば、もしかしたら何らかの手掛かりでもあるのではないかと思ったのだが……

 

「駄目っぽいな」

 

 商店街には、昨日程ではないにしろ久慈川のファンや、単純に野次馬がそれなりに集まっていた。

 これだと、もし何らかの手掛かりがあってもそれが久慈川の手掛かりなのか、それともこの連中が落とした何かなのか、ちょっと分からない。

 丸久豆腐店の方は……とそちらに行くと、こちらも警備員がいる為か人の姿は多くない。

 

「アクセル様……」

 

 警備員は俺を見て、そう言ってくる。

 様付けなのは……まぁ、俺と美鶴の関係について理解しているからだろう。

 俺と美鶴の関係は、桐条グループにおいては公然の秘密……いや、秘密ですらない公然のものか?

 何しろ桐条グループを率いる武治が俺と美鶴の関係を認めているし。

 とにかくそんな訳で、桐条グループの中でも忠誠心の高い者は俺を美鶴の恋人……半ば桐条家の一員という扱いをする。

 勿論、全員がそのような者達という訳ではない。

 桐条グループの中には出世欲の強い者がいて、そういう者達にしてみれば俺は美鶴を口説き落として取り入った逆玉のように思えるだろう。

 あるいは桐条家に強い忠誠心を持っているが故に、俺が美鶴と付き合ってるのを許容出来ないといった者……もしくは単純に俺という存在が気にくわない者といったように。

 それは別にそこまでおかしなことではない。

 寧ろ全員が全て俺に好意的だと言われれば、そちらの方が驚くし、不気味にすら感じられるだろう。

 ともあれそんな中で、丸久豆腐店の警備を任されてた警備員達は俺に好意的な者達なのは間違いない。

 その警備員達の表情は暗かった。

 無理もない。

 自分達が守るようにと言われた久慈川が行方不明になってしまったのだから。

 この状況で美鶴から丸久豆腐店の警備に選ばれる以上、恐らく桐条グループの警備員の中でも腕利きの者達なのだろう。

 それは昨日、久慈川のファンや野次馬が誰も店に入らなかったのを見れば明らかだ。

 しかし、それでも久慈川を守れなかった事で、ショックを受けているのだろう。

 ……とはいえ、これについては正直警備員達は悪くないと思う。

 まさか久慈川が警備員達に見つからないように裏口から出て行く……それも早朝にそんな事をするとは思わなかったのだろうし。

 ボディガードや護衛、SPといった者達は、あくまでも護衛対象の協力があってこそ存分に力を発揮出来るのだ。

 今回のように護衛対象が勝手に動き、それで行方不明になってしまったとなれば……それが警備員のせいだとは、俺には思えない。

 

「気にするな。まさか久慈川がこっそりと抜け出すとは、俺も思わなかった。お前達のせいじゃない」

「……ありがとうございます」

「ともあれ、まだ久慈川が行方不明になった件は知られていない。つまり、この店にファンや野次馬がやって来る可能性がある」

「その時はお任せ下さい」

 

 俺と話をして、多少は楽になったのだろう。

 話していた警備員だけではなく、他の警備員達も張り詰めた表情が消えていた。

 

「じゃあ、そういう事で。取りあえず俺は久慈川を捜すつもりでここに来たんだけど……裏口とかってそっちで調べたか?」

「はい。ですが、特に何も手掛かりらしいものはありませんでした」

「お前達が言うのならそうだろうな。ただ、それでも現場100回って言うし、もしかしたら何か気が付くかもしれないから、見ておくよ」

 

 そう言い、丸久豆腐店の裏口に向かう。

 ただ、裏口と表現しても、そこまで大袈裟なものではない。

 表口……というか、店の出入り口ではない……家の者が普段の出入りに使う場所なのだから。

 あるいはゴミを捨てに行く時とか、食べ物を売ってる場所から出入りするのは外聞が悪いので、そういう時に使われたりもしてるのだろう。

 そんな裏口付近に到着し、周囲の状況を改めて確認するが……

 

「やっぱり何もないか」

 

 先程警備員達と話した時に、もし何かあるのなら先に調べた警備員達が真っ先に気が付いていただろう。

 それを知った上で、それでももしかして……そんな思いから来たのだが、残念ながら特にそれらしい何か、久慈川のいる場所の手掛かりになるような何かは何もない。

 注意深く周囲の様子を見てみるが、特に何かがある訳でもない。

 都合よく、何らかの手掛かりでも落ちていてくれれば助かるんだが。

 そんな風に思いつつ、その裏口から続いている道路を進む。

 ただし、道路は別に一本道という訳ではない。

 脇道があったり、Y字路であったり、十字路であったり……そんな感じだ。

 この道路を進みつつ、偶然久慈川と同じ道を進むというのは、確率的に一体どれくらいなんだろうな。

 そんな風に思いつつ、適当に……それでいながら、何か久慈川の手掛かりがないかと思いながら道を進む。

 途中で何人か警察官と遭遇したが、向こうも俺については既に知っているのか、特に何か声を掛けてきたりはしない。

 そうして歩き続けていると……

 

「鮫川か」

 

 この稲羽市を流れる川、鮫川に出る。

 そう言えば俺が初めて久慈川と会った時、ここで話をしたな。

 あの時の久慈川の様子を思い出せば、もしかしたら早朝に家を抜け出した後、ここに来た可能性は十分にある。

 だとすれば、ここで足立かストーカーに連れ去られた可能性もあるか?

 とはいえ、ストーカーはともかく足立はここで久慈川を連れ去るにしても、この近くには特にTVの類はない。

 あるいは近くに家でもあれば……そしてその家に足立の身体が通れるような大きさのTVでもあれば、もしかしたらと思う。

 しかし、こうして鮫川の周囲を確認しても、そこに家はない。

 もっと離れた場所まで行けば、恐らく家はあるのだろうが。

 さすがに早朝といえど、誰も人がいない訳でもない。

 マラソン、散歩、新聞配達、牛乳配達……そんな具合に通る者がいてもおかしくはない。

 ああ、後この鮫川はそれなりの釣りスポットでもあるらしいので、早朝から釣りをやってる釣り人もいるかもしれないし。

 丁度今は鮎釣りも解禁になっているので、朝から鮎釣りをしている者がいてもおかしくはない。

 そんな場所で、かなり遠くまで離れた場所に久慈川を強引に連れて行くのは無理がある。

 久慈川も黙って連れて行かれるわけではなく、力で敵わないと思ったら叫ぶくらいはするだろう。

 そのような事を考えると、やっぱり鮫川で足立が久慈川を連れ去り、TVの中の世界に入れるのは無理があるように思える。

 ……いや、でも待てよ?

 既に足立は、公にはされていないものの、指名手配をされている身だ。

 その上で、TVの中の世界と現実世界を出入りし、色々な物を盗んですらいる。

 他にも山野真由美の件を考えると、既に足立にとって現実世界は捨てた場所だろう。

 何より現実世界で何をやっても、TVの中の世界に逃げ込んでしまえば意味はない。

 そう考えると、鮫川で多少騒動になっても久慈川を無理矢理連れていく……いや、そうなると、それを見ていた者達が稲羽署に連絡するか。

 そして稲羽署に連絡がされていれば、既にここには鑑識とかそういう者達が集まっていてもおかしくはない。

 だがこうして見回してみたとろ、それらしい姿はない。

 やっぱりここではないか。

 そう思い、他の場所に行こうとした瞬間……

 

「ん?」

 

 ふと、土手に落ちている何かに気が付く。

 何だ?

 そう思って近付くと、そこにあったのは携帯だった。

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