「あれか……?」
俺達がTVの中の世界を歩き回り、数時間……既に昼近くになるといった頃合いに、ようやくそれっぽい建物を発見する。
とはいえ、本当にこれがその手の施設……具体的にはストリップ劇場なのかどうかは、今のところ分からない。
ただ、いかにも怪しげな、それらしい建物であると思えるだけの場所。
「くまがいなくても、無事に見つけたか」
「アクセル、喜んでいるところ悪いが、ここが本当に久慈川りせのいる場所とは限らないぞ。実際に中に入ってみないとな」
堂島の忠告に、それはそうかと頷く。
それらしい場所に見えるが、実際にここが久慈川のいる場所とは限らない。
そして……もし久慈川がいるのなら、足立がいる可能性もある。
いや、そっちはないのか?
実際、雪子と巽の時はどちらもそういう感じじゃなかったらしいし。
とはいえ、それはあくまでも希望的観測という奴だ。
そして世の中というのは、往々にしてこっちの予想通りに動くとは限らない。
「よし。じゃあ、まずは中に入るか」
堂島の言葉にそう返し、俺達は建物の中に入っていく。
入ったのだが……
「何も見えないぞ!」
堂島の焦ったような声が周囲に響く。
実際、建物の中は明かりが1つもなく、完全な暗闇に包まれていた。
とはいえ……五飛とムラタは気配とかそういうのを察知出来るので、特に動揺とかはしていない。
俺は混沌精霊の為、暗闇の中でも普通に見える。
その為、現在混乱をしているのは堂島だけだった。
「落ち着け、堂島。敵は特に……」
いない。
そう言おうとした瞬間、周囲に明かりが点く。
そこにあったのは……
「うん、まさにストリップ劇場っぽい感じだな。やっぱりここは当たりじゃないか?」
大きな舞台が1つあり、その舞台の前にはソファとテーブルが用意されている。
また、舞台もハートマークがついた……緞帳だったか? それが用意されていた。
多分だけど、あれが開いてそこでストリップをするようになっているんだろうな。
そんな風に思っていると、次の瞬間にはステージが消える。
……消える?
改めて周囲を見ると、先程まで見えたステージはどこにもない。
ソファの類も同じくどこにもなかった。
これは一体……何だ?
「消えただと? 一体何が起こった?」
訝しげな様子のムラタの呟きが、周囲に響く。
その言葉に改めて周囲の様子を確認するが、やはりそこには先程まであった何かはない。
あくまでも、普通の……という表現が正しいのかどうかは分からないが、とにかくダンジョン……ダンジョン? いや、これはダンジョンと呼ぶのはちょっとおかしいいか?
ただ、ストリップ劇場の中身なのは間違いないし……ただ、見た感じはやっぱりダンジョンという表現でいいのだろう。
「何が起きたのかは分からない。分からないが、それでもさっき見たのはストリップ劇場で間違いないだろう。マヨナカテレビに映った久慈川の件を考えると、ここに久慈川がいるのは間違いない筈だ」
「……なるほど。つまりそうなると、強いシャドウもここにいるという事だな」
ムラタが俺の言葉にそう反応し、そして五飛はそんなムラタの言葉に反応する。
ムラタ程ではないにしろ、五飛も強さを求めてここにいるのは間違いない。
であれば、ムラタの言うように強いシャドウとの戦いは望むところだろう。
「じゃあ、行くぞ。準備はいいな?」
そう尋ねると、全員が俺の言葉に頷く。
堂島も素直に頷いたのは少し意外だったが、考えてみればそうでもないか。
今でこそ、鳴上達がマヨナカテレビの一件に関わっているのを認めている堂島だが、それは半ば成り行きに近い。
……もっとも、その成り行きで今まで活躍してきているし、実際に巽の件は鳴上達が主に動いて解決したらしいから、何も言えなくなっているのだが。
それでも、やはり堂島としては甥やその友人達に危ない事はして欲しくないと思っているのだろう。
ただ、この事件の原作の主人公が鳴上である以上、堂島が幾らそのように思っても自然な流れで関わってくる気がするが。
そんな風に思いながら、ストリップ劇場……いや、ダンジョンの中を進んでいくと……
「来たぞ」
こちらに向かって近付いてくるシャドウの存在に気が付く。
針金で人型の身体を作り、顔の部分だけが浮かんでいる……そんなシャドウが4匹。
まるでこっちの人数に合わせたかのような数だな。
あるいは久慈川のシャドウがそういう風に調整しているのかもしれないが。
「1人1匹でいいな」
ムラタがそう言うと、反論は聞かないとばかりにシャドウの一匹に向かって突っ込む。
五飛もそんなムラタから若干遅れて、シャドウに突っ込んでいく。
1人1匹というのは、もしかしたらムラタなりの心遣いだったのかもしれないな。
ムラタにしてみれば、ここでシャドウと戦ってこのダンジョンのシャドウがどのくらい強いのかを理解しろと、そのように考えての……いや、ムラタの性格を考えると、それはないか?
ともあれ……
「じゃあ、行くか。堂島、1匹は任せた」
そう言いつつ、俺は空間倉庫からゲイ・ボルクを取り出す。
真っ赤な槍を手に、ムラタと五飛に続くように前に出て……
「っと」
シャドウは針金の腕を振るい、攻撃してくる。
しかし、その攻撃は余裕で対処出来る程度のものでしかない。
ゲイ・ボルクを振るって腕の一撃を弾き、そのまま間合いを詰めると手元に戻したゲイ・ボルクを突く。
それだけで、シャドウは死ぬ。
他の面々はと視線を向けると、ムラタと五飛はすぐにシャドウを倒し……そしてこれは驚くべき事に、堂島もペルソナのワダツミを出す事はなく、生身でシャドウを倒していた。
勿論、それなりに苦戦をしている様子ではあったが……それでも俺が予想していた以上に堂島はTVの中の世界での戦いに適応しているらしい。
「よし、次に行くぞ」
全員が倒したのを確認すると、ダンジョンの中を進む。
その後も、ハート型の顔を持つシャドウであったり、巨大な首だけが空を飛ぶシャドウであったり、他にも何種類かのシャドウと遭遇するも、倒して進み……
「階段だ」
1階の大部分を探索した結果、階段を見つける。
俺の言葉に、誰もが戻るという事を口にしないまま階段に向かう。
ここで戻るというのも、ある意味では1つの手段だろう。
久慈川のいる場所を見つけたのだから、万全の状態で攻めるといったことをしてもいい。
いいのだが、そうなるとTVの中の世界に入れられた久慈川がどうなるか分からない。
それこそ最悪の場合、足立の魔の手に掛かる可能性は十分にあったのだから。
もっとも、マヨナカテレビの様子を見る限りだと、確実にそうだとは思えないのだが。
ともあれ、そうして2階、3階、4階……といったようにダンジョンの中を進んでいく。
進むにつれてシャドウも強力になるので、ムラタや五飛はかなり喜んでいるようだった。……最初のうちだけは。
「それなりの敵が出てくるようになったな。……ただ問題なのは、最初は何をしてくるのか分からないので厄介だが、一度戦ってしまえば相手の手の内が読めてしまい、容易に倒せてしまう事か」
ムラタの言葉に五飛も同意するように頷いていた。
まぁ、その気持ちは分からないでもない。
シャドウは色々と特殊な外見をしており、それこそ最初に遭遇した時は一体どのような行動をするのかは分からない。
だが、それはつまりムラタが言うように、一度どういう攻撃をするのかを見て、体験すれば、容易に対処出来るという事でもある。
元々の基礎的な能力で、シャドウ達はムラタや五飛に劣っている。
その優位性を覆す手段が、シャドウの持つ特殊な能力であったり、魔法であったり、あるいはその外見から使う特殊な攻撃方法だったりするのだが、いわゆるネタバレした手品は手品として見る事が出来ないとか、そんな感じなのか?
「俺にしてみれば、シャドウを楽に倒せるに越した事はないんだがな」
ムラタ達に対し、堂島がそう言う。
自分が強くなる為、一種の修行の場としてこのTVの中の世界を見ているムラタや五飛とは違い、堂島は少しでも早く足立を捕らえる為にこうして俺達と一緒に活動している。
警察としての責任感というのもあるのだろうが、足立は自分の元相棒だからという事の方が堂島の中では大きい気がする。
ともあれ、敵が強ければ強い程に自分の修行となるというムラタや五飛と、敵が弱ければそれだけ早く久慈川を助け、そして足立を捕らえられるという堂島。
この2つの意見は、どうしても対立する。
……とはいえ、堂島も相応に強くなってきたが、それでも1人でTVの中の世界を行動するのは難しい。
かといって、鳴上達と一緒に行動しようにも、堂島にしてみれば鳴上達には出来るだけ危険な事をして欲しくない。
結果として、不承不承ではあるが堂島は俺達……というか、ムラタや五飛と一緒に行動していた。
もっとも、五飛は堂島の師匠でもある。
そういう点も、今回の件には関係しているのかもしれないが。
「ほら、そろそろ先に進むぞ。いつまでもここで話している訳にもいかないしな」
微妙に不機嫌そうな堂島と、そんな堂島の様子に全く気が付いた様子のないムラタと五飛。
そんな面々に声を掛け、俺達は再びダンジョンの中を進み始める。
途中で幾つかの宝箱を見つけ、そこからマジックアイテムや装備品を確保していくのだが……
「アクセルのそれは卑怯だ」
五飛が呆れの視線を俺に向けてくる。
無理もない。
俺達の前にあるのは、宝箱。
ただしそれは普通の宝箱ではなく、鍵の掛かった宝箱だ。
それを開ける鍵を俺は生憎と持っていなかったが……俺の視線の先ではスライムによって宝箱の外側を溶かしてる光景があった。
スライムの能力なら宝箱を切断出来たりもするんだが、そうなると宝箱の中身も切断される可能性があるしな。
TVの中の世界のルールなのか、鍵の掛かった宝箱は壊そうとしてもちょっとやそっとでは壊れない。
ゲーム的な表現になるが、システムに守られているといった感じか。
だが……そんな鍵の掛かった宝箱であっても、俺のスライムを使えばどうとでもなる。
何故なのか、詳細な理由は分からないが……すぐに思いつくのは、鍵の掛かった宝箱はこのTVの中の世界……そしてペルソナ世界の物であるのに対し、俺のスライムは別の世界どころか、転生特典として入手した物だからなのだろう。
何らかの証拠がある訳ではないが、恐らく間違いではないだろうと俺は思っている。
実際にこうして鍵の掛かった宝箱をどうにか出来ているようだし。
当然の話だが、鍵の掛かった宝箱に入っている物は、普通の宝箱よりも良い物だ。
そうして宝箱から出たのは……
「これはブローチだな。どういう効果があるのかは、美鶴に調べて貰う必要があるけど」
武器でも防具でも、そして消費アイテムでもない……いわゆる、アクセサリの類。
基本的にこの手のアクセサリは何らかの効果がある。
……実は、そういう効果が何もない、本当にただのアクセサリといった可能性もあるのかもしれないが。
「ともあれ、俺のスライムのお陰で鍵の掛かった宝箱も問題なく中身を確保出来る。これは結構大きいだろう?」
その言葉に、俺のスライムが卑怯だと口にした五飛も渋々といった様子で頷く。
だが、そんな俺達の様子を見ていた堂島は、まるきり理解出来ないといった様子で俺の方を見てくる。
「スライムか。……それもアクセルの能力の1つなのか?」
「そうだな。本来は探索とかにも使えるんだが、生憎とTVの中の世界ではそれは無理らしいが」
「それでも、そういう事が出来るのは素直に凄いと思うぞ。もっとも、どこでそんな能力を得たのかが気になるが」
あるいは、これが魔法とか……五飛の気を使った戦いであったり、ムラタの神鳴流といったような攻撃方法であれば訓練をして習得したという風にも判断出来るだろう。
だが、スライムを空間倉庫から出して攻撃をするといった方法は、それこそ習得しようと思って出来るものではないと堂島には思えたのだろう。
実際、スライムについては俺の転生特典である以上、堂島の予想は間違っていない。
間違っていないが……その辺について話せる訳でもないしな。
「これは召喚魔法の一種だな。俺の使える召喚魔法では、相手と契約を結んで召喚する事が出来るというものだ。色々と特殊な魔法だから、使い手が少ないのは間違いないが」
実際、召喚する対象は召喚されるまでは普通に活動している。
狛治なんかは、基本的にネギま世界の魔法界にいて、拳闘士として戦っていたり、あるいはダンジョンに挑んだりといった事をしているし。
グリフィンドラゴンのグリもまた、狛治と同じくネギま世界の魔法界で普通にモンスターとして行動している。
唯一の例外は、俺の影に潜む刈り取る者だろう。
刈り取る者の場合は召喚するというよりも、俺の影から出てくるので、召喚魔法の詠唱とかそういうのは必要ないし。
そんな感じの事で、説明出来る内容を堂島に説明するのだった。