転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3776話

「うっひょおっ!」

 

 11階に到達したところ、花村がそんな声を上げる。

 それは驚きといったものではなく、純粋に嬉しさによる奇声。

 いやまぁ、目の前にある光景を見れば、そんな風に思ってもおかしくはないのだが。

 何しろ、目の前にあるのは緞帳に隠された舞台と、周囲に存在するソファやテーブル。

 ……そう、それは俺達がこのダンジョンの1階に入った時に見た光景だった。

 もっとも1階で見た光景は幻か何かだったらしく、即座に消えたが。

 

「鳴上達は、1階でこの景色を見なかったのか?」

「え? いえ。……アクセルさん達は見たんですか?」

 

 鳴上の様子を見る限り、どうやら嘘ではないらしい。

 だとすれば、何故俺達だけが1階でこのステージ……恐らくストリップをする劇場を幻影とはいえ見せたんだ?

 考えられる可能性があるとすれば……年齢か?

 五飛はともかく、ムラタ、堂島は間違いなく成人しているし、今の俺も20代の姿だ。

 そうして大人がいたから、予告編みたいな感じで一瞬だけ幻影を見せた……そう考えるのは間違いだろうか?

 あるいは単純に、堂島以外は異世界の存在だからこそとか?

 

「え? ちょっ、それ本当なんですか!? じゃあ、もしかしてりせちーのストリップも!?」

 

 俺と鳴上の会話が聞こえたらしく、花村が叫ぶ。

 そんな花村を、里中と雪子が呆れの視線で眺めていた。

 堂島は……少し困った様子を見せているな。

 これはちょっと意外だった。

 堂島の性格を考えれば、それこそふざけるなと怒鳴ってもおかしくはないのに。

 

「いい加減にしろ。見たのはあくまでもこの舞台だけだ。……そもそも、そういうのはお前達にはまだ早い」

 

 堂島の言葉に、花村は残念そうな表情を浮かべる。

 とはいえ、高校生というのは……いや、中学生からだが男にしろ女にしろ、異性に強い興味を持つのが普通だ。

 それこそ必死になって恋人を作ろうとしたり、ナンパをしたり、合コンをしたり……

 そんな中で、花村は恋人がいない。

 花村もジュネスのオープンと共に引っ越してきたという事で、いわゆる都会っ子とでも呼ぶべき存在だ。

 そうである以上、多くの者に好意的に見られてもおかしくはない。

 そして花村は決して不細工という訳でもないし、性格も悪くない。

 少し軽いというか調子に乗るところはあるが、それでもモテないという事はないと思う。

 ……いやまぁ、花村の場合は早紀を堂島に持っていかれたというのがあったしな。

 これが、例えば同級生……もしくは少し年下か年上と早紀が付き合うようになったのなら、まだ花村も納得出来たのかもしれない。

 だが、早紀が好きになった相手は30代の堂島だ。

 色々と思うところがあるのも分かるし、あるいは久慈川のストリップでここまではしゃいでいるのもその辺が影響していたりするのか?

 

「ファンの皆、今日は来てくれてありがとう! 今日はりせの全てを見せちゃうよー!」

 

 と、話をしていると不意にそんな声が周囲に響く。

 

「うひょう!」

 

 そして花村の口から出た、そんな声。

 花村の視線の先には、緞帳の中から出て来た久慈川がいた。

 勿論本物ではなく、シャドウの久慈川だろう。

 その証拠に、ビキニを着ている久慈川の胸はかなりの巨乳で、それは以前久慈川がマヨナカテレビに出た時と同じだった。……いや、寧ろもっと大きくなってるような?

 とにかく、そんな久慈川に花村は大興奮していた訳だ。

 男として、分からないでもない。分からないんでもないんだが……うん。

 せめて里中や雪子がいる前ではそういう風に露骨に欲望を出したりしない方がいいと思うんだが。

 里中は自分が女であるという認識はあまり持っていないだろうが、雪子は別だ。

 天城屋旅館の手伝いをしており、酔っ払いにセクハラを受ける事もあるだろう。

 本人が大和撫子といった美人なのも、その辺に強く影響していると思う。

 それだけに、自分が女と見られているのは十分に……いや、十分以上に理解している。

 だからこそ、里中はともかく雪子は花村の様子を見ればどう思うのかは想像するのは難しくない。

 

「さーて、じゃあ早速脱ぐよー……と思ったけど、ここだとちょーっとスモークが多くて、見えないかも? そんな訳で……」

 

 そう言い、久慈川のシャドウはビキニの紐の部分を……それこそ上下関係なく、かるく持ち上げたりする。

 その際に一瞬だけ見える、本来なら紐に隠されている部位に、花村が奇声を……いや、喜声を上げていた。

 ……うん、周囲の空気を読めないのは、本当にどうかと思う。

 

「もう少し奥で、私の生まれたままの姿を見せるから、お楽しみに。チャンネルはそのままで、変えちゃ駄目だからね。マールキュン」

 

 最後にまた両手でハートを作ると、緞帳の奥に消えていく。

 そんな様子を見ていた花村は、即座に叫ぶ。

 

「よし! じゃあ、行くぜぇっ!」

「……いい加減にしろ」

 

 ごっ、と。

 堂島の拳が花村の頭部に振り下ろされる。

 

「痛ぁっ! ……えっと、その……」

 

 堂島の一撃で我に返った花村だったが、目の前にいる堂島であったり、冷たい視線を向けてくる里中や雪子に、ようやく現在の状況を理解したのか、何とか誤魔化そうとする。

 美鶴がここにいなくて本当に良かったな。

 もし美鶴がここにいれば、恐らく……いや、間違いなく処刑が行われていただろう。

 そうなれば、花村は久慈川のシャドウと戦う時に戦力として数えるのは難しくなっていた筈だ。

 ここに美鶴がいなくて、花村は本当にラッキーだったな。

 

「さて、花村じゃないが、久慈川を助ける為には奥に行く必要があるな。そもそもさっきのはシャドウで、本物の久慈川はいなかったし」

「あ……」

 

 雪子が俺の言葉にそんな声を上げる。

 どうやら久慈川のシャドウの存在に圧倒されるなりなんなりして、その事に気が付いていなかったらしい。

 雪子の時もそうだし、巽は俺が直接関わってないので人伝に聞いただけだが、とにかくシャドウの側に本人がいたらしい。

 花村と里中の場合は足立によってTVの中の世界に入れられた訳ではないので、そういう意味では久慈川の件と一緒にしてもいいのかどうか分からないが。

 とにかく、久慈川のシャドウが舞台の奥に進んだ以上、俺達もそれを追わないという手段はなかった。

 

「じゃあ、行くぞ。いよいよ久慈川のシャドウとの戦いになる。……とはいえ、これだけの戦力が揃っていると、一方的な展開になりそうだが」

 

 鳴上達だけでも、鳴上、花村、巽、里中、雪子、くま……といった具合に6人、あるいは5人と1匹だ。

 そして俺、五飛、ムラタ、堂島の4人。

 これがゲームとかなら、1つのパーティというか、戦闘に参加出来る人数は決まっている。

 だが、これは現実だ。……実際には原作のある事件だったりするのだが。

 ともあれ、システム的にそういう風に決められているとか、そういう事はない。

 そうして奥に進むと……

 

「って、随分とストリップの客が多いなぁっ!」

 

 襲ってきたシャドウを倒しつつ、花村が叫ぶ。

 それを見ながら、ゲイ・ボルクによって戦車……そう、戦車型としか呼べないシャドウを貫く。

 見た感じ、この戦車型がここに出ているシャドウの中で一番強いのか?

 取りあえず頑丈さという点では間違いなく一番だろう。

 他にも多種多様なシャドウが出てくるが、久慈川のシャドウの前哨戦として考えれば、こんなものなのだろうという思いもそこにはある。

 あるいは、鳴上達だけであればくまのシャドウとの戦いから続いてのこういう戦いなので、かなり苦戦していた可能性もある。

 しかし、ここには俺達がいる。

 大量のシャドウが出て来ても、対処する事は可能だった。

 ……もしかして、本当にもしかしての話だが、俺達がいるからこそシャドウの量が多くなっているとか、そういう事はないよな?

 まぁ、そうだとしてもこっちにとってはそこまで気にするような事ではないのだが。

 いや、堂島が結構苦戦しているな。

 堂島にとっては、これだけのシャドウを相手にするのはかなり厳しいのだろうが……これをクリアすれば、今まで以上の強さを身に付けるのは間違いないと思う。

 とはいえ、この延々と出てくるシャドウに心を折られなければの話だが。

 

「うおっ! 一体どれだけ出てくるんだよ!」

 

 苛つきの声を発する巽。

 倒しても倒しても出てくるシャドウは、久慈川のシャドウがそれだけこっちを危険視しているという事か?

 とはいえ、マヨナカテレビやさっきの舞台での言動を見る限り、ストリップを見て欲しいといったように思ってそうな感じだが。

 そうなると、何故こうしているのか……そう疑問に思ったが、次の瞬間にどこからともなく声が聞こえてくる。

 

『そうだなぁ……うん。今の仕事はとっても充実してる。小さい頃からアイドルには憧れていたし、そのアイドルになれたんだから、毎日が楽しいよ』

 

 聞こえてくるそれはまるで……というか、そのままインタビューを受けている久慈川といった様子だった。

 俺達……俺と五飛、ムラタは戦いのベテランとでも呼ぶべき存在なので、戦いの中でこのような状況になっても、多少は驚くがそれだけでしかない。

 だが、それ以外……堂島も含め、鳴上達にしてみればこうして戦いの中で久慈川のインタビューを聞くなどという経験はなかっただろう。

 だからこそ、シャドウとの戦いで動きが鈍くなっているのだろう。

 戦いに集中しようとしてはいるものの、どうしても聞こえてくる久慈川のインタビューに幾らか集中力を持っていかれる。

 勿論、本人達にしてみれば自分は戦闘に集中していると思っているのだろうが……しかし、自分でも知らないうちにそちらに意識を集中してしまっているのは間違いなかった。

 

『理想の男性像? うーん、優しくて清潔感のある人かな。顔とかは、そこまで拘らない……っていうか、私は格好いい人って苦手なの。だから、中身重視かなぁ……』

 

 聞こえてくるこのインタビューは、雑誌とかTVのかそういうのに答えた久慈川の記憶……あるいは、久慈川のシャドウが久慈川っぽく見せるようにそれっぽい様子で流している可能性もあるな。

 そこからも色々とインタビューが聞こえてきたものの、可能な限りそれを無視して俺達は進む。

 そうして大量のシャドウを全て倒し通路を抜けると……

 

「きゃーはははははは! 見られてる! 今、私は皆に見られてるわぁっ!」

 

 再び姿を現した、ストリップの舞台。

 たださえ、先程とは違って緞帳は開いており、そこでは久慈川のシャドウが自分の身体を見せつけるようにくねらせていた。

 自分の身体が男の……場合によっては女を惹き付けると理解しているのだろう。

 実際、久慈川のシャドウを見た花村と巽は、鼻血が噴き出そうになっている。

 

「きゃはははは! ほら、見なさい! もっと見なさいよ! これが私! これが本当の私なんだから!」

「やめてぇっ!」

 

 そう叫んだのは……久慈川。

 自分の身体を見せつけるようなビキニを着ているシャドウとは違い、普通の……私服を着ている。

 無理もないか。

 久慈川が足立によってTVの中の世界に入れられたのは、鮫川の側でだ。

 具体的にどうやったのかは分からない。

 考えられる可能性としては、何らかの手段で気絶させるなり眠らせるなりした久慈川を連れて移動し、どこかでTVの中に入れたといったところか。

 足立にそういう事が出来るのかどうかは微妙なところだが。

 足立は刑事ではあるものの、純粋に刑事として見れば決して優秀な訳ではない。

 ましてや、その身体能力は……素人よりはマシといった程度だろう。

 それだけに、気絶した久慈川を持って結構な距離を移動するのは……難しいだろう。

 久慈川は身長は160cmもないし、体重も……アイドルをやってるだけあって、そこまで重くはない。

 しかしそんなに小柄でも、1人となるとそう簡単に運べる重量ではないのも事実。

 特に人間の場合、力を失っている状態……具体的には寝ていたり気絶している状態では持つ方が余計に重く感じるという話だし。

 足立がそんな状態の久慈川を運ぶというのは……少し疑問なのは間違いない。

 もっとも、その辺は久慈川の今の状況をどうにかしてからの話だが。

 

「お願い、もう止めて!」

「ふふっ、おっかしいんだ。本当はもっと見て欲しいくせに。ぷんぷん」

 

 ……さすがシャドウと言うべきか。

 久慈川の悲壮な様子を全く気にした様子もなく、それどころかわざとらしい程のぶりっこをしてみせている。

 こういうのを何て言うんだったか……あざと可愛い?

 しかし、そんなぶりっこをする久慈川のシャドウの表情は、次の瞬間一変した。

 

「ざけんじゃないわよ! あんたはアタシ。アタシはあんたでしょ!」

「ち……違う……違うってば……」

「ゲーノージンのりせなんじゃない、ここにいる、この私を見なさいよ! ベッタベタなキャラ作りして、ヘド飲み込んで作り笑顔なんて真っ平ごめんよ!」

「そんな……そんなの……」

「りせちー? 誰それ、そんなのどこにもいないのよ! ほら、見て、私を見てぇっ!」

「違う! 私、そんな事を思ってなんかいない! あんたなんか……あんたなんか、私じゃない!」

 

 久慈川の絶叫が周囲に響き渡るのだった。

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