炎獣に蹂躙された久慈川のシャドウ。
そのシャドウが消滅した結果、残ったのは……久慈川のペルソナだった。
ただし、それは顔がパラボナアンテナのようになっているシャドウではなく、マヨナカテレビに出た時の……そして頭部がパラボナアンテナになっているシャドウに変身する前の久慈川のシャドウだった。
そんな久慈川のシャドウが、舞台の上に倒れている。
ちなみに、あれだけのダメージを受けてもビキニはそのままだったのは、ビキニも含めて久慈川のシャドウだったのだろう。
つまり服……いや、水着ではなく、そのように見えるが、それも皮膚の一部といった感じか?
ただ、紐の部分を持ち上げたりしていたのを思えば、必ずしもそうだとは限らなさそうだけど。
「ちょっと、行ってくるわね」
そう言い、久慈川は舞台の上で倒れている自分のシャドウに向かう。
一瞬攻撃するのかとも思ったが、久慈川は自分のシャドウに近付くと、そっと抱き上げる。
「起きて」
その言葉に、久慈川のシャドウはそっと目を開ける。
どうやら死んではいなかったらしい。
いやまぁ、ゲイ・ボルクで攻撃したり、炎獣で攻撃した俺がそう思うのは自分でもどうかと思うが。
ちなみに炎獣は既に白炎となって姿を消し、ゲイ・ボルクも空間倉庫に収納されている。
そしてこの場にいる者達は、久慈川とシャドウのやり取りに手を出さず、じっと見ている。
ペルソナを使える者達は、今のこの状況が何を意味しているのかを理解しているからだろう。
ペルソナを使わない……俺、五飛、ムラタも、手を出したりしないのはペルソナ使い達と同様だった。
「今までごめんね。私の一部なのにずっと私に否定されて……」
その言葉に、久慈川のシャドウが口を開く。
「私、どの顔が本当の自分なのか……ずっと考えていた」
「貴方も……」
「私も……」
『TVの中のりせちーだって、全部私達から生まれた私』
久慈川と久慈川のシャドウの言葉が揃い……次の瞬間、久慈川のシャドウは笑みを浮かべ、姿を消す。
「りせちゃん! 大丈夫!?」
そのまま地面に座り込んだ久慈川に、里中が真っ先に走り寄っていく。
久慈川はそんな里中に、そして少し遅れて駆けつけた雪子に感謝の言葉を口にする。
女3人がそれぞれ話し合っている場所から少し離れて……
「全く」
堂島が、気絶している花村と巽を……鼻血を流し、幸せそうな表情を浮かべて気絶している様子を見て、呆れたように言う。
いやまぁ、堂島のその気持ちも分からないではない。
結局この2人は、最初に久慈川のシャドウに幻を見せられて気絶し、戦いの間中もずっと気絶していたのだから。
一体どんな幻影を見たのやら。
鼻血と幸せそうな顔を見れば、何となく想像出来るが。
高校生だけに、女に対する興味は強い。
だが同時に、付き合う相手がいないので……そんな2人には、刺激が強すぎる幻だったのだろう。
「この2人はもっとしっかりと鍛えた方がいいのかもしれないな。……アクセル、どう思う?」
「鍛えた方がいいかどうかと言われれば、鍛えた方がいいだろうな。もし足立が久慈川のシャドウとの戦いを見ていたら、どうすると思う?」
「……間違いなく、それを利用した何らかの攻撃を仕掛けるだろうな。だが、足立がこの付近にいるのか?」
堂島がそう言いながら周囲の様子を確認する。
だが、それで足立を見つけられるかと言えば、それは無理だろう。
何しろ俺にも足立がどこにいるのか分かっていないのだから。
いやまぁ、本当に足立がここにいるかどうかは微妙なところだ。
というか、多分いないんだろうなとは思う。
「どうだろうな。ただ、花村も巽もそういう分かりやすい弱点があるのはちょっとな。……いっそ慣れさせる為に、その手の店にでも連れていけばいいんだが」
「いい訳がないだろう。こいつらはまだ高校生だぞ? お前の言うその手の店というのがどのような店かは分からないが……それでも高校生が行くような店ではない筈だ」
堂島が真剣な表情でそう言ってくる。
生真面目な堂島の性格を考えれば、それも当然か。
とはいえ、これからの事を考えればその辺の慣れも必要なのは間違いないんだが。
ただ、堂島が認めないのなら……
「せめて、五飛達との訓練に花村と巽も放り込むか。それならどうだ?」
「あの訓練を高校生にか? それは……実際に実力が身につくのは間違いないんだが。ただ、かなり厳しいぞ」
実際に訓練を受けているだけに、堂島の言葉には強い実感がある。
ただし、ペルソナも使えるようになった今の堂島なら、訓練を始めた当初と比べるとある程度楽になってきたのは間違いない筈なんだが。
「まぁ、その辺の判断は花村達に任せればいい。……鳴上、お前はどうする?」
「少し興味がありますね。今回の戦いでは、アクセルさんに頼りっぱなしだっただけに、鍛えておいた方がいいでしょうし」
「本気か? 俺の言葉を聞いた上で、それでもそう言うのか?」
鳴上の言葉が余程意外だったらしく、堂島が驚いた様子でそう言う。
堂島にしてみれば、俺の正体については知らないまでも、その実力についてはそれなりに近くで見てきた事で思うところがあるのだろう。
「鳴上が強くなりたいのなら、俺は構わない」
というか、俺としてはこの事件の原作の主人公だろう鳴上には、しっかりと強くなって欲しいと思う。
何しろ俺を始めとしたイレギュラーが思い切り原作の介入をしてるのだ。
そうである以上、原作通りにいかない可能性がある。
実際、久慈川のシャドウも原作では鳴上達が倒したのだろうけど、今回は俺が半ば1人で倒したようなものだし。
俺が関わっている以上、どうしても原作主人公の戦闘経験は少なくなる。
その辺のフォローをするのも、必要だろう。
もっとも、ニュクスの一件のように俺がラスボスを倒す――正確には倒していないが――という事になってもおかしくはないが。
……というか、普通に疑問なんだが、ニュクスの件の原作の主人公だった有里は、原作だとニュクスをどうしたんだ?
俺の場合はニーズヘッグがあったので、ニュクスに対処出来た。
だが、有里だけだった場合、とてもではないがニュクスに対抗出来たとは思えない。
あるいは俺が関わったから有里が戦闘力的な意味で成長出来ず、それによってニュクスをどうにも出来なくなっていたとか、そんな感じか?
「とにかく……」
「りせちゃん!」
鳴上の修行について口を開こうとした時、不意にそんな声が聞こえてくる。
その声に視線を向けると、そこでは里中が久慈川を抱き留めていた。
そう言えば、自分のシャドウを受け入れてペルソナ使いとして覚醒するというのは結構な負担になるんだったか。
「そろそろ戻るか。久慈川を出来るだけゆっくりと休ませた方がいいだろうしな」
そんな俺の言葉に皆が頷き、そして帰る準備をするのだった。
現実世界に無事に戻ると、そこからは堂島が忙しいことになる。
何しろこの場にいる中で唯一の刑事なのだ。
行方不明になっていた久慈川が見つかったという事もあり、久慈川の祖母……それと、行方不明になったという連絡により、久慈川の両親もやって来ていて、色々と説明をする事になったらしい。
久慈川の両親にしてみれば、アイドルを休業する事になってすぐにこの騒動だ。
俺が当初予想したように、ストーカーによる誘拐ではないかとすら疑っていたらしい。
美鶴……というか、桐条グループからも人をやって、どうにか誤魔化すとか。
まぁ、TVの中の世界とか、シャドウとか、言える訳がないのだから当然かもしれないが。
ただ、その辺は稲羽署や桐条グループに任せておけばいいので、俺はそんな事は気にしなくてもいい訳で……
「ここだな」
久慈川を助けてから数日後の夕方、俺は辰姫神社にやって来ていた。
鳴上の話だと、この神社には狐が棲み着いているとか何とからしいが、俺はまだ遭遇していない。
それらしい気配を感じた事はあるが。
てっきりその狐が月光館学園でのコロマル枠になるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。
もっとも、人間以外という枠でならくまがいるので、当然の成り行きなのかもしれないが。
ともあれ、この神社に俺は遊びに来た訳ではない。
とある人物に呼び出されたのだ。
そしてとある人物とは……
「すいません、呼び出したのはこちらなのに遅れてしまって」
雪子が俺を見つけて近付いてくる。
夕方とはいえ、既に初夏だ。
まだ明るい時間なのは間違いないが、その時間に雪子の姿が神社にあるのは少し不思議な気分がするな。
とはいえ、シェリルの件があってから俺を微妙に避けていた雪子から呼び出されるというのは、少し……いや、かなり意外だったのも事実なのだが。
「俺はいいけど、雪子の方はいいのか?」
天城屋旅館を継ぐという決意をした雪子だ。
当然ながら、夕方の今は旅館の手伝いで色々と忙しい筈だった。
なのに、今の雪子はこうして辰姫神社にいるのだ。
忙しい時にいなかったと怒られても、おかしくはないだろう。
だが、そんな俺の言葉に雪子は問題ないと頷く。
「この件については……一応、言ってあるので」
そう言う雪子。
どうやら本当にその辺については旅館の従業員……そして女将の母親にも言ってきたらしい。
この状況でわざわざ俺を呼び出すのは、何でだ?
「そうか。そっちに問題がないのなら、別に構わない。それで……わざわざこんな場所に呼び出して、何の用だ? まさか、愛の告白なんて訳でもないだろう?」
女が男を、あるいは男が女をどこかに呼び出す。
そう言われて最初に思い浮かぶのは、やはり愛の告白だろう。
勿論それ以外にも、愛ではなくなんらかの……本来なら隠しておかなければならないような告白であったり、あるいは告白ではなく何かもっと別の話であったりする可能性もある。
だが、やはり最初に思い浮かべるのは愛の告白だった。
……とはいえ、雪子の性格を考えるとそういう事をするとは思えない。
思えないのだが……
「え?」
雪子が俺の言葉に、頬を赤く染める。
その夕日になりかけの太陽がそう見せたのか?
そうも思ったが、雪子の表情を見て更に疑問を抱く。
頬が赤くなっているように見えるのは事実。
その表情、特に目にあるのはこれから告白するというものではなく……悲しみ?
そんな雪子の様子に戸惑っていると、雪子は我に返ったように口を開く。
「……半分だけ正解です。私は、アクセルさんが好きでした」
唐突に始まる愛の告白。
だが……好きでしたというのは過去形だ。
つまり前は好きだったが、今は俺を好きじゃないという事なのだろう。
それに……
「半分?」
「はい。……正直なところ、私がアクセルさんに抱いている気持ちが、ただの憧れなのか、それとも恋心なのか。それは分かりません。ですが、好意を持っていたのは事実です」
「……そうか」
雪子からある程度の好意を向けられているのは俺にも分かっていた。
だがその好意はそれこそ言い寄ってきた男の件であったり、進路の相談に乗ったり、もしくはTVの中の世界から助けたり。
そんな感謝の意味を込めての好意だと思っていたのだ。
「けど、アクセルさんには恋人がいる。……それも複数。それを実感したのが、シェリルさんを見た時でした」
美鶴とゆかりと一緒に旅行に来て、その時も2人が俺の恋人だというのは分かっていたんじゃないのか?
そう思ったが、今はそのような事を聞ける状態でないのは事実。
今はまず、雪子の話を最後まで聞くべきだろう。
「最初は単純に、あのシェリルさんを恋人にしてるのは凄いと思いました。……いえ、もしかしたら実際には違うけど、他の人をからかう為にそういう風に見せ掛けているだけでは? とも思いましたけど……シェリルさんがアクセルさんを本当に好きなのは、見れば分かりました」
そう言い、寂しそうな笑みを浮かべる。
多分、俺とシェリルのやり取りの事を思い出しているのだろう。
「その時、分かったんです。……私はアクセルさんを好きだけど、シェリルさんのようにはなれないと。いえ、シェリルさんや美鶴さん、それとゆかりさんでしたか。彼女達のようにはなれない、と。私はアクセルさんを好きになったら、間違いなく独り占めしたくなる。他の女の人と一緒にいるのを見たくはない。……自分でも意外だったんですが、かなり独占欲が強かったみたいです」
「……なるほど」
雪子の説明は、俺にも理解出来た。
俺は言うまでもなく、大勢の……それこそ20人近い恋人がいる。
しかし、その状況……まさにハーレムという状況は、俺にとっては既にそこにあって当然というものだが、一夫一婦制が当然という日本で育ってきた雪子には受け入れられないと。
これは別に、そこまでおかしな事ではない。
教育というのは、それだけ重要なものなのだから。
もっとも日本で育ったと言えばあやか、千鶴、円、美砂、凛、綾子、ゆかり、美鶴……といった面々もいるのだが。
その辺は俺との関わり合いであったり、本人の資質であったりと色々とあるのだろう。