「やっぱりな」
TVの中の世界。
そこで召喚された久慈川のペルソナは、山岸と同じタイプの後方からの支援型だった。
それ自体は、そこまでおかしな話ではない。
元々鳴上達にはその手の能力を持つペルソナ使いはいなかったのだから。
一応くまがある程度は代用出来たが、それもある程度でしかない。
実際に鳴上達から話を聞いた時、久慈川のいたダンジョン……あのストリップ劇場まで来るのには、久慈川についてもっとよく知る必要があり、それに手間取ったという話だったし。
そう考えると、TVの中の世界を適当に歩き回っていて、それで先にあのストリップ劇場まで到着した俺達はそれだけ幸運だったのだろう。
とにかくそんな理由から、原作的にもそろそろ山岸と同じタイプのペルソナが必要になるのは間違いなく、そこに久慈川が原作の事件に巻き込まれたのだから、この展開はある意味で予想通りではある。
「ふふん、どう?」
自慢げな様子の久慈川。
実際、少し確認した限りでは山岸のペルソナと同じタイプだけに、後方からの援護はかなり強化されるだろう。
問題なのは、久慈川が1人しかいない事か。
それに対して、鳴上率いる原作組と、俺を含めた部外者組の2つの部隊がある。
……部外者組に入っている堂島は立派な関係者だが。
そうなると、やっぱり久慈川は鳴上達の方に入れた方がよさそうだな。
俺達の場合は、普通に気配を察知したり、あるいは不意打ちをされても容易に対処出来るだけの実力を持つ。……堂島が若干心配だが。
そんな俺達に対し、鳴上達はそれなりに実力をつけてきてはいるが、それでもまだまだだ。
花村と巽は、久慈川のシャドウによって鼻血を出して気絶した件から、五飛によって厳しく鍛えられる事になったが、それだってすぐにその結果が出る訳ではない。
そんな訳で、もし久慈川が俺達と別行動をするのなら、やはり鳴上達と共に行動した方がいいだろう。
そもそも久慈川の原作での役割を考えれば、間違いなく鳴上達と行動を共にしていたのだろうから、それが当然の流れだ。
あるいは……ニュクスの一件の時のストレガのように、こっちと敵対するペルソナ使いがいた場合は、もしかしたら久慈川がそっちについていた可能性もあるが。
だが、マヨナカテレビの件に俺達以外のペルソナ使いは……足立がいるか。
足立と久慈川の相性はかなり悪そうだが。
それに久慈川をTVの中の世界に入れたのが足立である以上、久慈川が足立の側につくとは思えないが。
「アクセルさん、どうしたの?」
「いや、久慈川のペルソナは有能そうだと思ってな」
「ふふん、そうでしょ。これからは私がアクセルさんをナビゲートしてあげるから、安心してちょうだい」
「あー……いや、まだ正確には決まってないけど、出来れば久慈川には俺達じゃなくて鳴上達のサポートを頼みたい」
「え? そうなの? でも、鳴上先輩達の方は人数が多いし、それで私はこっちだと思ってたんだけど」
どうやら久慈川の予想とは違ったらしい。
「悪いけど、久慈川には向こうの方を頼みたい。戦力的な問題もあるからな」
「えー……」
不満そうな様子を見せる久慈川だったが、戦力の比率を考えればそうなるしかない。
……もっとも、本当に戦力の比率を考えるのなら、鳴上達原作組、ムラタと五飛と堂島、そして俺の3つに分かれた方がいいんだろうが。
ちなみにこの基準、純粋に戦力だけならムラタと五飛も1人ずつでも十分な戦力ではある。
だが堂島を一緒に組ませるとなると……ああ、いや。でもそうだな。堂島を鳴上の方に入れれば、原作組、俺、ムラタ、五飛で4チームになるのか。
もっとも、これはあくまでも効率を考えただけのものだ。
安全性とかを考えると、危険な状況なのは間違いないのだろうが。
「悪いが、その辺については我慢してくれ」
「しょうがないわね。折角私がアクセルさんをナビしてあげようと思ったのに」
不満そうながら、納得した様子を見せる久慈川。
そうして久慈川と話していると……
「あ」
ふと視線を感じてそちらを見ると、そこでは雪子が俺の方を見ていた。
うーん、気まずい……とはいえ、いつまでもこのままって訳にもいかないし。
「よう」
そう声を掛けると、雪子が無言で頭を下げてくる。
いつもなら……俺がフラれるまでなら、こうして声を掛けるとある程度の会話はできたんだけどな。
「ちょっと、ちょっと。その辺にしてよね」
俺と雪子の前に、里中が割り込む。
里中が俺と雪子についての事情を知ってるのかどうかは、分からない。
とはいえ、雪子にとって里中は親友だった筈だ。
だとすれば、俺との事も話しているのかもしれないな。
「おい、ちょっと里中。いきなりアクセルさんに絡んでるんじゃねえよ! ったく、すいません、アクセルさん。里中の奴には俺から言っておきますから」
里中に続き、花村も会話に割り込んでくる。
どうやら俺と里中のやり取りを見て、このままだと不味いと思ったらしい。
里中の様子を見る限り、ここで俺が何を言っても無駄だろう。
俺が天城屋旅館に泊まっている以上、雪子と話す機会はある。
……それで雪子がどうしても俺が天城屋旅館に泊まっているのが嫌だというのなら、俺は別の場所に泊まってもいい。
それこそ俺には影のゲートがあるのだから、最悪東京に戻ってそこでホテルに泊まってもいいし、あるいはホワイトスターに戻ってもいい。
ただ、そうしないのは美鶴からのアドバイスがあった為だ。
……とはいえ、美鶴のアドバイスだからといって、それが正しいのかどうかは分からない。
2人を比べるのはどうかと思うが、美鶴は明らかに女傑タイプ……いや、女帝タイプか?
それに比べると、雪子は大和撫子といった感じだ。
この2人を同列で比べるのは、明らかに間違っているだろう。
勿論、同じ女……しかも自分で言うのもどうかと思うが、双方共に俺を好きになってくれた女だ。
そんな2人を比べるのが完全に間違っているとは、俺も思わない。
だからこそ、今この状況においてどう対処すればいいのか……それが少し悩むところなのも事実。
「ああ、別に俺は気にしてないから問題はない」
「そうですか? ……まぁ、アクセルさんがそう言うのならそれでいいですけど」
安堵した様子を見せる花村。
何だか露骨にこっちを怖がってるのは……五飛との訓練の途中で何かを聞いたか、もしくは鳴上達から久慈川のシャドウと俺が戦った時の事を聞いたか。
「それより、五飛との訓練はどうだ?」
「いや……地獄ですよ、地獄。堂島さんは、よくあんな訓練についていけますよね」
「その辺は慣れだろ。足立の件があってから……それこそ4月からずっと、堂島は五飛の、そして場合によってはムラタの訓練を受け続けているんだ。まだそこまで本格的に訓練を受けていない、あるいは訓練を受け始めたばかりの花村や巽なら、慣れるまでもう暫く掛かるだろうな。……それ以外にも、堂島は刑事として剣道とかをやっていたから、基礎体力の違いもあるんだろうけど」
他にも、短い時間とはいえ自分とコンビを組んでいた足立を捕らえるのは自分だというのもあるのだろうし。
そんな諸々によって、堂島は一種の執念がある。
だからこそ、五飛との厳しい訓練でも……そんな五飛以上に厳しい訓練となるムラタの訓練ですら、きちんとやり遂げているのだろう。
……とはいえ、それでも五飛やムラタに模擬戦で勝利する事はまだ1度も出来ていないのだが。
その辺は将来に期待といったところか。
あるいは、ニュクスの件の時のようにペルソナが進化する可能性もあるので、そうなったらもしかして……とは思うが。
とはいえ、美鶴達が使っているペルソナと、花村達が使っているペルソナは、名称は同じペルソナという能力であっても細かい場所が色々と違う。
その最大の違いは、やはり花村達のペルソナはTVの中の世界でしか使えないのに対し、美鶴達のペルソナは普通に現実世界でも使えるという事か。
もっとも、TVの中の世界で覚醒したペルソナはそういう縛りがあるから、足立が現実世界で大暴れしていないのだろうが。
もしTVの中の世界で覚醒したペルソナが現実世界でも自由に使えるのなら……まぁ、それはそれで、足立が危険な行動を取るようになると思うが、同時にそのペルソナ能力を使う事によって行動が大胆になり、現実世界で暴れている足立を倒す好機が生まれるだろう。
「ともあれ、五飛との訓練は厳しいかもしれないが、それによって強くなれるのだけは間違いない。それはTVの中の世界の事に関わっていく花村にしてみれば、悪い話ではないだろう?」
そう言うが、以前……俺がUC世界に行って水天の涙に関わる前ならともかく、今は花村もそこまでTVの中の世界に関わらなくてもよかったりするんだよな。
以前はジュネスに足立が毎晩TVの世界から出て食べ物とかを盗んでいたりしたので、何かの拍子にジュネスの店長をしている花村の父親が、あるいは母親が狙われる可能性があった。
だが、今はもう足立はジュネスだけではなく、他の色々な場所で食料とかを盗んだりしている。
そうなると、花村の家族が狙われる可能性は以前と比べると大分落ちた……と思う。
もっとも、足立がこっちの事をどう認識してるのかは分からない。
もし花村が俺達と協力し、しっかりと戦力にもなっているとしたら、こっちを動揺させるという意味で花村の家族を狙う可能性は十分以上にあった。
……それを言うのなら、それこそ花村以外にも里中や巽、今回の久慈川もそうだが。
ちなみに久慈川の家の丸久豆腐店には、既に桐条グループの警備員はいない。
久慈川を目当てにする者達の数も大分減ったので、もう必要ないと判断されたのだろう。
勿論、それで絶対に安全だとは言えないが。
何しろ、久慈川は全国的に有名なアイドルだったのだから。
そんな久慈川のファン……あるいはストーカーの連中は、すぐに諦める奴だけではないだろうし。
「そうですね。今はとにかく強くならないと。あいつも、かなり無茶をしますし」
そう言い、花村の視線が鳴上に向けられる。
花村にしてみれば、自分が鳴上の相棒のつもりなのだろう。
そんな鳴上が色々と無茶な行動をするのを黙って見ていられないといったところか。
「ふん」
俺と花村の会話を聞いていた里中は、面白くなさそうに鼻を鳴らすと雪子と共に離れていく。
多分、俺と花村が話しているので、今のうちに……と思ったんだろうな。
里中は俺と雪子の間の事を絶対に誤解していると思う。
それも悪い意味で。
とはいえ、雪子との件は俺が話したりは出来ないだろうし、友達思いの里中にしてみれば俺は雪子を傷つけた相手という認識なんだろうし。
雪子がある程度落ち着いたら、里中に話してくれる事を祈るしかないだろう。
「それで、アクセルさん。その……探偵についてなんですけど……」
俺が里中の方を見ている間にも、花村は話し続けていたのだろう。
話題が変わった事で、俺もそちらに意識を向ける。
「探偵? 以前言っていた、白鐘直斗だったか?」
「そうです、そうです。アクセルさんはもう会いました?」
「いや、まだ会ってないな」
「え? ……マジっすか?」
何故か驚きの表情を浮かべる花村。
何だ? 俺がその白鐘とかいうのに会ってないのが、そんなにおかしいのか?
「何か問題があるのか?」
「いや、問題があるっていうか……俺達は今まで何度も会ってるのにアクセルさんが会ってないのが不思議で」
詳しく話を聞くと、花村達はそれなりの割合で白鐘に遭遇しているらしい。
なのに、俺だけに遭遇していないのは明らかにおかしい。
考えられるとすれば……
「意図的に俺を避けている?」
「いや、でも何で?」
俺の呟きを聞き取った花村が、不思議そうに尋ねる。
そう、俺もそれが不思議だ。
普通に考えた場合、わざわざ俺を避ける必要があるか?
花村達に向こうが接触したのは、花村達がマヨナカテレビの件に関わっているからと予想したからだろう。
であれば、その花村達以上にそのマヨナカテレビの件と関わっているだろう俺に白鐘が接触しないのは明らかにおかしかった。
考えられる可能性があるとすれば……
「堂島、稲羽署組と応援に来た連中の関係は決して良好じゃないんだよな?」
少し離れた場所で鳴上と話していた堂島に声を掛ける。
その問いに、堂島はこっちに近付いて来て頷く。
「そうだな。色々と言えない事、言っても信じて貰えない事もあるから、そんな感じになっている」
「だとすれば、応援組が呼んだ白鐘が俺を意図的に避けるように命令……あるいはそこまでいかなくても、そのように要望しているという可能性はあるか?」
「それは……可能性としてはあるだろうな。だが、一体何故そのような事を?」
「それを俺に聞かれても分からないが、俺がその白鐘とまだ会ってないのを考えると、そういう可能性の方が高くないか?」
その言葉に、堂島は少し考えてから難しい表情で頷くのだった。