「やっぱりTVに出た奴が狙われる……そう思った方がいいようだな」
堂島の言葉にだろうなと頷く。
この辺については、前々から予想されていたことであったし、マヨナカテレビという事件の特徴を考えれば、そんなに間違ってはいなかっただろう。
とはいえ、TVに映っているだけというのでは、すぐに次の足立の標的を把握は出来ない。
「そもそも、どうやって足立はTVを見てるんだ? TVの中の世界で現実世界のTVを見る事が出来るのか?」
「……それを俺に聞かれても、分かる訳がないだろう」
堂島が不満そうな様子で呟く。
堂島にしてみれば、足立については思うところが色々と……それはもう、本当に色々とあるんだろうから、その足立をまだ捕らえられない事に思うところがあるといったところか。
「別にTVの中の世界とは限らないだろう? 現実世界に戻れば、TVを見る事は出来るのだから」
「美鶴の言いたい事は分かるが……街中でTVを見るのはまず不可能だ。それこそ24時間体制で刑事達が見回っているからな。特に俺達のペルソナは現実世界で出せないんだろう? そうなると、足立が現実世界で見つかってしまえば、その時は即座に捕らえられる。……足立は普通にはない力を持っているのは間違いないが、それはあくまでもTVの中の世界でだけだ。現実世界では、その特別な力も意味はない」
堂島の言葉は、自分がワダツミというペルソナを使えるからこその説得力がある。
とはいえ……その予想に穴がない訳でもない。
論理的な説明という訳ではなく、この事件に原作があるという事を知っていればの穴だが。
そして原作があると知っていれば、足立はラスボスではなくても中ボスや小ボスといった感じなのは恐らく間違いない。
だとすれば、そういうボス特性とでも呼ぶべきもの……あるいは物語を盛り上げる為に、現実世界でもペルソナを召喚出来る可能性は十分にあった。
そもそもの話、美鶴を始めとしたニュクスの一件に関わっていた者達は普通に現実世界でペルソナを召喚出来るのだ。
であれば、同じペルソナという能力である以上、足立が現実世界でペルソナを召喚出来てもおかしくはない……と思う。
実際にどうなのかは、分からない。
あくまでも予想でしかないが。
「街中でTVを見るのが無理なら、他に考えられる可能性は……誰か協力者がいるという事か」
「一応、足立と親しい相手……稲羽市に限ってだが調べてはみた」
「それで、候補は?」
もしかしたら。
そういう期待を抱いて堂島に尋ねるが、堂島は首を横に振る。
「足立と親しい奴はほとんどいない。近くに住むという老人がそれなりに頻繁に足立に差し入れをしたという情報があったが、その老人も白だった」
「……知り合いがいないのか」
そもそも知り合いがいないのなら、調べるといった事は出来ない。
堂島が言うには、老人が1人くらいらしいし。
そして堂島の言葉を聞く限りでは、恐らくその老人もしっかりと調べた上での言葉なのだろう。
「俺が知ってる限り、足立というのはそういう孤高を好むとかいうタイプじゃなくて、それなりに人当たりも良かったように思うけどな。その辺はどうだ?」
俺の視線を向けられたシャドウワーカーの一人が頷く。
「そうですね。高校時代からそれなりに人づきあいはあったようです。ただ、どれも表面的というか、薄く広くというか……そんな感じです。親友や恋人のように、深い関係にある人物はいません」
「今時の若者らしいと言えばいいのか。……俺がコンビを組んでいた時は、何度か家に呼んでそれなりに楽しくやれていたんだがな……」
堂島が遠い目をして呟く。
足立との一件は、堂島にとって色々と……本当に色々と思うところがあるのだろう。
とはいえ、今はまず足立を捕らえるのを最優先にする必要があるのも事実だが。
「つまりは、それも表向きだった訳だ。……こうなると、足立の件を公にしていないというのが厄介だな」
美鶴の浮かべる悩ましげな表情に、俺も同意する。
「足立の性格を考えると、相手を油断させて誰かの家を乗っ取る……といった事をしてもおかしくないな。家の住人はTVの中に入れて……いや、そうなるとマヨナカテレビに映るか。足立もその辺については理解しているだろうから、縛って身動き出来ないようにしてあるか……美鶴、生きている人間をTVの中の世界に入れればマヨナカテレビに映るが、死体をTVの中の世界に入れたらどうなると思う?」
「一番可能性が高いのは、山野真由美の時のように何らかの方法で現実世界に放り出されるという事だろう」
「そうなると、その死体から身元を調べられて足立が隠れ家として使っている場所に刑事達が来るから、そういう事はしないか。……足立がその可能性に気が付いていればの話だが」
「気が付いている可能性は高いだろう。足立も今はともかく、以前は警視庁にいたんだ。つまり、エリートと言ってもいい。そうである以上、その辺については気が付いていてもおかしくはない」
堂島がそう言う。
その辺の認識は、どのような世界でもそう変わる事はないのだろう。
とはいえ、警視庁で働いていたエリートが稲羽市のような地方都市に転勤になったというのを考えると、足立は警視庁で何らかの失態を起こしたのは間違いないと思う。
そういう意味では、エリートというよりは、エリート? といった感じに思える。
「堂島がそう言うのなら、取りあえず気が付いていると判断するが……そうなると、狙われるのはやっぱり家族で暮らしているような奴じゃなくて、1人暮らしの相手になるか」
家族で暮らしている場所を占拠した場合、会社なり学校なりに行けない事になり、どうしたのかと連絡がくる可能性が高い。
そのような心配をいらないとすれば……1人暮らし。
それも仕事をしていない、ニートやプーといった者が足立にとっては狙い目だろう。
「働いていないで1人暮らしをしていて、それでいながら近所の住人とも関係が薄い。そういう奴が稲羽市にどれくらいいるか分からないか?」
これが東京とかなら。それこそアパートとかマンション、あるいは一戸建てであっても近所に住んでいる者がどういう人物なのかも分からないという事があってもおかしくはない。
だが、この稲羽市のような地方都市なら、田舎だけに近所に住んでいる者達と親しい者が多いだろう。
それだけに、働いていない者について知るのはそう難しくないのではないか。
もしくは、警察の方でその手のデータを用意してある可能性もある。
「そういうのはないな。いや、あるのかもしれないが、俺は知らない。一応上に聞いてみるか?」
「頼む。もしこの予想が当たっていた場合、TVの中の世界ではなく、現実世界で足立を捕らえられるかもしれない」
もし上手い具合にそのようなことが出来たら、まさに最善の結果だろう。
……だが、それだけに足立も周囲の状況はきちんと警戒していてもおかしくはない。
俺の予想が当たっても、すぐにTVの中に……ああ、足立がいるかもしれない場所の条件には、自分が入れるくらいのTVを置いているというのもあるな。
そこまで条件が絞れれば、稲羽市ならそれなりに候補を限定する事も出来るじゃないか?
もっとも、働いていない1人暮らしというのはともかく、どういうTVを持っているのかという事まではさすがに警察でも分からないだろうけど。
「ああ、それと……この前、何だか妙な雰囲気を持ってる奴に会ったんだけど」
「妙? 具体的には?」
「帽子を被って、少し小柄で……」
そう言い、あの時に商店街で見た人物についての特徴を口にしていく。
だが、その説明を聞いていた堂島は微妙な表情となって口を開く。
「あー……アクセル、それはあれだ。以前ちょっと話題になった、白鐘直斗だな」
「白鐘直斗……ああ、稲羽署の刑事達と敵対している応援組が呼んだ探偵か」
「いや、敵対ってのは……そこまで大袈裟な話じゃないんだがな。そんな感じだ。お前が言うような特徴を持つのは、白鐘くらいしかいねえ」
その言葉に、そう言えばと思い出す。
白鐘も、俺を見た瞬間にその場から離れたのは、恐らく俺という人物を知っていたからだろう。
多分稲羽署の応援組から、俺の情報を聞いていたと思われる。
……それはそれで、何故そんな感じになるのかがちょっと分からないが。
別に俺だけを特定して警戒する必要があるとは思えないし。
これが例えば、美鶴を見て接触しないように逃げるのなら、理解は出来る。
何しろ美鶴は桐条グループの後継者と目されている人物で、その辺りを抜きにしても本人が非常に有能な人材だ。
だからこそ、白鐘が話したりすれば何らかの情報を知らず知らずのうちに話してしまうという事にもなりかねない。
あるいは、桐条グループの力を使って白鐘の所属している探偵会社、もしくは後ろ盾に圧力を掛けるとかも出来る。
そういうのを避ける為に、美鶴と接触しないようにするのは分かる。
だが……何でそこで俺?
考えられる可能性としては、稲羽署組から俺について何か聞いたか?
稲羽署の連中は俺が魔法を使えるのを知っている。
そっちから情報を入手し、あるいは俺の存在が危険……場合によっては、俺が足立の一件の黒幕だとか、そんな風に思われてもおかしくはない。
とはいえ、さすがにそんな事を言われて信じるとは思えないが。
……ないよな?
探偵王子と呼ばれるくらいに腕利きの探偵なんだろうし。
「そうなると、向こうは一体何で俺を避けていたと思う?」
「それを俺に聞かれてもな。……取りあえず、何か妙な行動があったらこっちに連絡が入るようになっているから、心配はいらないだろうよ」
「警視庁の方から手を回して貰う事は出来ないのか?」
「やろうと思えば出来るだろうが……」
「止めた方がいいだろう」
堂島の言葉に、美鶴がそう割り込む。
「何でだ? その探偵が厄介なら……いや、待て。探偵、探偵か」
「アクセル?」
「こういう時のアクセルは自分の考えに集中しているから、声を掛けても無駄だ。取りあえず考えが纏まるまでは待つんだ」
探偵……探偵ってのは、普通に考えたら特殊な存在だよな?
だとすれば、そんな探偵が稲羽市に来るというのは……久慈川に続いて、白鐘も実は原作キャラじゃないのか?
そう思うも、久慈川と白鐘では違うところが多い。
久慈川の場合、久慈川が稲羽市に来るのに俺達は何の影響も与えていない。
だが、白鐘は稲羽署に応援として来ている刑事達が呼んだ人物だ。
そして稲羽署の刑事達が忙しく、応援を呼ばないといけなくなったのは、足立の件が理由だ。
しかし、足立の件が露わになったのは俺が稲羽署に行った結果だ。
もし俺が稲羽署に行かなければ、恐らく足立は早紀をTVの中の世界に入れて、山野真由美のように殺していただろう。
だが、それは俺が取調室に乱入した事で阻止された。
つまり原作では足立があの時点で山野真由美の犯人だと知られるような事はなく、つまり稲羽署も山野真由美や……恐らくは早紀の殺人事件で忙しかったのは間違いないだろうが、それでも今の状況よりはマシで、応援の刑事達が来る可能性はなく、結果としてその応援の刑事達に呼ばれた白鐘が稲羽市に来る事もなかった筈だ。
そう考えると、白鐘は原作キャラではない可能性がある。
……とはいえ、原作キャラではないからとはいえ、足立によってTVの中の世界に入れられないとは限らない。
「探偵か。やっぱり実際に1度接触してみた方がいいかもしれないな」
「本気で言ってるのか? いや、アクセルがそのつもりなら俺は構わんが」
「向こうが何を思ってこっちを避けているのか、それを知りたい。そしてこっちについて何も知らない状態で向こうが行動していた場合、何かあった時に面倒な事になりかねないし」
稲羽署に応援に来た刑事達が、何を思って白鐘に俺に接触しないように言ったのかは分からない。
いやまぁ、稲羽署の誰かから魔法について聞いて、それを怪しいと思って俺に接触しないようにしたというのが一番可能性は高いのだが。
そのような理由で俺に接触しないようにと言った場合、応援に来た刑事達は俺を怪しんでいる……もっと言えば、何か犯罪があった時に俺を犯人だと思う可能性は十分にあった。
だからこそ、そういう事にならないように俺がどういう存在なのか……取りあえず足立側の存在でないというのは、知らせておきたい。
「なるほど。……まぁ、探偵だとはいえ、まさかシャドウやペルソナなんて存在が、そしてTVの中の世界などという存在についてはとてもではないが信じられないだろうしな。俺だって、実際に自分の目でみてなければ到底信じられなかっただろう」
「だろうな」
堂島は頑固というか、常識に縛られているというか……ファンタジーな出来事は、そういうのがあると言っても自分の目で見て、直接触れてとしなければ納得は出来ないだろう。
今は本人もペルソナ使いになってはいるが。
そんな風に思いつつ、俺達は話を続けるのだった。