転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3784話

「……おう?」

 

 アパートの一件を見た後、適当に稲羽市を見て回っていたのだが、昼近くになったので昼食を食べにジュネスのフードコートがある屋上に向かっていた。

 その途中、家電売り場を通り掛かると、客と思しき者達が何人かいた。

 それだけであれば、特に気にするような事もなかっただろう。

 稲羽市の中でもジュネスの家電売り場はそれなりに品揃えもいいし、それを買いに来る客もいるのだから。

 だが……戸惑ったような、驚いたような、そして面白がるような。

 客達がそんな表情を浮かべ、とある方向を見ている。

 それを見れば、気にするなという方が無理だった。

 そんな訳で、何となく興味を惹かれた俺は家電売り場に向かう。

 あるいは……本当にあるいはの話で、恐らくその可能性はないと思うが、それでももしかしたら足立がTVから出て来たのを見た者がいたのではないか。

 そのように思っての行動だったが、客達の視線の先にいる存在を見た俺の口からは、自分でも我知らずそんな声を出していた。

 何故なら、俺の視線の先にいたのはマッサージチェアを使っているくまだったのだから。

 ……そう、くまだ。

 最初、俺は疲れているのかとも思ったが、どうやら違うらしい。

 一度くまから視線を逸らし、それから改めて見ても、やはりそこにいるのはくまだったのだから。

 えっと……何でくまが現実世界に?

 俺が知ってる限り、くまはあくまでもTVの中の世界で生活していた筈だ。

 それはつまり、現実世界には出て来られないのだろうとばかり思っていたのだが。

 だというのに、そんな……何故かTVの中の世界でしか行動出来ない筈のくまが、現在俺の視線の先にいる。

 考えられる可能性は……ああ、久慈川の一件でペルソナ使いになったのが関係してるのか?

 ペルソナ使いになった事で現実世界に出てこられるようになったとか。

 もしくは、元々現実世界には出てこられたのだが、今までは怖がってTVの中の世界にいたのか。

 その辺は正確には分からなかったが、それでもこの事件に原作があると考えると、そのくらいの事は普通に出来そうな気がするのも事実。

 俺が知ってるくまは、好奇心がそれなり高いものの、それ以上に臆病という点がある。

 その臆病さから、現実世界に出てこられるにも関わらず、今までは出て来なかった。

 そう思えば十分に今の状況を想像出来る。

 そんな風に思っていると、マッサージチェアで気持ちよさそうにしていたくまが、不意にこちらを見る。

 こちら……つまり俺もそうだが、俺の側にいるジュネスの客達の方にも視線を向けたのだ。

 ビクリ、と。

 俺の側にいた客達は、俺と違ってくまという存在を初めて見る。

 その為、自分に視線を向けられた事に驚くのはおかしな話ではないのだろう。

 

「大せんせー!」

 

 そんな周囲の様子に関係なく、くまは俺を見るとそう声を掛けて手を振って来る。

 当然ながら、周囲の客達は大せんせーというのが何を意味してるのか分からず、不思議そうな表情を浮かべる。

 ……中には不思議そうどころか、不審の表情を浮かべている者もいたが。

 うーん、これは……一体どうすればいい?

 あるいは花村がここにいれば、ある程度は誤魔化せたかもしれないが。

 何しろ俺はジュネスで以前から何度も大量に買い物をしているという意味で、間違いなく目立っている。

 そうである以上、俺はこのジュネスでも有名人なのは間違いなかった。

 仕方がない、か。

 いつまでもこのままだと、くまが叫んだ大せんせーというのが一体誰の事なのか他の客達が不思議に思うだけだろうし、場合によっては店員や……警察を呼ばれる可能性もある。

 ……いや、店員はともかく、警察の場合は寧ろ問題がなかったりするのか?

 応援組の刑事はともかく、稲羽署組の方はマヨナカテレビの一件に大きく関わっているのは間違いない。

 であれば、俺はともかくくまはそこまでいけば問題はない……と思う。

 もっとも、そうなったらそうなったで色々と面倒なことになるとは思うが。

 そんな風に思いつつ、俺はくまのほうに近付いていく。

 

「それで、くまは一体ここで何をしてるんだ?」

 

 少し前……ペルソナ能力に覚醒していなかった頃は、どこか俺に対して恐怖を抱いていた様子のくまだったが、今は違う。

 俺を見てもそこまで怖がるということはなくなった。

 本人はそこまで表情に出しているつもりはなかったんだろうが。

 

「くまはこっちの事が気になってちょっと来てみたの」

「……それで、何故かマッサージチェアに興味を抱いたのか?」

「マッサージチェア? これ、マッサージチェアっていうくまか?」

 

 どうやらくまは自分で座っているのがなんなのか分からなかったらしい。

 TVの中の世界にはTV局っぽい場所があるんだし、マッサージチェアの類があってもおかしくはないと思うが。

 電気とかないだろうから、使えないのか?

 

「ああ、マッサージチェアだ。文字通りの意味で座っているだけで身体をマッサージしてくれる椅子だな。人によってはかなり好まれるらしい。お前みたいに」

 

 俺も何度かマッサージチェアを使った事はあるが、痛いだけで特に気持ちいいとは思わなかった。

 この辺は、多分だけど俺が混沌精霊だから関係してる……いや、混沌精霊になる前にマッサージチェアを使った事もあったが、それでも気持ちよくはなく痛いだけだった。

 単純に俺の身体がマッサージチェアでマッサージされる程に疲れていないのか、もしくは単純に相性的な問題が。

 その辺は分からないが、別にマッサージチェアが使えないからといって俺に何か不利益がある訳でもない。

 ……無理矢理不利益を考えるとすると、マッサージチェア談義の時に参加出来ない事か?

 とはいえ、そもそもの話マッサージチェア談義なんてするか?

 いやまぁ、技術班なら究極のマッサージチェアを作ろうとか考えても、おかしくはないと思うが。

 俺にしてみれば痛いだけのマッサージチェアだが、使って気持ちいいと思う者が多数いるのも事実。

 だとすれば、技術班が目を付けてもおかしくはない。

 そしてもし技術班が究極のマッサージチェアを作れば、シャドウミラーの特産品として売れる商品が増える事になる。

 シャドウミラーの技術班が作ったマッサージチェアである以上、それを欲しがる者は多いだろう。

 それこそ、生産が間に合わないくらいに。

 とはいえ生産という事であればコバッタと量産型Wがいるし、最悪魔法球を使ってもいいので、本当に生産が間に合わないという事にはならないと思うが。

 

「どうしたくま?」

「あー……うん。悪い。ちょっとマッサージチェアについて考えていたんだ」

 

 実際にはマッサージチェアについてではなく、半ば現実逃避に近かったが。

 

「そうくま? これより凄いマッサージチェアがあるくまか!」

「勿論あるぞ」

 

 くまの使っているマッサージチェアの値段を見ると、20万くらいだ。

 普通に買うとすればかなり高級品なのは間違いないが、マッサージチェアというのは値段が天井知らずだ。

 いや、天井知らずという表現は少し大袈裟かもしれないが、それでも100万程度のマッサージチェアというのは普通にある。

 そして基本的にマッサージチェアというのは、値段=性能らしい。

 勿論、それが絶対という訳ではない。

 それこそ人によって合う合わないがあるだろうし。

 

「それは凄いくまね。これでこんなに気持ちよかったのを考えると、どういうのか興味あるくま!」

「あの……お客様……」

 

 くまが宣言をするのとほぼ同時に、そんな風に声を掛けられる。

 嫌な予感と共にそちらに視線を向けると、そこにいたのはジュネスの従業員。

 うわぁ……と。これからの事を考えて嫌な予感を覚えつつ、口を開く。

 先手必勝。

 

「この着ぐるみは、ジュネスの店長の息子の花村陽介の友達だ」

「……え? あ、そうなんですか?」

 

 そう言うも、素直に信じている様子はない。

 普通に考えれば、この状況で花村の名前を出したところで素直に信じるとは思えない。

 思えないが……

 

「あ、でも時々この付近で見掛けるな。とすれば、もしかして本当に?」

 

 花村達は天城屋旅館の大広間にある俺が以前使っていた通信機の映像スクリーンからTVの中の世界に入る事もあるが、ジュネスの家電売り場にある大型TVからTVの中の世界に入る事もあった。

 その為、花村達はそれなりにこの辺りに来ており……従業員達はそれを見ていたのだろう。

 さすがにTVの中に入る光景を見てはいないと思うが。

 もしそのような事になれば、間違いなく大きな騒動になっていただろうし。

 

「そんな感じだ。本来なら花村達と同じくらいに来る予定だったけど、どうやら間違って早く来てしまったらしい」

「は、はぁ……」

「そんな訳で連れていくから、花村達が来たらくまが来たけど天城屋旅館に連れて行ったと言ってくれ」

「……分かりました」

 

 完全には納得していない様子だったが、それでも店員は俺の頼みに頷く。

 花村……店長の息子の知り合いというのが、この場合は大きかったのだろう。

 

「じゃあ、そういう訳で……行くぞ、くま」

「どこに行くくまか? くまはもう少しここで楽しんでいたいくまけど」

 

 どうやらマッサージチェアがそこまで気に入ったらしい。

 とはいえ、この状況でいつまでもここに置いておける筈もない。

 

「ほら、行くぞ。いつまでもここにいたら迷惑になるだろう」

「く……くまぁぁ……」

 

 くまの頭を鷲掴みにして、その場を立ち去る。

 着ぐるみ……実際には違うのだが、傍から見た場合にはそのようにしか見えないくまを引きずり、ジュネスを出る。

 ……あ、そう言えば結局屋上のフードコートに行くのを忘れたな。

 まさかくまを引き連れてフードコートに行く訳にもいかないし。

 いや、でもフードコートには子供もいるだろうから、着ぐるみにしか見えないくまは何気に人気者になったりするのか?

 そんな風に思いつつ、取りあえず昼食は天城屋旅館で用意して貰おうと考えながら、ジュネスを出たところで建物の陰……外からは全く見えない場所まで移動する。

 

「むぐぐ」

 

 何かを言いたそうなくまだったが、俺はそれを無視して影のゲートを展開する。

 すると足下から沈んでいく感触が分かったのか、再びくまが騒ぎ始めるものの……

 

「黙れ」

 

 耳元……耳元でいいんだよな? とにかくそこで一言呟くと、次の瞬間くまはピタリと黙る。

 そうして俺とくまは影のゲートに沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「人が一杯いるくまね!」

 

 大広間にそんな声が響く。

 ……天城屋旅館に戻ってきた時、受付にいた従業員に妙な……本当に妙な存在を見るような視線を向けられたものの、それは取りあえずスルーして大広間までやって来たのだが、その大広間を見て、何故かくまは大喜びだった。

 人が一杯って、そんなに多くはないし、何よりジュネスにいた時の方が人は多かったと思うんだが。

 いっそ、大広間に直接転移してきた方がよかったのでは?

 そうも思ったが、俺が出掛けていったのは天城屋旅館の従業員達も見送っていたので理解している。

 そしてこのような老舗旅館である以上、実は俺が帰ってきたのを見逃していた……といった事は、まずない。

 そんな訳で、直接大広間に転移するのは無理だった。

 あるいはくまだけを転移で大広間に運び、そこから転移して改めて普通に帰ってくるという事も考えたのだが、それこそくまのような存在が天城屋旅館に入ったのを見ていないというのは通らない。

 あるいは桐条グループの影響力で無理に押し通す事も出来たかもしれないが、まさかそんなところで桐条グループの影響力を使うのは……うん。止めておいた方がいいのは間違いない。

 

「アクセル、一体何故くまがここに?」

 

 美鶴も当然のようにマヨナカテレビの一件の重要人物……人物? まぁ、取りあえずそういう事にしておくが、くまの事は知っている。

 それでもこうして驚いているのは、くまがTVの中の世界ではなく現実世界にいるからだろう。

 

「ジュネスのフードコートに行く途中、家電売り場でマッサージチェアを満喫しているくまを発見してな。さすがにそのままにする訳にはいかないので、連れてきた」

「連れてきたって……そもそも、くまはTVの中の世界から出る事が出来たのか?」

「勿論くまよ。今まではそういう事をしようとは思わなかったけど、せんせーや大せんせーの事を考えたら、何となく出来そうな気がしたくま」

「……って事らしい」

「それは……いや、こうして現実にいる以上は、何を言っても意味はないか」

 

 呆れたように、あるいは諦めたようにか? とにかくそんな様子を見せる美鶴。

 うん。まぁ、その気持ちは分からないでもない。

 俺もどうしたらいいのか分からなくて、天城屋旅館の大広間に連れてきた一面があるし。

 

「取りあえず放っておく訳にもいかないだろう。とはいえ、ここに連れてきてどうするかというのはまた別の問題だが……その辺は美鶴に任せる」

「ふむ。TVの中の世界について詳しく知っているのだから、色々と情報を聞き出せそうではあるな」

 

 そう言い、にやりと笑み浮かべる美鶴だった。

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