転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3786話

「は? これは……」

 

 くまの件があって驚いたが、諸岡の事件も特に解決することなく時間は流れ……雪子も俺とそれなりに自然に接することが出来、八十神高校も夏休みに入り、天城屋旅館も夏休みシーズンに入った7月29日。

 その日の夜は雨だったので、足立が新たな犠牲者をTVの中に連れ込んだりして、その人物がマヨナカテレビに映るのではないかと思っていた、その夜。

 マヨナカテレビに映ったのは、いかにも暗そうな男の姿だった。

 

『皆、俺の事を見ているつもりなんだろ?』

 

 その男がマヨナカテレビの中でこちらを見てそう言ってくる。

 これもまたちょっと珍しい。

 今までのマヨナカテレビは、何と言うか……こう……そう、一種のバラエティ番組みたいな感じの映像だった。

 だが、今回はそういう事もなく、映像モニタに表示された男がじっとこちらを見て、呟いていた。

 けど、この男……どこかで見た記憶があるような……?

 

『皆、俺の事を知ってるつもりなんだろ? なら、捕まえてごらんよ』

 

 そう言うと、マヨナカテレビは終わる。

 えっと……これは……?

 少しいつもと違うのは間違いない。

 だが同時に、これがマヨナカテレビであるのも事実。

 だとすれば、これは具体的に一体何がどうなってこうなったのか。

 そもそもマヨナカテレビに映るのは、TVに映ったものというのがルールだった筈だが……いや、そもそも足立がTVの中の世界に引っ張り込んでいる以上、そのルールも言ってみれば足立次第でしかない。

 足立にその気がなければ、あっさりとルールは変えられるだろう。

 とはいえ、現時点においてはそのルールを使うしかないのも事実。

 美鶴率いるシャドウワーカーの面々は、現在大広間でマヨナカテレビを見ていた筈だ。

 シャドウワーカーとして、今回の状況をどう考えているのか。

 それが気になり、俺は大広間に向かおうとするが……部屋から出ようとしたところで、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえる。

 その足音の持ち主が誰なのかは、気配で分かった。

 ……いや、気配とかではなくても、単純に現在の状況を考えれば、誰が来たのかはすぐに分かるだろうが。

 そして俺は数歩下がる。

 来た相手……美鶴が扉を開けた瞬間、そのすぐ前に俺がいれば驚くだろうし。

 もしくは美鶴が近付いて来たタイミングで扉を開けても、それは同様だ。

 そんな訳で扉が開くのを待っていると、数秒と経たずに扉が開き、そこから美鶴が姿を現す。

 

「アクセル、マヨナカテレビを見たか!?」

「初めて見る顔……だと思うけど、取りあえずTVで見た覚えのない奴ではあったな」

 

 初めて見る顔だと断言出来なかったのは、何となく……本当に何となくだが、多分どこかで見た顔だろうと思えた為だ。

 だが、どこで見たのかはちょっと覚えていない。

 春に稲羽市に来てから暫く――途中で2ヶ月程UC世界に行っていたが――が経つが、その間にあの男とどこかで会ったのは、多分間違いない。

 つまり、あの男も雪子達と同じくこの稲羽市の……ん? いや、まて。今ちょっと何か……雪子……雪子? ああ、そうだ。思い出した。

 

「悪い、訂正だ。TVで見た覚えはなかったが、実際には会った事がある奴だ」

「どこでだ?」

「以前、雪子に言い寄っていた奴だ。雪子がかなり迷惑をしていたから、それを俺が助けた事がある」

「……ああ、そう言えばそんな事を言っていたな。天城越えとか言っていた件か」

「それだな」

 

 雪子はその美貌からかなりモテた。

 また、昨今珍しくなった大和撫子的な美人でもある事で、多くの男に言い寄られていた。

 だが、結果として誰も雪子を口説くのに成功した事はない。

 結果として、雪子を口説くのを天城越えと呼ばれるようになったのだ。

 ただし、天城越えに関しては何人もが失敗をした結果、多くの者が無理だと認識するようになった。

 何しろ八十神高校の中でもかなりモテると言われているような男であっても、雪子にフラれていたのだから。

 ……ちなみに花村も天城越えに失敗した1人らしい。

 とはいえ、花村の様子を見る限りでは本気で口説いたというよりは、どこかに一緒に遊びにいかないかとデートに誘って断られた程度らしいが。

 ともあれ、そんなに有名になった天城越え。

 あのマヨナカテレビに映った男は、そうして挑む者が少なくなった天城越えに挑み、結果として困っている雪子を俺が横から救ったといった形となる。

 あるいは雪子が俺を意識するようになったのは、あの一件が理由なのかもしれないな。

 いや、今はそんな事を考えても仕方がないか。

 もう終わった事なんだし。

 

「では、あの男の詳細についてはすぐに調べられるだろう。堂島を通して稲羽署に知らせて来るから、少し待っていてくれ」

 

 そう言い、美鶴は部屋を出て大広間に向かう。

 俺もここでこうしているのは暇なので、その後を追う。

 今はマヨナカテレビが終わった時間なので、日付が変わってからすぐだ。

 普通ならそのくらいの時間帯に連絡をするというのは非常識だ。

 しかし、マヨナカテレビの一件については稲羽署の刑事達……特に足立の一件に関わっている者達も十分に理解している。

 というか、恐らくだが稲羽署組の刑事達も先程のマヨナカテレビは見ていた可能性が高い。

 そう考えると、今のうちに連絡をしても悪くはない筈だ。

 そんな風に思っている間に大広間に到着したのだが……

 

「雪子?」

「あ……アクセルさん」

 

 大広間の中に、シャドウワーカーの面々に堂島、鳴上……そして雪子の姿もあった。

 神社での一件以来、若干ギクシャクとしていた俺と雪子の仲だが、今はもう完全ではないにしろ、大分普段通りとなっている。

 

「雪子がここに来ているって事は、やっぱりマヨナカテレビの件か?」

「あ、はい。前に会った事がある相手だったので」

 

 どうやら雪子もあの男については覚えていたらしい。

 自分を口説こうとした相手なので、強く印象に残っていたのか?

 いや、けど……雪子はモテる。

 それこそ天城越えと言われる程に。

 つまり多くの者が雪子に言い寄っていたのは間違いない。

 

「よく覚えていたな。雪子に言い寄ってくる相手はかなりいるだろう?」

 

 そう言うと、雪子は何と言っていいのか分からないような、微妙な表情になり……

 

「その、アクセルさんに助けて貰った相手だから」

「あー……うん。そうか」

 

 もしかして地雷を踏んだか?

 そうも思ったのだが、雪子の様子を見る限りそういう感じではないらしい。

 

「とにかく、彼女から大体の事情を聞いた。何でもマヨナカテレビに映っていた男は久保美津雄という名前で、元々八十神高校に通っていたらしいな。そして諸岡とトラブルを起こした結果、八十神高校を退学になり、現在は他の高校に通っているらしい」

 

 俺と雪子の会話を聞いていた堂島が、そう言ってくる。

 

「もう名前まで……というか、ある程度の経歴も分かっているのか?」

「あ、うん。マヨナカテレビが終わってからすぐに千枝から連絡が来て、そこで教えて貰ったの」

 

 里中があの男……久保か。その久保について分かっていたのか?

 いや、里中は人当たりの良い性格をしているので、親しい相手も多い。

 そんな里中だけに、久保についてはどこかで誰かに聞いていた事があってもおかしくはなかった。

 特に4月からはマヨナカテレビに関わっており、その多くが八十神高校の関係者だ。

 あるいは、警察とかが本格的に足立の件を捜査していたりしなければ、里中も久保についてそこまで詳しく調べるとかはなかったかもしれないが。

 ともあれ、あのマヨナカテレビに映っていたのが久保だというのが分かったのは事態の進展だろう。

 

「そうか。ならよかった。……それで堂島。久保の住所とかは確認出来るのか? 今は真夜中だが、それでも久保を確保した方がいい」

「分かっている。すぐに連絡をする」

 

 そう言い、携帯を取り出して稲羽署に連絡をする堂島。

 そんな堂島を見ていると、鳴上が声を掛けてくる。

 

「その、アクセルさん。その久保という男ですけど……もうTVの中の世界に入っているという事はありませんか?」

「可能性はあるだろうな」

「え?」

 

 鳴上の言葉に同意する俺に、雪子が驚きの声を上げる。

 雪子にしてみれば、恐らく今日のマヨナカテレビに初めて久保が出たので、今までの経験からして、まだ久保はTVの中の世界に入れられていないと思っていたのだろう。

 

「あくまでも可能性でしかないけどな。ただ、根拠がない訳でもない」

「初めてマヨナカテレビに出たのに、顔がはっきりと分かったし、きちんと言葉を発してもいた」

 

 鳴上の言葉に頷く。

 どうやら鳴上もその事に気が付いていたらしいな。

 そして雪子は鳴上の言葉を聞いて気が付いたらしい。

 口を押さえて小さく叫ぶ。

 そう、今までマヨナカテレビが映っても、最初は声とかを聞く事は出来なかった。

 また、顔もぼやけていてはっきりと認識出来なかった。

 この前の久慈川の件でも、最初は顔とかが見えず、久慈川がTVの中に入れられてから久慈川のシャドウがストリップをすると宣言したしな。

 だというのに、今日のマヨナカテレビでは普通に久保が顔を出し、喋っていた。

 今までの経験からすると、既に久保はTVの中の世界に入っている可能性が高い。

 最初のマヨナカテレビで、いわゆる匂わせ? そんな感じで顔とかが分かりにくいようにしているのではなく、いきなり本人、あるいは本人のシャドウが出てくるというのは、少し驚きだ。

 

「一体何でそういうことになったんでしょう?」

「それを俺に聞かれてもな」

 

 鳴上が俺に効いてくるが、マヨナカテレビの件について俺はそこまで詳しい訳ではない。

 俺が知らない、何らかのルールがある可能性も否定は出来ない。

 そして今回の久保は、そのルールによって今までと違う感じになっている……のかもしれない。

 足立の気紛れという可能性も十分にあるし、むしろその可能性の方が高いとは思うが。

 

「足立にしてみれば、ワンパターンなのはどうかと思ったとか?」

「それは……」

 

 鳴上は俺の言葉に納得出来ない……いや、納得したくない? そんな感じの表情を浮かべる。

 足立と口にした事もあってか、電話をしていた堂島がこちらに視線を向けてくる。

 だが、堂島にとっては特に問題ない事だと判断したのか、再び電話に戻る。

 ……実際、何故今回に限ってTVに出ていない久保がマヨナカテレビに映ったのかは、それこそ本人に聞いてみないと分からないんだよな。

 そうなると問題なのは……

 

「どうやって久保のいる場所に向かうか、か。早速久慈川の出番か?」

「あの……その件ですけど……」

「ん? どうした、鳴上?」

「アクセルさん、もう少し彼女と話したり出来ませんか?」

「は?」

 

 鳴上の言う彼女というのは、話の流れから久慈川の事だろうというのは予想出来る。

 とはいえ、ここで俺が久慈川と話すのは何かそうする必要があるのか?

 

「あ……」

 

 鳴上の言葉に、雪子は何か思い当たる事でもあるのかそんな声を漏らす。

 久慈川と一緒に行動する事が多いだけに、久慈川が何を考えているのかが分かるのだろう。

 まぁ、久慈川と会って話をして欲しいと言われれば、それはそれで別に構わない。

 ただ……久慈川の性格が変わったというか、元に戻ったのは自分のシャドウを受け入れてだが、そういう事が出来るようになったのはシェリルと話したお陰だ。

 シェリルと会った事によって、芸能界にいた時に考えていた本当の自分についてある程度解消していた。

 シェリル……シェリル・ノームという存在は、それだけの影響力を持ってるのだ。

 個人的にはちょっとしたサプライズ、少しでも久慈川の気分転換になればいいだろうと思っての行動だったが、今にしても思えば最善の行動だったのかもしれないな。

 そんな経緯があった事を考えると、久慈川が俺に会いたいというのは……もしかしたら、シェリルともう1度会いたいと思ったからか?

 もしくは……久慈川が稲羽市にいる事、そしてアイドルを休業しているという事を考えるとその可能性は低いが、シェリルと一緒のステージに立ちたいと思ったとか?

 まぁ……それを希望しても、それが出来るとは限らない。

 ただ、久慈川がりせちーというアイドルとして活動していた経験を考えると、可能性としてない訳ではないんだよな。

 何しろりせちーは日本でもトップアイドルの1人だったのだから。

 とはいえ、だからといって本当にそれが出来るかとなると……

 あ、それとも今までの事務所からシェリルが在籍している桐条グループの芸能事務所に移籍したいとか?

 今のところ、桐条グループの芸能事務所はシェリルの専属……というか、シェリルの為にあるような感じだ。

 そうである以上、他のアイドルがやって来て上手くやれるかどうかは分からない。

 ただ、シェリルのやり方についていければ、りせちーとして活動していた時よりもステップアップ出来る可能性はあると思う。

 その辺を本当に考えているのかどうか……ちょっと聞いてみてもいいかもしれないな。

 

「分かった。ちょっと話してみる」

 

 鳴上にそう言うと、雪子が微妙に不機嫌そうな表情になるのだった。

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