転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3787話

 翌日、俺は取りあえず鳴上の頼みを聞いて久慈川に会いに行く事にした。

 

「あ、アクセルさん。来てくれたんだ」

 

 丸久豆腐店で店番をしていた久慈川が、俺を見ると嬉しそうに言う。

 日本でもトップアイドルの……いや、トップアイドルだった久慈川が店番をしている豆腐店か。

 何だかもの凄く貴重な店だな。

 もし久慈川にその気があって、久慈川の祖母が商売上手だったら、それこそ豆腐のパッケージに久慈川の写真とかをプリントして売り出すとかしそうだけど。

 あるいは、りせちーが作った豆腐といった売りを最大限に押し出すとか。

 ……うん。その辺についてはあまり考えない方がいいか。

 売れるだろうけど、需要に供給が到底追いつかない事態になりそうだし。

 

「鳴上からちょっと話を聞いてな。……ペルソナの方はどうだ?」

「えー、最初に聞くのがそれなの? うん。でもまぁ、それなりに使えてはいるわね。他の人のペルソナと使い方が違うから、ちょっと戸惑うけど」

「だろうな。山岸がいれば色々と教えてくれると思うんだが、山岸は別の場所で出現したシャドウに対処してるし」

 

 バックアップに特化した久慈川のペルソナは、まさに山岸と似た性能だ。

 それだけに、バックアップ用のペルソナであるユノを使いこなしている山岸なら、久慈川に色々とアドバイス出来るだろうし、久慈川にとってもそのアドバイスは大きな意味を持つだろう。

 ただし、それはあくまでも山岸がここにいればだが。

 

「ちょっと聞いたけど……その山岸という人とは会ってみたいわね」

「美鶴に頼んでみたらどうだ? 向こうで余裕があるのなら、美鶴も手を打ってくれると思うし」

 

 何しろ、バックアップ型のペルソナというのは非常に希少だ。

 何故かペルソナ能力に覚醒する者は、戦闘用のペルソナを使う事が多い。

 鳴上や有里のように、多数のペルソナを使える者……原作の主人公であっても、俺が知る限りではバックアップ用のペルソナを使えたりしない。

 そういう意味で、バックアップ用のペルソナというのは非常に希少なのだ。

 ……ニュクスの一件の時も、山岸が仲間になるまでは本来なら戦闘用の美鶴のペルソナ、ペンテシレアを使って半ば強引にバックアップを行っていたし。

 そんな貴重なバックアップ用のペルソナを使う久慈川だけに、美鶴も大事にする筈だ。

 とはいえ、山岸と違って久慈川はTVの中の世界でしかペルソナを使えない。

 これは何気にかなり不便だ。

 久慈川のペルソナを鍛えても、マヨナカテレビの一件が終わってしまえばもう使えなくなるのだから。

 あるいはタルタロスと違って、事件が解決してもTVの中の世界がそのまま存在していた場合、各種マジックアイテムとかを入手出来るという意味で非常に重要になる。

 だが……何となく、本当に何となくだが、この事件がニュクスの一件の続きだった場合、タルタロスと同じくTVの中の世界も消えてしまうだろうと予想出来る。

 これはあくまでも原作という存在を知っている上での予想だが。

 もっとも、ニュクスとの戦いで俺の原作知識は失われてしまったが。

 

「うーん……アクセルさんなら何とかならない? 知らない人よりも、アクセルさんに教えて貰えると嬉しいんだけど」

「そう言ってもな。そもそも俺にペルソナは……うん。使えないな」

 

 一瞬言い淀んだのは、俺の影に潜む刈り取る者について考えた為だ。

 刈り取る者は正確にはペルソナではない。

 だが、ペルソナというのは究極的にはシャドウだ。

 より正確にはシャドウを自由に使えるようにしたのがペルソナといったところか。

 勿論これは大雑把な理解で、実際にはもっと色々と小難しい理屈があるんだろうが。

 ただ、俺の認識ではそうだし、大雑把ではあるが決定的に間違っている訳でもない。

 つまり、刈り取る者が俺のペルソナと無理に言えば、それは決して間違いという訳でもない……かも?

 

「あ、言い淀んだ。もしかしてアクセルさんもペルソナを持ってるの?」

 

 さすが芸能界にいただけの事はあると言うべきか。

 俺の様子から、はっきりと怪しいと判断してそう言う。

 ……決して俺が分かりやすいとか、そういう訳じゃない筈だ。

 

「どうだろうな。ペルソナと言ってもいいかどうかは分からない」

「え? どういう事?」

「あー……まぁ、久慈川もこれからは俺達に協力するんだし、その辺については話してもいいか。俺にはペルソナ召喚能力はないが、代わりに色々と特殊な能力があって、その1つに召喚魔法というのがある。どういうのか分かるか?」

「その名前から考えると、何かを召喚するんでしょう?」

「正解。ただし、事前に召喚の契約を結ぶ必要があるけどな。そして以前美鶴達と初めて会った時、シャドウ関連のトラブルに巻き込まれて、その時にシャドウの1匹と召喚の契約をした。そのシャドウが、言ってみれば俺のペルソナ……って事になるのかもしれないな」

 

 その言葉に、久慈川は興味深そうな表情を浮かべる。

 そして久慈川がそういう様子を見せれば、次に何を言うのかは大体想像出来てしまう。

 

「アクセルさん、アクセルさんの召喚獣っていうのを見せてくれない?」

 

 予想通りの言葉が久慈川の口から出る。

 これが、刈り取る者でなく、グリか狛治であれば見せてもそこまで問題ではない。

 グリはグリフィンドラゴンという希少な種族で、しかも俺の血でパワーアップして外見も契約前と比べると大分厳つく……攻撃的になっている。

 だがグリの場合、問題なのはその大きさだろう。

 見せるなら、それこそ山の中……も夏で山登りとかキャンプとか虫取りとかしてる人も多いのでちょっと無理か。

 そうなると、やはりTVの中の世界でしか見せる事が出来ない。

 狛治は……人型で言葉を喋れるので意思疎通が可能というのは大きいし、グリ程に大きくはない。

 しかし、外見的にこちらも角が生えていたりするので、人前には出せない。

 コスプレと言えば……いや、それでもさすがに無理があるか。

 ここが東京の秋葉原とかなら、コスプレとでも言い切れるだろうが、稲羽市のような過疎化している街でコスプレというのは、ちょっと無理がある。

 祭りや学園祭とか、そういうのがあれば話は別だが。

 とはいえ、グリとは違って大きさの制限がない以上、ここで召喚も出来るのだが。

 ただ問題なのは、久慈川は俺が異世界の存在で、幾つもの世界を行き来してるというのを知らない事だろう。

 狛治を見て、この世界にこういう人種がいるのかといったように疑問を覚える可能性もある。

 まぁ、ペルソナやシャドウの事を考えると、もしかしたらこの世界の原作には実は狛治程ではないにしろ、亜人と呼ぶべき者達がいる可能性は否定出来なかったが。

 

「シャドウではなく、他の奴でもよくないか?」

「えー……どうせならアクセルさんのペルソナを見せて欲しいんだけど。りせちーのお願い、聞いてくれない?」

 

 さすが元トップアイドル。

 あからさまにわざとらしい仕草をしつつも、それが鼻につかない。

 りせちーとして多くの者に人気があったのは、こういうところも影響してるんだろう。

 

「俺にそういうのを見せても、あまり意味はないぞ。……とはいえ、それでもどうしても久慈川が刈り取る者を見たいのなら、見せてもいい。その代わり、後悔しても知らないぞ?」

 

 刈り取る者の持つ迫力は、かなりのものだ。

 それこそ生身での戦いで相応の経験をしている者でさえ、思わず後退ったり、緊張したりするような。

 それだけに、久慈川が見れば間違いなく怖がるだろうというのは予想出来る。

 だが、それを承知の上で刈り取る者を見たいと言うのなら、拒否をするつもりはない。

 

「う……そう言われると……でも、見てみたいし……お願い、アクセルさん」

 

 何故そこまで刈り取る者を見る事に固執するのかは、俺にも分からない。

 ただ、久慈川の様子を見る限り、ここで退くようなことはないと判断する。

 

「分かった。ただ……ここでという訳にはいかないか。もし客だったり、久慈川の婆さんが入ってきたりしたところで刈り取る者を見せたら大騒ぎになるだろうしな」

「でも、この時間ならお客さんが来る事はないわよ? それにお婆ちゃんも眠っている時間だし」

「豆腐屋だとそんなものなのか」

 

 朝が早い職種で思い浮かぶのは、パン屋だ。

 だが、豆腐屋もパン屋に負けない程に朝が早いらしい。

 そう考えると、午前中の今、久慈川の婆さんが眠っていてもおかしくはないのだろう。

 客は……

 

「婆さんの方はいいとして、客は来るかもしれないんだろう? なら……」

「あ、ちょっと待ってて」

 

 そう言い、久慈川は扉の前まで移動すると鍵を掛ける。

 ……いいのか、それ。

 いやまぁ、久慈川の様子を見る限りだと本当に客はいない時間帯なんだろうけど。

 とはいえ、それはあくまでも普通ならの話だ。

 絶対に客が来ないという訳ではない以上、これは不味いのでは?

 いや、ならとっとと刈り取る者を見せた方がいいのか。

 問題なのは、刈り取る者を間近で見た久慈川が、そのショックから店番を続けられるかどうかという事なんだが……その辺は大丈夫だと信じておこう。

 

「そこまで言うのなら、見せても構わない。ただし……気をしっかり持てよ」

「うん、分かった」

 

 真剣な表情で俺の言葉に頷く久慈川。

 ……あれ? もしかして、刈り取る者を見たいというのは興味本位とかそういうのじゃなくて、真剣に何らかの目的があっての事なのか?

 それだと俺にとってもちょっと驚きだけど。

 まぁ、本人がそこまでやる気なら、それは別に隠すような事でもないか。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 そう言い、俺の影を軽く蹴る。

 次の瞬間、俺の影から姿を現す刈り取る者。

 

「ひっ!」

 

 やはりと言うべきか、久慈川は刈り取る者の姿を見た瞬間に小さく悲鳴を上げる。

 ただ、それが小さな悲鳴であったのは少し驚いたが。

 そして恐怖から恐慌状態になったりはせず、久慈川の視線はしっかりと刈り取る者に向けられている。

 怖がっていないかと言えば、それは否だ。

 最初に刈り取る者を見た瞬間に上げた悲鳴がそれを表している。

 だが、それでも踏み留まってしっかりと刈り取る者を見ているのだ。

 この辺は久慈川の精神的な強さが並大抵のものではない事の証だろう。

 とはいえ、久慈川が刈り取る者を見て一体何を思っているのか……そもそも、何故刈り取る者を見たいと言ったのかは分からなかったが。

 しかし、それでもこうして俺の側で刈り取る者を見ているのを考えると、やはりそこには何らかの理由があっての行動だったのだろう。

 そして数分が経過すると、じっと刈り取る者を見ていた久慈川が口を開く。

 

「ふぅ、もういいわ」

「……いいのか? なら、戻すぞ?」

「うん。ありがとう、アクセルさん」

 

 何故ここで感謝の言葉を口にしたのかは、俺には分からない。

 わざわざ刈り取る者を召喚したからとか、そういう理由ではないように思えるのだが。

 そんな疑問を抱きつつ、俺は刈り取る者を影に戻す。

 ……刈り取る者にしてみれば、自分は一体何の為に召喚されたのかと疑問に思ってもおかしくはない。

 とはいえ、それでも何か考えての事なのは間違いないだろう。

 それは刈り取る者を見た久慈川の様子を見れば明らかだ。

 

「久慈川、一体何を……」

「あー、それ!」

 

 俺の言葉を遮るように、鍵を開けながら久慈川が叫ぶ。

 

「それ?」

「だから、それ! 何で久慈川って名字で呼ぶの? 私はアクセルさんって呼んでるんだから、私の事も名字じゃなくて名前で呼んでよ! 何だか距離を感じさせるし」

「名前……つまり、りせ?」

「っ!? これは……微妙にクるわね……」

「どうした?」

「う、ううん。何でもない。ただちょっと……その、新鮮だったから」

「……新鮮?」

「うん。りせちーって呼ばれる事は多いけど、りせって呼ばれる事は最近なかったから」

 

 婆さんとかにはりせと呼ばれてそうだけど……まぁ、身内と他人では違うんだろうな。

 

「それならやめるか? 慣れないなら……」

「そんな事はないから! その……アクセルさんからりせって呼ばれるのは、悪くない気分だし」

 

 久慈川のこの様子を見ると、嬉しそうではある……のか?

 本人がそれでいいのなら、それはそれで構わないとは思うが。

 

「分かった。なら、これからはりせって呼ばせて貰うよ」

「……うん。それでね、あの……」

「ごめんくださーい」

 

 りせが何かを言うよりも前に、不意に扉が開いてそんな声が店の中に響く。

 その事に驚いたのは、りせもそうだが俺もそうだった。

 突然入って来たというのは、そこまで問題ではない。

 ……いや、りせが驚いたのは仕方がない事なのかもしれないが。

 だが、俺が驚いたのはもっと別の理由だった。

 店の中に響いた声に聞き覚えがあった為だ。

 声のした方に視線を向けると、そこにはやはりと言うべきか、俺の予想通りの顔があり、俺を驚かせたことにしてやったりといった笑みを浮かべている。

 俺はそんな相手の名前を、驚きつつも口にする。

 

「ゆかり」

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