転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3790話

「うわぁ……」

 

 出て来た久保は、見るからに憔悴していた。

 それでいながら、ゆかりの一挙手一投足に反応しては、ビクリと震えていた。

 俺はダンジョンの外にいたので、ダンジョンの中で具体的に何が起きたのか正確には分からない。

 ただ、りせから聞いた話によると、久保の言動がゆかりをぶち切らせたらしい。

 ……まぁ、ゆかりは何気に気が短いところがあるので、久保との相性という意味では最悪だったのかもしれないな。

 ともあれ、ブチ切れたゆかりはタルタロスの戦いで培ってきたペルソナ能力を、そしてエヴァとの訓練で身に付けた戦闘技術を、そして諸々のストレスをぶつける事になり、1人で久保を倒したらしい。

 それもただ倒した訳ではなく、見ての通り久保を完全に怯えさせる……それこそトラウマを植え付けるのに十分な攻撃で。

 何にしろあれだけの人数で行ったのに、久保を倒したのは実質的にゆかりだけでだったらしいし。

 そう考えると、ゆかりの現在の実力がはっきりと分かる。

 俺は実際に戦いを見た訳ではないので何とも言えないが、りせから聞いた話の限りだと五飛は勿論、ムラタにも匹敵するだけの実力を持っていたのではないかと思ってしまう。

 

「ほら、さっさと歩く! TVの中の世界から出たら何をすればいいのか、分かってるわね!」

「わ、分かってる! 分かってます! 警察に行って自首するから、もう許して……」

 

 涙を流しながら言う久保。

 服とかはかなりボロボロになっているが、怪我をしていないのは……うん。戦いが終わった後、正確には久保の心が折れた後で回復魔法を使って治療したんだろうな。

 哀れにも思うが、久保は恐らく諸岡を殺した人物だ。

 であれば、同情する余地はない。

 ……いやまぁ、それこそ2000人近い人数を殺している俺が言っても説得力はないかもしれないけど。

 俺のステータスにある撃墜数は1862。

 だがこれは、軍艦の類を撃破しても1しか上がらない。

 その辺の諸々を考えると、恐らく2000人以上は殺している計算になる。

 人を1人殺せば殺人、だが数百万殺せば英雄というのはよく聞く話だ。

 それを考えると、2000人くらい殺した俺はまだ英雄には程遠いのだろう。

 もっとも、Fate世界で凛にサーヴァント……英霊として呼び出されたのを考えれば、英雄扱いなのかもしれないが。

 まぁ、あくまでも2000人というのは俺が直接殺した数だ。

 俺が命令をして殺したとなれば、それこそシャドウミラーとして殺した数も含まれる訳で、そうなると一体どれくらいになるのかは俺にも正直なところ分からないのだが。

 ともあれ、俺の件と久保の件は別という事で、TVの中の世界から出るのだった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺はこいつを連れていってくる」

 

 天城屋旅館に戻ると、堂島はそう言って久保を連れていく。

 本来なら天城屋旅館までパトカーが来るべきなんだろうが、その辺は天城屋旅館の事を考えて自分の車で連れていくらしい。

 実際、天城屋旅館は山野真由美の件でかなりの損害を被ったしな。

 そんな中で、再びパトカーが来るような事があれば、それこそ最悪潰れてもおかしくはない。

 そして久保が天城屋旅館にいるのは、大広間を借り切っている俺達がここからTVの中の世界に行ってるからだ。

 そう考えればここでパトカーを呼ぶという事が出来る筈もなかった。

 

「誰か……五飛、一応ついていってくれるか?」

「俺がか? ……分かった」

 

 完全に納得した様子ではなかったが、それでも五飛は俺の指示に従う。

 久保が特殊な能力を使えるのは、TVの中の世界だけだ。

 そうである以上、現実世界ではただの人間でしかない。

 とはいえ、久保は諸岡を殺した殺人犯だ。

 そして堂島が車を運転する以上、誰かが万が一の時に備える必要がある。

 だが、天城屋旅館にいる刑事は堂島だけだ。

 あるいは稲羽署に連絡をして人を送って貰うという事も出来るが、堂島の気持ちとしては一刻も早く久保を稲羽署まで連行したいのだろう。

 その為、自分の車で連行するという判断をしたらしい。

 そんな訳で、もし久保が暴れたり、信号で停まった時に逃げ出したり出来ないように、五飛をつけることにした。

 ……もっとも、ゆかりに対して強く怯えている今の久保を見れば、そういう事をするとは思えなかったが。

 それどころか、稲羽署に連れていくのでゆかりから離れられると、寧ろ望んで稲羽署に行きたいと思ってもおかしくはない。

 本当に、ゆかりは久保に対して一体どういうことをしたんだろうな。

 ここまで久保が怖がるのは……多分、相性が決定的に悪かった。その上で、ペルソナを使えて、弓を自由に使えるゆかりは久保にとって最悪の存在だったのだろう。

 そうなると、強気という意味では微妙にゆかりと似ている里中とも久保の相性は悪かったのかもしれないな。

 

「私が行ってもよかったんだけど?」

「止めてやれ。ゆかりが行ったら、久保が錯乱してもおかしくない。……少しやりすぎたんじゃないか?」

「そうかもしれないけど、後悔はしていないわ。あの久保という男は、このくらいしないとどうしようもなかったでしょうし」

 

 ゆかりの言うこのくらいというのが、具体的にどのくらいなのかは俺には分からない。

 分からないが、それを考えた上でもあの久保の様子を見ると……まぁ、その辺については俺がこれ以上何かを言う必要はないか。

 久保がこれからどうなるのか、俺にはあまり関係ないし。

 ……場合によっては、TVの中の世界から生還した犯罪者という事で、色々な実験のモルモットになる可能性もあるが。

 何しろ警視庁はシャドウワーカーに協力しているものの、シャドウワーカーを傘下に置いている訳ではない。

 つまり、もしシャドウ関係の騒動が起きた場合は警視庁が独自の判断でシャドウワーカーを運用するという訳にはいかない。

 警視庁から桐条グループに連絡し、シャドウワーカーを動かして貰う必要がある。

 詳しく聞いていないが、場合によっては報酬の類を要請していたりもするのかもしれない。

 そんな訳で、警視庁としては現在は桐条グループと協力関係を結んでいるものの、実際の力関係は桐条グループよりも下だ。

 国の機関として、それは決して面白くないだろう。

 だからこそ、警視庁としては可能なら独自にシャドウに対抗出来る何らかの手段……最終的にはシャドウワーカーのような、あるいはそれを上回る組織を欲している筈だ。

 しかし、TVの中の世界でペルソナに目覚めた者達は全員がシャドウワーカーに協力的で、警視庁にはどうにもならない。

 唯一の例外は堂島だが、その堂島もシャドウワーカーに協力している以上、ここで引き離して研究対象とするのは難しい。

 下手に堂島に手を出せば、それこそ足立という警視庁出身の人物が起こした騒動の解決もシャドウワーカーに全て持っていかれて、警視庁は恥の上塗りでしかないし。

 そういう意味で、久保は絶好の研究対象……いや、研究材料だ。

 恐らく減刑と引き換えに、もしくはそれ以外の超法規的措置で警視庁の用意した研究組織によって研究をされると思う。

 とはいえ、TVの中の世界に入れるのはあくまでも稲羽市だけだ。

 そして久保が力を発揮出来るのも、TVの中の世界だけ。

 警視庁の用意した組織での研究となると、恐らくは東京での研究になる筈だが……さて、どうなる事やら。

 もっとも、警視庁にしてみれば最善なのは久保ではなく足立を捕らえる事なんだろうが。

 それは、それこそいつになるか分からないし。

 

「取りあえず、今日は皆疲れただろう。用事のある者以外は休んでくれていい。天城屋旅館と交渉して、料理は豪華にして貰った。残念ながら客が満員なので泊める事は出来なかったが……とにかく、英気を養って欲しい」

 

 美鶴の言葉に、花村や里中、くまが歓声を上げる。

 部屋がないので泊まるのは無理でも、老舗旅館の料理……それもいつもより豪華な料理にありつけるのだから、それで喜ぶなという方が無理だ。

 

「じゃあ、私はご飯の前にちょっと汗を流してくるわね。ここの温泉は久しぶりだから、楽しみなのよね」

 

 そう言い、ゆかりは大広間の出口に向かう。

 ちなみに夏休みの間は暫く天城屋旅館に泊まるゆかりだが、その部屋は当然のように俺と同じ部屋だ。

 そもそもあの部屋は、春に旅行に来た時に俺と美鶴、そしてゆかりが使っていた部屋なのだ。

 つまり、3人で使っても部屋が狭いという事はない。

 いやまぁ、実際には2人で使っていたのを3人で使えばどうしても多少は狭く感じるかもしれないが。

 

「……アクセルさん、凄い……」

 

 花村が俺を見てそんな風に言ってくる。

 花村も恋人が欲しい年頃だ。

 俺の恋人が花村の知っているだけで美鶴、シェリル、ゆかりと3人もいれば、羨ましいと思うのは仕方がない。

 

「あ、はーい! はーい! ゆかりさん、私も一緒に温泉に入っていいですか?」

 

 りせの言葉に、丁度大広間から出ようとしていたゆかりが振り向き、頷く。

 丸久豆腐店で何を話したのか分からないが、りせとゆかりは何だかんだと仲良くなったよな。

 最初は相性が悪いんじゃないかと思っていたんだが、そんな俺の予想は外れたらしい。

 俺にとっては良い意味で予想外の結果だった。

 他の面々も、雪子の口利きによって着替えを用意して貰う事になり、温泉に向かう。

 さすが老舗旅館と言うべきか、着替えの類もゲスト用にある程度用意されているらしい。

 いや、老舗旅館じゃなくても、ある程度はそういうのが用意されていてもおかしくはないが。

 取りあえずこのままこうしていてもなんなので、俺もまた温泉に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「では……堂島と五飛がまだ戻ってきていない中でこうして宴会を行うのは少し悪いとは思うが、今はまず久保の一件が解決した事を喜ぼう。……乾杯」

『乾杯!』

 

 美鶴の言葉に、全員が持っているコップを掲げて乾杯と口にし、同時に近くにいる者達に軽くコップをぶつけ、乾杯をする。

 用意された料理は、すき焼きメインに、伊勢エビのボイルやアワビのステーキ……他にも諸々。

 どれも豪華な料理で美味いが、少しありきたりな感じがする。

 いやまぁ、今日の午後に豪華な食事にして欲しいと注文し、その夕食がこれなのだから仕方がないとは思うが。

 ちなみに俺達がTVの中の世界に行ってる時、美鶴がその辺は手を回していたらしい。

 俺達が久保のダンジョンの攻略に成功していなかったら、どうするつもりだったんだろうな。

 ふとそんな事を思うが、美鶴なら俺達がどのように行動するのか……そして久保のダンジョンを攻略するのは間違いないと考えていたのだろう。

 そういう意味ではしっかりと信頼されていたという事になる。

 実際、その信頼に応えるように攻略をしたのだから、その辺については正しかった訳だし。

 

「美味っ! 美味いっすね、これ!」

「完二の言う通り美味いくまね! 菜々子ちゃん、ほらこっちも美味しいくまよ!」

「うん。くまさん、ありがとう。本当に美味しいね」

 

 くま、いつの間に菜々子と仲良くなったんだろうな。

 仲良く会話をしている光景を見て、そんな風に思う。

 別に仲良くなるのは悪い事ではない。

 ……いや、くまと仲良くなるのはちょっと問題か?

 逆ナンとか頻繁に口に出すくまだ。

 もし堂島がそのような光景を目にしたら……うん。間違いなく騒動になる。

 具体的には日本刀を手にくまを襲うとか、そんな感じで。

 しかもくまを追う者の中には、鳴上も入りそうな気がするんだよな。

 

「それにしても、あの久保って奴……あんなに自分勝手なのはどうなのよ」

 

 俺の隣に座るゆかりは、不満そうな様子でそう呟いていた。

 ゆかりと久保の相性は俺が想像していた以上に悪かったらしい。

 

「俺は直接久保と会った時間は少なかったけど、そんなに気にくわなかったのか?」

「そうよ。それに、山野真由美だっけ? そのアナウンサーを殺したのも自分だとか言い始めて」

「……そういうタイプか」

 

 実際には、山野真由美を殺したのは足立だ。

 だが、刑事だったからという理由であったり、何よりもTVの中に入れるといった特殊な状況の関係もあってか、足立の件は大々的に公表されていない。

 とはいえ、当然ながら稲羽署の刑事、そして応援組には足立の件が知らされているので、そのうち漏れるかもしれないが。

 ただ、足立がTVの中に入ったのを直接見た稲羽署の面々はともかく、応援組はその辺まで教えられてないらしいんだよな。

 そんな諸々を考えると、事情を正確に知ってる者と知らない者で足立に対する認識が大きく変わるのも事実。

 とにかく、久保が何を思って自分が山野真由美を殺したとか、そんな風に言ったのかは分からない。

 ただ、話を聞いた限りだと色々と問題が多かった奴だって話だったし……それを思えば、自分が山野真由美を殺したとか、そんな風に言ってもおかしくないのかもしれないな。

 

「とにかく、久保の一件は解決したんだ。今はゆっくりと田舎での生活を楽しめばいいんじゃないか? 俺も付き合うから」

「……ありがと」

 

 俺の言葉に、ゆかりはそう小さく返事をするのだった。

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